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ハヤテが掴んできたものは・・。

 さすがハヤテだ。私たちがお茶を飲んているうちに何かを掴んできたらしい。

「まず、破棄されたかもしれない来客者名簿の切れ端です。屑籠(くずかご)の横に張り付いていました。」

ハヤテが私たちに渡してくれた紙の切れ端には「峰」という字が辛うじて読めた。

「峰と読めるな。」

「うん。私にもそう読める。西でも南でもないね。」

「未希、峰がつくのは西峰だ。」

キリ君がそう言うが、私には何のことかわからない。

ハヤテが教えてくれた。

「未希さま、西家の本家筋が西峰という苗字なのです。これにはもう一つ気になることがあります。執務室の受付をしている氷川七海(ひかわななみ)さんは、北家の傍流の方なのですが、西家の領地の北部出身の男と結婚しています。」


「ここでも西家か。しかし西家の北部には本家筋の人間はいないだろう。本家に近いものは殆ど南東部に集まっているはずだ。・・・証拠としては弱いな。しかし、注意すべきは西家の人間か。ありがとう、ハヤテとか言ったな。褒美をとらす。」

「はっ、ありがたき幸せ。けれど褒美の方は後にしてください。事務方に今回のことが知られてはいけません。」

「そうか・・・どこに耳があるかわからないな。くそっ、これからもよろしく頼む。これが片付いたら何とかする。」

キリ君は本当に悔しそうだ。今まで手足に使ってきた者の中に裏切者がいるのだ。身体中を縛られている感じがするだろう。


「キリ君、北家の麗華さんはどうなってるの?」

「今は貴族用の監獄に入っている。身体が弱いのに気の毒なことだ。俺は麗華が10歳の時から会ってない。あれから4年だから今はもう14歳になってるな。」

「従妹だもの、心配だね。・・ねえ、会いに行ってみない? 麗華さんがどうして冬木良美さんに個人的に天子の調査を頼んだのか気になるのよ。」

北家全体が天子との入れ替わりを企んでいたのなら、何故、麗華さんは私たちを個人的に調べようなんて思ったのだろう。


馬車を用意しては怪しまれるので、私たちは初めて飛翔を使ってみることにした。

こういう魔法を使うのってイメージが大切なんだよね。私はファンタジー系の小説を読んだ時のことを思い出して、頭の中にスーッと二メートルぐらい飛び上がって空中に留まる自分の姿をイメージする。

「飛翔」

私が小さく声に出すと、部屋の天井付近にまで身体が上昇した。

「おっ、上手いな。飛翔!」

キリ君が叫ぶと、凄い勢いで叔父さんと同じように部屋の天井に張り付いた。

「わわっなんだ、これはどうしたらいいんだ?」

叔父さんと同じようなことを言っている。やれやれ。私はキリ君に頭の中で自分の空間の位置をイメージするように教えた。


一旦やり方を飲み込むとキリ君の方が上手く飛べるようになった。筋肉の付き方が違うのだろう。空中で身体を捻るのも軽々こなす。私の方は運動音痴らしくふらふら飛ぶ感じだ。

私たちはサラに地味な服を用意してもらって、髪の毛を布で巻いて隠し目立たないようにした。これで口元も隠してサングラスをかけたら昔の何とか仮面のようだ。


御所の裏口まで行って、こっそりと空へ飛びあがる。

人に見つからないようになるべく高い空を飛んでいった。私が怖がるのでキリ君が手を繋いでくれる。やっぱり高校生のお兄さんの手は大きいな。私も小6にしては背が高いほうだけど全然手の大きさが違う。ごつごつしていてお父さんの手みたいだった。


「この辺りだな。」

キリ君が森の近くに降りようと言うので、監獄の建物の近くにある森の藪の中に降りた。

「遠目と聞き耳を使ってみるか。」

「うん。ここでやってみたほうがいいと思う。」

「「遠目、聞き耳」」


すると、私たちの前に監獄というには贅沢な部屋のベッドに座っている二人の女の子が見えて来た。

“ハァー・・・これからどうなるのかしら。”

“麗華さま、申し訳ありません。妹の報告が全く役に立たなくて。”

“いいのよ。計画が動き出してしまったら誰にも止められないもの。あの西峰徹とかいう男は上手くやったわね。おじい様も叔父様もあの人が訪ねてきた後は目つきが変だったわ。何年も薬を飲まされていたのかもしれない。あなたが達子(たつこ)が怪しいと言ってくれて私は助かったわ。お医者様の薬がすり替えられてたなんて、誰が気づくでしょう。”

“このまま、この国は西家に乗っ取られるんでしょうか。”

“カツラお姉さまとキリヒトお兄様が、良美ちゃんに持って行ってもらったお礼状の暗号に気が付いてくれたらいいんだけど・・。でも婚約者の天子さまが、なり替わろうとした私たちを許してくれるわけがないわよね。ハァ~”

“食事を持って来た者が言っていた嫌味なんか、気にされることはないですよ。”

悲嘆に暮れている二人の少女を見ていて、怒りが沸き上がって来た。


「ちょっと、これは国家転覆の陰謀じゃないっ。罪のない人を陥れて、何てことっ。」

キリ君を見上げると、物凄い形相になっていた。

「帰るぞっ。」

吐き出したように言うと私の腕を掴んで「飛翔!」と叫ぶ。私も慌てて「飛翔!」と言ってから何とかキリ君の飛ぶスピードに合わせた。


「ねぇキリ君、お礼状って保管してあるの?」

「勝俊に聞いてみないとわからない。・・・全然気づかなかったっ。麗華があんなに悩んでたのに。伝染性の病気かも知れないから本家に会いに行かないように言われてたんだ。正臣さんと麗華が同じような病気になったからって言われて、姉さまも俺も鵜呑みにしていた。4年、4年だぞっ。あー、くそっ。」


御所について私の部屋へ帰ると、叔父さんとカツラさんがお茶を飲んでいた。

「帰ったな。おかしな事実が見つかったぞ。」

「こっちもなの。北家を陥れた者の名前がわかったわ。西峰徹、西家の人間よ。」

「征四郎さんが探し出したものも西家の領地の異変なの。」

「俺は悔しいよ姉さま。麗華が孤軍奮闘してたんだ。」


全ての方向が西を指している。

私たちは全貌を暴くためにミーティングに入った。

事態が明らかになって来ましたね。

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