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天珠の森

天子の使命・・。

 昨夜は遅くまで叔父さんと話をしていた。マー君は爆弾を落とした後でしまったと思ったらしく、そそくさと食事を終えると「僕、温泉に入ってきまぁーす。」と言っていなくなってしまった。

残された叔父さんと私は「やらなければならない天子の使命」とやらについて、頭を抱えていた。

誰が異世界に呼ばれて勝手に結婚をさせられると思う?

普通じゃないよね。・・まあ、ここに来ていることからして普通じゃないんだけど。


「俺は、相手次第だな。美人だったらいいけど。」

なんていう叔父さんを叩いた。

「結婚よ叔父さん。恋人になるのとは違うのっ。異世界の人とどうやって結婚生活をするのよっ。それより前に、予言書に言われてはいそうですかと結婚できるわけないじゃないっ。私は小学生なんだし。」

「確かになぁ。・・・そうか、千年前って言えば日本でも十二、三歳で結婚してたんじゃないか?予言書も現代知識が欠けてるんだよ。」

もう、何が何だかわからない。二人で話し続けても解決策が見えてこなかったので、聖心さまとやらに会った時に相談してみることにした。マー君の親だと思うとちょっと頼りないけど、さすがにあそこまで軽くないだろう。


 朝、皆で宿を出て馬車で草原の中を走って行くことになった。マー君は馬で大町まで来たらしく、真っ白な裸馬に騎乗して私たちの馬車の横を颯爽と走っている。見た目だけなら白馬の王子様なんだけど・・・。

「すげえな。こんな大草原の中を裸馬で走るなんて西部劇みたいだ。」

叔父さんは馬車の窓を開けて惚れ惚れとした顔でマー君を見ている。・・・埃が入るんですけど。

一般の人は天珠の森に行くことがないので、この草原には道がないのだ。なので快適な道中とはいえない。しっかり口を閉じていないと舌を噛みそうになる。


馬車のスピードが段々と弱まって止まった時には、濃い緑の森が目の前にあった。

私と叔父さんは馬車を降りて、久しぶりにリュックサックを背負った。マー君は、馬からひらりと降りて「ありがとー、またなっ。」と言いながら馬を草原に返した。どうも野生の馬に頼んで時々乗せてもらうらしい。馬に頼むって・・そんなこと出来るんだ。

「この森に沿ってずっと右に行ったら天珠離宮(てんじゅりきゅう)に着くから。君達の仲間もそこに詰めてると思うよ。御所に行くことになったら連絡するからそれまで離宮でゆっくりしといて。」

マー君の大雑把な説明にアサギリも頷く。

「それでは、征四郎さま、未希さま。ご無事で。」

「アサギリもみんなも、ここまでありがとう。また後でなっ。」

「たぶんすぐ会えるよね。みんなも気をつけてね。」

「はい。」「未希さま。」「征四郎さま。」

みんながお辞儀をして見送ってくれる。

こちらの世界に来てずっと一緒だった使徒の皆と別れるのは心細いけど、天珠の森には使徒が入れないというのだから仕方がない。


私と叔父さんはマー君の後について森の中に入った。

「ここから大宮までどのくらいあるんですか?」

「ん?一瞬だよ。あっ、来た来た。」

マー君が見上げた先を見るとホウが私たちの方へ飛んできていた。

「この世界に来る時に使った呪文があるでしょ。あれはここの結界の中なら使えるから。」

「えっ、覚えてない。」

と言ったが、頭の中に呪文が浮かんできた。

「・・・覚えてるみたい。」

「俺も。」

「あれの最後にオオミヤをつけたら飛べるよ。」

へぇー、便利。私たちは側に来てくれたホウのふわふわの羽に掴まって、三人で呪文を唱える。

「「「【マカオノラ ホクホケイ ラルート オオミヤ】」」」


花の匂いが濃くなってきて、目の前の景色がぐにゃりと歪む。眩しい白い光に包まれたと思ったら、「ようこそ大宮へ。」というマー君の声が聞こえた。

そこには直径が何十メートルもあるような大樹が立っていた。そのすぐ前にログハウスのような木だけで建てられた大きな邸宅があった。

神社のお社のような建物を想像していたのでびっくりした。

「なんか、思ってたのと違った。」

「宮と言われると日本人は神社を想像するよな。」


「どうぞ入って。今日は天気がいいから母さんたちは畑だと思う。親父はまだ御所にいるだろうし、皆が帰って来るまでゆっくりしてください。二人の部屋へはポルトが案内するから。」

そう言われて玄関を見ると、いつの間にやって来たのか私より背の低いお爺さんが立っていた。

「天子さま、いらっしゃいませ。私は森家の家令、ポルトと申します。天珠の森に棲む小人族です。ここには他に巨人族もおりますので驚かれませんように。」

私たちがポルトを見て驚いていたので、巨人族のことも教えてくれた。小人に巨人?! 叔父さんもこれで異世界に来たかいがあったかも。


案内された部屋は洋風のベッドのある部屋でこれまでの旅で泊まった畳部屋の旅館とは全然違った。お宮って言うぐらいだから日本風かと思っていたのに正反対だ。叔父さんは隣の部屋らしく、中が扉で繋がっているようだ。私は部屋の中で靴からゴム草履に履き替えて、叔父さんの部屋への続き戸をノックする。

「おー、いいぞ。」

扉を開けると叔父さんは部屋の外のベランダへ出て椅子に座っていた。二階なので、眺めがいい。大きな樹の枝の隙間から、耕された畑のようなものが見えた。

「あっちに畑があるみたいね。」

「うん。最初にチラッと赤い服が見えたから、マー君のお母さんかなと思った。」

「なんかリゾート地のホテルみたい。」

「だなー。小人に巨人なんて聞かなかったら、元の世界へ帰ったみたいだな。」


ポルトが冷たい飲み物を持って来てくれたので、私と叔父さんは昼食までの間ずっとベランダで話をしていた。木漏れ日が射すベランダで心地よい風に吹かれていると、北家の(たくら)みとか天子の使命とかどこか遠い世界の出来事のようで、心から寛げたのだ。


しかし、昼食には運命の出会いが待っていた。


とうとう大宮まで来ましたね。

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