お祭り
短い回です。
朝、留萌町を発って更に東へ向かう。昨日は汗ばむほどの暑さだったが、今日はカラッとした秋晴れだ。吹いてくる風も涼しくて、影にいると少し肌寒い。
「昨日食べた焼きナスは美味しかったね。箸を入れるとジュワッと汁が出て来て、食べてると幸せを感じたよ。」
「俺はナスの田楽だな。甘味噌が香ばしくて旨かった。」
「私は今朝のナスとジャガイモの味噌汁ですね。歳を取ると汁物が嬉しくなります。」
「へー、キリ君は田楽で、カズマは味噌汁なのね。サラは?何が美味しかった?」
「未希さま、申し訳ありません。私はナスがちょっと苦手で・・。でもインゲンの胡麻汚しが美味しかったです。やわらかくて、豆の味を胡麻が引き立てていましたね。」
あら、サラはナスが苦手なのね。美味しいのにもったいないなぁ。
お昼前になってスズメたちの声がいやに聞こえるなと思ったら、稲刈りが終わったばかりの田んぼが広がっていた。刈りたての藁のお日様のような匂いが空気の中に漂っている。
田んぼの中を進んで行くと、遠くの集落から太鼓の音が響いてきた。
トントントン ドドォーンドンッ
ピーヒャラという笛の音と男たちの「ヤーホラナーヤットッコセ。ヤーァソォーエーーエヨー。」という掛け声がした時には、お祭りの千代楽がこちらに向かって来ているのが見えた。後ろには子ども達のお神輿も続いている。「ワッショイワッショイ!」という賑やかな掛け声が可愛らしい。
「カズマ、花を打て。」
「はいはい。用意していますよ。」
キリ君の提案で馬車を道端に寄せて止め、皆で祭り見物をすることになった。私たちがいる街道沿いの前方の道を入ったところに村の神社があるようだ。
道を横切って神社の方へ向かおうとした先手さんにカズマがご祝儀を手渡すのが見えた。先手さんは葉がついたままの長い竹を持っていて、「花」と言われる祝儀袋を竹の枝に突き刺してぶら下げている。
その人が「おおーーーいっ。花がでたぞぉーーーーっ。」と叫ぶと、後からやってきていた千代楽の男衆が「「「おおおおおおっ!!!」」」と盛大に声を上げた。
代表の人が「桐人殿下と天子さまご一行だっ。みんな力を合せて励めよっ。せぇーのっ!」と言った途端に、「「「ワッショイ!ワッショイ!ワッショイ!」」」と大きな掛け声もろともに重そうな千代楽が何度も宙に舞った。
私たちが拍手をすると「「「ありがとうございましたー!」」」と口々に叫びながら千代楽と子ども神輿が神社に入って行った。
「ふぅ~、いいものが見えたね。」
「ああ。まさか祭りに行き当たるとはな。カズマは知っていたのか?」
「ええ。今の時期は収穫祭をしているところが多いですから、もしもの時にと思ってジュネを発つ前に用意しておきました。」
さすがカズマ、従者の鏡だね。
お昼ご飯に寄った村では、お刺身と祭り寿司がでてきた。鯛のお吸い物や野菜の煮しめなど本当にお祭りのお膳だ。おばあちゃんちのお祭りを思い出す。家の前にも提灯や旗を出してたな。神社にお参りしたら青いミカンをもらったっけ。
家のことを思い出してしんみりしていたら、キリ君が「どうした?」という顔をした。「大丈夫」と私も顔を振る。
馬車の運転手以外は振る舞い酒をいただいて、供の人たちもご機嫌な中、私は一人故郷を思い出していた。
お祭りは楽しくてちょっと寂しいですね。