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出会い

いよいよ・・・。

 ポルトに昼食だと呼ばれて、一階にある食堂に案内された。私たちが入って行くと、中にいた人たちが一斉に立ち上がる。こんなに大勢の人がいるとは思わなかったので、驚いて後退りしそうになった。

「天子さま、どうぞこちらにお座りください。」

どこかで聞いたような低い声がしたのでそちらを伺うと、長い灰色の髪をした壮年の男性が鋭い目で私たちを見ている。どうもこの人が聖心さまのようだ。

私が雰囲気にのまれているように見えたのか、「失礼します。」と言って叔父さんが先に歩いて行ってくれた。私も気持ちを立て直して叔父さんの後に続いた。

誰へともなくお辞儀をして椅子に座ると、そこにいた人たちも一斉に座った。ひぇ~、何?この緊張感。マー君の家族の人だよね。えらく雰囲気が違うんですけど・・。


「天子さま、ようこそ大宮へ。私は森家の当主、森司神聖心(もりつかさのかみせいしん)と申します。お見知りおきください。こちらにいらっしゃる方を紹介させて頂きます。我が国の帝であらせられる桂樹姫巫女(かつらぎのひめみこ)様、弟君の桐人殿下(きりひとでんか)、そしてお付きをしております娘の琴音(ことね)と甥の勝俊(かつとし)です。隣におりますのは妻の伽耶宮(かやのみや)、嫡男の征嗣(まさつぐ)、末娘の(はるか)です。今後、天子さまに親しく関わる者たちです。すぐには無理でしょうが、名前を覚えていって頂きたい。」

聖心さまが一人一人名前を呼ぶたびに、みんな軽く目礼をしてくれた。私としては桂樹姫巫女さまと桐人殿下がこの場にいることにびっくりした。御所に行かないと会えない人だと思っていたのだ。思わず二人をじっと見てしまった。


桂樹姫巫女さまは(はかな)げな感じの美人で、薄紫のレースを重ねたような紗の着物を着ている。隣に座っている桐人殿下は冷たい目で私たちを睨んでいる。・・・この人が結婚相手ぇ。勘弁してよ。ハンサムではあるけれど、こんな怖そうな人と短い時間でも一緒にいたくないよー。

姫巫女さまのお付きの琴音さんという人はショートカットの髪の快活そうな人だ。この人は中身がマー君に近いかもしれない。目の中が笑ってるように見える。殿下のお付きの勝俊さんは、真面目そう。アサギリみたい。

奥様は、ふくよかで朗らかそうな人だ。マー君はお母さんに似たんだね。遥ちゃんは小さくて私より年下っぽい。

そして、聖心さまはイメージ的に仙人だ。厳格で静かで、この場の雰囲気をつくっている。


「ご紹介ありがとうございます。僕は遠山征四郎です。貿易関連の会社に勤めています。こちらは姪の成瀬未希です。よろしくお願いします。」

私たちも軽く目礼をして挨拶をした。

「ところで聖心さま、失礼ですがその声・・貴方が予言書のフクロウだったのですか?」

叔父さんが急に何を話し出したのかと思ったが、言われて見れば聖心さまの声は確かにホウの声だ。道理でさっき聞いた時、どこかで聞いた声だと思ったよ。


「確かに。フクロウを依り代に声を届けておりました。征四郎さま、私のことは聖心とお呼びください。貴方様は、天子という身位ですので。」

「いえ、森家の当主で神の名の付く方をそう呼ぶわけにはまいりません。僕たちの帰り道を握っている方ですからね。聖心殿と呼ばせて頂きます。聖心殿、僕たちはわけがわからないまま、貴方に『やらなければならない使命がある』とだけ言われてこの世界に連れてこられたわけですが、先程から桐人殿下に睨まれているようですし、歓迎されないのであればいつでも帰る用意があります。北家がやろうとした事を考えるとこの国はあまり安全とは言えないようですね。姪の両親に何も言わずにこの世界に連れて来てしまった保護者の僕としては、未希を無事に連れて帰ることが一番の優先事項です。貴方は・・・最初から予言を得ていて、僕たちや使徒のみんなを餌にして、北家の野望を白日の下に晒したんですか? 貴方が予言書の声だと考えると、そんな疑念も芽生えてしまいます。何もわからないまま、貴方の操り人形になるのは勘弁してほしいですね。是非ともハッキリと使命とやらを教えてもらえませんか?」


ひえ~叔父さん、言い切っちゃったよ。いつになくカッコいいけど、こんな大物たちを前によく言えたね。空気がいっそうピリピリしてきた感じがする。


すると聖心さまがフッと笑って、頭を下げた。

「征四郎さま、私は神からの予言を今ほど感謝したことはありません。やはり貴方様はこの国に必要な方、千年の時を経て舞い降りられた天子さまなのです。こちらまで出向いていただいた以上何も隠しはいたしません。征四郎さまと未希さまの疑念に、真摯に応えさせていただきます。」

何だか知らないけど、叔父さんの先制パンチが効いたみたい?

でもやっと使命の真実がわかる。マー君もあれから頑なに口を割らなかったから、結婚の話も何か今一つ信じられなかったんだよね。


 しかし天子降臨の真実は、私と叔父さん、帝と桐人殿下そして森家の当主、嫡男の六人の間だけの秘密らしい。「これは秘中の秘なのです。」と言われたら、話を後にせざるを得ない。

どこか不完全燃焼のような微妙の空気の中で昼食会は始まった。お互いをチラチラ見るが、誰も最初に口を開こうとしない。

「あーもうっ、辛気臭い。お通夜じゃないんだから。キリ君、その眉間のシワをなんとかしなさいっ。それに貴方も。天子降臨の内情は簡単には話せないけど、ここで話せる話もあるでしょう。両方を知ってるのは貴方だけなのよ。何か会話のきっかけと言うものがあるでしょうっ。」

聖心殿の奥さんがとうとう切れて叫んだので、営業畑の叔父さんが気を利かせてその言葉に続けた。


「それでは奥様、私が気になっていることがあるんですが質問してもよろしいですか?」

「ええ、何でも聞いてくださいな。」

了承を得たので叔父さんがにこやかに質問する。

「奥様のお名前は伽耶宮(かやのみや)と仰るそうですが、私たちの世界では「宮」がつくと天皇に近い親族になるんです。ここで言うと帝に近しい方なのかなと思ったんですが、何か関係がおありなんですか?」

それを聞いて奥様は叔父さんににっこり笑って頷かれた。

「名前を直ぐに覚えていただけて嬉しいですわ。そちらの世界と同じような習慣もあるんですね。私は亡くなった先の帝の妹なんです。なのでカツラギ姫やキリヒト殿下は姪と甥になります。ですから普段は二人のことをカツラ、キリ君と呼んでるんですの。」

「そうなんですか。それではここにいる皆さんは近しい親族になるんですね。」


叔父さんに聞かれて、お付きをしている方の娘さん、琴音さんがにこやかに答えてくれる。

「ええ。近い親族でないとこの天珠の森に入れないんです。うちの父の血が結界を作っているものですから。」

え?! 血で結界を作るのぉ? 気持ち悪い。

私が引いたのがわかったのか、聖心殿がすぐに言い訳をする。

「琴音、お前は言葉が足りない。未希さまが驚かれているだろう。血と言っても、この大宮に祀られている天珠と呼ばれる宝玉に一滴捧げるだけです。天珠が次の森司神(もりつかさのかみ)を決めるとその効力は次代の血族に移るのです。だいたい三親等までの親族に結界の守りが効きますね。ただ、天珠が人を選ぶのです。血が濃くても森に入れなくなるものはいます。」

・・・そんな・・家族で入れない人が出てきたら困るんじゃない? そんなことを言うということは、過去にそんな例があったということよね。


じゃあどうして私たちが天珠の森に入れたんだろう?と思っていたら、その事も含めて聖心殿より、天子降臨の真の意味を語られることになったのだった。

天子降臨の真実とは・・。

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