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天珠の秘密

天子降臨の真実とは・・。

 昼食の後、天子降臨の真実を教えてくれるということで、私たちは聖心殿の後に続いて住居棟の裏にあった渡り廊下を渡っている。この渡り廊下は大きな天樹に続いているのだが樹にぶち当たって行き止まりに見える。

しかし先頭を歩いていた聖心殿は、足を止めることもなくスッと樹の中へ吸い込まれていった。

すぐ後ろを歩いていた桂樹姫巫女(かつらぎのひめみこ)さまは、一瞬躊躇したけれど手で樹を探るようにしながらまた樹の中へ入って行った。

・・・どうやら許されたものは樹の中へ入れるらしい。シュールだね。


私の番になって、止まりそうになる足を無理やり前に進めてみたら、幾層もの空気の(かたまり)を潜り抜ける様な感じがしたかと思うと、つるつると磨かれた木の(うろ)のような部屋へ入っていた。中は意外に広かった。八畳以上はあると思う。正面に神棚があって、榊のような緑の葉が祀られていた。

「お座りください。」と言われて、聖心殿の右側に帝と桐人殿下が、左側に叔父さんと私が座り、円座の最後を閉じるようにマー君が座った。


こちらでは胡坐座が正式な座り方だと聞いていたが、儚げな美女に見える桂樹姫巫女さまも胡坐座で座られたのにはちょっとドキッとする。でもそれで女性もみんな袴を履いているんだろうな。

全員が落ち着いたのを見計らって、おもむろに聖心殿が話し始めた。

「まずは先程、征四郎さまからお話のあった疑念から釈明させて頂きます。私が予言書から得ていたお告げは天子さま方が無事に都にお着きになるという事だけ。北家の野望を天下に晒してやろうという企みは持っておりませんでした。ただ、北家が何か妙な動きをしていることは知っていました。しかし、森家は政治に関わることを(いみ)とされております。五大家の他の四家に関わることは許されておりません。そのため事態を静観しておりました。」

聖心殿の言葉を受けて、桂樹姫巫女さまが話し始めた。

「叔父上の言われたことは真実です。私が気づいておじい様を止めるべきでした。天子さまに不安な思いをさせてしまい誠に申し訳ありませんでした。」

姫巫女様が鈴の鳴るような透き通った声で謝罪の言葉を述べてくれた。そして殿下と一緒に二人揃って頭を下げてくれたのだが、桐人殿下は屈辱を受けたような苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。

そうか、北家の統領ってお二人の実のおじいさんになるんだね。一番近い身内の失態だものこれは(こた)えるだろうなぁ。それで殿下はずっと機嫌が悪かったんだ。


「謝罪を受け入れます。お身内を信じたい思いは強かったでしょう。使徒たちも全員無事だったことですし、私たちからはこの度のことについては不問にしたいと思います。ただ、原因は究明しておくべきだと思います。今後の為にも有耶無耶にしていいこととは思えません。」

叔父さんがそう言うと、姫巫女さまも「そこはハッキリと真実を明らかにします。」と答えられた。


「それではまず、天珠の森に祀られている「天珠」についてお話ししたいと思います。」

場の様子を見て、再び聖心殿が話し始めた。

「この天珠は創世の世よりこの地にあると聞いています。この世界では最初の天子降臨からこの世が生まれたと言われています。天珠は天子さまが創ったこの世界を見守る役割を与えられているのです。その天珠の意思を予言という形で時の執政者に伝えるのが森司神(もりつかさのかみ)を代々預かる森家の仕事。ただ先ほども言いましたが伝えるのみの仕事です。決して(まつりごと)に関わってはならぬと言われています。」

この話は嫡子のマー君に聞かせる意味もあるのだろう。聖心殿はマー君を睨んで話しているようにも思える。マー君が跡継ぎだと、ちょっと不安なのは私もわかるよ。マー君は親のそんな思いを知ってか知らずか黙って神妙に話を聞いている。


「さて、天子降臨がなぜその後も続いたのかということですが、一つには創世の天子の子孫が自分たちの作った世界の移り変わりを確かめたいと思ったこと。また一つにはこの世界で天子の血を濃く受け継ぐ帝の権威を保つためと言われております。」

「ちょっと待ってください。と言うことは我々の祖先がこの世界を創ったと言うのですか?」

「そうです。征四郎さまと未希さまの祖先が最初の天子ということになります。あまりにも長い歴史の為その言い伝えは子孫の中に残っていないのでしょう。」


「帝の権威を保つとは、具体的にどうせよという事なのだ? 昨日、聖心が言った結婚などという世迷いごとを本気にしろというのか? そのためにカツラを巫女の立場にし、私に結婚を遅らせろなどというお告げを話したのか?!」

あらら、桐人殿下も結婚には賛成してなかったのね。そうよねー、会ったこともない人間と、それも異世界人と急に結婚しろなどと言って納得できるわけがない。


「ここが判断の難しい所なのです。『姫様を巫女に、殿下の結婚はこ(たび)の天子降臨の後にせよ。』というお告げがありました。そして私は降臨される天子さまの年齢を見て、ちょうどお二人に相応しい方々だと思ったのです。天珠は皆さんが結ばれることを望んでいるのではないかと判断しました。征四郎さまと未希さまにお会いして、よりその感を強くしております。」

ちょっと聖心殿、貴方の希望的推測なのぉ?!


「あのー、それは聖心殿の考えでお告げではないのではないでしょうか。第一、異世界の人間と結婚するというのは無理がありますよ。あっちとこっちに離れて結婚生活もないでしょう。それに私たちの世界では女性の結婚は最低でも十六歳以上からなんです。私は十二歳ですよ。犯罪です。」

「意外にも意見が合ったな。私も未希殿の意見に賛成する。」

私と桐人殿下の言葉に、聖心殿もいったん自分の説を引っ込めた。

「わかりました。お二方がそのようなお考えなら、はっきりした予言があるまで待とうと思います。」

・・・まだ諦めてないのかしら。困った人だなぁ。


「すみません。と言うことは、天子の使命って何なのでしょう。」

叔父さんが当然の疑問を聖心殿に尋ねる。

「私は、結婚と思っておりました。」

(こだわ)る人ね。マー君のお父さん。

「今までの話を聞いて僕が思ったことは、僕たちは基本、この世界を眺めて帰ればいいんだよね。そして帝の権威を回復できるように何かちょっとお手伝いできたらいいんじゃないの?」

叔父さんが綺麗にまとめてくれた。


聖心殿はまだ納得していなかったが、私たち四人は概ねそうだねと頷き合った。マー君はそんな私たちをニヤニヤと面白そうに眺めていたが「一つだけ僕の意見を言っていい?」と言って、皆の呼び方が堅苦しすぎるという斜め上の意見を言った。

「公的な時以外は、カツラ、キリ、セイ、ミキ、マー君で行こうよ。仲間なんだからさ。」

「どうして自分にだけ君がついてるんだ?」 

「『マー』とは呼びにくいだろ。」

「それを言ったらマサでもいいんじゃない?」

どーでもいい事で幼馴染みの三人が言い合いを始める。


若者たちのノリに困ったのか、聖心殿が咳払いして場を静めた。

「ウオッホン、もう一つ大切なことをお伝えしておりません。森家の秘伝『神使いの術』のことです。」

この事は、みんなも興味があるのか一瞬にして場が静まった。


マー君が出て来ると途端に場が緩むね。(笑)

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