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神使いの術

気になる術は・・・。

 真剣な顔になった五人の顔を見て、聖心殿は話し始めた。

「『神使いの術』はみだりに発動してはならないという森家の家伝があります。なぜならあまりにも強い力であるために影響が広範囲に及んでしまうのです。この大陸全土に影響を与えるかも知れません。その事はくれぐれも心に留め置いていただきたい。事実、使われたのは615年前の動乱の時以来です。」

聖心殿がそう言うと、桂樹姫巫女(かつらぎのひめみこ)さま、桐人殿下(きりひとでんか)、マー君の三人は「おおー。」という声を上げた。私たちはこの世界の歴史を知らないので何の「動乱」なのかよくわからなかったが、六百年以上も使われていなかったのだ、今回の発動は余程のことなのだろう。


「昨日は急な事だったので、姫巫女さまと殿下には『聞き耳』と『呪縛』の二種類の術のみ説明しました。他に『飛翔』、『遠目』、『爆破』があります。この五つの術をもって『神使いの術』と言われています。」

聖心殿が話してくれたのは、まとめると次のようなことだった。


⒈ 聞き耳・・・自分が聞きたいと思った相手の話をどんなに遠くからでも聞くことができる。

⒉ 呪縛・・・捕えたいと思った相手を即座に金縛りにできる。

⒊ 飛翔・・・「飛翔」の言葉を唱えると鳥のように空を翔けることができる。

⒋ 遠目・・・見たいと思った場所を遠くからでも見ることができる。

⒌ 爆破・・・どこでも誰でも爆破することができる。


聞いてみたら恐ろしい能力だ。敵がこのような能力を持っていたら国も征服できるかもしれない。それで大陸全土に影響することがあると言ったのか・・。


「私は、帝に一番近い親族の北家が起こしたこの度の騒動を(かんが)みて、この術の開放に踏み切りました。しかしこの術は諸刃の剣です。術に溺れると自己をも滅ぼします。私は四人の性質、考えを信用しこの術の開放を決断しました。どうか使用する際には、くれぐれもご注意いただきたい。」

聖心殿の心配は解り過ぎるほどよくわかった。マー君に「使ってみて。」と言われて、殿下が殴るはずだよ。


「超人マンみたいだな。」

叔父さんが言う通り、それに近いものがあるね。呪縛はちょっと違うけど、他はだいたい映画やテレビのヒーローたちも出来ることだ。私たちも映画に出て来る超人たちのようになるということか。

これは使う時には心して使わないと・・・。


そう思いながら部屋に帰った時に、隣の部屋で「わわわっ。」と言う大きな声がした。びっくりして叔父さんの部屋へ行ってみると、叔父さんが天井に張り付いていた。

・・・叔父さん、飛翔を使ってみたのね。

「これって、降りる時にはどうしたらいいんだ?」

と聞かれたけど、私が知るわけないじゃない。

結局、降りたいと強く願ったら下に降りることが出来たそうだ。術に慣れるのも大変みたいだね。


 翌朝、私たちは都の中心にある御所に向かうことになった。

朝食の時には、昨日の昼食の気まずさが嘘のように和気あいあいとしていた。昨夜の夕食の時に色々話ができたのも良かったのだろう。それともマー君が提案した呼び名が良かったのかもしれない。私は桂樹姫巫女様をカツラさん、桐人殿下をキリ君、征嗣さんをマー君、琴音さんと勝俊さんはそのままコトネさん、カツトシさん、伽耶宮さんはカヤさん、遥ちゃんはハルちゃんと呼ぶことになった。聖心殿は変わらず聖心殿だけどね。あの人にはアダ名は似合わない。


カツラさんとキリ君、マー君、叔父さんと一緒に呪文で転移して天珠離宮(てんじゅりきゅう)へ向かう。

転移した先は離宮の裏玄関だった。

ここは三階建ての大きなホテルのような建物だった。建築様式は西風というらしい。レンガの壁にはアイビーのような蔦が這っている。

私たちが急に現れたので、裏口を警備していた警備員や使徒が驚いていた。その中にコテキの姿があったので、私と叔父さんはコテキに駆け寄る。

「コテキっ、大丈夫だった? 上手くいったとは聞いたけど、みんな元気?」

「はい。未希さま、征四郎さまもご無事でなによりです。皆もここに揃っています。征四郎さま、お借りした服は昨日、サラたちが洗濯してくれました。後でお返しします。」

「そうか。あの服は僕よりコテキに似合ってたのにな。僕にこっちの服を一着用意してくれたらあげてもいいよ。」

叔父さんの言葉にコテキは喜んだ。

「本当ですか?! アサギリに服が一式用意できるか聞いてみますっ。」

「いいなぁ、私の服も買ってー。記念に持って帰りたいの。サキチが着た服は好きにしていいからさ。」

私もここぞとばかり便乗した。

コテキは未希さまの願いも叶うようにいたしますと請け合ってくれた。

やったー。お土産が一つできたぞっ。


「未希も征四郎も使徒たちと仲がいいんだな。」

キリ君がそう言うので頷いた。

「何度も困難を一緒に乗り越えて来たからね。」

「ふーん、ちょっと羨ましい。俺の周りにはピリピリした従者が多いからな。」

殿下も大変だね。王子様というと恵まれた環境に住んでいるように思うけど、現実は違うんだろうな。


天珠離宮の建物の中に入って応接室に通されると、そこにはマユとユタカがいた。

「未希さま征四郎さま、使徒は全員無事です。今、アサギリたちは御所に移動する準備をしております。」

「よくやった。ユタカ、サキチたちのチームを引っ張ってくれてありがとう。みんな無事で何よりだ。・・ところでサキチは男だとバレなかったのか?」

叔父さんもそこを聞くのね。聞かれたユタカも喜んで答える。

「御所に入るまでバレませんでした。あいつはなかなか演技が上手いです。コテキに引っ付いて『叔父さんっ、この人たち怖いっ。』とかノリノリでやってました。」

それを聞いてマー君が喜んだ。

「面白れぇ~。そいつに逢ってみたいな。」

「じきに逢えますよ。一緒に御所に行くんですから。」

マー君がサキチを(もてあそ)ぶところが目に浮かぶ。あんまりいじめないでよねー。


天珠離宮からは馬車で都に移動するらしい。

・・・しかし用意された馬車を見ると、馬車は馬車でもオープンカーだったのだ。よく皇室や王族の結婚式で使われるアレである。

沿道の都の人たちの声援がすごい。それは千年に一度だもの、四年に一度のオリンピックパレードよりも期待値が大きいのかもしない。

私たちは桂樹姫巫女さまと叔父さん、桐人殿下と私のカップルで二台の馬車に分かれて沿道を進むことになった。

うーん、これはなかなかできない経験だね。終いには腕がだるくなって笑顔が引きつって来た。

目前に大きな御所の建物が見えた時には心から安堵したのだった。


やっと御所に着きましたね。

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