危機一髪
叔父さんたちの成果は・・。
叔父さんとカツラさんの話からは意外なことがわかった。
「カツラさんが経済省の役人と話をしてる時に暇だったから土地の売買の資料を見てたんだ。そしたらある特定の地域でバブルの時みたいな土地の高騰が起きてる事がわかった。経済学的にはヤバい状況だなぁと思って不安案件の一つとして覚えてたんだ。」
「バブルって何?」
キリ君、わからないよね。私も話が難しくてほとんどわかんない。
「えーとね。バブルの説明は長くなるから簡単に言うと西家の領地の中で特定の北部の地域が経済的におかしくなってたんだよ。」
「それから執務室に戻って、征四郎さんと大陸の地図を見ながら貿易の話をしていたの。」
カツラさんがチラッと見上げる眼差しに、叔父さんを頼りにしているような様子が見えて、あれっと思った。半日の事だけど随分、距離が縮まった感じがする。
「俺が役立てそうなことと言ったらまずは貿易の事かなと思ったんだ。それで未希が前に話してただろう。うーんと中町でだったかなぁ・・。」
「何の話?」
「俺がこの国の特産品を船で輸出してるって言ったら、鉄道では輸送してないの?って言ってたじゃん。」
「ああ、リグランド国から馬車とかを輸入しているってサラから聞いた話ね。」
「それそれ。経済学で政治に関わるのはそういう流通の整備というのが大きいんだ。それで貢献できないかと考えたわけさ。この大陸に鉄道を引くとしたらどのルートを通すのがいいか話してたんだよ。」
カツラさんが叔父さんの話を受けて説明してくれた。
「私が、エメンタル共和国諸州の首都と天樹国の都を結ぶ線は南家を通る線しかないからほとんど決まっているけれど、リグランド国の首都からの線は北家の土地を通るものと西家の土地を通るものの二つの案件があって、ここ何年も北家と西家の間の論争になっていると伝えた途端に、征四郎さんが飛び上がったの。」
「カツラさんが指でなぞった線が、俺が経済的に不安視していた地域を通ってたんだ。それでこれはおかしいと思って土地の売買をしている名前を見ていったら、全然関係ない南東部の業者が関わっていた。」
「西家の南東部っていったら、キリ君が西家の本家筋が集まっているって・・・。」
「そう。おかしいだろ。北家が政治の中枢からいなくなって一番得をする人間。推理小説の基本だよな。」
「また推理小説か・・・そっちの世界には高尚な文化が発達してるんだな。予言書の代わりのようなもんなのか?」
キリ君がちょっと勘違いしてるけどその話はそこで置いておいて、今度は私たちが調べたことを話していった。カツラさんはナナさんと麗華さんの話にひどくショックを受けていた。身近な人の裏切りに身内の苦境がわからなかった無念の思い。辛いよね。叔父さんが遠慮がちに慰めてたけど、さすがに帝として長年やって来た人だけあって泣き崩れるようなことはなかった。儚げに見えるけど、芯は強いんだろうな。
これからすぐにしなければならないのは次期首相の選出だ。
次期首相の最有力候補は、現在、外務大臣をしている西家の当主、西峰修二という人らしい。その次が教育省の南家の当主、南枝辰雄。しかしこうなったら鉄道事業に関係ない人がいいだろうという話になって、今夜の天子歓迎会で東家の当主である、公安庁の東海林造に頼むことになった。
「本当に危機一髪だったな。」
「ええ、明日には西峰さんに首相就任の打診をしようと思ってたんですもの。」
キリ君とカツラさんは冷や汗をかいたと言っていたが、御所の中や各省庁も含めての人事異動など、これからの問題は山積みだ。それに北家の問題も早く精査して、麗華さんたちを助けださないといけない。このことも公安庁の担当だから東海さんに確認しないといけないね。
・・・政治って大変。人の上に立つ人って、暇なしだね。
サラが遠慮がちに「歓迎会の準備をしなければならない時間なんですが。」と声をかけて来たので四人での話し合いは一旦終了となった。
「この国の貴族たちへのお披露目ですからね。綺麗になって頂かないと。」
と言うのが、サラとマユの主張だ。そのために新しい着物が用意してあるそうだ。
私は真っ白な巫女服にピンクの飾りがしてある着物を着せられた。履物もこちらの人が履いているような草履だ。髪は複雑に結い上げられて揺れている銀の簪や花で飾りつけられた。七五三の豪華バージョンだ。口紅も塗られて何だか喋りにくい。
叔父さんの部屋へ行くと、叔父さんの方はお雛様のお内裏様が被っているような黒い帽子を頭に載せていた。それでなくても背が高いのにものすごく大きく見える。来ているものはやはり真っ白な神主さんのような着物で、飾りには緑色が使われていた。
お互いの格好を見て笑い出しそうになる。今夜はちょっと老けた七五三だね。
「携帯を持ってきといたら良かったな。」
「うん、カメラもね。食料を優先させちゃったけど、こっちに食べ物があったね。」
「まあいいさ。しっかり覚えて帰ろう。」
「ねえ、叔父さん。カツラさんとなんかいい感じだったね。仲良くなったの?」
「まあそれなりにな。あの細い身体で健気に頑張ってるのを見てると庇護欲が湧くね。」
「へぇー、カツラさんみたいな人がタイプなんだ。」
「いや、俺のタイプはボンキュッボンのイケイケお姉さんだよ。」
こらこら顔がにやけてるよっ。この口調さえなかったら見た目だけだと爽やかなイケメンに見えるのに、本当に残念な人だ。中身がお子様だからなぁ。でも今日の調査では叔父さんは大活躍だった。本人は「未希みたいに神使いの術が使いたかった。」とがっかりしてたけど、仕事が出来るっていうことがよくわかった。伊達にアメリカに派遣されてたわけじゃないんだね。ちょっと見直したよ。
私たちが使徒に付き添われて歓迎会の会場へ向かっている時に、一人の男が近づいてきた。
「天子さま、ご機嫌麗しゅうございます。私、この国の天子研究の第一人者、西峰徹と申します。お見知りおきください。」
「・・・・・・・。」
こいつかっ。私と叔父さんのご機嫌は一気に地の底に落ちたのだった。
登場しましたね。