降って湧く貴金属と流行り病。
昨日は夜中まで忙しかったのでたっぷり寝坊します。
…十日くらいは眠らなくも疲れを知らず、魔力が未だ自然回復上限を切っていないこの身体に必要はないのですが。
気分です。
昼を過ぎて表に出るとミスリルゴーレム達がワラワラと作業をしています。
「たった一日二日で結構増えましたね…。
今どのくらいですか?」
『ミスリルが七十七機、オリハルコンが四十七機ファインセラミクスが十三機完成していますね』
「はい、ストーップ!生産中止!
どこからそんな群れが出てきたのですかっ?」
『ミスリルとオリハルコンは等はリーフリールの森の中に鉱山を数か所、知っていたようですね。
そこを守備していた魔化ゴーレムをまず殲滅、鉱脈を奪って生産に充てていたようです』
「うわあ、オリハルコンとかミスリルの鉱脈って…。
そ、それも魅力的ですが、制御系とか素材があってもどうにもなんないパーツは一杯ありますよね…?」
『魔術や錬金に特化した仕様にもできるようで、生産特化機から生産していたようです』
「…とりあえず、自己強化と採掘優先で。
後は…」
といっても復活したての魔王とかより既に強いわけですが、強化因子を際限なく喰い合うリーフリールの森をなめてはいけません。
期せずして錬金魔術師…錬金魔術機とミスリルとオリハルコンの鉱脈を手に入れたようです。
ミスリルというのは鋼より強靭で軽く、一切の腐食を受け付けず、魔術式の許容量が多いのに防具武器なら魔術耐性も高いし、表面処理にもよりますが摩擦が魔法的に少ないので血や体液等の液体粘体が付かない、武装の素材としては夢のような白銀の魔法金属なのです。
オリハルコンは重量が重い事と魔術式対する特性相性以外、ミスリルの更に上位といっていい赤味を帯びた黄金色の魔法金属です。
両者共、魔力伝導率がロスを計測できないくらい高く、普通の鍛冶だけでの加工はできないくらい熱にも強いそうです。
…ウチのゴーレムは加工できるみたいですが。
わたしも一応ミスリルのハルバートを作ってもらおうかな…。
それにしても知っていた、鉱山…鉱脈ですか。
お約束の古代超文明の遺跡がある事は知識としてはあります。
ゴーレムが製造されている事からも明らかです。
ですがゴーレムが魔術以外に固定武装を持っていないのが疑問です。
わたし達ホムンクルス同様、ゴーレムも魔力が尽きれば行動不能になります。
武器体術を駆使しても戦闘稼働は多少の魔力を消費しますし、魔力消費する攻撃手段しか持っていないのは、自滅を招きかねないので非常にリスキーなのです。
今でも初歩的な火薬は存在するのに、これだけのゴーレムを製造できる文明が銃器の類を装備させないのは不自然な気がします。
魔力密度が極端に濃いリーフリールの森ではそれほど問題になりませんが、リーフリールの森のような環境を想定していた設計なら魔化もしないはずですから、魔力頼みの固定武装しか持っていないのは違和感があります。
生産特化機を見てみましたが形状は同じで、ただ自作した電動工具…魔導工具や成形型を駆使して戦闘用魔術の代わりに生産系魔術を駆使するだけです。
そして高級素材系のほとんどのゴーレムは、掌の内側は硬質ではあるもののラバーっぽい表面処理がされていて人並み以上の繊細な作業が可能なのです。
…ひょっとして汎用?…までいかなくても一見して戦闘用に見える彼らは、多用途役機?
軍隊では塹壕掘りから小規模開拓・簡易建築まで土建技術とは無縁でいられません。
鉱脈…多用途役機…調査?斥候?偵察?
とすれば、もしかして?
ありましたよ、地下空洞。
鉱脈辺りを丸覚えした地下探査魔術等で調べたら割と簡単に。
と言いますか、空洞がでかいので瘴化魔力や瘴気が染みた地下層が薄過ぎるから簡単だったのであって、普通に探査魔術に対抗手段は施されていました。
遺跡確定ですね。
さっさとフルバーストインパクトでゲートを掘り当てて、ゴーレム達とは別組織か対立組織の設備遺跡のようですが、魔導システム戦用アダプタを腕部に付けたミスリルゴーレムが認証端末に取り付いてファル姉様が解析。
わたしにとって未来的に見える遺跡ですが文明としてはゴーレム達と同一文明の産物のようなので、それほど時間もかけずに開錠。
『文明レベルとしては私達には再現が難しいほど高いですが、システムのロジックとしてはリーフリールの森のメインシステムと比べると陳腐ですね。
このままアカウント奪取を試みますね?』
まあリーフリールの森のメインシステムは半生体ぽいし量子コンピュータっぽいのも併用しているみたいですしね。
「御願いします」
わたしは数機のゴーレムと共に内部へと侵入調査です。
『ディアーナ様から伝言です。
原因不明の流行り病が王都で発生したようですが、時期的に先の事件との関係は考えられないでしょうかとの質問です』
「あ、瘴気とか瘴化魔力…?
魔瘴化生物の死体の瘴化魔力って地に還るのですよね?」
『ええ、焼いたり浄化しない限りは。
それまでは生物として地に還るまで残ってしまいますね』
魔物を食べたり素材を利用する習慣はあるらしいし、焼いているのは見ました。
「関係ないのでしょうか?
…いえ、この地…宗教にもよるのでしょうが王国の一般的な人の葬り方は火葬ですか?土葬ですか?」
『5・6年前と変わっていなければ土葬ですね。
宗教ではなく手間と費用と思います』
土葬の方が費用がかかるって聞いた事がある気がしますが、衛生処置の違いでしょうか?墓地の専有面積単価の問題でしょうか?
…インフィとしての知識に抗生物質はおろか明確な感染症の語彙がありません。
魔術的手段による止血や麻酔等で外科的医療や、基礎研究を錬金薬学でできる薬学なんかは日本以上に発達している部分はあるのに。
誰しも多少は強化因子を得る機会があって、免疫力が高めで健康が維持されるのでしょうか?此処の人達は感染力が低い軽度のインフルエンザ的な流行り病くらいまでの認識しかないのです。
本当にインフルエンザなら、それはそれでウイルス感染症なので大変な気がしますね。病理的な意味のウイルス語彙がありません。
…ホムンクルス技術があって遺伝子の概念があるのに、ウイルスの概念がないのはアプローチ順的におかしいですね?インフィの語彙にないだけなのでしょうか?
解毒や浄化の魔術の病原体判定ってどこまで?このテのデタラメな魔術の存在で、場当たり的に各個対処できてしまうのが発展しない理由でしょうか?
「瘴気は普通の魔術で浄化できないのですか?」
『いいえ。
幾分高度にはなりますが可能です。
ですが瘴気は一般的に都市部では縁のない概念ですし、侵されている事を診察するにも別種の魔術的スキルである診察鑑定が必要です』
「…診察してから処置・処方ではなく、魔術を使って効かなければ診察鑑定、が主流なのですね…。
地中の微生物まで魔化するなら細菌も魔化しそうですし病原性細菌だって生物です。
うかつに回復の為の活力を与える『活生化』の魔術とか使われたら病原性細菌まで活生化しそうな気がします」
『それはそうなりますね。そんな滅多にないケースの知識まであるのですね』
先刻、遺跡にあった色々の考察中に誤魔化しながら尋ねるのが面倒くさくなって、誰だか分からない地球という異世界の記憶がある事を打ち明けてみたら『インフィは色々と特殊とは考えていましたが、そういう事もあるのですね』と妙な納得をされました。
ウイルスの語彙がないので上手くファル姉様に説明できませんが、細胞を持ってないウイルスでも遺伝子は持っているのです。少なくともウイルス影響を受けた細胞の活生化はする気がします。
「…あの場で魔化していない人や生物の瘴気由来の可能性はありますか?」
『あるでしょうね』
地球の看護教育の母、フローレンス・ナイチンゲール。
イギリスにおける統計学の基礎を築き、看護に初めて統計学を持ち込んだ統計学者。
ここは彼女に倣いましょう。
「…ディアーナさんと直接会話を、今できますか?」
『…今目立たない所に入ってもらいました、どうぞ』
わたしも話し易いように紅と正対します。
「ディアーナさん、分かりますか?インフィです」
『インフィ?』
「ディアーナさん、流行り病の件ですが事件との関係はある可能性あります。
そして被害が拡大するかもしれません。
わたしからの依頼で関係資金は出しますから、なるべく早く強引にでも患者と事件当時あの場に居た人、それらに接触した可能性のある人、全てを個室で管理・隔離できる所に収容したいと思います。
もちろん徹底的な衛生管理と栄養管理した上で。
診察してからの治療を徹底しつつ問題なかった人も含めて統計とできるだけ詳しい記録をとって欲しいのです。
魔瘴化細菌が感染る可能性と危険性と、対応する魔術でもエタノールでも何でも…できる殺菌措置を丁寧に説明して同意した人しか近付けないようにしたいです。
この条件でできるだけ瘴気を浄化できる魔術師と医療に関わる人材や手伝いを集めて欲しいのです。
それと事件で亡くなった方はできるだけ火葬で、どうしても抵抗があるようでしたら瘴気浄化を施して欲しいのです。
的外れだったり取り越し苦労だった場合ごめんなさい。関係者に謝罪と損害補償に応じる用意はします。
…この依頼、受けてもらえますか?」
『そこまで言われたら普通はやるでしょ?』
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