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私の職業《魔王の妻》  作者: 紫ヶ丘


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8



うーん。

困りましたね。

全てを鵜呑みにはできませんが、人族もなかなかどうして曲者じゃないですか。

異世界人の知識がもたらした弊害なのか、元々素質があったのか。

とりあえず真偽のほどを確認せずに保護を求めるのはやめた方がいいですね。


それよりもまずこの模様です。

これを片付けないとクラスメイトに会えない気がするんですよね。


レ ノ ┣ノ ∥ η


これ、本当に レイゾク という言葉なんでしょうか?

多分間違いないとは思うんですよ?

ですが 意志疎通スキルがあるとはいえ、私の先入観でそう見えている可能性があるんですよね。

だって最初にもらったカードの裏に描かれている 隷属という言葉と矛盾してません?

この世界には既に隷属魔法があるのに、どうして同じ効果っぽい隷属の首輪が謎の道具扱いされてるんでしょう?

単に魔法か魔法の効果を持つ道具の違いじゃないんですかね?



「……あの、読めることは読めるんですが、一つ確認してもいいですか?」



「もちろん。答えられることならね」



「吸血鬼さんは、聖女の首輪に刻まれた術式を見たことがないと言いましたよね?それはこの模様が組み込まれている術式を見たことがないんですか?それとも術式自体を見たことがないんですか?」



「ああ、その術式自体を見たことがなかった」



あれ?

これはちょっと意外です。

魔法を発動するための術式と、道具に刻む術式は違うんですかね?

それとも魔法には術式がない?

そもそも魔族と人族の使う魔法は同じなんでしょうか?

違う可能性もありますね。



「この模様、私にはレイゾクと読めるんですが、このカードの裏に描かれている隷属の文字とは違うので同じ意味かはわかりません。……もしかして、魔族の使う魔法と人族の魔法は違うんですか?それとも魔法には術式がないとか、魔法と道具に刻む術式が違うとかってありますか?」



「いや、精霊魔法は別として魔法には術式がある。我々と人族が使う魔法は全く同じではないけど、基本的な術式は共通しているので道具に刻む術式は同じものと言っていい。だから見たことがない術式が刻まれている首輪に興味を持ったんだ。……それよりも、これは君の世界の文字や模様ではないのかな?全く見たことがない?」



「いえ、私達の世界の文字や記号などを組み合わせているように見えます。目に見えているものが実際に描かれているものなのか、意志疎通スキルでそう読めているのかはわかりません。


……実は私の世界の小説、ええと、空想上の物語に、聖女が話した内容と似た道具が出てくるんです。その名前が隷属の首輪といって、命令に背くと首がしまる、強引に外したら死ぬ、基本的に付けた相手にしか外せない等の効果があるんです。


付けられた側にとっては相手に自分の命を握られたようなもので、たとえ意に沿わない命令でも従わなければ苦痛を与えられ、最悪殺されてしまう。そんなたちの悪い道具なんですが、似てると思いませんか?」



「……そうね、似ていると思うわ。もしかしたらその隷属の首輪の話をもとに作られたのかもしれないわね」



「人族は貪欲だからね、切っ掛けと時間さえあれば何でも作る。それが自分達にとって便利だったり都合がよければより短時間で作り上げるんだから大したものだよ。


これまで上位だと思っていた異世界人の命を道具一つで握る事ができるなら王は喜び勇んで作らせただろうね。褒美として自分の子を差し出さなくて済むし、見目麗しい者を用意しなくてもいい。最初に歯向かうなとでも言っておけば警戒もいらない。


言動を制御できるなら異世界の知識を簡単に吐き出させることができるし、屈強な兵としても使えるから捨て駒には最高だ。なるほど、人族が好みそうな道具だね」



「罪を犯した者に付ければ逃亡防止になるし、強制労働にも使えるわね。それに、人族の悪しき慣習というのかしら?あの奴隷制度にも役立てていそうよね」



「……奴隷制度があるんですか?」



「多くが犯罪奴隷らしいけれどね、中には嗜好品として見目のいい魔物や亜人を捕まえる奴らがいるのよ。魔族を絶対悪だと決めつけるくせにやってることは私達より悪趣味よね」



「全くだ。人族は都合の悪いことを全て押し付けてくるんだ。現に今も陛下のことを常闇神を呪って大陸を襲わせ、未曾有の災害を引き起こした諸悪の根元、大罪者だと声高に叫んでるしね。何が今こそ討伐のとき、手を取り合って攻め滅ぼそう!だ。本当に根こそぎ殺してやりたいよ」



「あらダメよ。この模様の解明が先でしょう?人族が隷属の首輪なんて馬鹿げた名前を付けているかはともかく、根本的な解決策、もしくは手がかりを見つけてからじゃないと」



なぜでしょう。

吸血鬼さんから仄かにバトルジャンキーの薫りがします。

いえ、世紀末集団率いてるっぽいですし、魔族ですから見た目で判断しちゃ駄目なのはわかってるんですけどね。

てっきり深窓の令嬢よろしく薔薇の生けられた花瓶の横で読書を楽しむタイプで、有事の際も手下に命令するだけで自らは出ていかないと思ってました。

ガンガン突っ込んでいくタイプだったんですね。


聖女や大船団の乗組員についても含みのある言い方でしたし、敵には結構容赦ないのかもしれません。

今更ながらこの二人は魔族なんだと実感しました。

それでも人族よりは安心できる気がしますけどね。



「隷属の首輪が馬鹿げた名前、ですか?でもこのカードに描かれているように魔族も隷属魔法を使うんですよね?」



「いいや、そんな魔法はないよ。我々魔族はただ力のみが全て。陛下の力の前にひざまずき、忠誠を誓う。それが隷属だ。この世界の隷属とは尊き言葉、忠誠を捧げた主君に命を懸けて従うことなんだ。


道具や魔法で従わせることに何の意味がある?そんなもの、ただのまやかしだ。間違っても隷属とは言って欲しくないね」



吸血鬼さんの目がめっちゃギラギラしてます。

かなーりヤバい感じです。

私に矛先が向けられていないのが幸いですね。

怒ってるというよりやりきれない感じに近いんでしょうか?

それにしても隷属ってあまりよくない言葉だと思ってましたがこちらの世界では違うんですね。

まさか尊き言葉とは。

予想外にも程がありますよ。

でもそうなると人族が隷属魔法を新たに作り出したことになりますよね?

一体どれくらいの時間がかかったんでしょう?

その執念がちょっと恐いです。



「その意見には同意するけれど、それよりもこの模様についてが先でしょう?……サヤ、その隷属の首輪は付けた相手にしか外せないと言ったわね?解術する以外に外す方法はないのかしら?正直手詰まりなの。少しでも手がかりが欲しいのよ」



そういえばこの模様入りの首輪が理由で私達を召喚したと言ってましたね。

模様や道具についての情報や知識、役に立つスキルを期待したといったところでしょうか?



「ええと、確か付けた相手が──」



「付けた相手が?」



どうしましょう。

うっかり口が滑りました。

この二人に付けた相手が死ぬと効力が消える物も中にはある、なんて言ったら数打ちゃ当たるとばかりに大量虐殺が起きそうです。



「何でもいいの。知ってる事があるなら教えてちょうだい?」



……。

ここは、思いきって強気でいってみます?

この模様がレイゾクと読めると答えたんですから、私からも要望を出してもいいんじゃないですか?

私の質問に答えてくれたようで答えてくれてませんし、今を逃すとずるずる機会を逃してしまいそうです。

よし。



「……あの、一つ提案なんですが、クラスメイトに会わせてもらえませんか?私以上に隷属の首輪に詳しそうな子が何人かいますし、模様についても勇者や聖女の意見を聞いてみた方がいいと思うんです。新たな発見があるかもしれッ──!?」




ポタッ



スライムが、



ピチャン



落ちてきて、



シュルンッ



広がった?


机の上にうにょーんと伸びきったスライムを凝視すると聞こえる声が。



《……フク、ヘン、ミル》



透明な体が鏡面のように変化し、えんじ色のジャージを着た女を映し出す。

ぽかんと開いた口が何とも間抜けだ。ってこれ私やん!?


ぐにゃりと揺らぐ鏡面。

……スライムさん、揺らぎ方にちょっと悪意ありません?





そこに映し出されたのは──



真っ黒な巨躯。

常闇神がそこにいた。

ゆっくりと瞬いた瞳と目が合う。





…………。

これ、アカンやつや。






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