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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
キングダム編
133/392

二人から三人へ

 お披露目が落ち着いたので、兄さまは泣く泣く学院の寮に戻り、私がお城に向かう日々が戻ってきた。違いと言えばおじいさまが毎日ニコニコと見送りに出てきてくれることだ。


 小さい竜はどうなったかって?


 確かに竜に乗って街中を移動したら楽しいだろう。だが、竜に乗るなら反対側のかごにはナタリーが乗ることになる。そうすると、お父様は馬車で付いてくることになる。それではせっかくの城通勤に娘と楽しく過ごせないと、これはお父様が拒否した。


 あるいは、お父様がかごの反対側に乗ることにする。すると、ナタリーと護衛が馬車に乗ることになり、これもおかしい。お父様はそれでもいいようだったが、これは断固としてジュードが反対した。


 当然のようにかごに乗り込もうとするお父様にこう言ったジュードのこめかみは引きつっていたように思う。


「四侯の当主がかごに乗って外を出歩くなどと! リーリア様がかわいいのはわかりますが、当主としての自覚を持っていただかないと」

「わかったわかった」


 お父様は自分でもどうかと思っていたらしく、あっさり引いてくれてよかった。そういう訳で、小さい竜は牧場に戻されたのだが、なんの不満もなく楽しそうに戻って行ったのがなんだか腹が立つ。まあ、城に行っても城の牧場に放されるだけなので、竜にとってはどちらでもよいのだろう。


 私としてはニコに自慢したかったのだが、それは機会があればということでいい。


 お披露目もおじいさまも楽しかったが、普段の一日に戻れるのは嬉しい。うきうきして竜車でニコのところまで行くと、そこには見慣れない、けれども立派な竜車がすでに来ていた。


「あれは、レミントンの竜車ですね」


 ナタリーが一目見てそう言った。


「れみんとん?」

「こないだお披露目にいらしていましたよ。ご当主のアンジェリーク様、お姉さまのフェリシア様、そしてオレンジを一緒にとったクリスティン様でございます」


 レミントンが誰かわからなかったわけではない。なぜレミントンがここにいるかがわからなかっただけなのである。だが、ナタリーの言葉でなんとなくピンときた。


「くりしゅちん!」

「クリスって言ってるのに!」


 ナタリーと話している間に、クリスがやってきていた。後ろにフェリシアが困った顔で立っている。


「人の竜車を勝手に覗いてはいけませんと言っているのに……」

「だってリアがすぐにおりてこないから」


 その言い方がクリスらしい。


「リアよりさきにわたしのところにくるべきだろう」

「にこ!」


 何日かぶりの再会だ。


「うむ。リア、こないだのおれんじのけん、れいをいう。ことのほかははうえがよろこんでな」

「おかあしゃまが。にこ、よかった」


 そんなものわざわざとってこなくても城の温室から持ってこさせればいいと言われる可能性もあった。喜んでくれてよかった。


「うちだって、おとうさまがとてもよろこんでくれたのよ。頭をなでてくれて」

「あたま! しょれはいいものでしゅ」


 私だって頭をなでられたら嬉しい。


「クリス。殿下を見習いましょう。お父様がどうかはともかく、まずお礼を言うのが先です」

「ねえさま、だって」

「だってではありません。ここには礼儀作法も含めて勉強するという約束で来ているのですよ」


 クリスは不満そうに口を尖らせたが、案外素直にこちらを向いて、お礼を言った。


「リア、オレンジありがとう」

「どういたちまちて」


 私も一応礼儀正しく返した。しかし、良く考えたら特に私のオレンジというわけではなかったので、お礼を言われるのもおかしな気分だ。


「くりしゅ、くりしゅもおべんきょうに?」

「そうなの。小さいニコでんかとリアがちゃんとべんきょうできているなら、私もまざってもだいじょうぶだろうって言ってもらったの」

「ちゃんとおべんきょうできてましゅよ」


 私は心持ち胸をそらせた。


「このことについては、りあのいうとおりだ」


 ニコも胸をそらせた。


「なんだ、ほんとにべんきょうしてるの」


 なぜがっかりしているのだ。一日遊ぶだけというのも案外つまらないものだというのに。


「クリス!」


 フェリシアが心配そうに手を揉んでいる。兄さまより心配性である。私はニコと顔を見合わせ、二人で頷いた。面倒くさいからさっさと連れて行くに限る。


「さあ」

「しゃあ」


 両側からクリスに手を出す。


「な、なに?」

「「て」」

「こう?」


 クリスが両手を伸ばしたので、片方をニコが、片方を私が手をつないだ。


「さ、いきましゅ」

「む、リア、わたしのとしょしつだぞ。わたしがかけごえをかけるべきではないのか」

「じゃあ、どうじょ」

「それはそれではらがたつ」


 このいい方、なんだかヒュー王子を思い出しておかしくなった。


「よち、しゅっぱちゅ!」

「けっきょくリアがいっているではないか」


 クリスが戸惑っている間に、図書室へ連れて行く。


「ああ、クリス!」


 フェリシアの声が後ろの方でしたが、放っておく。


「あの、フェリシアお嬢様」

「え? あら、あなた、見かけたことがあるわ」

「以前、レミントンのお屋敷でお嬢様付きのメイドをしておりましたので」


 ナタリーが話しかけている。用がある場合メイドが話しかけても別に無礼には当たらない。フェリシアはそれで見覚えがあるのかという顔をした。


「あの、クリスティン様はリーリア様とニコラス殿下にお任せして大丈夫かと思います」

「まあ。本当はあの子が面倒を見る立場なのに」

「オッズ先生も、大人もおりますし」


 ナタリーが安心させるように力強く頷いた。


「お前、クリスティンに付いていたのなら、あの子が難しい子なのを知っているでしょう」

「はい」


 ナタリー、遠慮がないな。


「でも、お任せしましょう。フェリシア様。政務のお時間では?」

「いけない! 戻らないと! お昼にはまた来るわ」


 慌ただしくフェリシアが去っていく気配がした。後ろでその気配をつかみながら、私はクリスを見上げてみた。大丈夫だ。初めての部屋をあちこち見るので忙しそうだ。


「ちゅぎにかいだんをのぼりましゅ」


 階段は手をつないでは危ないので、階段の下で手を離した。


「にかいだぞ」


 先に行く二人を眺めながら、私は確実に階段を上っていく。クリスが階段の上で心配そうに私の方を振り返った。そして私の後ろをちらっと見た。


「リア様がいくら鈍くても階段から落ちたりしませんよ」


 ハンスが後ろで安心させるように声を出した。失礼な。鈍いからこそ慎重で怪我などしないのである。いや、鈍くはないけれども。


 そうしてやっと三人で図書室に入った。


「広い……」


 思わずクリスがつぶやくほど、ニコの家の図書室は広い。城には別に図書室があるらしいが、ここは完全に王家の個人の図書室なのだ。窓の下に小さいベッドも置いてある。


 そして黒板の前には今度は三つきちんと机が並べてあり、オッズ先生が待ち構えていた。しかしオッズ先生がなにか言う前に、ニコが腕を組んで黒板の前に立った。おや、先輩気取りである。では。


「くりしゅはしゅわって」

「ここ?」

「あい、しょこでしゅ」


 私はクリスを椅子に座らせると、ニコの隣に立って腕を組んだ。私も先輩だからね。


「くめてないぞ」

「くめてましゅ」


 ニコは一言多いのが欠点である。


「では、クリスがどのくらいべんきょうができるか、まずはしけんだ」

「ちけんでしゅ」

「殿下。リーリア様……」


 オッズ先生があきれているが、ちょっとだけ待っててね。





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