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間諜?

布津賀村に着いて・・。

 宿の部屋に通されると、そこは畳の部屋だった。おかみさんが部屋の説明をしている間にコテキが部屋の中を(あらた)める。コテキがアサギリに頷くと「お風呂の用意をしてまいりますので、それまでお寛ぎください。」と言って使徒の皆が出て行った。

一日ぶりの二人きりだ。叔父さんはやれやれと言って、畳にごろんと寝ころんだ。私も靴下を脱いで壁に背中をつけて座り込む。

「至れり尽くせりはありがたいけど、疲れるね。」

「ああ、はじめての人間がたくさん周りにいると気を遣うよ。」

へえ、叔父さんでも気を遣うんだ。


「なあ、未希。村長が言ってたことどう思う?」

「この世界に天子が6人召喚されてるってこと?それとも御所にいる桂樹姫巫女(かつらぎのひめみこ)さまと私たちが同じ地位っていうこと?」

「どっちもだな。使命のことを考えるとなんか政治的な臭いがするんだよな。魔獣や魔王を倒せっていうんなら、この国の王様と同じ地位になんてしないだろ?」

「それより前に私たちを選ばないでしょ。もっと強い人はいっぱいいるんだから。でも叔父さんの言う政治的なことを求められたって、小学生とサラリーマンじゃ太刀打ち出来ないじゃない。」

「・・だな。あー、わけわからん。」

「考えても仕方ないよ。都へ行けばわかるんじゃない?村長さんも大宮のご神託とかなんとか言ってたじゃない。」

「そうか、ケセラセラか。」

「うん。異世界見物に来てるって思えばいいよ。」

「お前、来る前とは違って腹が座ってるじゃん。」

二人で笑って、私も叔父さんの隣に寝転んだ。あー、気持ちいい。こんなに歩き続けることってないからなぁ。安心と疲れで、ついうとうと眠っていたらしい。マユに遠慮がちに起こされるまで二人して寝てしまっていたようだ。


「申し訳ございません。」

「ううん。マユに起こしてもらって良かったよ。お風呂で汗を流したいし、お腹も空いてるし。」

着替えは自分で持つと言ったのだが、マユに役目ですからと言われて持ってもらっている。連れて来てくれたのは大浴場と書かれている暖簾(のれん)がかかった風呂場だった。中に入ると、大浴場というより小浴場といったところだったが、昨日お風呂に入っていないのでとても嬉しい。脱衣場でさっさと服を脱いでマユを見ると袴を脱いだだけで、上着の着物を紐でたすき掛けにして袖をまくっただけだ。

「あれ?マユは一緒に入らないの?」

「とんでもございません。未希さまのお背中を流させて頂きます。」

「・・・はぁ。それではお願いします。」

背中なんて人に擦ってもらうの幼稚園以来かも・・。


かけ湯をして、アカスリタオルに石鹸をつけて身体の前面を洗い、「じゃあ、背中をお願いね。」とマユにタオルを渡したら、マユはマジマジと石鹸の付いたタオルを見ていた。

「あれ?石鹸って、ここにはないの?」

「ええ。このふわふわした泡の出るもののことでしたらありません。それにこの手拭いも手触りが変わっていますね。」

他人に背中を擦ってもらうのはくすぐったかったが、話をしていたのでまだ気が紛れた。

「石鹸は汚れを落とすのにいいんだよ。このタオルも泡が立ちやすくて汚れを落としやすく出来てるの。干しとけば、すぐ乾くしね。」

こうして説明してみれば、私たちが使っているものって創意工夫の塊なんだなぁ。

「セッケン・・タオル。」

マユはそう呟きながら名前を覚えているようだった。


「叔父さんは食堂に行ってるの?」

「そうですね。征四郎さまは先に大広間に行かれたようです。」

お風呂からあがって部屋へ帰ってみたら、叔父さんのタオルが窓の手すりの所へ干してあった。私も隣にタオルを干して、マユに先導されて大広間へ向かう。


大広間と言っても16畳程の広さの所に長机が並べてあって、綺麗な絵が描かれている屏風の前の席に叔父さんが座っていた。

「未希、遅いぞー。」

叔父さんは真っ赤な顔でご機嫌だ。隣に座ると、プンッとお酒の匂いがした。

「叔父さん・・飲んでるんだね。」

「うん。この酒は旨いっ。辛口でスッと飲みやすくて、最近飲んだ中では一番だな。」

「ようございました。この辺りには清酒しかないのですが、四日町に行きますとビールもございます。」

アサギリが叔父さんにお酌しながら余計なことを言う。

「ビールもあるのか。これはいいな。旅が楽しくなってきたぞ。」

処置なしだ。さっきまで悩んでたのは何なのよ。


私はサラにお茶を入れてもらって、夕食を頂くことにした。野菜の煮物や酢の物、そばのサラダ仕立て、鮎の塩焼き、そして汁物と懐石料理のような献立だった。なんかこんなお座敷で懐石料理を食べているとおじいちゃんの法事の時を思い出す。あの時も叔父さん飲みすぎたんだよな。

「叔父さん、飲むペースを落とした方がいいよ。法事の時の二の舞になるよ。」

私が叔父さんに耳打ちすると、叔父さんもしまったという顔をした。

「それは不味いな。二日酔いになったら明日歩くのがきついか・・。」

「そうよ。酔っぱらうのは旅が終わってからにして。アサギリ、お酌はもういいから叔父さんにお茶を持って来て。それでみんなも一緒に食べようよ。おかずが冷めちゃうよ。」

私の言葉で、あちこち用事をして動き回っていた使徒たちも席について食べ始めた。

護衛の人たちは交代して食事をとるらしく人数は少なかったが、大勢で話をしながら食べるご飯は美味しかった。


食後の果物を食べながらマユと村の学校の話をしていたら、ハヤテが部屋に入って来た。食事に来たのかと思ったら、私たちの方へやって来る。

「天子さま、少し気になる報告があるのですが・・。」

アサギリと話していた叔父さんも話を止めてハヤテに注目した。

「何があった?」

アサギリが席から立ち上がって私たちの側までやって来る。

「それが不確かな情報ですのでお伝えするべきかどうか迷ったのですが、何かあってからでは遅いのでご報告いたします。」


ハヤテが言うには、私達よりも一足早くこの布津賀村に入ったので、ここで待機していた三人の使徒と最終的な打ち合わせをして、台所の隅で早めの夕食をとっていたそうだ。すると参日場(みっかば)から鮎を仕入れて来た商人が「港で見たことのない男に天子さまのことを聞かれたよ。」と料理人と話していたのを耳に挟んだらしい。ハヤテは気になったので、その男に詳しく話を聞くと、洒落た服を着た女と小柄な男が何人かの商人に天子さまのことを聞いて回っていたそうだ。

「私も根も葉もない噂話で御心を煩わせるのもと思い、布津賀村であちこち聞きまわって来ましたが、どうもその鮎を持って来た商人と同じような話をするものが三人ほどおりまして・・。」

「くノ(くのいち)や忍びではないな。」

アサギリが断定する。

「そうなのです。間諜だとしたらお粗末な手合いです。」

ハヤテも真意を測りかねると言った口調だ。

「ねえねえ、カンチョウって何?」

私の質問は緊迫した空気をぶった切ったようだった。

「スパイのことだよ。」

叔父さんが親切に教えてくれた。

はぁ、カンチョウって言うから違うものを想像したよ。

でも・・スパイ? それってヤバくない?!


あら、何なのでしょう。

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