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未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第五章 帰路
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現実とのギャップ

落ち着いて聞いてみると・・。

 8月22日になぜ親戚中が集まっていたかというと、失踪している私たちの扱いをどうしようかという相談だったらしい。もしすでに死亡しているのなら三回忌という節目だし、征四郎叔父さんのマンションをどうするかという問題もあったようだ。事情を知っている人に住んでもらって税金対策はしてきたものの、住んでくれている人が結婚するので、叔父さんのマンションを買いたいと言ってきたそうだ。

本人不在で手続きをするには、難しい問題が山積みだと雄一郎叔父さんが言っていた。


そのためキリ君が征四郎叔父さんから預かってきた書類が重要になってくるらしい。キリ君を叔父さんの後継者にするために、学校の先生をしている恒次(つねじ)叔父さんが、勤め先の学園長に聞いてみると言っていた。その人は以前、身寄りのない記憶喪失の男の子を養子にされたことがあるらしく、その時に力になってもらったお医者さんにもコネがあるそうだ。キリ君がこの国で生活が出来るように上手くいくといいのだが・・。


 翌日、すぐに学園長の知り合いだというお医者さんの診察を受けに行くことになった。私とキリ君は同じ事故で頭を打って一部記憶喪失になったということになるらしい。困った時のお守りだと言って誰かから渡された手紙を見てみるとマンションの住所が書いてあり、遺産を全部移譲すると書いてあった。そこに行ってみたら、雄一郎叔父さんに偶然出会い、やっと家に帰れたという設定だ。

その設定を考えてくれた河合医師の診察を受けたのだが、南極探検隊に医師として同行していたという経歴の持ち主なので、一風変わった人だった。全身の健康診断をしてくれた後に、ニコニコ笑いながら興味深げに発した一言は「それで、異世界ってどんなところ?」というものだった。


河合先生が以前聞いたことのある異世界は、中世ヨーロッパ風のRPGのような世界だったらしく、私とキリ君が話す天樹国の話を身を乗り出すようにして聞いてくれた。

どうもキリ君以外にも異世界からの訪問者がいるらしく、警察や市役所への届け出のことなどもアドバイスしてくださった。


私たちの診察の後、皆で車に乗りこむと、お母さんは肩の荷が下りたような顔をした。

「いい先生がいてくださって良かったわね。恒次(つねじ)の上司の先生に感謝しなくちゃ。未希は待ち合わせの時間、大丈夫なの?」

「うん、まだ余裕があるよ。久しぶりにモールに行くからぶらぶらしてる。」

今日は南ちゃんたちに詳しく説明するために、外で会うことになったのだ。私はお母さんの運転でモールまで送ってもらった。


「じゃあ晴信、キリ君をお願いね。」

一緒について来てくれた晴信に、キリ君のことを頼む。

お母さんと晴信とキリ君は、これから三人でガレージボックスに一時置きしてある叔父さんの物を取って来る予定なのだ。

「うん、任せとけ。姉ちゃんはちゃんと南さんたちに説明しとけよ。本当に何度も心配して家に来てくれてたんだからな。」

「私のことは心配しないように、友達とゆっくりしておいで。私も征四郎の服を選ぶのが楽しみだ。」

キリ君もそう言ってくれたので、後のことはお母さんと晴信に任せることにした。お母さんたちは、叔父さんが帰ってこないのなら、この休み中にいるものといらないものを仕分けして、ガレージボックスの方も解約すると言っていた。


・・・でも晴信に任せたとはいっても、早く帰らなくちゃね。馬車と同じだと説明したけど、自動車に乗るのにも緊張していたキリ君。病院での身体検査も何をされているのか訳が分からないようだった。さすがに上に立っていた人だけあって動揺を抑えていたが、キリ君が「俺」って言わない時は緊張してる時だもんね。晴信にもこっそりとトイレのことを頼んでおいたけど心配だ。



 南ちゃんと佳菜ちゃんの二人に会う予定だったけど、なんと孝二と翔吾君もついて来ていた。

「孝二たちも来たんだ・・。」

「関係者だからいいでしょ。彼らも心配してたし。」

そう言った南ちゃんの背は私よりも高くなっていた。佳菜ちゃんは私よりも低かったのに同じくらいの身長になっている。男二人は前と全然違っていて、すっかりお兄さんになっている。顔つきも皆大人っぽい。傍から見たら、同級生が集まっているというより、中三の人たちに囲まれている小6の女の子って感じだろう。皆にひどく後れを取ってしまった気がする。なんか、寂しいな。


私があれから三か月の間にあったことを4人に話して聞かせると、佳菜ちゃんがみるみる涙ぐんでいった。

「未希ちゃんが、異世界でそんな目に遭ってたなんて・・・。」

泣くのを我慢している佳菜ちゃんの背中を翔吾君がそっと支えたのが見えた。

私が話を止めて、二人の様子を驚いて見ているのに気づいて、南ちゃんが説明してくれる。

「未希のことで何度も集まってたから、私たちお互いにつき合い始めたのよ。」

南ちゃんの言葉にギョッとする。

「まさかっ! 南ちゃんと孝二も?!」

南ちゃんはへー然と頷いていたが、孝二の方は真っ赤になって私から目をそらした。

・・・信じられない。世の中には心の底から驚くことがあるんだねー。まさか南ちゃんが天敵の孝二とどうこうなるなんて・・。3か月前の私に言ったら、いや3年前の私たちに言ったら、悪い冗談だって言ってみんな大笑いするよ。


時間は・・・私をおいて流れていったんだ。


皆と話をした後で、私は家に帰るバスに乗ったが、4人は夕方から受験のための塾の講習があるらしい。これから皆で図書館に行って、塾の時間まで勉強すると言っていた。

私の中では皆においていかれた寂しさが焦りに変わっていた。私も勉強しなくちゃ。・・・でも何のために? 私はこれから何に向かって努力したらいいの?

懐かしいバスに揺られながら、私は将来のことをあれこれと考え続けていた。


家に帰って、客間にしつらえたタンスに大量の服をしまい込んでいるキリ君を見た時に、私の頭の中にふと天子集会での会議が蘇って来た。

私とキリ君がこっちに帰ってこられた理由って・・・・・もしかして。

天子集会の会議?

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