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これはヤバいです。
勝手に魔王の隷属にされてるとか恐ろしすぎますよ。
早くみんなに教えなければ!
下僕とか配下になんかなりたくないですもん!
…………あれ?
何かおかしくないですか?
何で魔王の隷属なんでしょう?
魔王の味方を増やすことになりますよね?
敵を増やしてどうするんです?
……おかしいですよね?
てっきり魔王討伐の為の召喚だと思ってたんですが。
違うんですかね?
それともこの場にいる誰かが魔王の配下でこれはその策略?
だったらこの部屋の怪しさに説明がつく、かも?
うーん、ちゃんと話を聞いておけばよかったですね。
それよりもまず誰に伝えましょうか。
委員長かリーダーグループの誰かが良いと思うんですが少し問題がありまして。
何か見張られてるんですよね。
私じゃなくてリーダーグループのリーダーと委員長の親友さんが。
実はこの二人職業が勇者の卵と聖女見習いと判明しましてね。
爪の長い神官達がちょっとざわついてました。
それ以来天井のスライムが二人の頭上付近に張り付いてるんですよ。
うにょんと分裂したところを見たのであれは確実にスライムです。
エロにもグロにも使える万能選手。
仲良くするのはノーセンキューですけどね。
つまりあの二人には近づくのも内緒話をするのも難しそうなんです。
当然仲のいい人達で集まってるのでリーダーグループと委員長も候補から外すことになります。
困りましたね。
他に順応性の高そうな人は……あ、異世界召喚来た~と小声で喜んでいた男子二人組に伝えてみましょうか。
端の方で作戦会議開いてるようですしもしかしたら何かに気づいているかもしれません。
では早速……あれ?
委員長と親友さんが近づいてきました。
私に用でしょうか?
それにしてもスライムって結構足早いんですね。
器用に天井を滑っています。
ちょっと可愛い。
あれで誰も気づかないんですから不思議ですよね。
みんな隠れん坊で高いところを探さないタイプなのかもしれません。
はい?
身分証ですか?
はい、どうぞ。
あ、私にも見せてもらえるんですか?
羽山 美琴 ミコト・ハネヤマ
職業:聖女見習い
スキル:異世界言語Lv3、光魔法Lv1、 水魔法Lv1、 乙女の祈りLv1
加護:女神の守り
あれ?
この Lv3 とか Lv1 ってスキルレベルですよね?
使い続けたらこのレベルが上がって強くなるやつですよね?
何で私のスキルには付いてないんでしょう?
もしや 意志疎通 は会話特化の読み書きがいまいち系のスキルで本当にスキルを読み間違えてたり?
あ、いえ。
何でもありません。
スキルに驚いてしまいまして。
二種類も魔法が使えるんですね。
はい?
それは別にすごくないんですか?
なるほど、聖女とは居るだけで周囲の悪しきものを浄化できる特別な存在なんですね。
更に加護のお陰でスキル効果がアップするんですか。
本当にすごいですね。
はい?
委員長のも見せてくれるんですか?
ありがとうございます。
静原 茜 アカネ・シズハラ
職業:騎士見習い
スキル:異世界言語Lv3、剣術Lv1、盾術Lv1、物理攻撃耐性Lv1、堅固Lv1
加護:軍神の守り
意外です。
委員長は戦闘系なんですね。
てっきり生産系かと思ってました。
それにしても同じ 物理攻撃耐性 なのにどうして委員長にはスキルレベルがあって私のスキルには無いんでしょう?
謎が深まりました。
ですが 異世界言語 スキルの事を知れたのは収穫です。
Lv1 じゃなくて Lv3 なところも注目したいですね。
はい?
あ、大丈夫です。
無職とか気にしてませんから。
そうなんですか。
小さい頃剣道を習ってたんですね。
いえいえ委員長は女剣士よりも女騎士の方が似合っていると思います。
軍神の守りは身体能力向上効果があるんですか?
それは頼もしいですね。
なるほど、現在加護がなくても行動次第で付くことがあるんですね。
は、はい。
実は驚きのあまり話を聞き逃してしまって。
あ、そうですよね。
やっぱり驚きますよね。
でもすぐに現状把握しようと行動できる委員長はすごいです。
責任感が強いんですね。
はい、ありがとうございます。
頑張って 異世界言語 スキルを取ります。
身分証お返ししますね。
はい?
ええ、そうです。
友達は来てません。
ところで、少しお話が……はい?
ええと、委員長のパーティーに参加ってことですか?
はあ、リーダーグループとも合流するんですね。
え、そうなんですか?
他の人はもうグループを作ってるんですね。
ご心配をかけてすみません。
ですがパーティーに参加するのはちょっと……
「え、久遠も入れんの?」
「そうだけど?何か問題ある?」
「いや、何か久遠はちょっと俺のハーレムには合わないっていうか……っ、いや!パーティーな、パーティー!だって俺たち勇者パーティーじゃん?ガンガン魔物狩りに行くからちょっときついんじゃないかなって」
ハーレム。
俺のハーレムって言いましたよ?
職業が勇者の卵の男子はクラスのリーダー的存在で頼りになると思ってたんですが残念ながら調子のってるみたいです。
リーダーグループのまとめ役の子が来ていないせいでしょうね。
元々男子三人、女子五人のグループなんですが今いるのは勇者の卵である宮原くんと可愛い系女子の土屋さんと秘書系女子の佐藤さんの二人。
委員長と羽山さんも顔面偏差値が高いので確かにリーダーからすればハーレムでしょう。
うーん、これはやはり遠慮したいですね。
私に来ることはないとわかっていても近くでイチャイチャされるのは嫌ですし、何の取り柄もないんだからと体のいい雑用係にされるのもごめんです。
「あ、私もそう思います。私はまず言語系のスキルを覚えたいですし、そもそも魔物と戦えそうにありません。別行動になるのは確実ですから無理にパーティーを組む必要はありませんよね?委員長、羽山さん、ごめんなさい。せっかく誘ってもらいましたが私に勇者パーティーは無理です。すみません」
「だよな!無理に危険な場所行くこともないし生産系の奴らと行動した方がいいと思うぜ!」
素直なところはいいと思います。
私の好みとは対極ですが。
「ちょっと亮!あんたは黙ってて!ねえ久遠さん、遠慮しなくて良いよ。異世界なんて訳のわからないところに一人とか心細いでしょ?うちらと一緒に来なよ。別に戦えなんて言わないし」
土屋さんですか。
自分が可愛い事を知っている人です。
我が儘は聞いてもらえて当然という節があるので少し苦手です。
「いいえ、大丈夫です。とりあえず一人でやってみます」
「でも無職でしょ?大したスキルも無いんでしょ?ここは日本じゃないんだよ?魔物とか普通にいる世界なんだよ?どうするつもりなの?」
佐藤さんはそうですね、少し強引ですが面倒見のいい人です。
自分の意見を押し付けてくるきらいがありますが少数派の意見もちゃんと聞いてくれます。
今は少し熱くなっているようですが。
「とりあえず私達向けの講義を聞いてから考えます」
この国がどういう立ち位置なのか、まずはそこを知りたいです。
自国に不利な情報は無理だとしても通貨や食べ物の値段くらいは教えてくれるでしょう。
それよりスライムです。
うにょんうにょんと合体しましたよ。
召喚の儀式の場にスライム。
この国大丈夫ですか?
もしかしてスライムは魔物じゃないんですかね?
王族二人に聞けばわかりそうですがちょっと怖いんですよね。
クククククッ、よくぞ見破った!とか言いそうじゃないですか?
へーんしんっ!されても困りますし。
「それじゃ遅いよ!……もしかして久遠さん亮に手を出されるとか思ってる?ないない!絶対ないから!安心してうちらのとこにおいでよ!」
「そういうことではなくて、私は私のペースでやっていきたいんです。ですからパーティーには入りません」
あ、三つに分裂しましたよ。
あれは遊んでますね。
きっと暇なんでしょう。
「ンー、こんなこと言うのはあれだけど、私達のパーティーが一番安全だってわかるよね?宮原くんは勇者だし土屋っちも斥候で佐藤っちは魔法使い、私も聖女で茜は騎士だよ?宮原くんに好みじゃないって言われて傷ついたかもしれないけど今はそういうこと言ってる場合じゃないでしょ?佐藤っちも言うようにここは日本じゃないの。女と見れば拐う輩がいるかもしれないの。私達は善意で言ってるんだよ?無職の久遠さんを守ってくれるグループなんて他にないよ?いい加減意地張らないでパーティーに参加しなよ。本当は入りたいんでしょ?ごねて自分の価値上げようとしてるのかもしれないけど逆効果だよ?ホントこの時間無駄だわ」
羽山さん。
別名、善意の押し売り屋。
この人が聖女見習いだと勇者サイドは厳しそうです。
見習いの文字が取れるんでしょうか?
「あの。時間の無駄とわかっているならもう止めませんか?私はパーティーに入りません。意地を張っているのではなくパーティーの雰囲気が合わないので入りたくないんです。すみません」
「あのさ、入りたくないとかどの口で言ってるの?入らせてください、でしょ?ホントやだ。茜が可哀想って言うからわざわざ声かけてあげたのに。ねえ茜、もう良いじゃん。この子入れても空気が悪くなるだけだよ」
「……久遠さんは甘いと思う。親も兄弟もいない、頼れる人がいないこの世界で本当に一人でやっていけると思う?お金を稼ぐのって大変だよ?そもそもどうやって稼ぐの?ここは夢や小説やテレビの世界じゃない。美琴の言い方はともかく的はずれな事は言ってない。感情で拒否するんじゃなくてもっとよく考えた方がいいと思う」
委員長の言葉はもっともなんですよね。
だって私、端から見れば無職でスキルも一つだけ。
異世界言語 も持っていない。
加護も本当にあるのか怪しい。
だったら一時的でもパーティーに、そういう事なんでしょう。
私も本当にそうならお言葉に甘えていたと思います。
でも魔王の妻ですからね。
勇者や聖女と行動すればいつバレて殺されるかわかりません。
私は死にたくない。
「……ありがとうございます。ですがパーティーへの参加はお断りします。すみません」
「本当にいいの?後から言っても無理だと思うよ?」
「はい。大丈夫です。それより少しお話が……」
「さて、そろそろいいかな?これから皆のために用意した部屋に案内するよ。さ、扉の前に集まって」
王子さま、ここまで待ってくれたなら最後まで待って欲しかったです。
トホホな気分で最後尾に並ぶ。
重厚な扉が音もなく開く。
薄暗い部屋に差し込んでくる赤い光。
バタバタと倒れていくクラスメイト、を見てる私。を見てる王子と王女と神官達と恐らくスライム。あと動く騎士像も追加で。
「……へぇ、面白い」
…………。
これ、本当にアカンやつじゃないですか?