監視
あれからもう一度洞窟へ・・。
あれから洞窟へランドセルを取りに戻ったのだが、予言書は私達に何もしようとはしなかった。
「これは乱暴に取り扱わなかったら何もしないよ。」と翔吾くんは言うのだが、みんな洞窟の入り口からこわごわと中を覗くだけで、ランドセルを取りに行けない。そんな皆の様子に焦れて「じゃあそれを証明するよ。」と言って、予言書をさっさと棚に片付けてくれた翔吾くんの勇気には驚いた。
しかし、その後で言った翔吾くんの提案には困った。
「予言書がここにあるという意味を考えたら、この左側のページに次に何が書かれるのか注意して見ておくべきだと思う。」
「ええーーーっ。もう放っておこうよ。」
「そうだよ。なんか怖い。」
私と佳菜ちゃんの意見は多数決により却下された。
「私は翔吾くんの意見に賛成。こんな重要なものを宇宙人であれ異世界人であれ捨てたとは考えにくいもの。未希は嫌だろうけど、未希にしか読めないってことは何かが起こることを私達に知らせたいのかも・・・。」
「地球の消滅とか?!」
「バカねっ。そこまで行くと私達に何とかできるわけないじゃないっ。孝二ったら、ほんとバカ。」
「うっせぇ!」
「まあまあ、でも南さんの言う通りなのかもしれないよ。何かを伝えたくて予言書を置いたというのは有力な考え方に思える。」
「そうかな、そんなまどろっこしいことをしないで直接話に来ればいいじゃん。」
「確かにね。孝二の言う事にも一理ある。まだその理由がわからないんだから、どういうことなのか監視したほうがいいと思うんだ。」
・・・翔吾くん。
結局、私を含む二人以上で毎日この予言書をチェックしに来ることになった。
最初は怖かったこともあって五人で確認をしに来ていたが、何も書かれていない日が何日も続くと次第に皆飽きて来て私と誰か一人ということが多くなった。
一学期の終業式の日は学校が午前中で終わったので、南ちゃんと佳菜ちゃんと一緒に三人で秘密基地に寄った。
「夏休み、どうする?」
「うちは今夜、征四郎叔父さんが泊まりに来るの。どっかに遊びに行くとは思うけど、まだ日にちや場所とかは決まってない。」
「へー、未希ちゃんの叔父さんってあのアメリカに行ってたカッコいい人でしょ。休みの日に親戚の家に泊まりに来るの?!彼女とかいないの?」
「それが二年も日本を留守にしてたから友達と疎遠になってるんだって。」
「へぇ~。私は七月中のプール開放が終わったらお母さんの実家の熊本に行く予定。」
「いいなぁー、南ちゃん。九州かー。」
「そう言う佳菜ちゃんは?」
「私?うちは本家だから親戚が大勢泊まりに来るのよ。親戚の予定次第なんだぁ。叔父さんたち早目に予定を言ってくれないから遊びに行く日が決められないのよねー。だからどうせ行っても近場よ。ホテルの予約なんて取れないもん。」
「そうなんだ。征四郎叔父さんに聞いてみないとわからないけど、もしいいって言ったら私達と一緒に遊びに行く?」
「えっ、本当?!行く行くっ。」
「なんだか、そっちの方が面白そうじゃん。」
「へっへー、南ちゃんも九州に行かないで一緒に遊ぶ?」
テンションが高くなった佳菜ちゃんと笑いながら「お腹が空いたね。そろそろ帰ろうか。」と椅子から立ち上がって、手提げ袋を持って気がついた。
「忘れてた。予言書。」
棚から出して、いつものようにページを一枚めくる。
・・・・・・・・。
私が固まっているのを見て、南ちゃんと佳菜ちゃんが近寄ってきた。
「どしたの?」
「何か書いてあったの?」
私は予言書から手を放して言った。
「・・・書いてある。いい?読むよ。
『七月二十二日 未希と征四郎は旅行の荷物を持って二人だけで秘密基地に来る。やらなければならない使命があるのだ。この事は出かけるまで誰にも言ってはならない。南ちゃんと佳菜ちゃんは、昼食後二人で未希のお母さんに説明に行く。心配はいらない。八月二十二日に帰って来るのだから。その日の夜は二人分のご馳走を用意するように。』
だって。どういうつもりなんだろう、勝手に夏休みの予定を立ててくれちゃって。」
「えーっ、一か月まるまるいないのぉ。どこかに遊びに行くって言ったじゃない。」
「佳菜ちゃん、そこ?!」
「だって、使命なんでしょ。」
「そうだね。やっぱり何かあると思ってたよ。未希ちゃんと征四郎叔父さんが地球を救うのかも・・。」
「南ちゃん、地球を救うっていうのは孝二が言ってたやつだよ。」
三人で家に帰りながらこれからの事を相談する。
「無事に帰ってこられることがわかってる冒険だもん。いいじゃない。」
南ちゃんは肝が据わってるから平気なんだろうけど。
「他人事だと思って・・・。」
「でも、ちょっと羨ましいかも。私なんてまた今年も従妹たちのお守りだよ。来年は中学生だから勉強や部活で忙しくなるでしょ。のびのび遊べる小学生最後の夏休みを頼りになる叔父さんと一緒に冒険に行けるなんて、いいなぁ。」
佳菜ちゃんは予言書を怖がっていたのに、使命というはっきりした目的がわかってから怖くなくなったようだ。
「はぁー、とにかく旅行の準備をするしかないのか。」
「そうだよ。冒険だからいろいろ細かく用意しといたほうがいいよ。針と糸とか石鹸とか。インスタント食品もいるかも。飲み水もね。佳菜ちゃん、他に何かあるかな。」
「キャンプに行く感じで用意したら?一か月のサバイバル用品が必要だね。どんな気候の場所かわからないでしょ。服も何種類も必要かも。」
「でもそんなにたくさん宇宙船に乗るかなぁ。飛行機って重量制限があるよ。」
「南ちゃん・・・宇宙人に攫われる予定はやめてっ。」
もう、二人とも何を想像してるんだか。でもこれは叔父さんにも相談しないとな。何を準備していいのか決められないや。
「そうだ。未希ちゃん、お父さんとお母さんに手紙を書いときなよ。そうしたら心配しないでしょ。」
「でも、『この事は出かけるまで誰にも言ってはならない。』でしょ。」
「そうよっ。『出かけるまで』だから、私達が未希ちゃんの部屋へ手紙が置いてありますって言えばいいじゃない。」
「・・そうか。」
二人と別れて家に帰って来たら、征四郎叔父さんの車がやって来るのが見えた。
私は持っていた荷物を玄関に放り込んで、家の中に声をかけた。
「ただいまー。叔父さんが来るのが見えたから、ちょっと買い物に連れて行ってもらうー。」
「えっ、未希なの?ご飯は?」
「食べてくるー。」
そう言っておいて、道べりで叔父さんの車を待った。
「どうした?こんなとこで。いやに歓迎してくれるんだな。」
「ちょっとこのまま買い物に連れてってくれる?」
「・・いいけど。」
私は助手席に乗り込んで、シートベルトを締めた。
他の人がいないところで、叔父さんに説明しといたほうがいい。それに、買い物もしておかなくちゃ。
「あのね、叔父さん・・・。」
私は今まであったことを車の中で叔父さんに話し始めた。
驚きの話でしょうね。