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未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第四章 天子集会
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静養

戦闘の後・・。

 スピードを上げて走る馬車の揺れで目を覚ました。

「んっ。」

頭が柔らかないい匂いのするものにのっている。なんだ? この感触。

「未希、気が付いたのですか?」

あ、カツラさんだ。目を開けるとカツラさんが心配そうに私を覗き込んでいた。

カツラさんの膝枕?


途端に意識が覚醒する。

「叔父さんはっ?!」

「俺は生きてるぞー。」

口が回っていないような叔父さんの声がする。起き上がって前を見ると、叔父さんがキリ君の肩にもたれて座っているのが見えた。

「叔父さんーーーっ。」

「泣くな。俺は大丈夫だ。弾が肩を擦っただけだ。」

「強がりを言って・・。血が出ているのに気付いた途端にわーわー騒ぎ出したのは誰ですかっ。」

キリ君が呆れたように叔父さんに言うと、叔父さんもバツの悪そうな顔をした。


「よかっ・・た。生きてる。」

「大丈夫、心配ないよ。医者が麻薬を使ったから少し朦朧としているけど、征四郎は無事だ。」

キリ君が向かいの席から私に手を伸ばして、膝を叩いてくれた。

「おっ動くな、桐人。傷に響く。」

「嘘ばっかり。まだ麻薬が効いているハズだよ。」

「気分だよっ、気分。」

しょーがないなぁと言いながらキリ君が叔父さんを支え直す。

「俺もカツラさんの膝枕がいいなぁー。未希、落ち着いたら席を変わってくれっ。」

あまりにもいつもの叔父さんだったので、私も心配を忘れて笑ってしまった。


それから半刻ほど駆け続けただろうか、馬たちがスピードを緩めた時には日差しが真上に来ていた。

「もう少し行った所で昼の休憩をします。天子さま達は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だ。このまま予定通りに行ってくれ。」

外からかけてくれた近衛兵の声にキリ君が返事を返す。そう言えば他の人たちはどうしているのだろう。

「使徒たちは? 皆は一緒なの?」

「皆、無事について来ています。西峰の領地を抜ける間は早駆けしていましたが、速度を落としたので危険な地域からは出られたのでしょう。未希、私がこの道を選んだことで征四郎さんに怪我をさせることになって・・・本当にごめんなさいね。」

カツラさんの声が悲痛な叫びのように聞こえる。

わかるよ。私も使徒たちの事を思うと心配でたまらなかった。自分の判断を後悔した。・・でもね、やらなくちゃいけなかったんだ。

「気にしないでカツラさん。これはしなくちゃいけない事だったの。叔父さんもお姫様を助ける騎士になれて、これで一生自慢できる話が出来たよ。ねっ、叔父さん。」

「名誉の負傷だな。傷に姫のキスを頂ければ、遠山征四郎これ以上の誉れはありませんっ。」

「もぉー、図に乗らないのっ。」

真っ赤になったカツラさんと笑い声をあげたキリ君を私たちも笑顔で見つめる。上に立つ者の重圧は半端ないものがあるだろう。自分の判断次第でどんな展開になるのかわからないのだ。けれど、私たちも乗り掛かった舟だからね。これからもカツラさんに協力するよ。そんな思いを込めて二人のことを見ていた。


 その日の夜、辺野町(へのちょう)に着いた。いつもより長く馬車に乗っていると思っていたら、この町に傷によく効く温泉があるので、予定していた町を通り過ぎてここまでやって来たようだ。

叔父さんを始め何人かが少し深い傷を負っている。そのため、後から追いついて来る近衛隊を待つ間温泉でゆっくり傷を癒すことにしたらしい。


「大町の温泉とは匂いが違うね。」

部屋から町を眺めると、町のあちこちから白い湯気が出ているのがわかる。

「ああ。それよりもカツラさんと同じ部屋じゃなくて良かったのか?」

「うん。キリ君とも仲が良くなったみたいだけど、叔父さんは私の方が気を遣わないでしょ。弱った時ぐらい何にも考えずにゴロゴロしてたらいいよ。」

私がそんなことを言う前に叔父さんはもう畳の上へ寝転んでいた。

「あー、さすがに疲れたな。」

「そうだね、朝早くからの移動の上に戦闘もあったし、いつもより長く馬車にも乗ってたし。私もヘロヘロ。」

私も畳に寝転んで、あくびをする。手をグッと伸ばすと背中の筋がポキポキ音を立てた。

横になって叔父さんを見ると、もうクークーと寝息をたてている。

「お疲れ様。」

カツラさんも馬車に乗っていたからだろう。麻薬を使われていて朦朧としていたのに格好をつけてずっと起きていたのだ。


私もキリ君の顔を見ると、穂刈の町でのあの夜を思い出してしまう。狭い馬車の中でどこに目をやったらいいのか困ってしまった。負傷者を馬車に乗せたのでサラたちは馬に乗って移動して来たらしい。使徒たちは全員、馬に乗れるらしく、温泉に着いた時にもみんな元気にしていた。

ナギの傷が森を移動していた時に木の枝でひっかいただけだったので、安心した。ケヤキは刀傷があったが、浅かったので「このくらいはいつものことです。」とマユも言っていた。

刀傷がいつものことと言える時代なんだなぁ。

日本でも昔はこんなことがよく起こっていたんだろう。命が幾つあっても足りないね。


そんなことを考えているうちに私も叔父さんの隣で寝てしまっていたようだ。サラもアサギリも私たちを起こさなかったらしい。私が目を覚ました時、部屋の片隅に布巾をかけた夕食が置いてあった。

私が起きて一人でご飯を食べていたら、叔父さんが「いい匂いがする。」と言って目を覚ました。

「あー、頭が痛てぇ。」

「麻薬の副作用じゃない? うちのお母さんも帝王切開の時に目が覚めたら頭痛が酷かったんだって。半鐘の鐘の中で頭を叩かれてるみたいだったって言ってた。」

「うー、そんな感じだ。未希、なんか飲み物くれ。」

私がお茶を入れてあげると、叔父さんはゴクゴク音をたててお茶を飲み干してお代わりを要求した。

「痛み止めも飲んどくかな。」

「はい、これ。薬を飲む前に、お豆腐を一口食べて、胃に優しいから。」

私は叔父さんにスプーンでお豆腐を食べさせて、用意していた薬を水と一緒に渡した。

「少し多めに飲まなきゃ効かないぞ。」

「ダメよ。痛み止めには血液サラサラ成分が入ってるんだから傷が塞がらないでしょ。二粒だけっ。」

「お前、何でもよく知ってるな。」

「こんなの常識だよ。」


アサギリが「温泉に入って、傷の治療をしましょう。」と言って叔父さんを迎えに来ので、私もサラと一緒に女湯に入りに行った。

するとそこに、カツラさんがいたのだった。

温泉に行きたいな。

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