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未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第五章 帰路
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時の流れ

3年間行方不明とは・・・。

 理解が追い付かない。どうして3年も経ってるの?!

私が頭を抱えていると、美佐子伯母ちゃんがお茶を出してくれた。

「皆、理由を聞きたいのはわかるけど、未希は3年ぶりに家に帰って来たのよ。少しはゆっくり落ち着かせてあげましょう。」

伯母ちゃんの一言で、緊迫していた場が少し緩んだ。皆も出されたお茶やお菓子に手を出している。


小2の達也(たつや)が・・・小2には見えないね。大きい。本当に3年経ってるんだ。

達也がお菓子をボリボリ食べながら、興味津々で私に聞く。

「それで未希ねえはどこへ行ってたの? 南さんたちは宇宙人にさらわれたとか異世界召喚だって言ってたけど。」

「南ちゃんは宇宙船に乗るって思い込んでたからなー。それがねぇ、信じられないと思うけど異世界に行ってたのよ。」

雄一郎叔父さんが訝しげに口を挟んでくる。

「そこの男の紹介の時に言ってたてん、てんなんとか国か?」

天樹国(てんじゅこく)。綺麗なところだよ。空気がおいしくて緑が豊かで・・。」


私と叔父さんが天子の森の洞窟に転移してからのことや使徒の村で村長のタカキさんに説明を受けたことを話していると、お父さんに『時の狭間』について質問された。

「ちょっと待て。今言った『一月が一年の長さに感じられる』というのが、こんな事になった理由なんじゃないか? 未希はその天樹国とやらでもしかして三か月暮らしたんだろ。だからこっちに帰って来た時に三年経ってたんだよ。」

「・・・まるで浦島太郎だな。」

晴信(はるのぶ)がボソッと言った言葉に、おばあちゃんが反応した。


「家に代々伝わってきた言い伝えで『神隠しにあっても心配するな。浦島太郎になって戻ってくる。』と言うのがあるんだよ。」

「だから母さんは『心配ない。未希も征四郎も戻ってくる。』って言い続けてたの?」

お母さんがおばあちゃんに聞くと、おばあちゃんは曖昧に頷いた。

「確証がないただの言い伝えだろ。お前たちや警察には言えなかったんだよ。私自身、本当に信じていいのかわからなかったしね。そうであって欲しいと祈る思いだった。」


「・・・警察。そうか、そんなことになってたんだね。」

3年も行方不明だったら、警察にも届けるよね。

「未希が小6の8月22日に帰ってこなかっただろ。2、3日待ったけど連絡もない。それで届け出を出したんだ。警察も征四郎君が一緒だったから初動が遅かったんだが、9月になるとさすがにおかしいということになってね。大々的に捜査が行われた。しかし二人の行方はつかめない。征四郎君がアメリカに未希を連れて行ったのかもと、国を超えて調べてもらったよ。」

「新聞や雑誌にも載ったよ姉ちゃんたち。」

お父さんと晴信の話にゾッとした。

「・・・ということは、南ちゃんや佳菜ちゃんにも心配かけたね。」

「心配どころじゃないわよ。自分たちが止めればよかったと泣いてたわよ。後で電話しときなさいっ!」

お母さんに久しぶりに叱られた。


私もお茶を飲みながら考える。

私と叔父さんは、7月22日~8月22日までの一か月が、天樹国での一年だと思い込んでいたけれど、どうやら反対だったらしい。天樹国での一か月がこっちの世界での一年だったんだ。ということは・・・。

「ねえ、ちょっと聞いていい? 私って、こっちの世界では中3の夏っていうこと?」

「そうだよ。僕が中1だもん。」

「晴信が中1か・・。私は中学生をほとんど経験しないままもうすぐ高校生?」

「いや出席日数が足らんだろ。」

ずっと黙っていた恒次(つねじ)叔父さんが言った。この叔父さんは、学校の先生なのだ。岸蔵市(きしくらし)の外れにある嬉野(うれしの)高校で社会科の先生をしている。


「中学に復帰するよりも、検定を受けて高校の受験資格を得ることが当面の課題だな。しかしたった半年間で3年間の勉強を習得するのはきついだろう。そうなると中学も高校も通信教育を受けて大学検定を取るかだな。」

「・・・それって、学生生活が出来ないじゃん。」

「うーん。いったん義務教育のワクから外れると難しいな。それにその子、桐人君も見たところ学生じゃないか? 君は何歳だい?」

私の側でゆっくりとお茶を飲んでいたキリ君が、質問して来た叔父さんのほうを見た。

「我が国での成人は13歳なのです。なので私はもう学生ではありませんが、歳は17歳です。11月17日に18歳になります。」

「そうか。じゃあ君は高卒ということで通るか。ただ、日本で生きていくつもりなら高校卒業程度の勉強はしておいた方がいいぞ。」

「そうだな。」

お父さんもこれからのことを考え始めたようだ。


 「未希、征四郎はあっちに残るって言ってたけど、それはどういうことか聞いていいかい?」

おばあちゃんが遠慮がちに尋ねて来る。

私はハッとした。自分たちの事で精一杯だったが、おばあちゃんにとっては征四郎叔父さんは我が子だ。うちのお母さんと同じように心配していたことだろう。

私は叔父さんが私たちに(ことづ)けた分厚い紙束をリュックから取り出した。

「まぁ、それ征四郎の手紙なの?! あの筆不精がこんな・・・。」

お母さんも叔父さんたちも顔を歪めた。

アメリカから帰る時にさえ電話を渋る征四郎叔父さんが、こんな大量の手紙を書いたというだけで大事であることが伝わったようだ。


それぞれに書いてあった手紙を渡して、皆がそれを読んでいる間に、私はキリ君と一緒にトイレに行って着替えさせてもらうことにした。伯母ちゃんや叔父さんたちの奥さんが、話が長くなりそうだからと夕食の準備に立ち上がった。

「キリ君、トイレの使い方を教えるから来てっ。晴信、お願い。」

「あ、そうか。キリヒトさん、兄ちゃんって呼んでいい? 僕、アネキより兄さんが欲しかったんだ。」

「いいよ。じゃあ俺はハルくんって呼ばせてもらおうかな。」

ハルくん・・か。遥ちゃんどうしてるかな。私は聖心殿の娘のハルちゃんのことを思い出していた。私たちが大宮に泊まった最後の日に「行かないで。」と泣きそうだったハルちゃん。カヤさんに諭されて我慢してそれ以上は言わなかったけど、目に涙を溜めて口をへの字に食いしばってたな。


私は部屋にリュッサックを置いて、夏の半袖の部屋着に着かえるとホッとした。自分の部屋を見廻して帰って来たんだなぁと感慨深くなる。三年経ったけどそのままにしてくれてたんだ。

「キリ君にも着替えてくつろいでもらわないとね。」

廊下に出ると、晴信が変な顔をしてトイレの前の壁にもたれていた。

「どうしたの?」

「姉ちゃんの言ってることって、本当のことなんだな。兄ちゃん、水洗トイレを見て目を回してたよ。」

「なによ、異世界に行ってたって信じてなかったの?」

「んー、少しはそうかなって思ったよ。姉ちゃん、いなくなった小6んときと変わらないし・・。」

「こんなことで嘘つけるわけないでしょっ。それより半パンとTシャツを出して。キリ君は着物しか持ってないから。こっちでは叔父さんの服を借りるつもりだったの。」


キリ君が半パンとTシャツを着ると、晴信の服とは思えないほど良く似合う。着物姿のキリ君を見慣れていたので、なんか新鮮だ。

「この服、楽だね。天樹国で未希たちの天子ルックが流行っていたのもわかるよ。」

「なんだそれ?」

「そのことも含めて、説明するよ。」

私は晴信とキリ君と一緒に下の座敷に降りて行った。


伯母ちゃんたちが作った夏野菜の天ぷらとソーメン、それにお寿司屋さんに注文した握り寿司で夕食会が始まった。私は久しぶりに我が家で食べる気のおけない食事を楽しんだ。そして皆の質問にも答えながら三か月の天樹国での体験を話していったのだった。

だいぶ説明が必要ですね。

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