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探偵

まずは・・。

 キリ君と最初に行ったのはマー君が泊っている部屋だった。夜の天子歓迎パーティーに出席するため、御所に滞在していたのだ。聖心殿は出席しないらしい。ここでも森司神(もりつかさのかみ)が政治や他の貴族に関わらないというスタンスがよくわかる。公平を期すというのは孤高なんだろうな。


「へぇ~、そんなに情報に違いがあるのか。」

マー君はのんびりしたものだ。しかし、ことは森家の予言書にも関わる話だ。できたら森家の人からの情報が欲しい。

「僕に聞かれてもわからないよ。琴音姉さんと同じような事しか知らないしね。」

「でも、お前は嫡子だろう。森家の予言書を研究している人間がいるなら知ってるはずだぞ。」

キリ君もマー君は幼馴染だから聞き方に遠慮がない。その迫力に押されて、マー君もしぶしぶ話した。

「んー、これは言っていいのか悪いのかわからないけど、二人とも昨日、大宮の深部まで入ったんだからいいよな。うちにある予言書っていうけどあれって持ち出し禁止だぜ。昨日行ったあの洞の中に置いたまんまなんだ。ほら、神棚があったろ。」

これは私とキリ君も予想外の答えだった。あそこから持ち出せないのであれば、予言書を研究できるわけがない。天珠の森の結界の中のその奥、二重結界に守られているのだ。


「あ、でもホウは? フクロウが私たちに予言の言葉を言ってたじゃない。」

「フクロウは親父の使い魔というか依り代にするものだよ。あれ自身が予言書ってわけじゃない。」

「ああ、無線機とか携帯みたいなもんか。」

「未希、そのムセンキとかケイタイって何だ?」

「うーん。これは電気を使う器具だから説明は叔父さんに聞いて。」

「何だかわからない言葉ばかりだな。」

キリ君もマー君も頭を捻っている。そうか、デンキという言葉もないか。異世界ギャップだね。


「そういうことなら俺と姉さんに天子の事を教えた人物が一番怪しいな。」

「そうね。それは誰なの?」

「んー、国家予算を決める前だったから春より前だろ・・・記憶がおぼろげになってるな。」

「来客者名簿を見ればいいじゃないか。僕はあれをいちいち書くのがめんどくさくてさ。幼馴染みに会うのに、なんでいちいち書かなきゃならないんだといつも思うよ。」

マー君のぼやきに、私も手を叩いた。

「それよっ。私と叔父さんも今日の昼に書いたわっ。」

「へー、そんなものがあるのか。」

キリ君は知らなかったらしい。


私たちは執務室に戻りながら話をした。

「三月の頭から一か月かけて来年度の予算編成作業をするんだ。だから聞いたとしたら二月だな。」

「話したのは男の人?女の人?」

「・・・男だ。うーん、そう言えばなんか一緒に言ってたな。・・そうだっ『天子さまが降臨する森は北家の領地に近いから、ますます北家の力が強くなりますな。羨ましいことです。』っていうようなことを言ってた気がする。」

「その言い方って、その人は北家の人じゃないの?」

「研究者みたいな閑職についてる者は北家の一族では少ないんだ。おじい様の権限が強かったから、北家のものは内政に関わっている者が多い。今度の事件にかかわった正臣(まさおみ)叔父さんだって、身体が弱くなかったら麗華(れいか)の父親の右腕になってたはずだよ。当主はこの国の首相をしてたんだ。和臣(かずおみ)叔父さんがこんな失態を起こすなんて信じられないよ。」

キリ君は眉間にしわを寄せて苦しそうに唸った。

     

「麗華さんの父親・・・娘と弟の起こした事件にその人が関わっていないわけがないと皆が思う・・・。」

臭うなぁ。これ、北家全体がハメられたんじゃないの?


「ああ。だから一昨日は大騒ぎさ。今、政治は完全にストップしてる。今夜の歓迎会が済んだらすぐに次の首相を決めなければならない。西家か南家に決まるだろうな。」

「東家は?」

「東家は海に面した土地だから豪快な気質の者が多いんだ。政治なんてちまちましたものはやってられないと東家の当主には言われてる。」

「ふーん。じゃあ、リストの中から西家と南家の男性を抜き出しましょう。」

「何で?」

「推理小説ではその人が死んで得をするものが犯人って決まってるのよ。」

「推理小説?そんな小説があるのか。」

うーん、ここにも異世界ギャップがあるのね。


私たちが執務室の受付のお姉さんに今年の二月の来客者名簿を見せてくれと言ったら、お姉さんが資料室に入ってなかなか出てこない。

「聞き耳」

「え、何?」

「黙って耳をすませてっ。」


“チョキチョキチョキ” “ガサガサ”


「・・・まさか、ナナも敵側だったのか。」

「残念ね。でも二人の行動を把握できる立場だし、漏れ聞こえる話もあるよね。スパイとしては最高の勤め先かも。」

「スパイって何?」

「間諜のこと。」

「そうだと思った。ハァー。」

「どうする?」

「んー。」


「すみません。お待たせしてしまって。半年も前の資料だったので、奥の方へ入ってましたわ。」

「ああ、ありがとう。征嗣(まさつぐ)が二月頃にここで会った女性にもう一度会いたいっていうもんだから。手間を取らせたね。」

「まぁ、そうだったんですか。見つかるといいですね。」

ナナさんのホッとした顔を見て、私とキリ君は確信を得た。役に立たなくなった資料だが、一応持って私の部屋へ帰って来た。

あそこの執務室は一度調べないと危なすぎる。電気がないから盗聴器なんかはないと思うけど。ナナさんのことも含めてハヤテへの相談案件だね。


ハヤテを呼んで事情を話すとすぐに動いてくれた。お茶を飲みながらキリ君が一応来客者名簿を見てみる。紐閉じになっている部分を丁寧に見ていくと、後ろの方に紙の切れ端が付いている箇所があった。

「ここか・・・。前のページが北家の冬木家の女の子、後ろのページが・・へー、偶然にもマー君だ。ちょうどいいや。この子のことを探してたことにしようっ。しかし、この二人の間に来た男か。全然覚えてないもんだな。」

「冬木家の女の子は何をしに来たの?・・・え、ちょっと待って。冬木家ってどっかで聞いた。もしかして『佐藤良子』じゃないの?」

「いや。冬木良美だ。冬木家の三女だよ。この子のお姉さんは北家の麗華の付き人をしてるんだ。・・あ、それで思い出したぞ。麗華へのお見舞い状の返事を持って来たんだ。わざわざすまないねと言ったら、滅多に御所に入れないから嬉しいですって言ってたな。」

「繋がった。」

私は佐藤良子について参日場の騒動をキリ君に話した。この人がイサジと組んでお騒がせなお嬢様をやっていたに違いない。


「次に来た男の人は、この冬木良美さんをチラッと見たから、さっきキリ君が言ってたような天子の森の話をしたんじゃないの?」

「だろうね。んー、この辺まで出てるんだけどな。なんせ研究者って地味な人が多いから。」

そんなことを言っているうちにハヤテが帰って来た。


「ご報告があります。」

ハヤテからの報告は、驚愕の真実へと続く糸口だった。


ハヤテ、早いね。

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