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別視点。

途中視点転換あり。





「母さん今すぐ隠れろ!」



「早く隠し部屋に行って!」



買い出しに行っていた夫と息子が血相を変えて飛び込んできたかと思うと同時に怒鳴った。



「母さん早く!」



「わ、分かったわ」



有無を言わせぬ様子に慌ててこの宿を三日前から貸し切っている聖女一行に知らせに行くと十人中六人が不在だったが、残り四人のうち二人が夫と息子のいるエントランスに向かってくれた。

寝惚けて愚図る聖女を護衛の女騎士と一緒に何とか地下にある隠し部屋に押し込めた途端階上から大きな破壊音が響いた。

続けて踏み込んでくる足音は優に十人は超えている。



「聖女はどこだ!?聖女を出せ!」



小さくともはっきりと聞こえた何者かの声。

思わず聖女を振り返ると我関せずな様子で「お風呂に入りたかったのに最悪」と吐き捨てた。



「聖女様、彼等は聖女を出せと言っています。どういう事ですか?何故こんな事になっているんです?」



「は?彼等って誰よ?というかあんた何でこんな場所に連れてきたわけ?不敬罪で牢屋にぶちこまれたいの?──グルナ、部屋に戻るわよ。こんなカビ臭い場所一秒だって居たくないわ」



この女は階上の剣戟音が聞こえないの?

帯剣した者が十人は踏み込んで来ているのに。

ああ、夫と息子は無事だろうか?



「承知致しました」



剣戟音に気づいているはずの女騎士は一礼するとドアを開閉させる仕掛けを作動させに向かう。

どういうこと?

階上は危ないのに。

この人聖女の護衛なのよね?



「おばさん、この事陛下に言うからね?あーいい気味。散々生意気な態度取ってくれたもんね?私を肥溜めのような場所に押し込めた罪を生涯償うといい──?何今の音?ちょっとグルナ!どうなってるの!?」



そこそこ美人な顔を歪ませて馬鹿にしたように話すうち階上の剣戟音に気づいたようだ。

私は意外に思った。

女騎士が刹那口惜しそうな表情を浮かべたのだ。

まるで気づいて欲しくなかったかのように。



「相手は聖女様を探しているようです」



「は?何で?」



「分かりかねます」



耳を澄ますが状況は明らかに悪い。

怒号が飛び交う中に夫と息子の声が聞こえない。

二人は、村の皆は無事なんだろうか?


迷い人の私を受け入れてくれた優しい村。

宿屋の一人息子である夫に見初められ、この世界で生きていく決意をして二十年。

二人の子にも恵まれ裕福ではないけれど幸せに暮らしていた。

昨夜も去年嫁いだ娘からの手紙を読んで早くいい人探しなさいよと息子に発破をかけて笑っていたのに。



「聖女はどこだ!?」



遠くで聞こえる誰かの声。

客室のドアを抉じ開けているのか物々しい音が響く。



「ああ!もう!何よ!何なのよ!何で私が狙われるのよ!?ちょっとあんた!ここは本当に安全なんでしょうね!?嘘だったら承知しないわよ!?」



どうして大声が出せるんだろう?

向こうの声が聞こえるということはこちらの声も聞こえるかもしれないのに。

ああ、夫と息子は無事だろうか?

多少の護身術は身に付けているとはいえ剣を持った相手には敵わないだろう。

お願い。

どうか無事でいて。



「おばさん!聞いてんの!?」



「聖女様、お静かに。感づかれてしまいます」



「煩い!私に命令しないで!」



この女のせいだ。

この女が村に来なければきっとこんなことにはならなかった。

聖女一行が来たのは三日前。

彼女は国賓だからと我が儘放題。


あれもイヤ!これもイヤ!全部気に入らない!

食事が不味い!ベッド固すぎ!ふざけてんの!?

食膳をひっくり返し、水差しの水をかけられ、近くの小物を投げつけられて。

それでも国賓だからと我慢してきた。

言い返せば私だけでなく家族も処罰、最悪処刑されるからと。


この女は私を怒らせようとしていた。

ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせられ、壊された物も数知れず。

けれど私は我慢した。

それがこの女に対する何よりの仕返しだと気づいたからだ。


この村は隣国との国境近くにある。

そのため去年隣国で猛威を振るった流行病が国境を越えて村でも流行りかけた。

幸いこの十五年でうがい手洗いの徹底と具合が悪くなればマスクを着用する習慣が村全体に付いていたので重症者は何人か出たが死亡者は出ず、王都から申し訳程度の薬が届いた頃には終息の兆しを見せていた。

感染予防のため患者を隔離すること、持ち回りではなく専任で看病に当たる者を予め決めていたことも良かったのかもしれない。


本来なら去年のうちに聖女が国境添いの村々を巡行するはずだった。

聖女の力で病を癒すという話だったのだ。

村に王都から聖女巡行を知らせる書簡も届けられた。

私達は安心した。

他の村に手を差し伸べる余裕がなかったのだ。

国が、聖女様が対応してくれるなら安心だと思った。


けれど聖女は来なかった。

聖女巡行は行われなかったのだ。

結果、多くの者が命を落とし幾つかの村が廃村となった。

私達がその事を知ったのは生き延びた各村人達が国の荷馬車でこの村に運ばれてきたときだった。

共に来た役人は都合の悪いこと面倒なことは何も言わず、村の人数が増えたので税金をあげる旨を告げるとさっさと帰った。


移民者達の話では聖女は王都から出ようともしなかったらしい。

罹患の可能性がある以上絶対に行かない!

無理矢理行かせようとするならこの国を出ていく!

私がいなくなればこの国は災厄にまみれるんだから!

聖女の凄まじい癇癪に王も巡行は無理だと諦めた。

その代わりがあの申し訳程度の薬だった。



「グルナ!ゴルトとメーチはまだ来ないの!?」



「聖女、お静かに。あの二人は村人救助に向かいました。恐らくこちらには来られない状況だと思われます」



「は?あいつら私の護衛でしょ!?何で私を放って他の奴等を救助しに行くわけ!?自分たちのスキルで対処させなさいよ!」



「どうかお静かに。村人の多くは戦いに向くスキルを持っていないのです。第一、騎士たるもの民を見殺しには出来ません。彼等を責めるのはお止めください」



「は?意味わかんないんだけど?護衛対象である私を守らないで村人を助けにいくことが正しいっていうの?私は聖女なのよ!?最優先させるべき存在でしょ!?」



何この女?

本当に聖女なの?

若い少女ならまだいい。

けれど聖女は今年で確か二十七歳。

未婚とはいえいい歳した大人が癇癪起こす姿の何とみっともないことか。

この人十六歳でこちらに迷いこんだはずよね?

この十年何してたの?


でも理由は何となくわかる。

恐らく未だにラノベの幻想が抜けていないのだ。

異世界はイケメンだらけ、自分は聖女だから結婚相手は選び放題、何ならハーレム作っちゃおうかしら?なんていう幻想を。


この世界は基本一夫多妻制。

しかも聖女に釣り合う身分の王族並びに上流貴族は血が濃いためフツメンが多い。

でも王族は妃が多いから美男美女の割合も増えるかな?

とはいえイケメン貴族は全て幼少時に売約済み、もとい、成人後すぐ結婚するため既婚者ばかり。

面食いで自分が一番じゃないと気が済まないと噂の聖女が未だ独り身なのも頷ける。



「ちょっと分かってるわよね?私は聖女なの。あんた達と違ってこの国に必要な存在なの。もしもの時はその身を賭して私を守りなさいよ?」



国に必要?

この三日間、男の尻を追いかけ回すばかりで困窮に苦しむ民を慰撫する事もなく教会で祈るパフォーマンスすらしなかったこの痛い女が?

施しを与えるどころか略奪していく聖女を見る民の恨みに気づいていないの?


足音が近づいてくる。

隠し部屋とはいえそこまで重厚なものではない。

入り口が見つかったら終わりだろう。

何より聖女が煩い。

この女は見つかりたいのだろうか?

見つかりたくないのであれば黙って欲しい。



「──聖女様、向こうの狙いは貴女です。貴女が手に入れば収まるかもしれません。……私と共に投降していただけませんか?」



「は?何言ってんの!?投降なんかするわけないでしょ!?あんた達が囮になって死ぬ気で私を守りなさいよ!聖女は私一人しかいないのよ!?」



ああ、そういうことか。

この女は自分以外がちやほやされるのが嫌なんだ。

聖女の血をひく娘は聖女になる可能性がある。

真偽は定かではないがそう信じられている。

そのため聖女に娘が産まれれば幼い頃から聖女同様の扱いを受けながらも神殿で厳しい戒律の元育てられる。

国の予算も当然等分されるので今よりも節度を求められるだろう。


大体貴族に限らなければイケメンはいるのだ。

彼女が平民と結婚したいと言えば子作りに励むことを条件に爵位をもらえるはずだし子どもが産まれる度にまとまったお金ももらえる。

贅沢したいならフツメンでも王族や上位貴族と結婚すればいいんだし。


恐らく彼女は夫以外から見向きされなくなるのが嫌だったんだと思う。

贅沢ができて男達にちやほやされる現状を手放したくなかったのよ。


この世界は男尊女卑というか女の役割は基本子どもを産むことだと思われている。

つまりいくら聖女が唯一の存在でも次代の聖女を産むことなく歳がいけば放り出されるの。

この女のように使えない聖女は早期結婚・子作りを推奨されているはずなのに二十七歳の今なお男を追いかけ回しているってことは──



「あーもう!こんな村来るんじゃなかった!あのボンクラがどうしてもっていうから宝石とドレスを条件に来てやったのにこの村の奴等とくれば貢ぎ物ひとつ持ってこないんだもの!ふざけんじゃないわよ!大体流行病は終息してるんでしょ!?わざわざこんな辺鄙な村に行かずとも慰霊だのなんだのは神官にさせればいいじゃない!そのためにあいつら高いお布施集ってるんでしょ!?」



ガタガタンッ


ああもう終わりだ。

あれはこの部屋へ通じる一つ前の扉を解錠する仕掛けの作動音。

この女のせいで見つかった。



「聖女!どこに隠れている!?」



もうすぐそこにいる。

遠からずここの扉も見つかってしまうだろう。

何人もの足音が聞こえる。

夫と息子はどうなったの?

無事なのよね?



「ちょっとおばさん!どういうこと!?ここは安全な場所だって言ったじゃない!本当に使えないわね!ねぇ!他に隠れる所ないの!?ねぇってば!!おばさん!聞いてんの!?」



「煩い!あんたが大人しくしてれば見つからなかったのよ!あんたが来なきゃこんな事にもならなかった!全部あんたの自業自得じゃない!逆ハーどころかいい歳して独り身の行き遅れ女!あと三年もすればあんたなんか用済みよ!ざまぁされて消されればいいわ!」



「──は?あんた今何言ったか分かってるんでしょうね?グルナ!こいつを今すぐ切り捨てなさい!──あ、そうだ。首を切り落としてちょうだい。このおばさん歳のわりに若作りだからあんたがドア前で首を抱いて泣いとけば向こうも聖女と誤解してくれるでしょ。例えあんたが殺されても私は助かるし。ちゃーんと陛下に言ってあげるわ。グルナは聖女を守って散ったってね。嬉しいでしょ?私のために死ねるんだもの」



「……承知致しました。聖女様、どうか目をお閉じください」



「いいわ。早くしてちょうだい」



悔しい。

こんな女のために死ぬの?

こんな女のために私の幸せは奪われたの?

この女のどこが聖女なのよ?

女騎士が目の前に立った。

涙が止まらない。

あなた、マルコ、先立つ不幸を許して。



「──ハルフェ様。もし来世があるのなら私は貴女の──聖女を守る騎士となりましょう。お許しください」



ハルフェって誰?

思わず目を開けた私の目に聖女の首をはねる女騎士が見えた。






▲△




前世の私は主である王太子殿下に命じられ聖女ハルフェ様を殺しその後自害した。

当初子を産むでもなく散財し放題で務めを一切行わない聖女を聖女巡行と称し国境に連れていき隣国に相応の金銭と引き換えに譲り渡す計画だった。

宿屋に踏み込んできたのも話が通っていた隣国の騎士で、大きな物音をたててはいたが人や建物に被害を与えてはいなかった。

全ては聖女の資質を試すための仰々しい芝居だったのだ。


何も知らない村人にどう対応するか、聖女の務めを果たすのか、身を挺して村人を庇うのか。

聖女巡行の十人中六人が隣国の騎士であり聖女を見極める役割だった。

その結果があれだ。

百害あって一利なし、この血を残す必要なし、即刻処分すべし。


主でなくとも約七年ハルフェ様に仕えていたこともあり少なからず情があった。

今でこそラノベや異世界ものの読みすぎで回りの見えていない痛い女だと思えるけれど当時は何とかして聖女の務めを果たすよう説得を重ねた。

残念ながら一切聞いてもらえなかったけれど。


聖女殺しは重罪で激しい拷問のあと一族郎党処刑される。

けれど私は孤児だった。

自分一人が死ねば問題はなくなる。

だから私が選ばれたのだろう。

自害したのはハルフェ様に対する哀れみと騎士としての誇り、そして拷問を味わいたくなかったから。

宿屋の女将さんがすぐに気を失ってくれて良かった。


叶うならハルフェ様にもう少しまともに生まれ変わって欲しかったけれど残念ながら死んでも魂は変わらなかった。

どうしてこんなに歪んだ人格になるのだろう?

本当に不思議で仕方ない。



「──ステータスオープン」



名前:グルナ・シュティレ〈静原茜〉


年齢:17


性別:女


職業:騎士


Lv:3


生命力:70


魔力:40


スキル:異世界言語Lv5、剣術Lv2、盾術Lv2、物理攻撃耐性Lv1、堅固Lv1、直感Lv4


称号:守護者


加護:軍神の守り、転生神の守り



まさかこの世界に戻ってこれるとは思わなかった。

あの世界に転生した時は向こうで一生を終えるのだと思っていたのに。


──だめ、頭がくらくらする。

誰か精神攻撃魔法を使ってるの?

気をしっかり持たないと。


いかにも儀式を行ったと言わんばかりの部屋にテンプレ通りの王子と王女。

世界の危機を救うための召喚。

調子のいい言葉の数々。


美琴は──いた。

やはり来てしまったのね。

どうせなら弾かれてしまえば良かったのに。

しかもあの様子、魅了魔法にかかっているの?


どうして?

聖女なら魅了の耐性があるはずなのに。

もしかして美琴はハルフェ様じゃなかったの?

そんなまさか。

あの自己本位な暴君が他に何人もいるとは思えない。



「これから君達の身分証を作る。一人ずつ私か王女にステータスを報告してくれ」



ステータスを報告?

嘘でしょう?

通常秘すべきものなのに?



「では改めてミコト・ハネヤマ、職業とスキル、あれば称号と加護も教えてくれる?」



「職業ハ聖女ミならいデス。スきるハ異世界ゲン語Lv3、光マ法Lv1、 みズ魔法Lv1、乙メの祈リLv1でス。加護ハ女神の守リです」



聖女見習い?

乙女の祈り?

ヒールやライトは?

アクアヒールや耐性、精霊の加護すらないの?

え、何そのポンコツ。


ううん、まだ魅了魔法に対抗して嘘を言った可能性が──ないわね。

あの機械人形のような話し方は完全にかかっていた。

嘘でしょ?

固有スキルが劣化するなんて信じられない。

聖女の祈りがなければ聖女とは見なされないし聖女でなければ騎士として仕えることができない。

本人は聖女聖女と煩いが見習いどころか偽者だ。


失敗したわ。

早めに合流してスキルの確認をするべきだった。

魅了魔法をかけているのは十中八九王子。

惚れやすい子だけれど思い切り足を踏めば正気に戻せたかもしれない。

或いは引きずってでも王女側に並ばせたら──ああ、頭がぼんやりする。


しっかりして。

手の内を全て見せてはだめ。

切り札は隠すの。

スキルレベルは1、称号は言わない、それと──



「君の名前を教えてくれるかな?」



「……静原茜です」



「アカネ・シズハラだね。では職業は何かな?」



「騎士見習いです」



「スキルは何かな?」



「異世界言語Lv3と剣術Lv1、盾術Lv1、物理攻撃耐性Lv1、堅固Lv1があります」



「へぇ、称号や加護はある?」



「加護は……軍神の守りです」



「軍神の守り、ね。──はい、これが君の身分証だ。無くさないようにね」



だめだ。

魅了スキルのレベルが高すぎる。

軍神の守りではなく転生神の守りと言いたかったのに。

ううん、逆に考えましょう。

転生神の守りだとスキルの多さで不信に思われたかもしれない。

だからきっとこれでいいの。


宮原くんは勇者の卵か。

そうね、彼はずっと殻の中でぬるま湯に浸かって生きてきた。

孵化することなく死んでいくんだろうって思っていたけれどもしかしたら孵るかもしれないわね。


私はどうだろう?

守護者の称号は主を定める、もしくは主に相応しい存在がいて初めて効果を発揮する。

けれど騎士が仕えることができるのは王族、勇者、聖女、高位の貴族と神官のみ。

美琴はともかく今の宮原くんでも発動しないってことはせっかくの称号が宝の持ち腐れになってしまう。

誰か主に相応しい人はいない?


──久遠沙夜。


不意に浮かんだ名前にぞくりとした。

そうだ。

あの子だ。


ずっと不思議だった。

美琴を聖女ハルフェ様の生まれ変わりだと思い仕えてきたのに体が久遠さんをフォローすべく動くのが。

それが美琴の癇癪を起こしあの子への当たりを強くした。

とはいえ全く相手にされていなかったけれど。


職業は何?

神官?巫女?

喚く美琴を宥めながら耳を澄ます。



「……異世界人です」



「なるほど、無職なんだね。ではスキルはあるかな?」



え?

無職?

まさか。

美琴が馬鹿にしたように笑う。



「精神攻撃耐性です」



精神攻撃耐性?

まさかレベルが15以上あるの?

それとも嘘を吐いている?

この高レベルの魅了魔法の前で?


……嘘でしょう?

久遠さん魅了魔法にかかっていない。

いくら召喚された異世界人の力が強くてもこれはおかしい。

どうして?

……まさか。

高位の加護を与えられている?


加護には三種類あるとされている。

積極的加護、消極的加護、第三者加護。

簡単に言うと気に入ったから加護してあげる、仕方ないから加護してあげる、加護してあげたいけどちょっと不都合があるから眷属に加護させとくね、の三種類。


積極的加護が一番強く、消極的加護が一番弱いとされているけれど、第三者加護はいわばダークホース的位置付けで中には最古参の加護を得る者もいる。

有名どころで言えば私がグルナと呼ばれていた時代の魔王が常闇神の加護を与えられていると聞いたし、私の育ての親である魔術狂と呼ばれる変人の彼は最古参の風の精霊の眷属の加護を受けていた。

このような場合圧倒的に第三者加護が強い。


低位とされている転生神の守りも積極的加護なら中位の軍神の守りよりも強いし、いくつもの加護を持っていたとしても一つの積極的加護に勝てない事もある。

最古参の加護もしくはその眷属の加護については言うまでもないわね。


異世界人が無職はあり得ない。

魅了魔法も効いてない。

召喚されたばかりにもかかわらずレベル15相当の精神攻撃耐性を持っている。

以上の事から久遠さんは第三者加護を受けている可能性が高い。

美琴はスキルの劣化具合から消極的加護、宮原くんはスキルの多さから積極的加護、私も恐らく積極的加護だと思う。



「……すみません、加護のところに何かの守りと書いてるみたいなんですが文字化けしていて読めません」



文字化け?

ああ、そういえば久遠さん言語理解系のスキルを──ううん、これも嘘ね。

こうやって会話できている時点で言語理解系スキルはある。

皆が皆地球から来ているわけではないため本当に持っていなければ意思の疎通が出来ないのよ。

つまりここでは言えない、言いたくない加護なのね。


伊達に魔術狂の小間使いをしていたわけじゃない。

異世界人研究の第一人者である彼の研究はイータ王国に様々な恩恵を与えたと聞く。

詳しくは知らないけれど加護を抜きにしても他の追随を許さない功績の持ち主だったらしい。


久遠さんは何となく夜の帳のイメージがあるから闇の精霊の守り?

でもそれなら隠す必要がないわね。

例え五精霊全ての加護があっても魅了魔法が効いてないなら適当な精霊を言えばいい。


それとも職業が特殊なの?

…………。

まさか勇者か聖女!?

美琴の前世がハルフェ様なら迷い人であり召喚者と言えるし宮原くんも何となく混じってるような気がする。

仮に美琴と宮原くんが迷い人扱いされているなら久遠さんが召喚者の勇者か聖女でもおかしくない。

既に勇者と聖女がいるのに自分の職業が勇者や聖女だったから咄嗟に異世界人と言った。


だめね、これも違う気がする。

一度ちゃんと話してみたいけれど僅かとはいえ魅了魔法の影響を受けている今は控えた方がいい。

少なくともここがどこの大陸の王国か判明したあと──ううん、出来ればイータ王国と繋ぎが取れてからの方がいい。

魔術狂は亡くなっていても西の大陸の覇者であるイータ王国は健在だろう。

彼が開発していた様々な魔道具のいくつかはきっといつもの隠し場所にあるはずだ。

それを何とか手にいれたい。


今まで前世の誓いに縛られていた。

ハルフェ様の生まれ変わりだろう美琴を守ろうと思っていた。

けれど美琴は聖女の証である聖女の祈りを持っていない。

聖女に仕える騎士ではなく静原茜として仕える?

…………。

もういいかな。

美琴に出会って七年。

ハルフェ様に仕えた年数と同じだ。

私がいてもいなくても彼女は変わらない。

むしろ傍にいたらますます調子に乗るだろう。

これからは少しずつ美琴離れしていこう。


それはそうと久遠さんをパーティーに迎え入れたいな。

彼女がいれば私がパワーアップするから戦闘面でかなり助かる。

美琴や宮原くんはともかく生温い世界で生きてきた佐藤さんと土屋さんがすぐに魔物や魔族と戦えるとは思えないから。

けれど残念ながらお断りされてしまった。

やはり久遠さんには一人でも大丈夫な何かがあるんだろう。


こちらに来て元の世界に帰れた人を私は知らない。

けれど他のクラスメイトよりもこの世界の知識はある。

それを利用して久遠さんと仲良くなろう。

彼女はきっと魔王を倒すための切り札になる。

私の直感がそう告げているの。





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