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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
キングダム編
134/392

ゲームしよう

「な、なによ。私はごさいなのよ。ニコでんかよりできるにきまってるじゃない。ましてリアなんて」


 クリスがあきれたように言った。しかしニコはそれを無視した。


「では、あいうえおをじゅんにかいてみるのだ」

「いやよ」

「かいてみるのだ」


 テーブルの上の紙と鉛筆を指さした。


「もう。かけばいいんでしょ。なんでそんな小さい子のやることを……」


 クリスはぶつぶつ言ったが、書き始めた。


「あ、い、う。ほら、ぜんぜんだいじょうぶ。え、お、と」

「まった」

「なに?」

「え、はむきがちがっているではないか」

「どっちだっていいじゃない!」


 ニコは両手を広げて、肩をすくめた。


 欧米か。隣のオッズ先生を見上げると、口の端がぴくぴくしている。わかる。わかるよ。こないだまでニコだってわかっていなかったよね。


「まちがえるのはちいさなこだけだ。そういうところもちゃんとかかなければならぬ」

「なんですって!」


 おっとまずい。クリスが机をひっくり返しそうだ。クリスに付いてきたメイドも護衛も警戒態勢に入った。


「あーい、では、これからゲームをちましゅ」


 そこに私の間抜けな声が割って入った。違った。かわいい声だ。


「ゲーム?」

「ゲーム?」


 二人が同時に振り向いた。


「なじゅけて、『ほんもののえをしゃがせ』でしゅ」

「リーリア様、それはどんなものですか?」


 これを素早くやるには、今質問してきたオッズ先生の力が必要である。


「ゆかに、いっぱい、『え』のかみをおきましゅ」

「ほう。リーリア様がやっつけたやつのようにですか?」


 こちらがほう、である。オッズ先生もよく覚えている。


「まちがった『え』の中に、ほんものの『え』をまじぇましゅ」

「わかったぞ!」


 ニコが叫んだ。


「ほんものの『え』をはやくとったものがかちだな!」

「そうでしゅ!」


 正解だ。私はオッズ先生にねだった。


「ほんものの『え』とまちがった『え』をたくさんかいてくだしゃい」

「そういうことですか。まあ、いいでしょう」


 私達だと書くのに時間がかかる。オッズ先生にも書いてもらうのだ。


「そのあいだ、くりしゅはにがてなじ、しゃがちて」

「にがてな字なんてないもの」

「くりしゅ。それがちゅぎのげーむでしゅ」


 ゲームが一回では終わらないかもと思ったクリスはそわそわしだした。


「……しかたないわね」

「わたしがかくにんしよう」

「えらそうだわ」


 しかし、クリスはけっこう苦手な字があった。


「読むのにはこまらないもの。どうだっていいじゃない」


 そういう主義のようだ。五歳なら、まだそれでもいいのかもしれない。でも、せっかく王子がきちんとできているのに、勉強相手がこれでは困るではないか。


 私はどうかって? もちろん、読むことはできる。しかし、手がまだ思うように動かないので、無理に書こうとは思わない。もちろん、字を書く練習はしているが、どちらかというと絵を描いていることが多い。ニコもオッズ先生もそれでいいのではないかと言ってくれているし。


 オッズ先生は、私がしたいと言ったゲームをすぐ理解してくれた。


「正しい『え』と、そうでない『え』を混ぜて地面においていけばいいのですね」

「あい」


 そうして並んだ紙を三人でワクワクしながら見る。正しい「え」は三枚入っている。


「では、これが間違った『え』こちらが正しい『え』です。正しい『え』を見つけましょう。では、始め!」


 しゅっと風のようにニコが飛び出していくと、あっという間に二枚取り、一瞬迷いながらもクリスが正しいものを一枚取った。


 二人とも誇らしげにオッズ先生に紙を見せている。


「クリスティン様、『え』の最後の線はどちらの手のほうに引きますか」

「ええと、オレンジをとる手」

「オレンジ? まあ、いいでしょう。その通りですね。オレンジを採る手と覚えてみましょう。では、一度書いてみて、またやりましょうか」

「はい!」


 クリスが素直に返事をして、さらさらと「え」を書いている。クリスも嬉しそうだが、オッズ先生にも感心した。ちゃんと工夫しているではないか。


 それにしても。私はおかしいなと思った。どうやら私は、二歩くらいしか動いていないのだ。


「リア……」


 気の毒そうに見るくらいなら、一枚残しておいてくれたらよかったのでないか? こうなったら。


「るーるをかえましゅ」

「リア、ずるくないか」

「ずるくないでしゅ! にまいとるほうがずるいでしゅ!」


 ニコは両手にもった二枚を見て、一枚くれた。私はどんどんと足を踏み鳴らした。


「じぶんで! じぶんでちたい!」

「お、おお、そうか」


 ニコが困ったように頭をなでてくれる。それはそれでよいが、これは戦いである。


「とりゅのは、ひとりいちまい! おっずしぇんしぇいにもっていったひとがかち!」


 ニコとクリスがちょっと考えている。


「それならまあ」

「いいかもね」

「しょれで!」


 ふんと鼻息を吐いた。今度はナタリーたちにも手伝ってもらって、紙を置き直してもらう。


「では、二回戦! 始め!」


 オッズ先生の声と共に、ニコが向こう側に走り出し、一番奥の「え」を取って、先生に見せに行った。次にクリスである。私はその間に、悠々と「え」を確保し、最後に先生に見せに行った。


「はい、リーリア様も合格です」

「あい!」


 私はその紙をナタリーにも見せにいった。


「リアさま、今度は取れてよかったですね!」

「あい!」


 満足である。次はハンスだ。


「よかったなあ、ちゃんと取れて」

「あい!」


 当然である。


 このようにして、だんだんとクリスが五歳児の力を発揮してニコとせりあいながら、午前中は走り回って終わった。私はいつも最後だったが、大変楽しかった。



 お昼になると、お父様とフェリシアが迎えに来た。紙が散らかったままの床を見て倒れそうなフェリシアが、ちょっと面白かった。仕方ない。


「しょれでは、しゃいごに、かみをたくしゃんあちゅめたら、かち!」

「始め!」


 オッズ先生がいい感じに声をかけてくれたので、ニコとクリスは条件反射のように動き始めた。私も拾おう。一枚、二枚、三枚、一枚落ちたので、もう一枚。


 あれ? もうないぞ? 私はきょろきょろした。


「りあ……」

「リア……」

「ブッフォ」


 どうやらニコとクリスが残りを集めたらしい。思わず噴き出したのはハンスだと思うが、お父さまもなんとなく微妙な顔をしているのはなぜか。


「はあ、たいへんだった」


 そう言ってオッズ先生に手渡したら、オッズ先生はとてもいい笑顔で、


「リーリア様、よく頑張りました」


 とほめてくれた。オッズ先生はなかなかわかる人になってきた。それぞれお昼に向かい、戻ってきた時には私は既に疲れて眠っていたようで、なんで寝てしまうのかと後でクリスに怒られた。解せぬ。




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2歳の幼女を怒ってもね!
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