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皆さん、事件です!

大事件ですよ!

何とこの世界、エルフが美形じゃありません!

親しみのある平凡な顔をしてるんです!


…………。

失礼、取り乱してしまいました。

自分の中に固定観念のようにあったエルフ=美形という方程式が打ち砕かれて、正直この世界に来たとき以上の衝撃を受けたんです。

勝手な幻想を抱いて勝手に幻滅するなんて大変失礼ですよね。

エルフの皆さん、ごめんなさい。


私の中で何となくエルフは気高く排他的なイメージがあったんですが、こちらのエルフさんはとても親切です。

見るからに怪しい迷子の私に手を差し伸べて、吸血鬼さん達に連絡を取ってくれると集落に招いてくれたんですよ。


ええ、はい。

実は私、現在迷子です。

黒曜石みたいな石をつけた透明スライムさんが複雑な模様が描かれた場所に案内してくれたんですが、そこに足を踏み入れた瞬間視界が一変、開けた草原に一人立っていたんです。


周囲を見渡しても透明スライムさんの姿はなく、道を尋ねようにも人影はなく、助けを求めようにも近辺に建物はなく、さてどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてくれたのがヒューさんでした。


ヒューさんは手には弓、背には矢筒という狩人スタイルで、獲物を探している最中に私を見つけたそうです。

気の良さそうな顔、いわゆるエルフ耳と呼ばれる長くて先端が尖ってる耳も髪で隠れていたため、私は最初彼が人族だと思いました。

あの海底でみた模様は魔法陣で、人族の住む大陸に移動したのだろう、そんな風に思ったのです。


人族といえば隷属の首輪。

狩人が持っているとは思いませんが、念のため用心しつつポケットから身分証の裏側が広範囲に見えるよう掲げました。

これといった理由はないのですが、もしかしたら特別な防御魔法がかかっているかもしれないと無意識に思ったのかもしれません。


ここは異世界。

同じ人間に見えても価値観が大きく違う可能性があります。

隠れる場所もない開けた草原に丸腰で反撃手段もない私と遠距離から攻撃できる狩人。

顔に似合わず狙った獲物は逃さない、そんな貫禄を漂わせる彼が何らかの拍子に敵意を持って攻撃してきたとしても私に避けることは出来ないでしょう。


ですが、このように身分証を掲げていたら変わり者の魔族や魔物が万に一つの可能性で助けに入ってくれ──ませんよね、はい。

でも身分証を持つ女が人族に捕まったくらいは伝えてくれるんじゃないですかね?

そんなことを考えていると狩人さんがぴたりと立ち止まりました。

そしてゆったりとした口調で尋ねてきたのです。



「──もしや、あなたは召喚された異世界人ですかな?」



「は、はい!そうです!」



異世界人だとバラしてどうする!って感じですが、人族とも言葉が通じたことにホッとして、捕まるかもしれないということは頭からスカッと抜け落ちていました。

後々その事を指摘されたときはゾッとしましたね。

私の返事に狩人さんは手にしていた弓を持ち直しながら改めて近づいてきました。


近くで見た狩人さんは親近感のわく顔をしていますが、よく手入れのされている艶々とした豊かな金髪、キメの細かい抜けるような白さの肌、すらりとしたモデル体型等々、恐ろしくポテンシャルの高いおじさんでした。


…………。

いやいやいや!

ちょっとおかしない!?

お兄さんやなくておじさんやんね!?

そのもち肌とキューティクルバッチリな天使の輪どないしたん!?

え?

幻覚魔法?



「──どうも、異世界人のお嬢さん。私はヒューと申します。お名前を伺っても?」



「は、はい! 初めまして、久遠沙夜と申します。 ええと、ヒューさんとお呼びしても?」



「ええ、お好きなように。私もサヤ殿とお呼びしてもよろしいかな?」



「はい、どうぞ。あ、ですが殿は付けなくて大丈夫です。サヤとお呼びください」



「これはこれは、異世界人には珍しい殊勝な御方ですな。──ところでサヤ、ここで一体何を? 召喚された異世界人は暁の館に向かうと聞いておりますが?」



「──あかつきのやかたですか? そこに行けば皆と会えるんでしょうか? 実は私、魔法陣っぽい模様を踏んだらここに飛ばされまして。さっきまで──ええと、全然違う場所にいたんです。 ここはその、人族の住む大陸で合っていますか? あ、でも私達のことを知っているということは違う? ん?あれ、ヒューさんは──ええと、人族?でいいんでしょうか? 間違ってたらすみません。ちょっと混乱してまして」



「──私ですか? ああ、失礼。耳が隠れておりましたな。 私はご覧の通り、エルフです。 そしてここは人族の住む大陸ではなく魔王領。 魔王領には亜人が数多く住んでいるのですよ。──よければ、この先の集落にご案内しましょう。連絡すれば担当者が迎えに来ると思いますので」



────はい?

ええと、私、耳が遠くなりましたかね?

今エルフと聞こえたような?

いやいやまさか。

え?

違いますよね?

でもあの耳は──



「──ええと、ヒューさんはエルフなんですか?」



「ああ、これは失礼。 サヤの世界には人族しかいないのでしたな。その通り、私はエルフです。この世界には人族に似た姿を持つ人族とは似て非なる種族──魔族や亜人がいるのですよ。


私どもエルフも耳以外は人族と変わらないように見えますが全くの別物、歴とした亜人です。──サヤ、一つ忠告を。魔族や多くの亜人は人族によい感情を持っていません。 その身分証、ぜひ大切にしてください」



「はい。ご忠告ありがとうございます。大切にします」



これはもしかすると身分証を見せていなかったら射られていたかもしれませんね。

しかしヒューさんはエルフですか。

エルフ、エルフ、エルフ──世界って広いんですね。



「ところでサヤ、こちらに来たときにギフト──職業、加護、スキル等ですね、をもらったのでしょう?どんなものかお聞きしてもよろしいかな?──これからエルフの集落に向かうにあたって最低限の情報は欲しいので」



ギフト。

こちらではチートじゃなくてギフトっていうんでしょうか?

うーん、どうしましょう。

職業や加護はまだ言いたくないんですよね。

もう少し色々確かめてからにしたいんです。


サキュバスさんが人族の王様が職業が勇者ではない異世界人に勇者の称号を与えて勇者に仕立てあげていたと話していたんですが、そもそも称号と職業の違いってなんでしょう?


職業が勇者と称号が勇者。

強さ的には職業が勇者の方が強いはず。

やる気は──何となく称号が勇者の方がありそうな気がします。


加護でスキルや身体能力が向上することは羽山さんと委員長と話してわかりましたが、職業や称号はただのレッテルと考えていいのでしょうか?


委員長は小さい頃剣道を習っていたから職業が騎士見習いになった。

では私や羽山さんはどうして魔王の妻や聖女見習いになったのか──



「ええと、そうですね。精神攻撃系の耐性がありますが攻撃系のスキルはありません。──ところでヒューさん、お聞きしてもよろしいでしょうか?この世界の方々も職業や加護、称号がありますか? もしあるなら、それらは変化するのですか? 例えば女神の守りが軍神の守りになったり、職業が騎士から聖女になったり」



「──変化ですか?ふむ、サヤは不思議な質問をされますな。長くなりますので歩きながら話しましょう。この世界の者は異世界人と違って産まれた時点で持つのは加護のみ。職業や称号を生まれ持つ者はとても珍しいのです。


たとえば私の場合、小さい頃は職業のところにエルフという種族名が書かれているだけで称号もありませんでした。


私見ですが、職業は狩人になりたいならば弓で獲物を狩る、魔術師ならば魔法を勉強するなど、それに関する修練を積むことでいつの間にか埋まるのではないかと思います。


いつの間にかというのは、突然まるで世界が変わったかのように視野が広くなる、体が軽くなる、思い通りに近い動きが出来るようになるのですよ。それで確認すると職業が書いてあるのです。


後は種族によってなりやすい職業や得やすい称号がある、といったところでしょうか。


無から有になったという意味では変化したとも言えますが、一度得た職業や加護が変わったという話は聞いたことがありませんし、称号は変化するというより追加されるようですな。


たとえば、森の守護者という称号持ちが何の理由もなく森を焼き払った事で負の称号が付き、森では実力を十全に発揮できなくなったり、逆に海の生き物を助けた事で正の称号が追加され漁に出ると毎回大漁の漁師がいたりもします。──そうそう、称号持ちになった事で時折スキルが追加されたりもするようですよ」



「──なるほど、こちらの世界では様々な可能性の中からなりたい職業を掴むことが出来るのですね。ヒューさん、詳しい説明ありがとうございます。とても参考になりました」



その者がどんな生き方をしてきたか、どのような生き方をしたいかで職業や称号がつく世界。

私達、異世界人も同様と考えて良いのでしょうか?


私の職業魔王の妻ですけど花嫁修業とかしたことありませんし料理もまともに作れませんよ?

ぶっちゃけ材料をぶつ切りにして煮込むか炒めるかの二択ですし。

味見はちゃんとするのでそこそこの味ですけど見た目は──まぁお察しで。


うーん。

やっぱりこの職業になった理由が分かりませんね。

──案外召喚された中からランダムで選ばれたとかだったり?



「──サヤ、向こうに見えるのが私の住む集落です。エルフの集落はいくつかあるのですが、私の所は多種多様な種族がいて──賑やかですので一応身分証を見せていた方がいいかと」



賑やか。

つまり血の気が多目な方が多いと?

私の目には木々があるだけで集落のようなものは見えません。

ヒューさんて目が良いんですね。

それともスキルや加護や称号で良くなっているのでしょうか?



「はい、わかりました」



魔王さま、お役立ちアイテム本当にありがとうございます。

召喚したことはアレですが、とても助かってます。

さてさて集落にはどんな種族の方がいるんでしょう?

スライム以外は私達と変わらない姿の方としか会っていないので楽しみです。


この辺りではどんな獲物がとれるのか、罠を使ったりするのか、どんな食べ方をするのか、調味料はどんな物があるのか等々を教えてもらっていると、いつの間にか集落まであと少し。

ここまで来れば私にも木々の合間にある建物が見えるようになりました。

ヒューさんの視力恐るべし。


──ヒュッ!──


今、猛烈な勢いで何かが通りすぎて行ったような?

気のせい──ドーンッ!!──ではありませんね。



「サヤ、私の後ろへ!──不味いな、まだ当分大丈夫だと思っていたのに」



ヒューさんが焦ったように私の手を引きますが、続けて第二第三第四と大きな火の玉が飛んできます。

これ、魔法でしょうか?



「サヤ!!」



ヒューさんのお陰で上手い具合に避けることが出来ていましたが、先程の疲労がまだ残っていたのか、それとも単なる運動不足か、足をもつれさせて転んだ私の目の前に今までよりも遥かに巨大な火の玉が迫っていました。


何故でしょう?

不思議と恐怖はありません。

どうしたらこの危機を乗り越えられるのか、それが分かるからでしょうか?


ヒューさんが慌てて立ち上がらせてくれようとするのと反対の手をそっと火の玉へと向けた瞬間、目の前が真っ赤に染まり、そして──まるで手品のように火の玉は消失しました。


体を巡る不思議な感覚。

嵌まるべき場所にピースが嵌まったかのような──これがスキルを使うという事なんでしょうか?

しかも私の意思を酌んで必要なスキルをオートで発動してくれる親切仕様。

これって多分、加護が効いてるんですよね?

暗黒神さま、ありがとうございます。



「──サヤ、今のは一体?いえ、話はあとにしましょう。まずは集落へ。安心して下さい、集落の者が対応したのでもう撃っては来ません」



「はい」



それにしても身分証が見えない距離からの遠距離魔法は危険ですね。

怪しいからとりあえず撃っとこ、みたいな感じで殺されかねません。

防御した際に落としてしまった身分証を拾い上げ、再び集落へと向かいます。


入り口の綺麗な花のアーチがエルフの集落っぽいですね。

──その下に集まる強面の方々がいなければもっとイメージ通りなんですが。

あ、エルフの皆さんはキリッとした普通の顔です。

うん?

何だか少し焦げ臭い?



「族長!おかえりなさいやせ!」



「「「「おかえりなさいやせ!!」」」」



ザッと左右に別れ深く頭を下げる方々。

えーと、族長って──もしかしなくてもヒューさんの事ですよね?

体育会系というか、ヤのつく職業っぽいというか。

未だに異世界エルフ像が掴めません。



「──族長、すいやせん!先代が抜け出したことに気づけず納屋が一つ焼けちまいました!既に鎮火済みで先代も屋敷へお戻りいただいてやす!」



係長って雰囲気のエルフが強面の方々の奥から歩み出てきて最敬礼。

このエルフさんもキューティクルばっちりです。

天使の輪が羨ましい。


焦げ臭いのは納屋が燃えたせいだったんですね。

このエルフさんの口振りからして、さっきの火の玉は先代?が撃ってきたんでしょうか?

集落の建物の多くは木製で、中には憧れのツリーハウスも見えます。

まさしく火気厳禁って感じですね。



「──そうか、ご苦労。引き続き見張りを頼む。それとレスリー殿に連絡を。召喚された迷い人を一人保護したと伝えてくれ。──サヤ、迎えが来るまでしばらくかかると思いますので集会所へ行きましょう」



「ウスッ!──おメェら!お客人のおもてなしだ!」



「「「ウスッ!!」」」



あれ?

何か向こうから派手な御神輿みたいなのが運ばれてきました。

装飾過多なトラックを彷彿させる派手な椅子の乗った台座を担ぐあれです。

…………まさか。



「お嬢さん!どうぞこちらへ!」



ですよねー。

やっぱりこれ私に用意されたものですよねー。

あは、あはは。

乗りたくナーイ。



「──サヤ、どうせなら集落を一周しましょうか。皆に陛下から賜った身分証を見せてあげてください」





…………。

これ、逃げたらアカンかな?



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