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私の職業《魔王の妻》  作者: 紫ヶ丘


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別視点。




《フクヘン!フセロ!》



少なくともあの瞬間まで自分は目の前で謝る服が変な異世界人より強者という自負があった。

例えどんな加護や称号を得ていようがスキル構成が化け物じみたものであろうが召喚されたばかりでは加護や称号はもちろん、スキル効果やその使い方を把握できない、できるはずがないと高をくくっていたんだ。


ケイ殿の強制睡眠やレスリー殿の魅了魔法、アラムの刺突攻撃を防いだときも警戒心より興味の方が勝った。

彼らが手を抜くはずなどないのに、陛下が召喚した異世界人に対して無意識に威力を下げたと思い込んでいたんだ。


だって、召喚されたばかり、赤子同然の異世界人がこれほどの力を持っているなんて誰が思うの?

確かに同じ異世界人でも迷い人よりも召喚された者の方が力を有している事が多いよ?

例えレベル1だとしても異世界人を決して侮るなとの通達がなされるくらい、その事は広く知られている。

だから自分基準だけど全員の評価を大なり小なり上方修正していた──にもかかわらず、それを遥かに超えてしまったこの異世界人はもはや人外。


その気になればいつでも殺せる。


そんな気持ちがどこかにあったんだ。

何があろうと対処出来ると思っていた。

だから耐性を調べるために先代族長──変質化したピュール殿をけしかけようというケイ殿の提案にも乗った。

もしもの時は必ず救援を送るという言葉に後押しされて自分の好奇心を満たすことを優先したんだ。

暁の館に送るのはその後で構わない。

陛下もきっと気にされない。

そう思ったんだよ。


人族嫌いのシェイナ殿が服変を評価していることをもっと早く疑問に思っていれば──ううん、今更何を言っても遅いね。

残念ながらもう気づいてしまった。

気づかされてしまった。


自分は服変よりも劣っている。


足で踏まれたその瞬間、嫌というほど感じた無力感。

単に踏まれただけなら分裂でもして抜け出せただろう。

だけどこの身に起こったのは身動きだけでなくスキルの一切を封じ込められるというあり得ない現象。

初めて感じた恐怖。

どれだけ抗おうと無駄だった。

全てが終わるまで傍観することしか出来なかったんだ。


人外と評したのも自分の尊厳を守るため。

異世界人という括りに入れたらあの唾棄すべき人族と同じ種族になってしまう。

そんなの嫌だ。

敵対なんかしたくない。

その気になればいつでも殺せる?

いつでも殺されるの間違いだ。


侮っていた。

軽んじていた。

その異質さは端々に見えていたのに。

気づけなかった自分に怒りで我を忘れそうに──ああもう!

考えに集中させてよ!

言い訳されなくても全部分かってるから!


床に落としたのは運動神経のなさから魔法範囲外に放り投げることが難しいと思ったから。

足で踏みつけたのも監察対象だけど保護対象じゃない異世界人を身を挺して庇うなんてあり得ないのに、なまじ物理攻撃を防いだものだから避けられないと分かれば前に出る可能性があると勘違いして、万一にも前に出ることがないよう、スキル影響下に置けるよう踏みつけたんでしょ?

そのくらい分かってるよ。


現に最上位の風魔法を撃たれたにもかかわらず、こうして皆が奇跡的に生還できた。

魔法攻撃無効か、吸収か、耐性か、それとも加護か称号のお陰かは分からないけど、もしあれに対して反射系スキルを使っていたら確実にヒュー族長含む四名は死んでいたしピュール殿も連れ去られていただろう。

あの風魔法には離れ自体を吹き飛ばせる威力があったんだ。

それをいとも容易く無力化するなんて。

結界の綻びから侵入していたあの人族も大概化け物染みていたけど服変はそれを上回る化け物だ。


もしアラムのように怒りを表に出せる性格なら無駄だとわかっていても刺突攻撃を繰り出しただろう。

部分太らせした姿を映して馬鹿にしたかもしれない。

だけど実力を垣間見た今、そんなことをしたって気は晴れない。

自分の弱さを棚にあげて八つ当たりしようものなら後で自己嫌悪に陥ることは確実。

だから今は怒りを身の内に貯めに貯めて雪辱の時を待つ。

決戦の場は暁の館。

対戦方法はかくれんぼ。

待ってろ服変。

スライム流のもてなしで必ず一泡吹かせてやる。




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