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小町会議

コテキやサキチたちと別れて・・。

 夜遅く片瀬港から歩いて、隣町である小町にやって来た私たちは、町外れにある一軒の家の戸を叩いた。

不審そうな声を出して玄関の戸を開けてくれた人はアサギリの顔を見てびっくりしていた。

「まぁ、アサギリじゃないのっ。こんな夜更けにどうしたの?!あなた、天子さまの従者になったからこの夏は忙しいって言わなかった?」

「そのことで折り入って頼みがあるんですよ、伯母さん。黙って仲間を家に上げてくれませんか?」

「・・・誰かが訪ねて来るなんて思わなかったから掃除をしてないわよ。それでもいいんだったらどうぞ。」

アサギリのおばさんという人は、私達八人を快く家に入れてくれた。私と叔父さんを見てハッと息を呑んでいたが、何も訪ねることはなかった。


おばさんがアサギリと少し話した後で、台所で食事の準備をしてくれているようだったので私たちも手伝いに行った。

「まぁ、天子さまに食事の準備をしてもらうわけにはまいりません。」

「私は天子と言われていても、ただの小学生です。急な迷惑をかけているんだから手伝わせてください。これは、少しですが仕度の足しにしてください。」

おばさんは私が渡した乾燥野菜を不思議そうに眺めていたが、サラがそれで味噌汁を作るとびっくりしていた。

私は出来た料理をマユと一緒に座敷に運んでいった。そこではこの家のご主人だろう、茶色の髪をした男の人と、10歳ぐらいの男の子も混じって作戦会議が開かれていた。


「お腹を満たしてから会議をしてくださいな。」

「おっ、味噌汁か。いいな。」

二日酔いには味噌汁がいいらしい。お母さんがよくお父さんに作っていたけれど、叔父さんも同じ考えのようだ。一番に手に取って美味しそうにすすっていた。


急ごしらえの夕食だったが、サラは伯母さんの台所に馴染んでいるらしく、二人であり合わせとは思えないご馳走を作ってくれた。皆で遅い夕食を美味しく頂いて、再び作戦会議に入る。

「やはり都の御所へ直接行くよりも天珠(てんじゅ)の森の大宮を目指した方が良さそうですね。」

アサギリの言う天珠(てんじゅ)の森は都の南東に位置する深い森だそうだ。ここには天子の森のような結界が張ってあって、関係者でなければこの森に入ることは叶わないそうだ。天珠の森の奥深くに大宮が祀ってあり、この大宮へ森一族の長である森司神聖心(もりつかさのかみせいしん)の一家が住んでいるそうだ。


聖心(せいしん)さまを頼った方がいい。先の帝が北家の娘と婚姻をしたこともあり、都は北家の手の者が多い。北家の本家の長女、麗華(れいか)さまと当主の弟である正臣(まさおみ)さまは病がちで貴族の社交の場には長年出てこられていないと聞いている。その二人が天子の座を狙っているということなら、この度のなり変わりは長い時間をかけて計画されてきていたことだと思われる。御所の帝に近しい地位にある者、森家の予言書を研究できる立場の者がいなければ、このような機会をとらえての天子さまの排除を計画できないだろう。」

アサギリの伯父であるトコロは、私たちに淡々とそうアドバイスした。

この人は参日場(みっかば)出身の学者で、アサギリの伯母さんとこの国では珍しい恋愛結婚をしたらしい。

子供も八人いて、ここにいる10歳の男の子、トモくんが末っ子だそうだ。トモくんは黒っぽい茶色の髪をしていた。明るい茶色の髪の人が多いこの国では少し珍しい。そんな見た目の雰囲気もあるのか、彼は10歳とはいえ私たちの世界の小4の子よりもしっかりしてそうな印象を受けた。


「伯父さん、明日の朝貸し馬車を二台用意してくれませんか? 伯父さんの言われるように大宮に向かうことにします。」

「アサギリ兄さん、念を入れて別の貸し馬車屋から馬車を借りたほうがいいと思う。僕が一台手配してくるよ。」

「トモは馬車を操れるのか?」

「うん。春のはじめに母さんに習ったんだ。」

「こんなことになるとは思っていなかったけど、どこか勘が働いたんだろうね。トモに教え込んどいて良かったよ。」

伯母さんは、私のお手柄だったねと威張っていた。さすがアサギリとサラの親族だ。何かしら有能らしい。


 翌朝、トコロさんとトモくんが二台の馬車を操って中町の外れまで送ってくれた。ここで、トコロさんたちとは別れ、私とサラとアサギリが乗った馬車をハヤテが操り、伯父さんとマユとケヤキが乗った馬車をナギが操って中町の宿まで行った。


中町は山に囲まれた盆地になっているらしく、私たちが到着した時には少し蒸し暑かった。でも宿の近くには川が流れていたので、夜が更けて来ると気持ちのいい川風が吹き抜けて来た。私たちの部屋の軒に吊るしてある風鈴が、チリリリンと涼やかな音色を聞かせてくれる。

「いい音だな。のんびりする。」

「そうだね。ここんとこ、バタバタしてたから久々に落ち着いた気分。」

「しかし馬車っていうからもっとガタガタして乗り心地が悪いかと思ってたら、案外快適だったな。」

「うん。スプリングが効いてた。サラに聞いたけど、リグランド国からの輸入品らしいよ。汽車もそうなんだって。天樹国は何を輸出してるんだろうね。」

「鉱石や絹、陶器が主要産業らしい。名嘉真(なかま)港や天開の港からエメンタル共和国諸州やリグランド国に向けて貿易船が出てると言ってた。」

「鉄道では輸送してないの?」

「鉄道は出来たばかりらしいから、鉄道で大陸間を繋ぐのはまだまだこれからだろう。」

「ふうーん。この世界って、叔父さんが言ってた明治時代の初めって感じだね。」

「そうだな。文明の(あけぼの)をこの目で見られるとは感慨深いな。」

私と叔父さんは宿のふかふかの布団に寝転んで、だいぶ長いこと話をした。そう言えば二人っきりで気の置けない話をするのって、何日ぶりだろ。布津賀(ふつか)の宿以来かな。一週間近くゆっくり話せてなかったんだ。使徒の人たちとも気の置けない仲間になったけど、たまにはこうやって二人で話すのもいいな。


風鈴の音を聞きながら、私たちはいつの間にか眠っていた。

宿の庭の木にホウが止まってうつらうつら寝入りかけていたのには、少しも気づいていなかった。


ゆっくりおやすみなさい。

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