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未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第四章 天子集会
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出立

都を出て、ジュネに向かいます。

 御所を出発して半刻もしないうちに大きな川にかけられた木の橋を渡った。

「これが間森川(まもりがわ)だ。天珠の森から流れて来ていて都の外をぐるっと周って天開の港がある湾に注いでいる。我が国では天子の森から流れ出る天満川に次ぐ大きな川だよ。」

キリ君が自慢げに間森川のことを教えてくれる。そうしてみると私は天満川も間森川も見たからこの国の二大河川は知っているっていうことになるね。

馬車や大勢の騎馬が橋を渡る音がするので人々が仕事の手を止めて何事かとこちらを伺っているのが見える。

橋を渡り終えた土手に子ども達が集まって手を振っていたので、私も窓を大きく開けて手を振った。口々に「いってらっしゃい。」と叫んでいるので、私たちが天子集会へ出かけるということは噂になっているんだろう。


「キリ君はジュネに行ったことがあるの?」

「行ったことはある。でも小さな頃だったから景色なんかはほとんど覚えてないな。天樹国とリグランド国とエメンタル共和国諸州の三ヵ国の国境の上に立ったことは覚えてるんだ。あれは強烈に印象に残っている。三つの国を制したような高揚感があった。七歳ぐらいだったのかな。」

「そうですね、十年前です。三ヵ国共同で記念の石碑を作った完成式典に先の帝が出席された折のことでしょう。」

キリ君に聞かれたカズマが懐かしそうに答えた。カズマは四十代ぐらいだろうか、キリ君のお父さんが帝をしていた時にお父さんの従者をしていたそうだ。親子二代で世話になってるから、カズマには頭が上がらないんだよとキリ君がぼやいていた。


「ジュネの町に住んでいる人たちは三ヵ国の国民に分かれているんだが、旅行者は渡航証がなくても自由に行き来できるから、独特の雰囲気があるし異国情緒があふれてて食べ物も美味しいらしい。」

「私はもう一度エメンタル共和国諸州のカレーが食べたいですね。都で食べるカレーとはだいぶ味が違うんですよ。」

カズマの口調に私も口の中に唾が湧いてきた。カレーはこの世界に来てから食べてないなぁ。晴信のリクエストでお母さんのカレーを食べたのが最後かも。


 お腹が空いたなぁと思っていたら昼ご飯の時間だったようだ。馬車がゴトゴトと道を外れて大きな樹がある広場に入って止まった。

キリ君が手を出して私が降りるのを助けてくれる。夏に何度か一緒に馬車で出かけていたので、二人で歩くのも自然になってきた。サラたちが敷物を敷いてお弁当の準備をしてくれている間、私たちは広場の外に咲いていた萩の花のような紫色の野の花を見に行った。


「綺麗ね。風が涼しくなって秋になって来た感じ。天樹国にも春夏秋冬があるんでしょ?」

「ああ。天樹国の公領と東西の家領は春夏秋冬がハッキリしてる。北家では冬が長いし、南家では逆に夏が長い。リグランド国もうちと同じ感じだな。けれどエメンタル共和国諸州は年中、夏らしい。」

「ふーん。なんとなくこの星の中での位置がわかる感じ。そう言えはここの世界地図って見たことない。」

「この大陸の地図はあるけど、惑星全体の地図はないな。東家に残る文献によると、東に何か月も航海していくと別の大陸があるらしいんだが、これも大昔の文献だから本当の事かどうかわからない。」

「それはコロンブス以前ってことか・・なんかワクワクするね。」

「ワクワクっていうより危ないよ。コロンブスが何か知らないけど、確かめに行くのは無謀だ。」

「もー、キリ君ったら夢がないなぁ。男でしょ。男なら冒険に行かなくっちゃ。」

「俺は姉さまを助けて国を治めるのに精いっぱいだ。俺がいなくなったら姉さま一人じゃ四家を押さえられないしね。姉さまは天珠のお告げがあって結婚できなかったし・・まだ当分今の俺の役目は降りられそうにないよ。」

「できなかった?! 姫巫女様は結婚する予定があったの?」

「うん。北家の北樹正臣とね。」

「え?・・・叔父と姪じゃない!」

「同腹の兄弟以外は結婚できるよ。でも、あんな事があったし結婚してなくて良かったのかも。」

「・・・・・・・・。」


今のキリ君の話を聞くとあの天子の成り代わり事件が違うように見えてくる。もしかして正臣さんっていう人はカツラさんのことが好きだったんだろうか?そのために四年以上も身を隠して貴族の記憶から消えようとしていた・・・?

私は頭を振って、不毛な考えを退けた。こんなことを考えても仕方がない。過去は変えられないものね。


秋の風に吹かれながら食べたお弁当は美味しかった。旅行に出かけているというより大勢で山に遠足に来たように思える。ちょっと護衛のむさ苦しい男の人が多いけど・・。

皆も思い思いに昼の休憩を楽しんでいた。叔父さんとカツラさんも食後に野原に散歩に出かけていった。忙しい御所の中ではこんな風に食後にゆっくり散歩もできない毎日なんだろうな。


 午後は叔父さんと一緒の馬車だった。

私は、キリ君に聞いたジュネのことや地図のことなどを叔父さんに話した。カツラさんが北樹正臣と結婚する予定だったという事を話した時には、叔父さんも驚いていた。驚くよね。あの事件が恋しい人を取り返すために企てられたように思えるもんね。本当のところはわからないけれど、私たちがこの世界に来て邪魔をしたのではないかとも思えてくる。これも運命だったのかなぁ。


「叔父さんはカツラさんと何の話をしたの?」

「天樹国を治める話かな。先の帝、カツラさんたちのお父さんは身体が弱い人だったらしい。そのためにお母さんの祥子皇后(さちここうごう)の実家の北家が権力を握ったんだろうな。カツラさんは10歳の頃からお父さんの政務の手伝いをしていたようだ。」

「それは大変だね。子ども時代がないじゃん。カツラさんも苦労してるんだね。お母さん、祥子皇后さまは今、どこにいるの?」

「北家の本家に帰っているらしい。御所には上皇となった帝が住む離れもあるらしいけど、自分がいたら北家の権力が強くなり過ぎるからと、桐人が成人した後で自ら北部へ退かれたそうだ。」

「・・そこまで気を遣ったのにあの事件じゃ、お母さんも浮かばれないね。」

「そうだな。正月の新年互礼会で会えると言っていたけど、1年に一回しか会えないんじゃ寂しいよな。」

キリ君も13歳で親離れしたのか。私たちの世界じゃ考えられない。中一で独り立ちだよっ。厳しい世界だね。


山道をずっと進んでいた馬車は、山越えの峠を越えたらしく徐々に下り道になっていた。

「もう少ししたら猪野町(いのまち)に着きます。今夜はそこで宿泊します。勝俊さんのお父様の森心之丞(もりしんのすけ)さまが守る分社が猪野町にあります。」

アサギリがそう言った時には、道が整備された区域に入っていた。ポツポツと家も見え始め、両側に家並みが続くようになった頃、私たちが今日宿泊する宿屋が見えて来た。


そこには勝俊さんが満面の笑みを浮かべて、私たちを迎えてくれていた。

猪野町に着きましたね。

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