旅行準備
叔父さんに予言書の話を聞いてもらいます。
私が話し終えると、叔父さんは弾んだ声で言った。
「秘密基地っていうだけで面白いのに、100パーセント当たる予言書かっ。これは俄然面白くなってきたな。俺は8月末まで休みだからいいよ。その冒険に付き合うよ。」
「本当にいいの?なんか怖くない?」
「んー、宇宙人に攫われるのはちょっと怖いかな。人体実験をされるかもしれないし・・・。」
「ええーーっ、何それ!嫌だよ、そんなの。」
「ハハッ、心配ないよ。そういうのだったら予言書を寄越すなんてめんどくさいことをしなくてもその辺にいる奴を捕まえていけばいいだろ?『使命』と言うからには、異世界の勇者召喚っていうやつなんじゃないか?」
「何それ?」
「なんだ、未希はゲームをしないのか。」
「うん。晴信は外で遊ぶ方が好きだし、私も本を読むのが好きだからうちにはゲーム機がないの。お母さんの携帯で病院の待ち時間にプムプムをしたことはあるけどね。」
「そりゃあ、レアな存在だ。ということは携帯も持ってないのか。」
「うん。携帯は高校からって言われてる。」
「そうか、姉さんそういうとこはカッチリしてるからな。」
うちから30分かかるモールの入り口が見えると、叔父さんは建物の屋上に登って専門店街がある東側の駐車場の方まで車を走らせた。エレベーターの入り口の近くに一台空いていた所に車をバックして止める。
「よし、ここならアウトドア用品の店が近いぞ。」
「ラッキーだね。この辺あんまり空いてるの見たことがない。」
「予言書さまの思し召しかもよぉ~。」
叔父さん完璧に面白がってるね。
「もうっ、からかわないでよっ。」
「悪い悪い。先にメシ食おう。腹減った。」
「やった。私、ラーメンがいいっ。」
「フードコートのやつだぞ。後で高額な買い物があるからな。」
「うん、わかってる。」
ラーメンを食べながらどのような準備をするか話をする。私が南ちゃんや佳菜ちゃんの意見を言うと、叔父さんも賛成した。
「そうだな。王宮に召喚されるんだったら、服なんかは用意されてるだろうから旅行準備をしてこいというのも変だな。事前準備がいるような召喚ってあんまり聞いたことないぞ。まぁ、サバイバルの用意をしとけばいざという時に使えるだろ。今度の冒険で使わなかったら晴信たちとキャンプに行ってもいいしな。」
「じゃあ、佳菜ちゃんも誘っていい?」
「いいぞ。」
「やったね。喜ぶよー、佳菜ちゃん。」
直ぐにキャンプ用品を買いに行くのかと思ったら、叔父さんは本屋へ行こうと言った。そこでサバイバル用のハンドブックと簡単なアウトドアの料理本を買う。
そうか知識は力だよね。
アウトドアの専門店にはありとあらゆるものがあった。ここには晴信のスポーツ用品をよく買いに来るが、奥の方にあるキャンプ用品はあまりじっくり見たことがない。
「わー、お湯か水を入れるだけでおにぎりになるって書いてあるよっ。」
私が見ていた旅行用レトルト食品のコーナーを叔父さんも覗いて、これはいいなと大量にカートに入れる。
登山用の大型リュックサック、寝袋、水の浄化器具、小さめのテント、サバイバルナイフ、ガスバーナー、コップ、皿、鍋、カッパ、照明器具等々。目についたもので軽い登山用のものを選んで買っていく。
レジで精算するのを見たら結構な金額になっていたのでビクついたが、叔父さんはカードで払っていた。
大量の荷物を一旦車に積んで、食品街の方へ車を走らせる。
「叔父さん、お金大丈夫?」
「ボーナス出たからな。まだ大丈夫だ。」
良かった。・・・しかしいくら使命だからって、個人負担が大きすぎるよね。
食品街側のエレベーター乗り場の近くに車を停めて、また下に降りる。階段を降りている途中で叔父さんが言った。
「米を一か月分持っていくのは重たすぎるから、小麦粉を二袋ぐらい持って行こうと思うんだがいいか?」
「それなら一袋は強力粉にして、イースト菌を買ってくれる?パンを作ってみるよ。」
「え?!未希はパンを作れるのか?」
「お母さんと作ってるけど、アウトドアではやったことない。でも本格的じゃなくても食べられたらいいんでしょ。何とかなるよ。」
「ひぇ~、お前意外と女子力高かったんだな。」
「意外は余計ですっ。」
スープや調味料、サラミ、ナッツ、乾燥野菜、乾燥果物、缶詰、ティーパック、スティックコーヒー、チョコレート、ガム、飴、水、お茶、等々。これも長期保存が出来て携帯できるものを選んだ。
生ものなどは現地で調達するしかないが、南ちゃんの言う宇宙だったらそういうわけにもいかないよね。でも一か月後に帰れると予言書が言うのだから飢え死にすることはないと思いたい。
買い物の後、モールから車で10分ほどの叔父さんのアパートに寄ることになった。叔父さんは冒険仕様の服を持って来ていなかったのと、買ったものをリュックサックに詰めて準備をしておいた方がいいだろうということになったのだ。
締め切ったマンションの部屋は蒸し暑かった。
「わー、暑いね。」
「まぁ待て、クーラーをつけてやるから。・・そっか。1か月留守にするんなら電気なんかを止めとくべきか。」
ここには、荷物を置いておく約束で学生時代の後輩に住んでもらっていたそうだ。叔父さんはこの家を買ってから留守にしてる期間の方が多いんじゃないかしら。
荷物を詰めてビールやお米の買い置きも持って車に乗る頃には、私も叔父さんも疲れていた。
「やれやれ、冒険に出るのも大変だな。」
「本当。なんで私と叔父さんが選ばれたんだろう。こっちの都合も聞かないで予言書も勝手だよね。」
「そうだな。でも、社会に出て仕事をしてるとこういうことはよくあるからな。人生とは理不尽なものさ。」
「えー、そうなのぉ?大人になったら何でも自由に出来ていいなぁと思ってたのに。」
「自由?!おいおい、子どもの方が自由だろ。」
私と叔父さんはなんだかんだと話をしながら家に帰って来た。疲れと共にじわじわと染み出してくるような不安を振り払うようにどうでもいい話をしていたかったのかもしれない。
その夜、私も買ってもらったリュックサックに服などを詰め込みながら、明日のことばかり考えていた。
「・・・まさか、宇宙船が迎えに来たりしないよね。」
宇宙船・・・一度乗ってみたいな。