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温泉

盆地の中町を出発して・・。

 中町を出発してしばらくは川沿いの道を進んでいたのだが、次第に登り坂になってきて高原地帯へとやってきていた。

「なんかキャンプ場に行く時みたいな景色だなぁ。」

「未希さま、きゃんぶ場とは何ですか?」

「えーと、サラが湖の白い樹の所まで私と叔父さんを迎えに来てくれたでしょ。あの時私たちが使っていたテントを片付けてたよね。」

「はい。てんとは教えてもらいました。野外で寝る時に使うんですよね。」

「そう。あんなふうにテントを持って行って泊まる場所のことをキャンプ場って言うの。山の方にあって、家族や友達と遊びに行く場所だよ。」

「まぁ、わざわざ屋外で休むために遊びに行くんですか?!」

・・・サラの言い方を聞いていると、私たちの世界の人間は変わり者の物好きに思える。んーと、説明が難しいな。叔父さんが波留の宿で科学技術の説明に困ってたハズだよ。


高原地帯を抜けると道は少しずつ下って行き、何処までも続く大平原の入り口に今夜、宿をとる大町の町並みが見えて来た。

「未希さまお疲れさまでした。今日はゆっくり温泉に入れますよ。ここ大町は保養地なんです。都の近くにある別所温泉のように賑やかではありませんが、鄙びた山奥の温泉として知られているんですよ。」

アサギリが嬉しそうにそう教えてくれた。

温泉なんて久しぶりだ。叔父さんがアメリカに行く前におばあちゃんたちと皆で行ったのが最後じゃなかったかな。


馬車が入って行ったのは、綺麗な庭のある温泉宿だった。花が咲き乱れているカントリー調の庭があり、宿の外観も木組みとレンガが混在としているこっちの国でよく見る形の建物だったが、玄関の辺りだけがそこはかとなく日本の温泉旅館の雰囲気があった。


部屋に案内されるといつものようにハヤテが安全を確かめてくれる。チェックが終わると使徒の皆が部屋を出て行くので、サラたちに着替えを持ってすぐに来てねと頼んでおく。

ここには本当に大浴場があるらしいので、サラとマユと一緒に入りに行く予定だ。今度はお背中流しますじゃなくて、修学旅行風に皆で温泉に入りたいと言っておいた。サラはちょっと躊躇していたが、私たちの世界の修学旅行の話することと引き換えに、一緒にお風呂に入ることを了承してくれた。段々とサラとの付き合い方がわかってきた感じがする。サラは異世界の話に興味津々なので、それを餌にするとこういう無理は聞いてくれるようになった。


私は驚いている。あの巫女のような着物姿はスタイルを隠してしまうんだね。

サラが・・・ナイスボディなのだ。こんなに胸が大きいとは思ってなかった。腰もキュっとしまっていて叔父さんの部屋にあった水着姿のピンナップガールみたいだ。ちょっと目のやり場に困ってしまう。女同士でも恥ずかしいよ。マユと目を見合わせて、何も言わないで温泉に入ることにした。

「・・・ねぇ、こっちの世界ってブラジャーってあるの?」

「ぶらじゃあ?何ですかそれは。」

「えーと、胸を落ち着かせる布?動き回る時に揺れないようにして、形を整えるっていうか・・・。」

「着物を着たら胸は落ち着くので、特別に胸に当て布をしたりはしませんね。」

「そうか、そうだよね。じゃあ、水着なんかもないんだ。」

「水に入る時の着物はありますよ。」

サラが説明してくれたのは、海に潜る海女さんたちが昔着ていたような白い着物だった。最近は海女さんもスエットスーツだから私も歴史の資料集でしか見たことないけどね。

でもあれじゃあサラのせっかくのスタイルが泣くよね。サラにビキニを着せてみたいなぁ。叔父さんが喜びそう。あ、でも既婚者だから旦那さんのナギに怒られるか。


「そう言えばナギって何歳なの?サラとはいつ結婚したの?」

「ナギは17歳です。去年16の時に一緒になりました。船の仕事をしてたので結婚するのに一年待ったんですよ。」

「へぇ~。アサギリが、ナギは忍術の鍛錬もしてるって言ってたけど、船の仕事もしてたんだね。」

「ええ。兄さんが内政、ナギが外政の仕事を請け負えるように育てられましたから。」

「えっ?使徒の村の村長さんの手伝いをするってこと?」

「まぁ、征四郎さまのお役に立つためですよ。」

「あっあぁ、天子の仕事に関わることか。・・・そう言えばどんな仕事なんだろうね天子の役目って。あんまり時間がかかったら帰りの日にちが取れないよね。今日はもう7月30日でしょ。帰るのにも余裕を持って8日ぐらいの日程をみとくと、8月13日前後には都を立たないと22日には帰れないし・・。」

私がそう言うと、今度はサラとマユが顔を見合わせて私がおかしなことを言ったかのように諭された。

「未希さま。天子降臨は千年に一度のことなんですよ。そんな十日あまりの役目とは思えません。せめて1年ほどはいて頂かないと・・。」

「えっ、だって私も学校があるし叔父さんも仕事があるんだよ。それに予言書にも8月22日には帰れるって書いてあったし・・。」


「それが『時の狭間』という事なんじゃないでしょうか。1年後の8月22日ということなんですよきっと。」

今まで黙っていたマユがポツリと言ったことを聞いて私は驚いてしまった。

「ええーーーーーっ、私たちって、1年もこっちにいるっていうこと?!」

温泉の湯気が漂う大浴場に、私の大声が響いたのだった。


・・・思っていたより長丁場になりそうです。

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