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学校

学校へ人材を探しに行こう。

 まずは御所に一番近い学校へ行ってみた。二階建てのレンガの校舎が三棟建っていて、それが中央廊下で繋がっている。校庭があって、その横には体育館のような大きな建物が二つ建っていた。

「大きな学校ね。旅をしている時にはこんな建物は見なかったな。」

「こういう学校は都に三校ある。一般の人は商店へ奉公に行ってそこで教育を付けてもらうことが多い。農業や漁業に携わっている人や職人は親から直接指導されてるんだ。ここみたいな学校へ来ているのは大店の後継者や貴族の子どもが大半だな。」


「ふーん。全員が同じ教育を受けてないんだね。」

「ん? 未希たちの世界では、国民が全員同じ教育を受けるのか?」

「うんそうだよ。義務教育っていって、15歳になるまで国が決めた学校へ通うことになってる。」

「15?! そんなに長い間、何を勉強するんだ? 13歳になったらもう働けるだろう。」

うーん。これも異世界ギャップだね。・・今まで義務教育があることについて何の疑問もわかなかったけど世界が違えば学校に対する考え方も随分違うんだ。今は18歳、ううん22歳まで働かないで勉強してるけど、それを言ったらキリ君はひっくり返りそう。


術を使って校舎の様子を見てみたら、校庭に近い棟の二階の一角が12歳の人たち、つまり最終学年の教室だということがわかった。部屋は3クラスだが、そのうちの1クラスには誰もいなかった。

「武道館にいるんだろ。」

キリ君に言われて、校庭の横にある大きな建物を遠目で見る。すると中では剣を使って剣道のような授業をしているグループと隣の部屋で銃を撃っているグループがいた。・・・なんか実戦的。私たちの世界とは身を守る感覚が違うんだね。

「この人たちの良し悪しは私にはわかんないよ。これはハヤテたちに見てもらったほうがいいかも。」

「そうだな。俺にもよくわからん。護衛の補充は使徒に頼んだ方が良さそうだな。」


教室にいた2クラスを見ていると一つのクラスでいざこざが起きていた。

「あなたみたいな田舎者が国家公務員の試験を受けられるわけがないでしょう。秋には農作業が忙しいんじゃないの?無理をしないで田舎に帰ったら?」

「そうね。カスミには村役場がお似合いなんじゃない。」

「ふふっ、二人とも私より成績が悪い癖に。生まれが貴族だというだけで、たぶんコネで省庁に入れるんでしょうね。でもちゃんとした仕事が出来るのかしら?本当に国のためを思うんなら、あなたたちこそ試験を遠慮したらどうなの?下手な仕事をして昨日、処分された公安庁の課長さんみたいにならないことね。」

おお、この人は骨がありそうな人じゃない。とても私と同じ歳とは思えないな。キリ君の方を見ると、キリ君も頷いていた。


 そこそこの成果があったので、私とキリ君は御所に帰った。昼食を食べながらカツラさんたちに午前中の報告をする。

「そのカスミという子は使えそうね。今の政務次官を政務官にして、その子を次官として採用してみようかしら。」

「そうだね。鼻っ柱が強そうだから秘書よりも政務官向きかもな。どこの出身かわからないが、髪の色からして貴族ではないようだ。征四郎が言うように民衆の観点から見た政治への取り組みが出来るかもしれない。今の情勢には適した人材だと思うよ。」


叔父さんが、貴族院の政治運営を監査する参議院制度を国会に採り入れたらどうかとカツラさんに言ったようで、御所の方でも一般人の採用を増やしていく予定だそうだ。この度の北家と西家という二大勢力の失墜というピンチをチャンスに変えて、一気に改革を進めたほうがいいというのが叔父さんの考えだ。キリ君もこれに賛成しているらしい。ちょうど良い人材だと、カスミさんのことをカツラさんに勧めていた。


 午後からキリ君が政務に(たずさ)わっているのを横で見ていた。次々にやってくる人たちの話を聞いて書類を読み、決済する。私が口を出せるようなものはほとんどなかった。

暇を持て余しているところに食堂の補充要員の雇い入れの話をしに来た人がいたので、臨時の秘書をしている忙しそうなサラに変わって、私がその立ち合いを引き受けることにした。


「天子さま自らこの様な場所においでいただき申し訳ありません。」

厨房の責任者だという西岡健作さんはさっきから恐縮ですと繰り返している。この人は西家の傍流の人らしいが、私たちやカツラさんたちに毒をもれという本家の指示に(かたく)なに(あらが)ったそうだ。指示に従わないからといって自分たちに何かしたら、陰謀を企んでいる者がいることをバラす、と逆に脅して自分の仕事場を守ったらしい。おっとりとした見た目に似合わない信念の人のようだ。そんな経緯もあって、西家出身の人で御所に残っている数少ない人材だ。コテキが調べて、この人の家族も問題ないということで、そのまま厨房の責任者をしている。


あまりに腰の低い西岡さんに私も居心地が悪い。

「そんなに気にしなくていいんですよ西岡さん、私は政治の書類のことはさっぱりわかりませんが、ご飯が美味しいかどうかはわかりますから。少しでもお役に立てたら嬉しいです。」

「ありがとうございます。今日は五人の者が審査を受けに来ています。補充人員は二人ですが、もし使える者がいたら三人までは雇えます。それと・・・そのう、私のことは呼び捨てでお願いします。他の者に示しがつきませんので。」

・・そうか、忘れてた。お父さんぐらいの歳の人を呼び捨てって、難しー。


私と西岡と恰幅(かっぷく)のいい料理長の三人が見守る中、試験がスタートした。

五人の内、四人が男性で女の人は一人だけだ。もっと女の人が多いのかと思ってた。けれど、試験の様子を見てその訳がわかった。フライパンや鍋などが物凄く大きいのだ。女の人の力では持ち上げるのも一苦労のようだ。現に五番の札を付けている女の人は、男の人たちに比べて明らかに作業が遅れている。


「よし、そこまで。」

料理長が声をかけると、給仕の人たちが番号札を置いたお盆を持って私たちの所へやってくる。西岡と料理長が先に味見をした。これは毒見も兼ねてたのかもね。二人が食べた料理を私も食べていく。最初の料理はオムレツだった。

料理長によると卵料理が一番技術に差が出るそうだ。どれも美味しかったけど、一番の人のものは少し塩がきつくて、三番の人のものはまだ完全に火が通ってないのか下に汁が広がっている。


次は、スープだった。これは午前中に作ったものらしく、温めると直ぐに出て来た。

・・・このスープも一番の人は味が濃い。一番美味しかったのは、五番の女の人が作ったものだった。スープの汁の色が澄んでいて、味にも深みがあった。


最後に野菜炒めを審査した。

よくテレビでやっているあおりというフライパンを動かして野菜を混ぜるやり方は二番の人が一番うまかった。でも味の方は、四番と五番の人が美味しい。

うーん、審査って難しいね。


私たちは別室に行って、それぞれが選んだ人を話し合う。

私は、二番・四番・五番の三人を選んだ。

西岡は、二番と四番。料理長は二番の人だけ。

「え?料理長、四番の人は駄目なんですか?」

「彼は平民です。二番の人間は没落していますが貴族の家系なんですよ。」

・・・これは今までの習慣から脱するのに時間がかかりそうだ。私はカツラさんやキリ君の考えを話して、出自が関係なかったら誰を選ぶのかもう一度聞いてみた。すると料理長は、四番と五番の人を選んだ。全然違うじゃん。料理長が言うには、技術はある程度できていればここで訓練できるが、味を決める舌の感覚は持って生まれたものがあるそうだ。

結局、私が言った二番・四番・五番の三人を雇うことになった。

五番の女の人は自分が選ばれるとは思ってなかったらしく、目を丸くして喜んでいた。


 報告をするためにもう一度、執務室に戻ると、叔父さんとカツラさんが帰ってきていた。

「未希、午前中にハヤテに追わせた男は拾い物かもしれないぞ。」

と叔父さんが嬉しそうに教えてくれた。

あの親方に追い出された青年はあれから安宿に泊まろうとしたそうだが、そこに税務官と衛生局の人間がやって来て宿の経営者とトラブルになったらしい。その場をおさめたのがその青年だそうだ。税務関係の経理にも明るく人間関係の調整の手腕もある。キリ君の秘書にいいかもしれないと言っていた。


カツラさんは応募してきた人の中で気に入った女性がいたらしい。その人を秘書にすると言っていた。政務官になれそうな人も二人ほどキリ君に推薦していたので、そのうちのどちらかが選ばれるのかもしれない。さすが叔父さんたちは仕事が早いね。 

私も厨房の補充要員の報告と一緒に、一般の人の中からも優秀な人材を採用するということをもっと責任者に言っておいた方が良いと話しておいた。

「そうだな。上に立つ者の考え方をここで働く者全員に周知徹底した方がいい。今は秘書や政務官がいないからまだそれが出来てないんだ。これからだよ。」


 私たちが話をしていた所へアサギリが緑色の髪をした人を連れて来た。

「こちらは、エメンタル共和国諸州の大使である、スーリ・チャクラン族長です。天子集会についてお話があるそうです。」

天子集会?! 私と叔父さんは顔を見合わせた。巨人のカールが言っていた集まりのことかしら。


これから外国へ行くことになるの? 

私にとっては初めての外国だ。まだ言葉を勉強していない。・・どうしよう。

天子集会、いつどこであるんでしょう。

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