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未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第四章 天子集会
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旅は順調に続いていましたが・・。

 一週間も馬車に乗り続けるとさすがに疲れがたまって来る。疲れから足取りも重くなって来た9月半ばのことだ。山間の隠里(かくれざと)のような葉陰村(はかげむら)に着く前に、空に厚い黒雲がかかり始め、湿り気のある生暖かい風が強さを増してきた。

「まだ昼過ぎだけど空が真っ暗になって来たね。」

なんだか台風の前の空みたいだ。こんな山の中で台風が来たら大変なことになるのではないだろうか。


心配して空ばかり見ていたら、先ぶれで葉陰村に行っていたサキチが伝令の為に一人で戻ってきた。

「天候が悪くなってきてるんで、急遽(きゅうきょ)葉陰村に泊まる用意をしてるっす。近衛の先ぶれの二人が村の集落の人に頼んで、近衛兵や護衛の奴らも民家に泊めてもらえるように交渉してるところっす。」

サキチは簡単に言うけれど、70人の人間が小さな山村に全員泊まれるのかしら。


私たちの馬車の列が村の入り口に差し掛かった時に、先ぶれで出ていた兵士の一人が宿を案内するために村の方からやって来た。神社が20人の近衛小隊をまとめて面倒見てくれるらしく、後の人たちは二、三人ずつに別れて、村の家々へお世話になることになったそうだ。本当にありがたいことだ。

私は叔父さんと一緒にクメさんという人の家へ泊ることになった。カツラさんとキリ君は従者が必要なので、琴音さんや勝俊さんと一緒に家が大きい村長さんの家へ泊るという。最近はカツラさんと同室になることが多かったから、叔父さんと二人だけになったのは久しぶりだ。


「こげな山奥によう来なさったな。おらの家に天子さまが泊まるだなんて、はぁ~思ってもみなかったっす。」

独り暮らしだというクメおばさんが、家に案内してくれた。私たちが今日泊まる予定だった仁野町(にのまち)に息子さんが出稼ぎに行っているらしく、その息子さんの部屋へお世話になることになったのだ。私たちがクメさんの家に落ち着いたのを見届けて、使徒たちもそれぞれにあてがわれた家に散って行った。ハヤテが心配そうに最後まで家の点検をしていたが、この村の中ではこの家はしっかり建ててあるほうだそうで、クメさんは「そんただ心配せんでも、嵐で壊れるこたぁねぇ。」と笑っていた。


強くなった風と共に大粒の雨が降り出したので、ハヤテも自分が泊まる隣家へと走って行った。

「やっぱり雨が降り出したね。」

「ここに村があって良かったよ。山の中で大雨が降りだしたら大変だったぞ。」

私たちが明り取りの戸口から外の様子を見ていると、クメさんが火鉢の火を(おこ)したらしくお茶を入れてくれた。

「さあさあ天子さま方、お茶でも飲んでゆっくりしんさい。なんもねぇけんど、食べる物はあるで。」

クメさんがお茶請けに出してくれたのは、キュウリやナス等の野菜の漬けものだった。なんかおばあちゃんの家に来たみたい。叔父さんも母さんの漬けものを思い出すなと言いながら、キュウリをボリボリ音をたてて食べている。そんな私たちの様子をクメさんが笑って見ていた。

「天子さまちゅうても、はぁ~おらの息子と変わらんねぇ。」


クメさんが夕餉(ゆうげ)の支度を始めた時には、風の音が大きくなってきていた。叔父さんが雨風が吹き込み始めていた明り取りの戸を閉めると、家の中は真っ暗になってしまった。

「これは、久々にランタンが役に立つな。」

リュックサックに入れて持って来ていた懐中電灯をつけ、その明かりを頼りにガス式のランタンを()けると家の中はぼうっと明るくなった。

「あんれまぁ! なんちゅう明るさじゃ。さすがに天子さまは奇怪な術を使いなさる。」

私たちにとってはぼんやりした明かりだが、クメさんにとっては前代未聞の奇術に見えたらしい。ランタンを遠巻きに恐々と眺めて、決して近寄らなかった。


夕食は、野菜のごった煮だった。コテキが獲って来てくれていた山鳥を出汁にして、畑で採れた野菜を醤油味で煮込んでいる。すいとんのように団子も所々に浮いていた。叔父さんは何日か前に買っていた清酒を冷酒のまま晩酌をしている。クメさんも飲める口だったらしく、二人で漬物や野菜の煮物をつまみに陽気に話をしながら飲んでいた。外では風が吹き荒れる音がしているが、家の中では居心地のいい時間が流れていた。

「この村は西側を山で守られていますからの、嵐が来てもそうひどい被害はないんですわ。」


 翌朝、嵐の音がしなくなったので戸を開けてみると、クメさんが言うようにたいした被害もなく嵐を乗り越えられた村の家々が見えた。私たちが朝食を食べ終えて、クメさんが入れてくれたお茶を飲んでいると外から大声が聞こえて来た。

「危ねぇ!!」「大岩がっ!」

何事かと外に駆けだすと、クメさんが村を守ってくれていると言っていた西側の山のてっぺんから大きな岩が地響きをたてながら転がり落ちようとしている。岩は雨で(ゆる)んだ山肌の土砂も巻き込んで、村の方へ迫ってきていた。


叔父さんが直ぐに飛翔で飛び立つ。

「未希っ! あそこの丘を爆破で壊して土砂を堰き止めるんだっ! 俺は岩を何とかするっ。」

私が丘の反対側に向かって飛んで行った時には、キリ君とカツラさんが早くも爆破を使っていた。

キリ君は山肌に溝を掘って行き、カツラさんは丘を変形させて堰止めを作ろうとしている。私もカツラさんに協力して、堰の土手を築いていった。

村の人たちが逃げながらも私たちのやっていることを見て、大声をあげているのはわかっていたが時間との勝負だったので私たちも無我夢中だった。


叔父さんが大岩を爆破してくれたこととキリ君が溝を作ってくれたことで、山から崩れて来ていた土砂は私たちの作った堰をわずかに超えるぐらいで動きを止めてくれた。

私たちが皆の所に降り立つと、万歳三唱の声で迎えられた。

「姫巫女様、殿下、天子さま方、おらたちの村を身を挺して守ってくださってお礼の言葉もありません。」

村長さんが(くずお)れるように(ひざまず)いて私たちへ感謝の言葉を述べてくれた。

「私たちも嵐からこの村に守ってもらいました。お互い様ですよ。」

カツラさんがそう言うと、村の人たちは涙ぐんで帝に(こうべ)を垂れた。


土砂の泥が散って泥まみれだった私たちの為に、従者たちが五右衛門風呂を沸かしてくれた。二十人体制で道の様子を確かめに行った先ぶれの人たちの連絡を待つ時間もあったので、私たちはゆっくりとお風呂に入らせてもらった。

山の上の見晴しのいい所で入るお風呂は、とても気持ち良かった。

いいお湯だ。雨の後の湿り気のある空気が、裸の身体に心地よい。チチチチッと鳴く鳥の声を聞きながら、露天風呂を楽しんだ。


道が通れるようになったと知らせが来た時には午後になっていた。これから急いで仁野町に行かなくてはならない。親しくなったクメさんや村の人たちに別れを告げて、私たちはまた旅路に着いた。道中、倒れ掛かった木々や道に散らばった葉っぱや木の小枝に嵐の爪後を感じながら、少しずつ下り坂になって行く峠道を私たちは辿って行った。

多くの人の協力があって、旅が続けられるのですね。

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