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虚々実々
ええと、少し落ち着きましょう。
私の番までまだあります。
確か王女さまに報告するのは職業とスキル、あれば称号と加護でしたね。
職業:魔王の妻
魔王の妻って職業なんですか?
というか私いつの間に魔王と結婚したんです?
顔も見たことありませんよ?
スキル: 意志疎通、魔法攻撃無効、物理攻撃耐性、精神攻撃無効、状態異常無効、癒しの手
王子と王女の言葉がわかるのはきっと 意志疎通 が働いてるんでしょうね。
防御特化で攻撃スキルはなし。
癒しの手は回復スキルですかね?
アンデッド系にダメージを与えられそうな気もします。
……これ魔王がアンデッド系だと家庭崩壊じゃないですか?
始まってもない夫婦生活が既に終了してたりして?
称号:常闇を照らす光
常闇って永遠の闇ですよね?
あれですか、闇夜を照らす一筋の光的なやつですか?
私こう見えて、というか、どう見ても平凡な醤油顔なんで灯台には不向きですよ?
加護:暗黒神の守り
これ明らかに魔王サイドの神様ですよね?
暗黒神ですもんね?
守っていただけるのはありがたいですが報告するとなると躊躇ってしまう加護です。
というか、これ報告したらダメな感じですよね?
ラノベでも異世界に召喚されるのは勇者とか聖女とか魔王や魔物と戦ってくれる人ですもんね?
事実無根でも職業が敵の親玉の妻ってバレたら拘束されたり最悪殺されてしまいますよね?
…………。
よし、隠しましょう。
都合が良いことにステータスは他人にはわからないようになっているそうなので誤魔化し放題です。
すみません、王女さま。
背に腹はかえられないんです。
私の番まであと二人。
どうやらステータスを報告して身分証を発行してもらうみたいですね。
さて職業は何にしましょう?
戦闘はしたくないので生産系がいいんですが私不器用なんですよね。
料理も掃除も洗濯も苦手。
趣味は昼寝と散歩。
好きな食べ物はお茶漬け。
……もしかして詰んでます?
あ、癒しの手がありましたね。
回復スキルって重宝されそうな気もします。
回復といえば僧侶、修道女、……うーん、ピンときませんね。
はい?
王子の方が終わったからそっちに行け?
ええと、先に私の前の男子に……あ、そうですか、ではお先に失礼します。
「はじめまして。まず名前を聞かせてもらえるかな?」
イケメン王子ですねー。
背中で緩く括った金髪に赤紫の瞳、年齢は少し上くらいでしょうか。
「はじめまして。久遠 沙夜です」
「サヤ・クオンだね。では職業は何かな?」
「……異世界人です」
修道女は規律が厳しそうなので止めました。
「なるほど、無職なんだね。ではスキルはあるかな?」
異世界人=無職なんですね。
クスクス笑いが聞こえますが良いんです。
牢屋行きよりマシです。
「精神攻撃耐性です」
本当は 精神攻撃無効 ですけど悪目立ちしたくありません。
でも王子さまちょっと驚いてますね。
もしかして珍しいんでしょうか?
前線に立たされる可能性を低くしたいので 物理攻撃耐性 ではなくこちらにしたんですが失敗しましたかね?
少し気を引き締めましょう。
「……へぇ。他にスキルはあるかな?称号や加護はどう?」
「ありません」
しれっと嘘を吐きます。
罪悪感なんてありません。
正直者がバカを見るって言葉もありますしね。
ここは嘘も方便です。
「ではまとめよう。名前はサヤ・クオン。職業は無職。スキルは精神攻撃耐性。合ってるかな?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ君の身分証を発行するよ。……ん?おかしいな?カードが反応しない。……サヤ・クオン、もう一度ステータスを確認してくれないか?加護があるはずだよ?」
何ですと?
カードが反応しない?
暗黒神さま、もしかして仕事してくれました?
「……わかりました。ステータスオープン」
名前: 久遠 沙夜 サヤ・クオン
年齢:17
性別:女
職業:魔王の妻
Lv:1
HP:15/15
MP:15/15
スキル: 意志疎通、魔法攻撃無効、物理攻撃耐性、精神攻撃無効、状態異常無効、癒しの手
称号:常闇を照らす光
加護:暗黒神の守り
装備:体操服 上下、 スニーカー
所持金:666円
はい、変わってませんね。
ですがこういうこともあろうかと切り札を取っておいたんです。
そう、意志疎通 です。
「……すみません、加護のところに何かの守りと書いてるみたいなんですが文字化けしていて読めません」
どうです?
この言い訳ってなかなか良いと思いません?
これなら誤魔化せるはず!ですよね?
「……文字化けか。ん~、スキルに言語系がないからかな?どう思う?」
「……そうですわね、規格外過ぎて何とも言えませんわ。言語理解系はともかく異世界人が無職なんて聞いたことありませんもの。それよりは読み間違えの可能性を推しますわ」
あ、王女さま。
腰までのさらさら銀髪に紫の瞳の美少女。
中学生くらいかな?
「……読み間違えか。あり得るな。……サヤ・クオン、君には言語系スキルを覚えてもらう。文字化けしている加護を知りたい。それがわからないと身分証を発行出来ないんだ」
「それまで仮の身分証をお渡ししますが正式なものとは違い貯金することが出来ませんの。詳しくは後ほど皆様向けの講義を行います。よろしいかしら?」
「はい、よろしくお願いします」
「ではこちらをどうぞ」
渡されたのは免許証みたいなカード。
いつの間に撮ったのか顔写真も付いています。
名前は記入されているのに職業やスキル等の欄は空白。
本当に仮のものなんですね。
くるりと裏返すと黒紫の美しい紋章が描かれていました。
あれ?
この紋章、よく見たら小さな文字の羅列で出来ています。
ええと、何々?
《私は、魔王陛下に隷属することを誓います。》
…………。
これ、アカンやつじゃないですか?
恋愛要素は当分先。