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未来予言書を拾った女の子  作者: 秋野 木星
第一章 予言書
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拾った本は・・・

夏休み前のことです。

 小学校の帰り道、未希(みき)は一人で秘密基地に寄った。

神社の裏山の洞窟に近所の仲間たちと作った基地には、粗大ごみの日に捨てられていた様々なものが置かれている。座るとミシミシいう椅子。後ろの板が外れかけている三段ボックス。タバコの焦げ跡の付いたジュータンなどだ。

そんな家具のひとつ、薄汚れたローテーブルに未希は分厚い本をどさりと置いた。


「あー、重たかった。」

児童会の役員の仕事で遅くなった未希は、田舎道をぶらぶらと帰っていた。すると神社の階段の側の大岩の上にこの本が置いてあったのだ。

誰かの忘れ物かと思って、しばらく待っていたが誰もやってこない。

濃い赤紫のビロード張りの本は高価なものに見える。夜は雨だという天気予報の通り、空には雲が厚くなり始めていた。

しょうがないから一旦秘密基地に置いておこうと考えた未希は、重たい本を持ってここまでやって来たのだった。


「何の本だろ?」

椅子に座って表紙をめくってみると、母の持っている香水のようないい匂いがした。

匂いちり紙みたいになっているのかな?

薄黄色の上質な紙に黒々とした文字が書かれている。

「えーとっ。七月三日 成瀬未希(なるせみき)が予言書を(ひろ)う。」

えっ?!

もう一度読んでみる。

しかし私、成瀬未希の名前が書いてある。よく考えると今日は七月三日だ。

「・・・どういうこと?何これぇーーー?!」


気持ちが悪くて、未希は立ち上がって本から離れた。

思わず辺りを見回すが、未希の他には誰もいない。

怖いっ、帰ろうと思ってランドセルを持ち上げた時に「予言書」と書いてあったことを思い出した。

・・・予言ということは、これから起こることが書いてあるわけ?


ランドセルを置いて恐る恐る本を覗き込む。

『七月三日 成瀬未希が予言書を拾う。神社の裏山の秘密基地にそれを置いて帰る。自宅に着いた途端に雨が降り出す。家には叔父の遠山征四郎が来ていた。未希の好物のエクレアを持って来てくれていた。』

そこまで読んで、未希はバカバカしくなった。

誰かにかつがれたのだ。首謀者は天敵の孝二(こうじ)に違いない。今頃どこかで腹を抱えて笑っていることだろう。しかし征四郎叔父さんを出したのは孝二のうっかりミスだ。叔父さんは今、アメリカにいる。アメリカに行くまではよく家に遊びに来ていたけど、ここ二年ほど会ってもいない。


「馬鹿だねっ、孝二。」

もう少しマシな嘘を書けばよかったのに・・。私は本を三段ボックスに入れると、家に帰ることにした。

神社の階段を降りて家へ帰る途中も孝二たちがどこかから飛び出してくるかと身構えていたが、誰も出て来ることはなかった。

おかしいなぁ。孝二たちじゃなくて、(みなみ)ちゃんか佳菜(かな)ちゃんが面白がってやったいたずらなのかなぁ。でも南ちゃんたちは、征四郎叔父さんがアメリカに行っているのを知ってるんだけど・・。


そんなことを考えながら歩いていたら、家まで帰って来た。

ポツポツと雨粒が顔にあたったので、慌てて玄関の軒下に駆け込む。途端にザーと音をたてて雨が降り始めた。

やれやれ、危機一髪だ。

玄関を開けると見たことのない大きなジョギングシューズが揃えて置いてあった。

・・・・・・・。

まさかっ。

後を振り返って外を見る。


『自宅に着いた途端に雨が降り出す。』


慌てて靴を脱いで、居間のガラス戸を開けるのももどかしくて部屋に駆け込んだ。

「あら、お帰り。雨が降る前に帰れたのね。」

「今、迎えに行こうかと言ってたんだよ。」

お母さんと一緒に、よく似た顔が振り返る。

「・・・征四郎・・・叔父さん。」


呆然と叔父さんの顔を見る私の様子がおかしかったようで、二人ともクスクス笑い出した。

「びっくりしたでしょ。私も驚いたもの。征四郎ったら誰にも何にも言わないで帰って来たのよ。」

「母さんには空港から電話をかけたよ。」

「今日帰るってことぐらいメールしなさいよ。本当に無精なんだから。未希、突っ立ってないでそこの戸を閉めなさい。クーラーが効かないでしょ。手を洗ったらいいことがあるわよ。叔父さんがあんたの好きなエクレアを買って来てくれたのよっ。お茶にしようよ。」


『家には叔父の遠山征四郎が来ていた。未希の好物のエクレアを持って来てくれていた。』


「当たってる・・・。」

「えっ、何?」

「ううん。何でもない。」

私はランドセルをピアノの椅子の上に置くと、台所のシンクで手を洗った。あの本の匂いがまとわりついているような気がして、プッシュ式の洗剤をたっぷりつけて何度も洗った。


あの本、本物?

誰かのいたずらなんかじゃないのかもしれない。

予言書って書いてあった。

何でそんなもんがこんな田舎の神社にあったんだろう。その上、私が拾うことまで書いてあった。

私は児童会の書記をしているが、ただの小6の女の子だ。超能力も何も持っていない。

・・・なんか、怖い。


私がエクレアを上の空で食べているのを、向かいに座っていた征四郎叔父さんが気にして見ていたのを、その時の私は気づいてもいなかった。



どうしてあの本はあそこにあったんでしょう。

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