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くつろぎのひと時

カールとの話し合いの後で。

 夕食は、森家の四人と私たち二人だけだったので(なご)やかな家庭的な雰囲気で落ち着けた。

いいなぁ、こういう食事は。旅館とか御所だと外出先の食事という感じがするけど、今日は家で食べてるって感じ。それはカヤさんの存在が大きいんだろうな。「お母さん」が食卓にいると安心するというか(くつろ)げる。


「未希ちゃんも征四郎君もちょっと疲れた顔をしてるわよ。慣れない土地を旅してきて、その上にあの騒ぎでしょ。ちょっと家でゆっくりしなさい。」

「さんせーい。私と遊ぼうよ。マー兄ちゃんだけ御所に行って皆と遊んできて、ずるいっ。(はるか)も天子さまのお話が聞きたい。」

「ハルと遊んでたら疲れが取れないじゃないかー。」

「そんなことないもんっ。静かにお話しするだけだもん。」

マー君はすぐにハルちゃんをからかおうとするんだから。でも兄弟ってこんなもんか。私も晴信をからかうもんね。・・晴信、どうしてるかな。サッカーの県大会は勝てたのかしら?


食事の後、叔父さんはポルトにつまみを(もら)ってベランダでビヤガーデンをするというので私も眠たくなるまで付き合うことにした。ここに来て、いろんな人と話をしたが叔父さんと一番よく話をしている。テレビがないと隣にいる人と話をしたくなるんだね。

「ねぇ叔父さん、カールの言ってた天子の集まりって何をするんだろう。」

「そうだな、他の天子がどこから・・いやどの時代から来てるのかというのもあるな。とにかくどんな奴らが集まっているかによるんじゃないか。まぁ、行ってみないとわからないさ。カツラさんたちに何も言われてないっていうことは、まだ先の話なんだろ。」

「そうか。これもケセラセラ案件なんだね。」

「ハハッ、だなー。それよりカヤさんに言われたことはどうする?明日もここに泊まるか?」

「うん。さっきカールと話してた時も少し頭が痛かったし疲れてるのかも。もう一日ゆっくりさせてもらう。」

「そっか。薬はいるか?」

「いらない。寝たら治ると思う。叔父さんはどうなの?」

「うーん。北家というか西家の騒動がひと段落したら安心してどっと疲れが出た感じだ。しばらくここでビールを飲んで暮らしたいな。」


「もー、そんなの駄目だよ。使命が達成できないじゃん。」

「未希は真面目だからなぁ。人生は長いんだからそう生き急がなくてもいいんだぞ。日本人は仕事をし過ぎるんだ。俺は外資系の企業に勤めてみて、目から(うろこ)がポロポロ落ちたよ。あっちでは休まない人間は休めない人間だとみなされるんだ。」

「どういうこと?」

「仕事がうまく処理出来なくて短時間で仕上げられないから残業をしなくちゃいけない。だから就業時間外に働いたり長期休暇を取れない人間は、能力が低いと言われる。評価も落ちるんだ。」

「へー、うちのお父さんの言ってることとは正反対だね。」

「そうだな日本人の考え方とは全然違う。何のために仕事をしているのか、それは生きるためだ。家族と豊かな生活を送るためだ。その仕事が人の役に立つものならなおやりがいがある。そうだろ?」

「うん。」

「でも仕事だけに生きていて楽しいか?友達や家族との時間が全然取れないなんて、本末転倒だろ。自分の趣味に没頭する時間も無くて、会社の用事で土曜日も日曜日も駆け回ってたら、自分というものはどこにあるんだ?(おおやけ)の自分と(わたくし)の自分のバランスを取るのも自己管理能力の一つだ。俺はこの二年間のアメリカでの生活でそれを学んだね。」

「ふーん。ちょっと難しいけど、叔父さんが言いたいことはわかる。うちのお父さんも日曜日に会社の付き合いがあったら疲れた顔をしてるもん。」

「だろー。だからしばらくはゆっくりしようよ。」

「それはいいけど、二日ぐらいだよ。バランスでしょ、叔父さん。」

「・・・未希には、かなわないな。」


 こんな話をしたこともあって、私たちは翌日も大宮に滞在させてもらうことにした。ハルちゃんは喜んで自分が作っている畑を見せに連れて行ってくれた。

「わー、きれいに草を取ってるね。」

「うんっ。こうしといたら栄養分を草に取られないんだって。でもね、こっちの畑は草と一緒に育ててるの。草の根と絡まって風か吹いても倒れにくくなるし、草と競争することで強くなることもあるんだって。」

「へー、ハルちゃんはかしこいねー。私はそんなこと知らなかったよ。」

天珠の森には友達も訪ねてこられないし、年の近い兄妹もいない。そういう事情もあるのかハルちゃんは朝から私にべったりだ。今も手を繋いで自慢の畑を案内してくれている。

マー君の髪はクセ毛だが、ハルちゃんは髪が長いのもあるのかふんわりと巻き毛になっていて可愛らしい。あの厳しい修行僧のような聖心殿も幼い遥ちゃんを見る時は優しい顔になる。


大宮に帰ろうと歩いていると小人族の女性にすれ違いざまに挨拶された。この人はまだ若い女性で、畑へ収穫に行くのかカゴやハサミを持っていた。

「ねえハルちゃん、ポルト以外にも大宮で働いている小人族の人がいるの?」

「うん。いっぱいいるよ。20人ぐらい。」

「そんなに?!」

「畑や田んぼ、庭の係の人はもっといる。」

「あら、庭師はカールじゃないの?」

「もう未希ちゃんは何にも知らないんだから。カールは大きいから、いらない木を抜いたり土を耕したりするの。でも仕事が雑でしょ、だから小人たちが仕上げをしてる。家を建て増しする時もカールが大まかに建てたら後は大工仕事が得意な小人が細かい所を作るの。」

ハルちゃんがお姉さんのような口調で教えてくれる。

確かにあのカールの大きさじゃ、腰を屈めて庭木の剪定なんかできないか。でも仕事が雑って・・・ポルトが言っているのを側で聞いて覚えたのかしら。


その日の夕食にはカツラさんとキリ君もやって来た。従者の琴音さんたちは御所で用事があるので、別のお付きの人を連れて来て天珠離宮で待たせているそうだ。

二人とも疲れた顔をしていた。事件の事後処理にまだまだ追われているらしい。

「アサギリのお陰で助かったんですよ。」

カツラさんがそう言って、私たちに御所の様子を教えてくれた。

その後の様子は・・。

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