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未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第四章 天子集会
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天子集会

今回は長いです。

 天樹国がもてなす順番になっていた翌日の朝、外を見ると雨がシトシト降っていた。

「雨が降ってるっ! 釣りに行けないじゃん!」

天樹国のおもてなしは、釣りと着物を着てのお茶会ということになっていた。これは予定変更を余儀なくされたようだ。私は慌てて服を着替えて、隣の応接室に飛んで行った。


「カツラさんっ。雨が降ってるっ。」

「そうなのよ。お天気がもう一日はもつと思ってたんですけどね。さっき勝俊やアサギリが来たので相談してみたら、カズマが『宴会』はどうかと言っているらしいのよ。彼は10年前の条約終結の時にもこういうことを経験しているでしょ。任せてもいいかと思ってホテル側への交渉を頼みました。それで未希にお願いしたいのはピアノなの。ソンブンと相談して一曲演奏してくれないかしら?」

「ソンブン?! あの人はプロですよっ。そんな人と一緒に弾けるわけないじゃないっ。」

「・・未希、演奏会じゃなくて宴会なの。お座敷芸でいいのよ。」

・・・お座敷芸。こっちにもそんなものがあるんだ。


結局、他の国の人たちもそれぞれの得意な芸を披露するというのに乗り気になって、午前中はそれの打ち合わせということになり、昼食を兼ねて宴会が始まることになった。


いつも食事をしている部屋へ簡易の舞台が作られている。午前中に急いで用意したにしてはなかなか本格的な舞台が出来上がっていた。宴会ということで、イスとテーブルの部屋が畳敷きの寛げる部屋に様変わりしていた。珍しい畳敷きの部屋に外国の人たちは興味津々だ。


私とソンブンがトップバッターだ。

楽譜なしでバイオリンと一緒に弾けるのは小さい頃に発表会用に練習したバッハのメヌエット、ト長調ぐらいだった。

短調な曲だが、ソンブンのバイオリンと交互に話をしているように演奏すると、聞きごたえがあったらしい。みんな喜んでくれた。

合奏の後は、ソンブンがバイオリン協奏曲を、私は皆さんで踊ってくださいとワルツを弾いた。


大勢で踊って身体がほぐれたのか、その後料理が出されてからは、三ヵ国の人たちが入り乱れて和気あいあいで宴会が進んで行った。

タチアナさんが白鳥の湖を題材にしした創作バレエを披露してくれた時には、皆で口を開けて見入ってしまった。

この人、本当に62歳なんだろうか? まだまだ現役じゃない?

自分が踊ったわけでもないのに、いやに誇らしげなオマーンさんの自慢に、皆はゆるい目になっていたが、プロの踊りをすぐ目の前で見ることが出来て感動した。


ローレルさんとエリックのニューヨーク風ストリートダンス、チャールズさんとリリアンさんのリグランド国歌斉唱、オマーンさんの海賊の歌、ミミのアジアンテイストのチャマランの踊り等々、皆さん芸達者だ。

カツラさんの日本?舞踊にも驚いたが、キリ君の剣舞には参った。

シュッシュッと刀が風を切る音だけが響くシーンとした宴会場。どこか幽玄の時を感じさせる剣舞だった。


私と叔父さんは身内ネタの漫才をして、会場の爆笑をさらった。

『天使? 羽なんかないよ?!』

という私の経験談ネタには、他の2ヵ国の人たちにも思い当たるところがあったらしく、お互いの顔を見合わせてクスクスと忍び笑いをしていた。


 

 そんな楽しい宴会の翌日には、いよいよ10月5日の天子集会だ。

私たちは天子だけで集まって、会議をすることになった。王族会議や外務省関連の外交会議は別の部屋でおこなわれている。


エメンタル共和国諸州からは、タチアナ・ニコフ(62歳)もとバレリーナ。キム・ソンブン(12歳)バイオリニスト。

リグランド国からは、ローレル・ショー(42歳)もと教師。エリック・ショー(15歳)2学年飛び級してハイスクール二年生を終了。

天樹国からは、遠山征四郎(25歳)商社勤務。成瀬未希(12歳)小学校6年生

それぞれ自己紹介をしたのだが、なんか私だけショボいんですけど・・。


『まずは、天子の使命から話し合ってはどうかしら?』

学校の先生をしていたローレルさんが自然と司会をすることになって、みんなに話題を振っていった。

「僕は、天樹国の予言書を管理している者から、天子は国の創世者であり、この世界の移り変わりを確かめるためにこの度の転移があったと聞いています。皆さんの国ではどうだったのでしょうか。」

叔父さんが、ずっと私たちが疑問に思っていたことを聞いてくれた。


『私たちエメンタルでは、予言書がもっと具体的だったのです。私とソンブンは芸術・文化畑の人間です。【この国の芸術と文化振興を成すべし。オマーン・ポッサムとミミ・チャクランと婚姻すべし】と書かれていました。』

タチアナさんの言葉に、後の四人は愕然とした。


『それは具体的というか命令みたいな予言ですね。抵抗はなかったんですか?』

アメリカ人のローレルさんにとっては信じられない予言のようだ。

『私たちは共産主義の国で育ってきましたからね。あんまり抵抗はないんです。でも嫌な人だったら婚姻は断ろうと思ってました。・・ふふっ、でもオマーンはチャーミングな人でしょ。一目会ったその日から恋の花が咲いてしまったのよ。』

あのごつい海賊の大男が、チャーミング。タチアナさんって、大物だね。


「リグランドではどうだったんですか?」

叔父さんがローレルさんに尋ねると『僕が答えます。』とエリックが立ち上がった。

『天子が国の創世者と言われているのは天樹国と同じですね。そのために小国に別れて群雄割拠していた国々が結局三つの予言書を掲げて三分割されてまとまったと聞きました。』

「615年前の動乱ね。」


『そうだよ、未希。それで各国の王族の天子の血を保つために、976年に一度の惑星直列の時に天子が降臨するのだと総主教が言うんです。僕も母さんも悩みましたよ。リグランドの王族の中で血が一番濃い者で僕たちと年回りが合うのがアインコート公爵家のあの二人だったんです。母さんは父さんが死んでから再婚するつもりがなかった。僕もリリアンがあまりに大人しいので話が合うとは思えなかった。でも、この度の旅行で段々と状況が変わってきています。母さんは、チャールズとの再婚を決めたんだろ?』

エリックの母を見る眼差しが温かい。しばらくエリックを見つめていたローレルさんもとうとう頷いた。


「それは・・おめでとうございます。ということは、みなさんはこの世界に留まるおつもりなんですね。」

『征四郎はどうなの?カツラと仲が良さそうだけど・・・。』

ローレルさんが、私が怖くて聞けなかったことを叔父さんにズバリと尋ねた。顔がうつむいてしまう。足がぶるぶると震えてくる。

「・・・僕は未希と一緒に、来年の夏、日本に帰るつもりです。予言書にも二人で帰ることが記されていましたし。」

『そうなの。それは残念ね。皆と仲良くなったから末永いお付き合いが出来ると思ってたわ。ミミも未希に懐いてたし。』

タチアナさんも残念がってくれた。

その気持ちは嬉しいが、ここに残ることについては複雑な気持ちだ。叔父さん、本当にいいの?

チラリと叔父さんの顔を伺ってしまう。叔父さんは心配するなと私の膝を叩いた。


『それぞれに事情があるのだもの。私は征四郎の判断を尊重しますよ。さて、それでは次の議題に移りたいと思います。私は現代人の私たちがこの世界に召喚された意味を自分に問い続けてきました。科学技術の進歩を知っている私たちが何故この世界に来たのか・・・。』

「ローレルさん、まさか私たちの世界の科学技術をこの世界に持ち込むということですか?!」

叔父さんがびっくりして声を上げた。

『僕は反対だな。この世界はこのままでいいと思う。』

今まで黙っていたソンブンがボソッと言った。


『懸念はあります。ただクリーンなエネルギーならどうでしょう。電気が使えると便利だと思いませんか?電話は、自動車は、医療は・・・。』

「僕は石鹸の実用化を目指しています。今年の冬には輸出できるようになると思ってます。これは外交会議で議題にのぼっていると思いますが。」

『まぁ、征四郎はもう動いていたのですね。環境を汚染しないもので便利なものを研究者に伝えていくことは出来ると思うのです。エリック、私たちの試みを話してみて。』


『わかった。母さんは教育事業を国王に進言している。僕はパソコンが得意だから電子機器が作れないかと思ってるんだ。征四郎は電気の仕組みってわかる?』

「ぼくは経済学専攻だからね。一般的な事しか知らないよ。」

『そっか、困ったな。他の国の天子に電気が強い人がいたらなぁと思ってたんだけど・・。』

エリックは残念そうだ。電気を作ることからパソコンまでたどり着くのは相当な時間がかかるよね。


『私たちの国ではこの天子集会の後、文化振興財団を設立することが決まってます。でも征四郎の石鹸はいいわね。こちらの世界の洗剤って砂が入ってるんだもの。出来たら輸入してもらいたいわ。ローレルの言う教育はそれぞれの国の事情に合わせて体制化したほうがいいわね。ある程度のシステムはあるみたいだし。』

タチアナさんの言葉に、私とソンブンは首をすくめる。

学校はないほうがいいけど・・・でも必要なのかな。


とにかくそれぞれの国での取り組みを、これからも連絡を密にして報告し合い、大きな事業をする時には協力体制を取って行くことが決まった。

外交会議でも、石鹸の輸出や鉄道の整備が大きな話題になったようだ。


こうして三ヵ国の集会が終わったわけだけれど、これからも天子としての絆は続いていく。

それは、私の予想を超えたお付き合いの、ほんの始まりだった。


お疲れさまでした。

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