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ほんのりダーク?
思い込みって恐いですね。
てっきり陸続きだと思ってましたよ。
危ない危ない。
変な気起こさなくて良かったです。
これって世界地図なんですかね?
白地図なので輪郭しか描かれていませんが、尺度が正確なら一番近い大陸まで魔王領四つ分は離れています。
真ん中に魔王領。
猫耳がある方を北だとすると、北、北東、南東に大陸があります。
まるで魔王領を支点にしてぐるりと円を描いてるようですね。
西にも大陸があったらいい感じなんですが。
「この魔王領にはね、幼き神が天から足を滑らせて落ちてきたという伝説があるんだ。……少しお伽噺をしようか。
太古の昔、この世界は創造神に見捨てられた。理由はわからないけどね。日は隠れ、神や精霊、全ての生き物が死滅し、大地は荒廃、海は枯れた。後は滅びを待つだけ。そんな世界に幼き神が落ちてきたんだ。
そのまま地に叩きつけられるかと思われたが、まるで幼き神を傷つけまいとするように突如大地が隆起し、不毛の地に草木が芽吹き、生い茂った豊かな枝葉に受け止められて幼き神は大地に降り立った。
闇に覆われた世界に怯えた幼き神は天に帰ろうとしたけれど、力が弱くて叶わなかった。幼き神は悲しみのあまり泣き暮らし、溢れる涙はやがて海になった。幼き神の周囲には色とりどりの花が咲き誇っていたけれど、光のない世界では心を慰める事はできなかった。涙は止まることなく、海面は上昇し続けた。
そのまま涙に溺れてしまいそうな幼き神を助けるかのように、海に生き物が生まれた。その漆黒の体を持つ生き物は幼き神を背にのせて、大海原を縦横無尽に駆け巡った。
水の音、風の音だけがする世界。海の生き物は幼き神の思うがままの方向に進んでくれた。幼き神はこの世界をぐるりと回ろうと考えた。涙はいつの間にか止まっていた。
常闇の世界に少しずつ、幼き神の力が浸透し始めた。海水が蒸発し、雲ができ、雨が降った。降り続く雨は世界を潤し、新たな精霊が生まれた。やがて幼き神の力が世界にあまねく満ちた。そして、雨が止んだ。
幼き神は天を仰いだ。雲の切れ間から日が射したのだ。
初めて光の下で見る世界。幼き神が降り立った島は色とりどりの花が咲き誇り、瑞々しい草木が生い茂るとても美しい島になっていた。虹と共に現れた天から射し込む一筋の光、幼き神はそれが天への帰り道だとわかった。
初めて幼き神は笑った。海の生き物だけでなく小さな精霊たちも寄り添い付き従ってくれていることに気づいたのだ。その笑い声に呼応するかのように海の生き物も鳴いた。幼き神は海の生き物たちに加護を与えると背から飛び降り光に向かって駆け出して、そのまま光に飛び込んだ。
幼き神が天に帰った後、加護を与えられたもの達でこの世界の礎を築いた。やがて出来た大陸に知性を持つ生き物が定着し始めると、新たな世界で最古の存在である海の生き物はその美しい漆黒の体躯から 常闇神 と畏れ敬われた。
この世界に夜明けをもたらした幼き神が与えた加護は 創世神の守り と言われてるんだ。きっとこの世界の新しい神になってくれたんだろうね。世界が均衡を保てるようになると 創世神の加護を持つものは次第にその姿を消していき、今では伝説が残るのみ。……だったんだけどね」
「五年前、突然 常闇神が現れたの。漆黒の巨躯、知性を宿した闇色の瞳、途方もない力。間違いないわ。
古株の精霊がやけに騒いでいると思ったら、凪いだ海がいきなり時化たの。時間が経つほど酷くなっていったわ。まるで世界をかき混ぜるかのように海も空も大地も荒れに荒れた。
そんな中を悠然と現れたの。そこだけ時が止まっているみたいにね。そしていきなり西の大陸を破壊し尽くした。あっという間だった。何も出来なかった。……これでも長く生きているけれど、あれほど自分の無力さを感じたことはないわ。
常闇神が姿を消した後も海は荒れ続けた。海が落ち着くまで二年以上かかったわ。三つの大陸も海岸線が大きく変わった。中でも人族の被害は甚大で、幾つもの国が滅びたそうよ。
幸いこの魔王領は切り立った崖になっていて、他の大陸よりも高い位置にあるからか被害は軽かった。個人的には南部にあった砂浜が磯になって海の幸が採りやすくなったのと、岩礁帯が広がって人族の大型船が入って来れなくなったのが嬉しいわ」
「肝心なのはここからだ。常闇神が西の大陸を破壊した理由を調べていくと幾つかの共通点が見つかった。
一つ、三つの大陸に共通して人族の被害が甚大。沿岸部近くで生活する亜人の村は残っているのに、同じ内陸部にあった人族の国は壊滅しているなど不自然な事も起きている。
二つ、比較的被害が少なかった場所を調査すると国の大小や種族にかかわらず、文化が遅れていた。
三つ、文化が遅れているにもかかわらず壊滅的な被害を出している場所では滅びた国からある道具を導入していた。
最後に、今回の原因と思われるその道具の作成には、恐らく異世界人が関わっている。君達を召喚した理由の一つがこの道具だ」
「昔からごく稀に年齢性別、髪や目、肌の色もバラバラだけど、全員が何かしらの職業に就き、特別なスキルや加護を持つ者が現れることがあったの。彼らは決まって違う世界から迷いこんだと言ったので異世界人、異世界からの迷い人と呼ばれるようになった。
それに目をつけたのが人族の王。レベルが低くても有能な彼らを鍛え上げれば悲願の魔王討伐、魔王大陸を手に入れることができる。そう思った各国の王は発見次第、異世界人を捕縛したの。
そして城に連行し、見目麗しい者達に世話をさせ、心を開き始めたところで手違いで捕らえてしまったことを王自らが頭を下げて謝罪した。そうすることで心証を良くし、耳触りのいい言葉で自国にとって都合のいい駒にしようとしたのね。
血や生き物を殺すことに慣れさせるため、畑を荒らす害獣駆除からはじめ、慣れてきたら魔物相手にレベル上げ。挙げ句、おかしな呼び名をはぐれの魔族につけて、さも特別な存在だと異世界人に誤認させ、殺させることで自信を持たせ、ある程度レベルが上がれば勇者じゃなくても『勇気ある者、そなたこそ勇者だ!』と勇者の称号を与えて魔王討伐に向かわせた。異世界人を見つける度に何度もね」
「異世界人は力だけでなく知識も優れていた。戦いに不向きな者はこの世界にはない発想力で、いい意味でも悪い意味でも文化の発展に貢献したと言われている。それが異世界人を召喚する魔法であり、常闇神の怒りを買ったかもしれない道具の発明だ」
「此方側が異世界人召喚魔法とその道具を認識したのが四十年前だったかしら?この世界に二人の聖女が現れたの。これまで勇者と聖女はそれぞれ一人ずつしか存在しないとされていたからとても驚いたわ。
二つの国は自国の聖女こそが本物だと主張し、なぜかそれぞれの聖女を旗印に大船団を組んで攻めて来たの。船団が進むにつれ、船の回りには海の魔物が次々と姿を現した。力なく腹を見せてね。中には進化したものもいたわ。
片方ならまだ良かったのだけれど両方の船で同じ現象が起きていた。二人とも聖女の固有スキルを持っていたのよ」
「……それまでの本職の勇者や聖女ときたら甘やかされ、おだてられて、勘違いしている者ばかりだったからね。此方が動く前に罠にはまって死ぬ。実力を過信して特攻、死亡する。仲間を囮にしたり見殺しにして自分は逃げる輩も多かった。すぐ殺したけどね。
だからかな。初めて本物の力を目の当たりにして、血が騒いだよ。心置きなく殺れる。そう思ったのに。
……同士討ちを始めたんだよ。自分こそが本物だと醜い言い争いをするうちに熱くなったのか片方の聖女が魔法を放ったんだ。それがみごと相手の船のマストに直撃。被害を受けた船の船長が報復だと同じ魔法で相手のマストをへし折った。やられたらやり返す、その繰り返しであっという間に殺し合い。
此方としては無駄な被害がでなくて良かったんだけど、回りは喧嘩っ早いのが多いからね、双方が疲弊したところを襲撃して二人の聖女を確保した。残りは船に積んで送り返してあげたよ。
聖女たちとお話合いの結果、片方は迷い人ではなく召喚された聖女だとわかった。しかもレベルは 8 。生きていたらどこまで強くなったんだろうね?
ん?ああ、死んだよ。見たことのない術式の首輪をしていたからね、調べたくて外したらあっさり死んだ。一応それは何?って聞いたけど答えてくれなかったから遠慮なく壊した。迷い人も似たようなのを付けてたから、こうなりたい?って聞くとすごく協力的になったよ。
レベルは 43 、四年前にこの世界に来てすぐこの首飾りを付けられた。命令に背くと首がしまり、強引に外すと死ぬ魔法がかかっている。この討伐隊は相手国の聖女を捕らえるためのもので上陸するつもりはなかった。向こうも自分を捕まえてより強い異世界人を召喚するための生け贄にしようとしていたのではないかと必死に話してくれた。
……二つの首輪を調べてみると興味深い事がわかった。どちらにもこの世界にはない模様が組み込まれていたんだ。気づいたかい?その首輪が滅びた国が開発、導入していた道具。 常闇神の怒りを買ったのはその術式か、模様じゃないかと思うんだ。……こういう模様なんだけどね」
レ ノ ┣ノ ∥ η
「どう?見たことないかい?君には意思疎通 があるから、もしこれが何らかの意味を持つものなら文字として認識できる可能性がある」
レ ノ ┣ノ ∥ η
うーん、謎々か暗号ですかね?
レ、ノ、ト、ノ、リ?、ク?
並べ替え?
それとも置き換える?
……あれ?
そういえば。
首輪、命令に背くと首がしまる、強引に外すと死ぬ。
……。
もしかして?
というか間違いなく?
レ ノ ┣ノ ∥ η
レ イ ゾ ク
隷属の首輪キター。
…………。
アカン、人族もヤバすぎる。