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異世界の景色

昼食が済んで・・。

 私が靴を履いて紐を結んでいると、先にリュックサックを背負った叔父さんが「あれ?」と不思議そうな声を出した。

「どうしたの?」

「それがさ。リュックが軽いんだ。」

「水を使ったからじゃない?」

「お茶に使ったあの量だったらそう変わらないはずだよ。」

私も自分のリュックサックを背負ってみる。

「本当だ。軽い。」

「だろ?異世界だからなんかの魔法が働いてるのかな?」

「重くなるよりいいじゃない。」

「ハハッ、確かにそうだ。」


ホウが一度大きく羽を動かすと平地なのに滑空するように森の中を進んで行く。すると木の下にぎっしり生えていた藪がガサガサと音をたてて動き、私達の前に一本の開けた道が現れた。


・・・・・・・・・・・・・。


「ちょっとこれ・・・ファンタジーだね。」

「うーん。CGを使った映画みたいだな。」

私はなんとなく両端の藪に向かって「すみませんねー、ちょっと通らせてもらいますよ。」と言いながら出来たばかりの道に足を踏み入れた。ホウは私達が近づくと滑空して新たな道を切り開いていく。私達はホウを追いかけるようにして歩いて行った。暗い森の中の一筋の道が頼りの命綱だ。時折小鳥の声が聞こえるだけの静かな森を、休憩しながら何時間か歩いていたら、急に木立がまばらになってポッカリと開けた場所に出て来た。そこは陽の光がキラキラと降り注ぐ一面のお花畑だった。


「わぁーーーっ。すごい。・・・・綺麗。」

「こりゃあ見事だ。」

見渡す限りの大地がピンク、黄色、青色と色とりどりの花のジュータンに覆われている。あまりの美しさに足を踏み入れるのに戸惑ってしまう。しかしホウは私たちのそんな躊躇など気にせずに先へ進んで行く。私と叔父さんはしょうがないねと言い合いながら花の上を歩かせてもらうことにした。

しばらく歩いていると森の木々も見えなくなって、周りは蒼い空と花畑だけになってしまった。ブーンと音をたてて飛んでいる蜂のような生き物以外は誰もいない。

「叔父さん、いる?」

私はなんだか怖くなって叔父さんに話しかけた。

「ああ。後ろを歩いてるぞ。しかしここはホウが空にいなかったら迷いそうだな。」

ホウもその事をわかっているのか時たまUターンして私達がついて来ているのを確かめているようだ。


日差しが少し傾いた頃、向かう先に青いきらめきが見えて来た。

「あれ、湖かなぁ。」

「たぶんな。山から眺めた時に森の中に点々と見えていた湖の一つなんだろうな。今日はここでキャンプになりそうだ。」

上空にいたホウは旋回しながら湖の(ほとり)に立っている真っ白い大きな木に降りて行く。

「樹が真っ白だ。見たことないねあんな樹。」

私達はホウの止まっている樹の側まで歩いて行った。樹を見上げると桜のような白い花が満開に咲いている。しかし樹の幹も雪のように白いので桜ではないのだろう。白い木の枝に黄色の羽をしたホウが止まっていると何かのデザイン画のように見える。


「未希、ぼ~とホウを眺めてないで手伝ってくれ。」

「ん。」

叔父さんがテントを広げるのを手伝う。簡易テントなので、四隅にペグを打って弾力のある骨の形を整えたら出来上がりだ。テントの中にクッションシートをひいて寝袋を入れておく。

「風がないから大丈夫だとは思うが、一応重しに未希のリュックだけは入れといてくれ。」

「はいよっ。」

私はテントに潜り込んで、奥側の方に自分のリュックサックを置いた。ついでに着替えも出しておく。


「叔父さん、夕食は何にする?何か食べられそうな草があるかな?」

「ここは花畑の端っこだからなぁ。最初の日だし無理はせずにインスタントラーメンにするか?」

「うん、いいよそれで。調理の手間がいらないんなら、これからパンだねを仕掛けとくよ。」

「おおっ、そうかパンか。そうしたら朝飯はそれだな。俺は湖の水が飲めそうか調べてみるよ。」

「飲めるといいね。」

私は叔父さんと一緒に湖まで行って手を洗うと、小麦粉やタッパーを出してパン作りに取り掛かった。叔父さんはちょっと湖の畔を歩いて来ると言って浄水器を持って出かけたので、一人で気ままにパン種をこしらえた。発酵を促すためにタッパーに入れてテントの中に入れておく。手を洗って使ったボールや材料を片付けた後はテントの側に敷いたシートに寝転がって一日歩き続けた疲れを癒した。


異世界か・・・宇宙船より良かったかもね。綺麗な景色も見れたし空気も美味しいし。でも私達の使命って何だろう?明後日、船に乗って行った先に誰かがいるんだろうか?

ここに来てから人間どころか動物も見ないなぁ。ホウはもともと本だったんだから動物のうちに入らないでしょ。鳥の声はするけれど姿は見えないし、動くものっていったら蜂のような昆虫を見たぐらいだもんね。


私は物思いにふけりながらウトウトしていたのだろう。叔父さんが帰って来てコーヒーを入れた匂いに気付いて目が覚めた。

「お、起きたか。未希もなんか飲むか?」

「う・・ん。紅茶、入れて。」

「紅茶ね。・・・ほれ、砂糖なんかは自分でやれ。」

叔父さんはコップにお湯とティーバックを入れて渡してくれた。

私は紅茶にスティックシュガーを入れてスプーンで混ぜながら湖のことを叔父さんに聞いた。

「湖の水は飲めそうだ。ちょっと先に水が湧き出てるところがあったよ。そこからは俺たちが降りて来た山が見えた。・・なんかな神聖な感じがするっていうか神々しい山に見えたな。」

「動物なんかもいないし静かだよね、この辺り。気候も夏っていうより初夏のカラッとした天気だし。でもあんまり暑くないのは助かったよ。一日中歩いたもん。」

「ああ、森の中を歩いてた時は魔獣が出てこないかとビクついてたけど、小さな動物も見なかったな。未希、どうやらここは普通の森じゃないぞ。」

「・・普通って、異世界なんだから最初から普通なとこなんてないでしょ。」

「はぁー、さすがに子どもは順応するのが早いな。俺なんか常識が邪魔するというか考えすぎるというか・・。」

叔父さんはぼやきながらコーヒーの残りをグッと飲んだ。


湖の側に叔父さんが台所グッズを並べて、水から離れた所にゴミ穴も掘ってくれたのでそこで夕食をとることにした。

カップラーメンを作って、乾燥果物をデザートにしただけのささやかな夕食だったが、二人だけで話をしながら食べる気の置けない食事はくつろぎと安心感を与えてくれた。

食事の片付けが済む頃には日も落ちて空には星が瞬き始めた。すると昼間ずっと空に見えていた惑星がオレンジ色に光り始める。

「あれはこっちの月みたいなものなんだな。」

「うん。地球の月より大きいね。三倍くらいある?」

「ああ、そんくらいはあるな。」

叔父さんがカンテラを灯してくれたので、しばらくテントの外で話をした。夜の闇の中に花の匂いが漂っている。お花畑の側で眠れるなんてドキドキする。

しばらくして交代で湖で水浴びをしてお風呂や歯磨きを済ませた。トイレは湧き水が出ている場所とは反対側に行けと言われたので、なるべくテントから離れた所で済ませる。


不便だけど、その不便さが面白い。私、意外とアウトドアって向いてるかも。

叔父さんに言われて持って来たゴム草履が湖に裸で入る時なんかに大活躍だ。あの人、旅行慣れしてるから変なことをよく知ってるんだよね。

召喚されたのが叔父さんと一緒で良かったかも。


初めて入った寝袋に最初は慣れなくてゴソゴソと寝返りを打っていたが、だんだん昼間の疲れが出て来てぐっすりと寝込んでしまった。


翌朝、私達は突然の訪問者に驚くことになる。それで使命の一部が明かされることにもなったのだが・・。


何がわかることになるのでしょう・・。

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