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別視点



スライム(サリム)が突然落ちてきて、遠見のスキルを用いた。

話し合いに焦れたのか、見せた方が早いと思ったのか、何にせよ陛下の御意向なのは間違いない。

鏡のように変質した体表に映し出されたのは予想通り全身に重苦しい黒い靄のような穢れを纏わせた常闇神。



この五年間、西の大陸を破壊した際に穢れを受けた常闇神は、この世で唯一自らの加護を授けた陛下の招きに応じ、陛下手ずから張った聖域の中で体を休めていた。

聖域には穢れを薄め、中和する効果がある。

しかし常闇神の受けた穢れは特殊なものだったらしく、聖域を以てしても一向に快方に向かう兆しがなかった。

それどころか穢れの影響で常闇神の意識が混濁し、意思の疎通が図れないことが増えたという。


陛下は仰った。

常闇神を蝕む穢れの原因は恐らく異世界人のもたらした知識が元になっている。

我等はそれを打開する術を持たない。

しかしこのまま何もしなければ常闇神が消失し、更には常闇神を変質させた穢れが蔓延して、この世界を再び闇に閉ざしてしまうだろう。

状況を打開するため、この魔王領で異世界人召喚の儀式を執り行う。


そして生け贄確保に動こうとした私を呼び止め、儀式を汚すだけの贄など必要ない、儀式には自らの魔力で事足りる、それよりも出迎える者を厳選せよと仰ったのだ。

その命に私は即座に立候補した。


勇者や聖女の力がどれ程強かろうが不死の我が身を殺すことは出来ない。

塵や土塊に成り果てようと甦る。

たとえ甦る度に幾千幾万の痛みがこの身を襲い、殺され続けることになろうとも陛下に捧げたこの命、何度だって立ち上がる。

剣にでも盾にでもなると誓ったのだ。

それが陛下ではなく仲間や配下を守るためでもこの切っ先が鈍ることはない。


最後は腕っぷしで出迎え役を手に入れた。

真っ先に叩きのめしたサキュバス(シェイナ)が二番手になるとは思わなかったが、どうやら見た目で選ばれたらしい。


私の 魅了 Lv57 と裏方に徹すると言って一抜けしたレイス(ケイ)の強制睡眠 Lv63 があれば、たとえ状態異常耐性や精神攻撃耐性を所持する者がいても防げないだろう。


もし勇者や聖女が召喚されても、初手が此方になるよう準備万端で待ち構えていれば最悪の事態は防げるはずだ。

いや、防がなければならない。何としてでも。

念のため状況把握力の高いリザードマン達を神官として配置し、警戒感を抱かれないよう人族の流儀に則って出迎えることにした。


陛下は、儀式のあおりを受けた常闇神が暴走してもすぐに分かるよう、また、常闇神の 意志 を反映するために近海深くの聖域、常闇神の側で召喚を行い、そして成功された。


我々が待ち構えている場所に異世界人達が現れたのだ。

不可思議な服装の集団が十五人。

その中には予想通り勇者と聖女がいたが、予めゴーレムを用いた結界を張っていたこと、魅了が思いの外効いたことで此方の被害はなかった。


屋敷内部を知られることのないよう強制睡眠で眠らせ、一人一人別の空間に入れてじっくりと常闇神が穢れを受けた原因に関わると思われる首輪に刻まれた模様のことなどを聞こうと思ったが、ここで予想外の事が起きた。


私の魅了だけでなくケイの強制睡眠も効かない少女がいたのだ。

異世界人でいるはずのない無職、レベル的にあり得ない精神攻撃耐性を所持する彼女。

シェイナの幻影魔法Lv23 は効かなくとも、強制睡眠は効くはずだと思っていたが甘かった。


聖女が女神の守り、勇者が転生神の守りという、それぞれこの世界において最も低い階級の加護しか受けていなかったので少し油断していたのかもしれない。


もしかしたら勇者や聖女よりも、この少女の方がよほど恐ろしい存在なのではないか?そう判断し、屋敷で一番強固な結界が張られている部屋に案内することにした。


クラスメイトのことをしきりに気にしているようだったので、気をそらすため変化を解くと我々の羽に食いついた。

本物かと聞かれたので動かしてあげると餌につられる犬のように顔を動かし目を輝かせていた。

その隙にケイが再度強制睡眠をかけたが効果はなく、お手上げだと壁をすり抜けていった。


ケイに気づいた様子はなかったので気配察知関連のスキルは所持していないのかもしれない。

少なくとも精神攻撃耐性だけでなく睡眠耐性か状態異常耐性は持っている。

もしくは無効の可能性もあるな。

そんなスキルをレベル 1 で所持できる加護だとしたらそれは一体どの神だろう?


創世神ではない。

かの神が加護を授けたのは常闇神と六精霊のみ。

では常闇神?

穢れで変質し、暗黒神となったかの神に加護を授ける力があるのだろうか?

しかし六精霊だとするとそれに呼応する精霊の姿が見当たらないのはおかしい。

それに準ずる神、もしくは複数の加護を受けているのかもしれないな。


スライムを通して此方の様子をご覧になっているだろう陛下からの反応はないようなので、なるべく手の内を見せないように話を進めた。


隷属の首輪やその効力など役立ちそうな情報が手に入ったが、まだ警戒されているのか口が重い。

異世界人を殺したと言ったのは不味かったかな?

それともクラスメイトの事が心配?


ケイが向かったから勇者と聖女以外は既に起こされて尋問を受けているかもしれない。

だとすると少し不味いかな?

加護やスキルを確認したから此方に被害が出ないようになっているが、異世界人への配慮はない。

せっかくの異世界人、殺すことは禁じられているが痛め付けることについては何も言われていない。

比較的温和な者を選んだが、話し合いができなければ実力行使に出る者もいるだろう。

なるほど、だから陛下は動かれたのか。



サヤ・クオンは黒い靄に引きずり込まれて消えた。

本来、遠見は景色や声を届けることは出来ても、映し出された向こう側に渡ることは出来ない。

それが出来たということは常闇神か、その穢れが呼び寄せたのだろう。



「……陛下、よろしいのですか?まだ彼女から得られるものは多かったと思いますが」



シェイナが既に元の透明な体に戻ったサリムに話しかける。

万が一に備え、陛下のお側に連絡要員のスライム(アラム)が控えているが、自分もシェイナもスライム族の言葉を聞くことが出来ないので少しもどかしい。

聞こえたところでかくれんぼ等の遊びに誘われるだけらしいけどね。


しばらくして再びサリムの体が鏡のように変質し、城にある陛下の執務室が映し出された。

どうやら常闇神の暴走はなかったようだ。

いかに巨大な御力をもつ陛下であっても常闇神を相手取るのは厳しいだろう。

暗黒神となっても常闇神であることに変わりはないのだから。



《──ああ、構わん。常闇神(あれ)がわざわざ呼んだのだ、殺しはしないだろう。それよりも今のうちに客人を使えるようにしておけ。方法は問わん》



「かしこまりました」



「御意」



客人か。

さて、どうしよう?

怪我の治療と甘い言葉を囁いたら誤魔化せたりしないかな?

もう一度眠らせて、治療した後起こして悪い夢を見たことにするとか?

上手いこと勇者と聖女を丸め込めたらいいんだけどね。


サリムがいそいそと机から落ち、扉へ向かう。

扉の下から薄緑のスライムが顔を出しているので遊びに行くのだろう。



「ねえ、吸血鬼(レスリー)。少し残念じゃない?」



「何が?」



「私ね、サヤが靄に包まれたとき咄嗟に助けようとしたの。でも、その先には陛下がいらっしゃると思って動かなかった。……既に陛下は城へ戻られていたからサヤとは行き違いになったのだけれど、もしサヤと陛下が出会っていたらどうなっていたのかしら?」



「サリム同様、変な服とでも言ったんじゃないか?」



「……そういうことを言ってるんじゃないわ。これだから苔むした男は嫌なのよ」



「……何でも色恋に結び付けるのは君の悪い癖だよ?そんな事より異世界人を客人として迎えることになったんだ。今から会議を開く」



「……サリムは?」



「君が言葉を訳してくれるなら呼びに行くけど?」



はぁ、と大きなため息をついてシェイナは観念した。

羨ましいとか聞こえるけど気にしない。

早く会議嫌いを克服して欲しいものだ。






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