表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第五章 帰路
61/66

新たなる予言

緊急だと都に呼び戻された未希たちは・・。

 空は寒いだろうからと、サラやカズマに着せられた服で着ぐるみのようになりながら、私とキリ君は都に帰って来た。猛スピードで帰って来たが、御所の庭に降り立った時には10月21日の夕方になっていた。

「はぁ~、疲れた。さすがに南家領は遠いね。」

「そうだな。神使いの術がないと、とても1日では帰ってこられないところだった。」

「うん。でもいったい何をそんなに急がなくちゃならないんだろうね。」

私とキリ君が話しながら御所の建物の中に入ると、伝令が走っていたのか叔父さんがすぐに私たちの前に現れた。


「お疲れさん。すまんな、急がせて。しかし大宮までもうひとっ飛びしてもらわなきゃならないんだ。」

叔父さんは、別れた時とは違ってひどく消耗した顔をしていた。顔が青白く睡眠を取ってないように見える。

「いったい何があったの?」

私が問いかけても、叔父さんは私と目を合そうとしない。

なんか、変だ。心臓がドキドキと音を立てる。


御所から3人で天珠離宮(てんじゅりきゅう)に飛んで行くと、そこにはマー君とホウが私たちを迎えに来てくれていた。

「やあ、間に合って良かったね。どうなることかと思ったよ。」

あっけらかんとしたマー君の顔を見ると、とても気をもんでいたようには思えなかった。でも、ここで待機してくれていたということは、急いで大宮(おおみや)聖心殿(せいしんどの)に会いに行かなくてはならないということだろう。

4人でホウに(つか)まって、移動の呪文を唱える。


いつものように眩しい光の中、おそるおそる目を開けると、聖心殿が建物から走り出て来るのが見えた。

「間に合いましたな。これで少しは休む時間が取れる。」

「聖心、どういうことだ。新たな予言とはいったい何だったんだ!」

キリ君が聖心殿に詰め寄ったが、聖心殿はキリ君にストップと手を挙げて、何も言わずに私たちを予言書のもとへ連れて行った。


予言書がある天珠(てんじゅ)の樹の中の(ほら)に入ると、私とキリ君、叔父さんとマー君を従えた聖心殿が、私たちを床に座らせた。

「とにかく読んでいただくのが早い。」

聖心殿は私とキリ君が読めるように、予言書を私たちの前に置いてくれる。

以前ホウが話していた『八日の道のりで都につく。馬車の旅は快適であろう。』という文章の隣のページに、新たな文が書き加えられていた。


『10月22日 その日の内に天子の森の洞窟に入らなければ、元の世界へ帰ることは出来ないだろう。』


・・・・・・・・・。


読み間違いではないかと何度も読んだが、書かれていることは変わらない。


「どうして?! 来年の8月22日に帰るんじゃなかったの?」

「俺にもわからないし、聖心殿にもわからないそうだ。」

叔父さんはこの話を先に聞いていたのだろう。悲壮感漂う様相だ。

隣に座っているキリ君がまとうピリピリした緊張感が、私の声を奪ってしまうような気がする。

でも・・・でもこればかりは、言わなくてはならない。


「じゃあ叔父さん、急いで天子の森に行かなくちゃ。」

私がそう言った途端に叔父さんはグッと声を詰まらせた。そして絞り出すような声で私に告げる。

「未希・・・すまないが一人で帰ってくれ。俺が取り入れた一般市民を重用(ちょうよう)する半民主化計画でこの国の政治が混乱している。東海首相が出した手紙はあれでも表現を選んだものだった。早急(さっきゅう)に対処しなければならない課題が山積みなんだ。それを全部放り出して、今・・帰るわけにはいかないんだ。」

「でも今帰らないと元の世界には戻れないって書いてあるじゃないっ!!叔父さんっ、お母さんやおばあちゃんが待ってるんだよっ。会社だって、それに叔父さんのマンションだって!」

私が叫ぶと叔父さんの目に熱いものがにじみ出て来たが、私の方をキッと(にら)んで、ゴクリと喉の塊を飲み込むと、冷静に告げる。


「俺はカツラさんを愛している。病気の彼女を見捨てて帰ってしまったら、俺は一生自分で自分が許せないだろう。俺はここに残る。そしてカツラさんを支えて生きていくことに決めたっ!」


こんな叔父さんは、見たことがなかった。(おも)やつれした顔に目だけがランランと光っている。

・・・硬い決心なんだね、叔父さん。でも・・でも・・・・。

私はぶるぶる震えだした手をお腹の前で組んで、なんとか冷静になろうとするが身体全体が震えだしてしまった。そんな私をキリ君が横から抱きしめてくれる。


温かい。キリ君とも、もう少し一緒にいられると思ってたのに・・・。サラやマユやカツラさんともお別れなんだ。叔父さんをここに残して、私は独りで帰らなくちゃならないの?

そんな風に考えていた時にふと思い出した。

「でも、聖心さん。叔父さんはこう言ってるけど、以前、予言書に二人で帰れるって書いてありましたよね。」

一縷(いちる)の望みをかけて、聖心殿の方を(すが)るように見る。


すると「うん、そうだよー。」とマー君が能天気な声で答えてくれた。

「だから僕が未希と一緒にあっちの世界に行くことになったんだー。」


「はぁ?!」


私たち3人は驚いていたが、聖心殿は苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。

「今日1日そのことで親子喧嘩をしておりましたが、そうするしかないでしょうな。予言をたがえるわけにはいきませんし、私としては苦渋の決断ではありますが・・・。」

「ちょ、ちょっと待て、聖心。なんだ?その決断はっ!」

キリ君が決まったことのように言う聖心殿とマー君を怒鳴りつける。私の肩に回していた手にぐっと力が入ったのがわかった。


「えー、だって予言書にこう書いてあるんだもん。」

マー君がキリ君に私が以前見たことのあるページを開いて見せる。


『心配はいらない。八月二十二日に帰って来るのだから。その日の夜は二人分のご馳走を用意するように。』


確かにこうやって読み直すと、私は帰って来る。しかし一緒に帰るのが叔父さんだとは言い切れない書き方だ。もしかして・・・。

その時私の頭の中に浮かんだのは『未希は宿題をするが間違える。』というフレーズだ。

あの時私は、問題の答えを間違えたわけではない。宿題をする場所が違っていて、問題自体を間違えたのだ。(とら)え方によってどうとでも取れる予言。


もしかして最初から私たちは予言書に(だま)されてたの?

叔父さんをこの世界に連れてくるのが目的だった?

・・・そしてマー君を私たちの世界に連れて行かせるために私を呼んだの?


「なにが『書いてあるんだもん』だっ! 未希をお前なんかに任せられるかっ。俺が未希と一緒に行くっ!」

「殿下っ、それはなりませんっ。殿下がいなければこの国は・・。」

聖心殿が血相を変えてキリ君を止めにかかる。

「聖心、そなたは政治に口を挟めない身であろう。征四郎、姉さまと天樹国は任せた。俺は未希を守る。」

「桐人・・・いいのか?」

叔父さんは放心してしまっているようだ。


「チエッ、異世界を見てみたかったのになぁ・・・。でもまぁ、桐人のことだからそう言うと思ったよ。」

「・・征嗣(まさつぐ)。」

マー君の言葉を聞いて、聖心殿はギョッとしていた。私もマー君のほうをまじまじと見る。

この人は軽くておちゃらけているように見えるけど、意外と(あなど)れない人なのかもしれない。


誰よりも最初から、こうなることがわかっていた?・・・・まさかね。


とにかく思いもかけないことに、私とキリ君は明日もとの世界へと旅立つことになったのだった。

まさかの展開です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ