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未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第一章 予言書
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転移?

予言された日。

 とうとう七月二十二日の朝が来た。朝食の後「叔父さんと出かけてくる。」とだけ言って、お母さんたちに見つからないようにこっそり車に置いておいた荷物をかついで家を出る。神社へ歩いて行きながら、不安な気持ちを抑えきれずに叔父さんの方を見ると、ニヤッと笑って「逃れられない運命なら、楽しもうっ!」と言われた。

確かに叔父さんが言う通りだ。どうしてもやらなければならない使命ならやるしかない。


秘密基地に着いて叔父さんに予言書を渡す。

「これが、予言書か。へぇ~、本当に書いてあるんだな。」

「えっ?!叔父さん、字が読めるの?!」

「ああ。これからのことも書いてあるみたいだぞ。」

叔父さんの持っている予言書を覗き込むと、南ちゃんたちと一緒に読んだ文章に続きが書いてあった。


『未希と征四郎はこの予言書の上に手を置き、呪文を唱える。【マカオノラ ホクホケイ ラルート】』


「呪文なんだ。・・・宇宙人じゃない?」

「ほらな。異世界召喚だって。」

私と叔父さんは、まずは呪文を練習した。そして深呼吸してから手を繋ぐ。空いた方の手で予言書の両端を持ってから、顔を見合わせて頷き合う。

「よし、いくぞっ。」

「うん。」

「「【マカオノラ ホクホケイ ラルート】」」


目の前の洞窟の景色がグニャリと歪んだかと思うと、予言書の花の香りが段々と濃厚になってきた。すると今度は途轍もなく眩しい白い光に包まれた。思わず目を閉じてしまう。しばらくすると花の香りがスッと消えて、今度は湿った清涼な土の匂いがしてきた。遠くの方でピチャンピチャンと(しずく)が垂れているような音がしている。

恐る恐る目を開けると、そこは秘密基地とは全く違う洞窟の中だった。

「マジか。これは未希のドッキリじゃなかったんだな。」

「叔父さん・・信じてなかったの?」

「信じてたよ、七割ぐらいは。でも、ここまでとは予想してなかった。」

すると私達が持っていた予言書が生暖かくなって動き出した。

びっくりして手を離すと、それはみるみるうちに鳥の形になっていった。

「・・・フクロウ?」

それは濃い赤紫の瞳を瞬かせ、薄黄色のふわふわした羽をたたむと私達の前に静かに降り立った。


『未希と征四郎は森を歩く。三日後に船に乗ることになる。』


フクロウはこちらに向かって低い声でそう告げると、薄明かりのする方へ羽ばたいて行った。

「また一方的なお告げね。」

「後をついて行くしかなさそうだな。」

二人でフクロウが飛んで行った洞窟の出口と思われる方へ歩いて行く。地面は湿っていて天井は高い。小さい頃に連れて行ってもらった鍾乳洞のような感じがした。

「声が響くかな。アッアッアー!」

少し大きな声を出して反響を確かめてみる。すると洞窟の奥の方でバタバタと羽音が聞こえた。

「未希っ!大声を出すなっ。ここは異世界だぞっ。魔物がいたらどーすんだっ。」

叔父さんに怒られてビクッとする。

「え、魔物って何?異世界ってそんなものがいるの?!」

思わず小声になってしまう。叔父さんは呆れた顔をして、ゲームの中に出て来る魔物を教えてくれた。ゴブリン、スライム、オーク、ドラゴンetc。特にこういう洞窟にはドラゴンが住んでいることもあるらしい。私は思わず小走りになって、滑って転びそうになるのを叔父さんに助けられた。

「未希、怖がらせたのは悪かった。でも大怪我だけはしてくれるなよ。そこまでの治療をする薬は持ってきてないんだからな。」

「・・ごめんなさい。」

確かにどちらかがケガや病気をしたら大変だ。


今度は足元に注意をしながら歩いて行く。すると周りが次第に明るくなって洞窟の出口に着いたのがわかった。

「あそこだな。」

さっきのフクロウが岩棚に止まって私たちを待っているのが見える。

その側まで行くと外の世界が見えた。


「叔父さん、太陽が二つある・・・。」

「いや、一つは太陽じゃないよ。光ってないもの。あれはこの星の惑星かもな。ひぇー、本当に異世界なんだ。やベぇなこれ。」

空の青色が濃い。そして眼下に原生林が広がっている。ここは小高い山の上にある洞窟のようだ。森の中に湖が点々と見える。遥か向こうに大きな川が流れているのがわかった。

「・・・もしかしてあそこに見える川まで歩けってことなのかな。」

「だろうな。だけど結構な距離だぞ。」

フクロウはそんな私達の会話など知ったことかというように、羽を広げるとバサバサッと音をたてて飛び上がり、山の麓まで滑空して行った。


「やれやれ、行くか。」

「オッケー。」

道などなかったのでジグザグに山を下りていく。助かったのはこの山には膝丈の草のような植物しか生えていなかったことだ。これが下に見えるような森だったら藪をかき分けて進むのに時間がかかったことだろう。途中で休憩して水分補給をしながらゆっくりと進んで行った。麓の森の中に降りた時には、太陽が真上に登っていた。

「あー重たい。叔父さん、ここで休憩してもいい?」

「ああ。ここで昼ご飯にした方がいいかもな。」

私たちは近くにあった倒木に座って、昼の休憩をとることにした。


叔父さんがリュックサックからガスバーナーと小鍋を取り出す。ペットボトルの水を入れて火にかけたので、私はラップに包んだおにぎりとタッパーに入れた昨夜の残り物のおかずを出した。

「おっ、気が利くな。いつの間に用意してたんだ。」

「昨日の夜に作って冷蔵庫に入れといたの。食料は貴重でしょ。」

「うん。弁当があるんならお茶だけ入れたらいいか。」

叔父さんはカップを二つ出して、お茶のティーバックを湧いたお湯に浸した。

入れてもらったお茶をすすると身体中が落ち着くような気がした。

「あー、美味しい。お茶がこんなに美味しいとは思わなかった。」

「ここは空気が澄んでるから余計に美味しく感じるんじゃないか。」

「・・・静かだね。」

時おりピチュピチュと小鳥の鳴き声が聞こえるが、他には何の物音もしない。

私達も黙って黙々とご飯を食べた。


ご飯の後シートを出して、靴を脱いでしばし寝転ぶ。

「叔父さん、これって牛になる?」

「食べてすぐ寝転ぶと牛になるってやつか。そんなこと言ってたら俺なんか何度牛に変身したことか。」

「・・・ここって、異世界なんだよね。予言書がフクロウに変身した時にはびっくりしたよ。」

「俺だって心臓が縮んだよ。違う洞窟に立ってたのも驚いたけどな。」

「あのフクロウ・・・ヨゲンって名前にしようか。何かずっと私達の道先案内をするみたいじゃない?」

「ハハッ、予言書が変身したからヨゲンか。そのまんまじゃないか。」

「むっ、そんなら叔父さんが名前をつけてよ。」

「んーー、フゥー?ホウ?」

「何それ。」

「英語でフクロウは Who?(誰だっ) て、鳴くと言われてるんだ。日本語ではホウだろ。」

「ホウのほうが言いやすい。」

「じゃあ、あいつの名前はホウだな。」

私達の話を理解したのか、近くの枝先に止まっていたフクロウが「ホウ!」と一声鳴いた。


ホウがしきりに羽ばたきを始めたので、私たちは起き上がって午後の行軍を開始することにした。

午後、私達の前に驚きの光景が広がることになる。それは二人の行く末を暗示しているかのようだった。


二人が見たものは・・・。

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