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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
キングダム編
122/392

二歳

 12月の兄さまの誕生日を過ぎ、年を越して、ぷくぷくした手足が少しはほっそりしたような気がする頃、私は二歳の誕生日を迎えた。


「去年の今頃は何の憂いもなくて、幸せな時間がずっと続くと思っていました。そして去年の夏は、リアが戻ってくるのに数年かかることも覚悟していたのです。こうしてリアの二歳の誕生日を一緒に過ごすことができて、本当に幸せです」

「にいしゃま……」


 朝早く、お披露目の日に兄さまが私を起こしに部屋に入ってきて、しみじみとそう言った。確かに私も戻りたいとは思ってはいたが、辺境ライフも思い切り楽しんでいた。それを思い出すと申し訳ない気もする。


「にいしゃま、りあ、ずっとたのちかった」

「リア、半年の間に一度さらわれて二度さらわれかけたことを、ふつう楽しいとは言わないのですよ」


 そう言われてみればそうだったが、三回とも何とか切り抜けたので、あまり何とも思っていなかった。まことに幼児の頭とは都合のいいものである。幼いといいこともあるなと思う私だった。


「やれやれ、生まれつき気楽なのですかねえ、リアは」


 そんなことはない。幼児だからだろう。


「さあリア、お誕生日おめでとう。二歳の誕生日は、昼にかかるように祝うのですよ。子どもですからね。早く起きて準備を始めましょう。今日は北の領地からおじいさまも来るのですよ。楽しみだなあ」

「おじいしゃま!」


 寝起きでふにゃふにゃしていた私もこれは目が覚めた。


「クレア母様のお父様ですよ。お母様と同じ茶色の目で、とてもお優しいのです」

「わー、たのちみ!」


 なんでももう少し早く来るつもりが、ギリギリになったそうで、今日から数日、屋敷に泊まってくれるそうだ。ラグ竜に乗るのが上手だそうで、きっと一緒に乗せてくれるだろう。


「殿下もいらっしゃるそうですし、リアはおしゃれをしてたくさんの人にニコニコしているだけでいいですからね。いや、リアの笑顔を見せるのはもったいないか」


 兄さまが何かぶつぶつ言い始めた。


「にいしゃま。にこにこしゅる、みんなたのちい」

「そうですね、私としたことが。笑顔一つで済むならいくらでも笑えばいいことでした」


 私と兄さまの言っていることは、違うような気がするが。兄さまはふと真顔に戻ると、窓のほうを見た。


「今日は私の誕生会でもありますから、ダイアナお母様も来てくれるそうなのです。来なくてもいいのに」

「にいしゃま……」

「お父様は難しい人です。本人はシンプルに生きているつもりでも、そのまっすぐさ、揺るぎのなさは時に人を傷つけることもある。それはわかっているのです」


 それでも、自分の側にいてほしかったと思うのはわがままでしょうか、と、おそらくそう続けたかったに違いない。しかし、12歳の矜持はそれを声に出させなかった。


「さあ、準備を始めましょう。初めてのパーティですからね。リアは思い切り楽しめばいいのですよ」

「あい!」


 その日は朝からお風呂に入れられ、髪をふわふわに乾かした後、白いふんわりしたワンピースに紫の刺繍がたくさんついている服を着せられた。こないだのメイド服より、普段着ているものより少し長い。ふくらはぎのところまで隠れてしまう。


 私は体を前後左右に揺らしてみた。裾がふわりふわりとする。ついでに髪もふわりとする。


「まあ、リーリア様、それで終わりではありませんよ。次にこれを上に巻くのですよ」


 メイドが持ってきたのは、薄い紫の透けるシフォンだった。それをウエストに巻いて、後ろで大きなリボンにする。私がプレゼントのようではないか。こないだもそうだったが、いつもと違う服の時は別のメイドが担当する。今日はナタリーは少し楽しそうな顔をしながら私の付き添いをしている。


「お披露目は白の服が基本なのですよ。そうでなくてもオールバンスの正装は白なので、今日はご当主様もルーク様も白ですねえ。なんて素敵なんでしょう。ご家族みんな揃うなんて、うう」


 しまいには泣き出すメイドもいる。


「せっかく帰っていらしたのに、毎日お城に行かれるものだから、リーリア様をお城にとられたようで皆さみしいのですよ」


 ナタリーが解説してくれる。確かにそうかもしれない。


 そんなウキウキする私たちは二階に控えていたが、窓から眺めていると、庭には次々とラグ竜の引くきらびやかな竜車がやってきて、やはりきれいに着飾った男女を置いていく。


 親戚の子どもならともかく、知らない家の子どもを見ても楽しいのだろうか。そんな風に考えている私に、ナタリーが説明してくれる。


「すでにお披露目が始まる前に皆さん下で旧交を温めていますし、ルーク様のお母様や、リーリア様のおじいさまのように遠方からやってくる方もいて、めったにない交流の機会なのですよ」


 そうだ、私だけを見に来ているのではない。そう思ったらなんだか気が抜けて安心した。


「リーリア様、ほっとしたという顔をしていますよ」

「ほんとに?」


 私は両手を顔に当ててみた。わからない。


「まあ、リーリア様ったら」


 部屋に笑い声が響く。メイドたちは楽しそうに話を続ける。


「私たちも楽しみなのですよ。だってめったに見ない貴族の皆さんを見られるのですよ?」

「私はモールゼイ様を見るのが楽しみで。あの冬空のようなクールな瞳がたまらないのですよ」

「私はやっぱりリスバーンのギル様よ。伸び盛りでまぶしいったらないわ」

「レミントンのお嬢様も来られるみたいで、四侯が勢ぞろいですよ。壮観ですねえ」


 レミントン。


 私は少しだけ緊張した。お父様も兄さまも、誘拐にはレミントンは何もかかわっていなかったと言った。それはそうだろう。下っ端にもわかりやすくレミントンレミントンと連呼されたら、誰だって黒幕は他にいると思うに違いない。


 でも思い出すのだ。ハンナのつらそうな様子を。不安な声と共につぶやかれた、レミントンという響きを。


「ほんの少し、何かお腹にいれておきましょうねえ」

「あい!」


 私は大きなエプロンでくるまれ、小さなサンドイッチを渡される。


「コックがいろいろおいしいものを作っていましたが、ちゃんとリーリア様の分は別に取っておくから、安心してくれとのことでしたよ」

「あい!」


 いい話を聞いた。お披露目されながらどうやってテーブルの食べ物をつまむのかが大きな課題だったのだ。私は安心してもりもりと軽食を食べた。


 手と口を拭き終わったころ、とんとんとドアを叩く音がした。


「さあ、そろそろお時間ですよ。ルーク様がお迎えに来たのかしら」

「私たちはこれから給仕をしながら見守っていますからね」


 メイドが口々に声をかけてくれる。こないだ兄さまのお誕生日から、屋敷の人たちとはずいぶん仲良くなったのだ。私を見守りつつ、貴族を楽しく観察するに違いない。


「さあ、リア、そろそろですよ。おや」

「わあ」


 光沢のある白い立ち襟の上着には、紫で丁寧な刺繍が施してある。すっと細い黒のズボンに、きちんと磨かれた革靴。自然に下ろされた長めの髪はサラサラだ。


「かわいらしい」

「かっこいい」


 思わず声が重なった私たちは、フフっと笑った。


「さあ、階段まで、服がしわにならないよう歩いて行きましょうね」

「もちろんでしゅ。すたすたあるけましゅ。はちってもいいでしゅ」

「走ってはいけませんよ。では手をつないでいきましょうか、ゆっくりと」


 一歩一歩を楽しんでと、そう聞こえた気がした。さあ、お披露目に行こう。












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