表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第四章 天子集会
52/66

散歩

ジュネに着いた翌朝のことです。

 物売りの声や馬車の走る音、馬の(いなな)きなどの町の喧騒(けんそう)が聞こえて来て目が覚めた。

装飾をほどこされたベッドの天蓋(てんがい)をぼんやりと眺めて、ああそういえばジュネにいるんだなと思った。


『未希さんはいつ結婚されるんですか?』

可愛らしいミミの声がよみがえってくる。

「天子の血」を保つために天子の子孫は王族の側に召喚されるのだろうか?

昨夜さんざん考えたことがまた頭の中に居座ろうとする。だめだ、考えすぎないようにしなくちゃ。

あれはエメンタル共和国諸州の事情だよ。天樹国の予言書には相手の名前も何も書かれていなかった。書いてあったらあの聖心殿のことだ、ハッキリ告げていただろう。


叔父さんと私は、来年の夏一緒に帰れるんだ。

そうしっかりと思っていよう。思いが強いと願いが叶うって言うもんね。


一人でいると余計なことばかり考えそうだったので、さっさと起きて隣の応接室に行くことにした。

朝の支度をすませてドアを開けると、なぜかキリ君がソファに座ってお茶を飲んでいた。

「あれ? カツラさんは?」

「おはよう。姉さまは征四郎と一緒にだいぶ前に散歩に行ったよ。このホテルの裏に植物園があるんだ。朝食の前に散歩に行かないか?」

「植物園? ふぅん、いいよ。行こうかな。」


私とキリ君はホテルの建物から出て、爽やかな朝の空気の中に踏み出した。ロビーをまっすぐに裏に歩いて行くとそのまま植物園の中へ入れるようになっていた。これは便利がいい。入り口でホテルの部屋の鍵を見せるとフリーパスで中に入れるようだ。

キリ君が鍵を見せると、受付の女の子がキラキラした目でキリ君を見ながらゲートを開けてくれた。キリ君も無駄に笑顔を振りまきながら愛想よくそこを通っていく。・・・私がいることを忘れているんじゃないですかい? そう思ったら、キリ君も私のことを思い出したようで手招きをする。

「未希、早くお出で!」

・・・犬じゃないんだけど・・・。


「そう言えば護衛は頼まなくていいの?」

「一応ハヤテたちには言っておいたから、どこかにいると思うよ。」

「ふーん、それならいいけど。」

気安い沈黙の中、うっそうと茂る緑のトンネルをぶらぶらと歩いて行く。たまに熱帯植物の蘭のような大きな白い花が咲いている。空気にはエキゾチックな香りが漂っていた。

「ここには珍しい花がたくさんあるね。」

「一部が温室になっていて、エメンタルの植物も植えられているみたいだよ。もう少し行くとリグランド国のコーナーで、最後が我が天樹国だ。」

「へぇ~、ここにも三ヵ国の植物が揃ってるのか。徹底してるね。」


広々とした草地にヒースの黄色い花が咲いている所に出た。そこにベンチがあったので、少し休憩していくことにする。

「昨日の夜、ミミさんと何の話をしてたんだ? なんか未希が驚いてるように見えたけど。」

・・それを聞きますか。

「ミミがね、いつ結婚するんですかって聞いてきたの。おじいさんのオマーンさんとタチアナさんはもうすぐ再婚されるんだって。ミミもソンブンと早く結婚したいらしい。」

キリ君は驚いたようだが、納得したような顔もしていた。

「そうか・・・それで未希はまた『天子の使命』について疑問が湧いたんだな。」

「ピーンポーン。」

「なんだ?その言葉。」

「言葉じゃなくて音。正解の音だよ。」

「へー、間違えたらどんな音がするんだ?」

「ブッブーーーッ、って言う音。」

「面白いな。」

「・・・キリ君はどう思う?」

「ん? 結婚のことか? ・・俺は前にも言ったけど未希と結婚したい。でも未希が自分の世界へ帰りたいっていう気持ちも理解している。俺も今、天樹国を捨てろと言われたら躊躇(ちゅうちょ)する。俺たちの場合どっちにも決められない。宙ぶらりんだ。そんな気持ちを予言書も知っているのかもしれないな。」

「予言書がぁ?!」

「ピーンポーン」

「・・・もうっ。そう言う意味で言ったんじゃないってわかってるくせに。」

「ハハッ、どうにもならないことを考えたって仕方がないだろ。未希が言ってた『ケセラセラ』だよ。」

「そっか、なるようにしかならないよね。」

「そうそう。そろそろ行くか。腹が減って来た。」

キリ君が立ちあがって手を差し伸べて来たので、手を繋いで引っ張り起こしてもらった。


でもキリ君はいつものように手を放さずに、ずっと私と手を繋いだまま歩き出した。

ゴツゴツしたキリ君の手。前にお父さんの手みたいだって思ったけど、今日はそんな風に思わなかった。

頼もしくて・・そしてちょっぴりドキドキする。

キリ君の横顔を見上げるといつも青白い頬が薄っすらとピンクに染まっていた。


 朝食室に行くと、壁際にずらっと料理が並んでいた。バイキング形式で自分が好きなだけお皿に取って食べるようだ。私は散歩してお腹が空いていたので、お皿にたっぷりとおかずをよそった。ふわふわのスクランブルエッグ、パリパリに焼きあがっているベーコン。コーンスープにサラダ、そしてふかふかと湯気を立てているような焼きたてのパンだ。キリ君はご飯と納豆に味噌汁、のりに温泉卵と和風のものをトレーに取っていたが、ソーセージやベーコンは山盛りにお皿に入れている。

「キリ君、野菜もとらなきゃダメだよ。」

「うーん、じゃあこれ。」

しぶしぶキリ君がとったのはキュウリの酢のものだった。私はそれにキリ君の好きな白菜の漬物も加えた。


私たちがテーブルについて朝食を食べていると、外務省の小西裕典さんとエメンタルのスーリ・チャクラン大使がやって来た。

「おはようございます。こちらの席で食べてよろしいですか?」

「おはようございます。どうぞ、空いてますよ。」

私たちの隣の席に座った二人は、午後のリグランド国の到着に合わせて、外務省関係の打ち合わせをいつにするか相談している。

リグランド国の人たちは、今日の午後にはやって来るのね。


どんな人たちなんだろう。仲良くなれるといいんだけど・・。

いよいよ天子集会の人たちが全員揃いますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ