国会
※ 今回は暴力的な表現があります。苦手な方はご遠慮ください。
キリ君は「昨日よりすごい変身になってるね。」とサングラスを興味深く眺めている。カツラさんは本当に叔父さんなのか確かめようとしていた。
「征四郎さん?」
「いえ、この姿の時は“SM仮面”と呼んでくださいっ。」
「そうでぇーす。SM仮面参上っ!天珠に変わってお仕置きよっ!」
「「・・・・・・・・。」」
うーむ。こちらの世界では通じなかったか。
私たち二人は渋々とサングラスを取って、覆面にしていた布も解いた。するとカツラさんとキリ君もホッとした顔をする。顔が見えないとやっぱり不安だったようだ。
しかし私たちが得て来た情報を話すと、二人とも険しく顔を歪めていった。
「そこまでのことを考えていたのか。」
「これほどとは・・・捨て置けませんね桐人。」
それから私たちは昼食をとりながら、暴漢が乱入した時の手はずについて打ち合わせをした。
今日は休みだったのだが、天子の国会傍聴と称して私たちも貴賓席に参席させてもらった。西峰修二が私たちがやって来たのを見て満面の笑みを見せてくれた。
そうなのそんなに嬉しいのね。来て良かったわ。私たちも西峰さんに笑顔で会釈をしておいた。
国会が始まり、新しい首相の選出に議題が進んだ時だ。扉の向こうから騒がしい音がして突然、議会場へ三人の男たちが踏み込んできた。
「静かにしろっ! 大人しくしていたら何もしない。」
一人の男が大声を上げた途端に後の二人が猟銃を構えて発砲した。
「「呪縛っ!」」
私と姫巫女さまが横に転びながら、男たちに向かって叫ぶ。
「「爆破っ!」」
叔父さんと殿下も男たちが持っていた鉄砲ごと敵の腕を吹き飛ばした。大勢の貴族院議員たちはあっけに取られていたが、西家の二人はすぐに懐から銃を取り出してこともあろうに仲間の暴漢へ向けて発砲した。
「「呪縛っ!!」」「「爆破っ!!」」
私たちも慌てて、それを止める。西峰修二と徹の腕も大きく吹き飛んだ。
「うううっ、なんて酷い。私たちは姫巫女さまや天子さまをお助けしたのに!」
西家の当主の方は金縛りにあったままのたうち回って痛がっていたが、徹の方は痛みをこらえて冷静に訴える。・・・この人って本当に肝が据わっているのね。
呪縛をかけると鉄砲の弾も空中に留まるようである。ここまで術が効くとは思ってなかったので助かった。
「さて、そこの暴漢たち、この弾が狙っている先がわかるか?」
キリ君がそう言うと、最初に大声を上げた首領格の男は自分たちのすぐ前に留まっている弾丸を見つめた。依頼主が口封じのため、自分たちを殺そうと目論んでいたことがわかったのだろう。鬼の形相になってこれまで依頼されてきた数々の悪事をベラベラと暴露し始めた。
その内容は今回の事だけでなく何十年も前のものもあった。よくもこれだけのことをやってきたものである。
「黙れっ。よくもそんな世迷いごとを。かような暴漢の言う事など信じられるかっ。」
「ふん。西峰徹、お前も黙るんだな。我が公安庁は、お前らの悪事を突き止めておった!」
東家の東海林造は、雷が鳴るような大声で西峰徹を黙らせる。その後ろに立っていた男の顔を見て、さすがの西峰徹も膝をついた。そこには、さっき課長に非常事態だと訴えていた潜入捜査官がいたのである。
やったね!東海さん、ナイスフォロー。
事件の処理のため一旦国会はお開きになった。
私と叔父さんは自室に引き上げて、今度こそ休みを取ろうとソファに深く腰掛けた。
「なんとも、派手な事態になったな。」
「でもこれで北家の事件の審議も早まるんじゃない? 麗華さんたちが早く監獄から出られるといいんだけど。」
「東海さんが、課長の処分と合わせてそのことも約束してくれたから大丈夫だよ。」
「・・うん。参日場にいた時には北家の影に怯えてたのにね。なんか全然違う事態になっちゃった。」
「世の中、裏の裏があるもんだ。・・しかし、ゆっくり異世界を見て帰ればいいとは天珠のお告げも大概だな。」
「ふふっ、叔父さんの言う勇者召喚の魔王退治ができて良かったじゃない。」
「そうか、SM仮面も活躍できたしな。」
これでやっと、落ち着いて異世界見物が出来そうだ。
お茶の後、アサギリが教えてくれたのだが、私たちが国会へ行った後でアサギリの従兄弟が血相を変えて飛び込んできたという。薬には麻薬や致死量には至らない毒薬が入っていたそうだ。
西峰徹、本当に丁寧な仕事をする人だね。でも努力の方向が間違ってるよ。
自己犠牲を払って人のために尽くすのが仕事でしょ。私がテレビのプロジェクト番組で観ていた名も無き男たち、仕事ってあんな風にやるもんだと思ってた。
私利私欲を追及する人って、ある程度までいってもボロが出るよね。
私たちがゆっくりとお茶を飲んでたら、バタバタとマー君がやって来た。
あれ? 昨日の歓迎会が終わったから天珠の森に帰ってたんじゃなかったの?
「大変だ。カールが俺は天子さまに会えなかったって、泣き止まないんだよ。すまないけどもう一度、大宮に来てもらえないか?」
「・・・カールって誰? 弟がまだいたの?」
「巨人だよっ。うちの庭師をやってる。」
「巨人?!」
「泣き虫の?」
なんと。小人族の家令のポルトと庭師のカールは事あるごとに張り合っているらしい。今回、カールは自分が休みの日に天子さまが来て帰ってしまったと聞いて落ち込んでいたそうだ。言わなきゃいいのにポルトが「私は天子さまにお声をかけて頂きました。」と自慢したものだから、カールの気が収まらなくなっちゃったんだって。聖心殿は「放っておけ。」と言われたそうだが、お母さんのカヤさんはこの二日間カールの扱いに困り果てているという。
陰惨な事件を見て来た私たちは、マー君の話にほのぼのしてしまった。
「これは行かないとね。」
「賛成。大宮のベランダは寛げるんだよな。」
私たちはアサギリたちに御所で事件処理に協力するように言い置いて、マー君と一緒に大宮へ戻って来た。
そこで思いもかけないカールの話を聞くことになったのだ。
カールの話とは・・。