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未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第四章 天子集会
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ゲートボール?

翌日のことです。

 今日はリグランド国の人たちがホスト役になってくれて、皆ですることを決めてくれた。朝はスポーツをして、午後からはジュネの町へ観光を兼ねた買いものに行く予定らしい。


「スポーツは苦手なんだけどな・・。」

私が昨日の夜から、今日の予定を聞いて乗り気じゃないのを知ってるので、キリ君もニヤニヤ笑っている。

「男女で出来るスポーツだって言ってたから、そう難しいものじゃないよ。」

今日は、国別にリグランド地区の競技場へ現地集合ということになっていたので、私とキリ君は一緒の馬車で移動している。競技の後はピクニックのように外で食事をするらしい。さっきからサラが膝に抱えているお弁当のいい匂いが馬車中に漂っている。

「なんかお腹が空くね。ピクニックだけでもいいな。」

「さっき朝ご飯を食べたばかりじゃないか。少しは身体を動かさないと牛になるぞ。」

「牛? ブタじゃないんだ。」

「牛はブタより大きい。」

「・・・真剣に冗談を言われても、わかんないよ。」

私たちが不毛な会話をしているので、サラとカズマがさっきから笑いをこらえている。

こうやって話してるとキリ君が5歳も年上とは思えない。男の人って中身があんまり成長しないのかもね。


競技場に着いたと言われたが、そこはゴルフ場のような芝生の広場だった。

「ミキ、キリヒトさん、こっち! スティクと玉、選ぶ。プリーズ。」

皆が集まっているところからリリアンさんが呼んでくれている。キリ君と一緒にリリアンさんの所へ行くと、木箱の中にゲートボールの木づちみたいなスティックと、いろんな色に色分けされたソフトボールぐらいの大きさの玉が入っていた。


チャールズさんが説明をしてくれたのだが、この「ポンカ」というスポーツは、スティックで木の球を「ポン」と打って、他人の球に「カッ」と当てて邪魔をしたりしながら、全員が決められたゲートをくぐって、最終的にゴルフのように穴の中にボールを落として上がりだそうだ。

・・・なるほど、これなら私にもできるかも。


できるかもどころではなかった。これがやってみたらものすごく面白い。

そして見ているとゲームの進め方に性格が出る。大人しいと思っていたリリアンさんが攻撃的で、自分が上がれないと知ると、他人の球を遠くへ飛ばしてニヤリと笑ったりするのだ。悔しいったらありゃしない。

エリックは如才ないのかと思えば、コツコツと努力して上がるタイプだし、ただのおばさんだと思っていたローレルさんが強敵だった。ゲームでは遠慮も恋もなくなるらしく、チャールズ・アインコート卿はローレルさんにケチョンケチョンにやられていた。


そしてエメンタルの皆さんはというと、海賊のオマーンさんが一番面白い。破壊力のある素振りで皆をどよめかせた後にスコーンと空振りしたリ、飛ばし過ぎて球を池に落としたりと、観客のお腹の崩壊を狙っているとしか思えない。笑いすぎてお腹が痛くなってしまった。

ミミは口ほどではなく気が小さいプレーをするし、ソンブンは予想通りに真面目に一本気にゲートを狙っていく。そんなソンブンは、身体の柔らかいタチアナさんのいいカモだった。片足を上げた体勢でゲートそばのソンブンの球に自分の球をあてて邪魔をした時には、みんなスティックを置いて拍手した。

60歳過ぎているとはいえ、さすがプロのバレリーナ。あんな体勢では誰も打てないよ。


「次は僕か・・。」

「征四郎さん、頑張ってっ!」

「天樹国の威信をかけて負けないでくださいねっ。」

私たちの中では叔父さんが最後までローレルさんに肉薄している。私はゲームを開始してすぐに、リリアンさんに球を飛ばされて、追いかける立場になってしまっているし、キリ君はいい所でチャールズさんの邪魔を受けた。チャールズさんは自分がトップに立てないのならローレルさんを応援することにしたらしい。

もうっ、アインコート公爵家の親子は憎たらしいんだから。


「帝と殿下のご命令とあらば。」

周りのみんながやいやいと口を出す。ゴルフ場でのマナーなんてこの世界には、ないらしい。

「叔父さんっ、集中!」

叔父さんはわかってると私に頷いて、スティックを振り下ろした。カーンといい音がして転がって行った球は、ローレルさんの球を追い越して、ゴールの穴の中へ吸い込まれていった。

「「「うおーーーーーーっ!!」」」

みんなの歓声が遠くの山まで響き渡る。


こうして個人戦では叔父さんが優勝した。国別対抗では、やはり一日の長があったのかリグランド国が勝った。一番負けを悔しがったのはオマーンさんだ。チャールズさんにこの「ポンカ」の道具を買いたいと相談していたので、練習してリベンジするつもりらしい。

この競技はちょっとハマる。一時期日本でもゲートボールブームが起きたけど、ゲーム性が高くて面白いし、運動音痴でも楽しめるというところがいいんだろうね。


競技場から500メートルほど歩いたところに従者の人たちが食事の準備をしてくれていたので、穂が出そろったススキ野の中を皆で歩いて行った。

「運動をした後に風に吹かれてると気持ちがいいね。」

「未希、待望のお弁当だな。」

今はキリ君のからかいも気にならない。程よく疲れているし、お腹もぺこぺこだ。


「未希さんたちもこっちで一緒に座ろっ。」

ミミが2つに分かれた敷物の片方へ私の手をひいて連れて行く。どうも十代チームとアダルトチームに分かれて座っていっているようだ。

「あー、疲れた。だいぶ歩き廻ったね。」

「未希は、ミス・リリアンに走らされてたからね。」

「そうよっ。リリアンさんは、なかなかいい性格をしてるんだから。」

私が文句を言うと、リリアンさんはお弁当のフタを開けながら肩をすくめた。

「ソーリー。バット、勝負、しょーがないね。」

くー、余裕だね。


『リリアンがこんなに活動的だとは知らなかったな。・・本当は母さんがこっちの世界にいるって決めてしまった時には不安だったんだ。でも・・・僕もこの世界にずっといようかと思ってる。君との・・そのう、君とのことも前向きに考えて行くつもりだよ。』

エリックがリリアンさんと話している内容をミミが翻訳してくれた。この大使の娘はトリリンガルのようだ。すごいね。

ローレルさんは母一人子一人の未亡人で、この夏休み前に教師の職をリストラされたそうだ。教会の牧師さんに相談に行って、二人で部屋のドアを開けて入ってみたら異世界だったんだって。

私たちの場合とはだいぶ違うね。

ちなみにソンブンとタチアナさんは、遺跡の地下に降りて行ったらこの世界の王宮の地下と繋がっていたらしい。


「それで、ソンブンは来年の夏に元の世界へ帰るんでしょ。」

私がそう言うと、隣でミミがピクッとした。

「・・・このままこっちにいると思う。おばあちゃんはオマーンさんと結婚するからこっちに骨を埋めるつもりだって言ってる。僕の両親は共働きでね、ほとんど家にいないんだ。僕は赤ちゃんの頃からおばあちゃんの家にずっと預けられてたし、今では演奏会を企画しているマネージャーと話をすることがほとんどだ。両親とは滅多と顔を合わせない。マネージャーを通してお金のやり取りを連絡してくるしね。あっちの世界にいるより、ここのほうが自由を感じる。」


・・・・ということは、元の世界へ帰りたいって言ってるのは私と叔父さんだけ?

ううん、叔父さんの意見は変わってるかもしれない。・・・嫌だっ、叔父さんと一緒に帰りたいっ。

黙ってしまった私の背中を、キリ君が何にも言わずにポンポンと叩いてくれている。

そのリズムが、キリ君の手の温もりが、なんだか悲しかった。


んーー、四面楚歌?

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