貸して返してもらい、借りて返す。
続四日目。
正面の門は身分証を持っているディアーナさんが一緒なら何の問題もないらしくあっさり通過。
コンクリートっぽい三階建て四階建てのビルの街並みや、遠くに見える白亜の城も、食品や軽食屋台も、多彩なファンタジー要素も全部スルー。
ディアーナさんに引っ張られて最短距離でユール商会本店まで3分。
あまり旅行や観光に興味がないわたしでも、さすがにもう少しは見て回りたいと思いますが、ディアーナさんが許してくれなさそうです。
仕方がありません。
面倒事は先に終わらせて後でゆっくりしましょう。
ユール商会本店と看板を掲げる四階建てのビル1F受付まで迷う事無く進んで…。
「今居る最高責任者に、リーフリールの森のインフィ・カーラが契約の件で訪ねて来たと伝えて」
ディアーナさんが反論を許さない、ちょっと怖い感じで注文して3分、四階貴賓室っぽい部屋へ。
「初めまして、インフィ・カーラ様。
代表のシリル・ユールです。
お会いできて光栄です。
こちらはこの若輩に代って業務を担う実質的運営統括者の…」
「マドロク・クロークと申します。
初めまして、インフィ・カーラ様
お会いできて光栄に御座います」
品の良い銀髪の二十歳前後の女性と白髪初老の紳士が判で押したような挨拶。
それはそうでしょう。信じるにしろ信じないにしろ、突然過ぎますよね。
「ええと、田舎者の世間知らずの小娘に尊称と敬語はやめて下さい。
そう長い話にはなりませんので立ったまま失礼します。
率直に申し上げれば、我が創造者=フィリル・カーラは三年以上前に事故で亡くなっております。
現在、契約はリーフリールの森の拠点のメインシステムが維持管理しています。
当分は問題なく維持されますが、改善も仕様変更も基本的にできません。
天災等による重度の破損が発生した場合等も保証致しかねます。
ここまでをお伝えするのが、わたし、インフィ・カーラがここに来た理由です。
加えてわたしは最近目覚めたマイスター・カーラと直接の面識もない、最後のフィのホムンクルスですが、何の使命も受けていない、ただ、リーフリールの森に生きる事を許されただけの野良のホムンクルスです。
マイスターの死亡が伝わらない事で生じる不都合を憂いて来ただけの存在です。
蛇足ながら、わたしに一切の権利はありませんが、この三年の分はともかく、今後は御支払になった方がお互いの為と思います。
以上が、各方面に伝わり相談される事を願いまして今回は御暇させていただきます」
よし、言い切りました!
一言で言えば『マイスターはもう居ないから後は知りません』で済む話ですけれど。
義理は果たしました。
わたしは言うべき事は言ったので退出しようと、お辞儀をして踵を返します。
「ちょっと?!」「な、な、なっ?!」「待って下さい?!」
流れで同伴していたディアーナさんを含めて硬直していたのでしょうか?
「はあ、何でしょうか?」
「ね、ねえ、インフィ、ちょっと待って…落ち着いて、ちょっと待って」
ディアーナさんこそ落ち着いた方が?
「わたしは落ち着いていますが?」
「インフィ様、まず落ち着いて…」
「わたしは落ち着いていますよ?」
「ですから…」
・
・
・
仕方なく『落ち着いて』と『待って』しか言えなくなっている三人が落ち着いて『マイスターはもう居ないから後は知りません』という趣旨の話を何度かするハメになりました。
面倒臭いです。
暗くなる前に買い物がしたいからと押し切って退室。
手伝うと無理矢理付いてくるディアーナさんを容赦なくコキ使って大量の物資を購入して物陰で結晶封印する事数度。
「…引き籠る気、満々だね」
「ここでは目立ってしまいましたし、口止めもしませんでしたから面倒臭いのが寄って来る前に引き籠ります。
わたしみたいなのが一人で街に生きるのは不自然なようですし。
…マイスターの気持ちが分かったのかもしれません」
「何で口止めしないの?」
「できるだけ信用できる情報として伝えてもらうのに、つまらない障害になるもかもしれませんから」
「…はあ。
本当にリーフリールの森の魔女は亡くなったのね」
「多分、わたし達の寿命くらいはメインシステムがなんとかしれくれると思いますよ?
マイスターと面識でもありましたか?
ディアーナさんの反応は一般人の反応に見えません」
「面識はないよ?
森の魔女の事は、そりゃあ悪く言う人も多いけど、亡くなったと聞けば溜息の一つ分くらい不安になる人がほとんどだと思う。
…例え、リーフリールの同盟に参加してない帝国でも」
「同盟?…ですか?」
「ああ、通称かも?資金を出してる以外の同盟要素を聞いた事ないし。
要は帝国はリーフリールの森の維持に反対して資金を出していないって事。
そんな国でも無条件で喜ぶ人はあまりいないと思うよ?
そんな国の元士官でもね」
「ディアーナさん?」
諜報の類ではなくとも調査員とかかな?と思っていましたが元帝国士官ですか。
といっても帝国…ションサース帝国について何も知りませんが。
「あの国、無暗やたら攻め広がってるし、リーフリールの反対側の恩恵があまり届かない所も領土があんのよ。
だから魔物と恒常的に戦う事ができるし、そのしんどさも知ってる。
リーフリールの森がなくても帝国は生き抜けると言うけど、無条件で喜ぶのは魔物と直接関わらない偉い人…ううん、皇帝だって無条件では笑えないんじゃないかな?
三百年以上でしょ?
それ以前から生きている長命種くらいしか誰も想像できないのよ『自然な状態』が。
三年くらい前っていったら魔王が復活した予兆あったとか言い出す研究者もいたし」
「魔王?それは、初耳ですね。
ファル姉様、魔王って何ですか?」
「ああ、それでしたら何年かに一度は発生を確認しています。
悪魔種や魔化人種等の魔王級統率個体ですが、長くても数週間で淘汰されますね」
「…淘汰?」
ディアーナさんは心底意味が分からないといった感じです。
「リーフリールの森の中の生存競争に負けて消滅したり喰われる事です。
魔化魔力、瘴気が集中しているわけですから、発生・復活するならその類もリーフリールの森の中の方が確率が高くなります。
リーフリールの森のこれまでも幾度とあった仕様範囲内の現象です」
「…魔王って魔物の頂点じゃないんだ…」
「それ、わたしも今初めて知りました」
「討伐ランク二百の魔王級統率種が復活して、それ以下をいくら従えた所で、それで生き残れる程リーフリールの森の中は甘くありません」
「討伐ランク二百って、今知られてる人類最強を集めて上位十人でパーティ組んでも勝算は高くないと思うんだけど…?」
あれ?そうなのですか?
「討伐ランクの高い、その類の発生復活のランダム性を高確率でケアできるというメリットも、付近の魔物の減少・弱体化に並ぶ、高額費用をかけて維持運用されている理由のはずですが、伝わっていないのでしょうか?」
「あたしは聞いた事ないね。
上層は知っているかもだけど、なおさら大事ってコトよ?」
「…ディアーナさんは言いました。
誰も自然な状態が想像できないと。
マイスターも事故がなくても…例えエルフであってもいつかは居なくなります。
自然な状態に戻る日はいつか来ます。
コントロールの効く内に段階的に…緩やかにでも自然な状態に戻して抗う牙を磨いた方が良いのかもしれません。
今を生きるわたし達の世代に直接関係ないので『後世の為に今から厳しくして行こう』とは中々決断できない方針だとは思いますが」
「そっか、インフィもあまり寿命の長くないホムンクルスだもんね。『なんとか跡継いで生贄になって』とはいかないわよね」
「何度も言いましたけれど、わたしはメインシステムを理解していませんし、限られた許可を与えられているだけです」
「仮に優秀な長命種を連れて来てもメインシステムとしては仕様上権限移譲できません。
『生きている限り、自分の作った危険物の最低限の面倒はみるけど、死んだ後まで知るか!』とは生前の本人の弁ですが、一応死後も補給が続く限り現状維持される仕様です。
ただ、死者蘇生や認証欺瞞の手段が開発された場合の対策として、例えマイスター本人であっても現在では権限移譲できません。
契約書面にも概要仕様書にも明記されています」
「半径五百㎞のリーフリールの森の更に三千㎞近くまで効果があって十ヵ国以上の安全保障が関わる魔導機構だもんね。
他人任せにできるようには作られてないのね」
あれ?そうなのですか?
「その辺りはわたしも良く知りませでした」
「稼働当初は二ヵ国でしたがリーフリールの森の外縁に沿う方が開拓し易かったのでしょうか、現在は全周囲をいずれかの国土で囲まれているようです。
リーフリールの森は人の出入りは制限がないので、時々人が入り込んでいるようですし、危険と言えば危険なのですが」
「外周街道があたしが生まれる前に開通して、次は城壁って話もあったらいしけど、直接隣接してない国とか利権とか、なにより中の魔物相手に意味もないし、外周街道の内柵以上の対策はできなかったみたい。
中が危険というのは常識といえば常識だしね」
「…自己責任ということですか」
「でさ…。
…王国も薄々分かってはいるだろうし、あたしが決定的ではないにせよある程度持っていてる情報を統合分析するなら多分…。
…今朝のテロ、帝国の差し金だと思うのよ。今までも疑わしい事件はあったし。
だとして、フィのホムンクルスとしては帝国の事をどう思う?」
「わたしにとって『フィのホムンクルス』というのは、マイスター=フィリル・カーラの銘を戴いているだけのホムンクルスという種族名称であって、立場を指す名称ではありません。
野良ホムンクルスのインフィとしては、帝国も王国も良く知らないので、どうも思いませんね。
自然な状態に戻していくというのも考え方として否定しませんし。
今朝の件もただの人命救助です」
「…あたしは、非戦闘員まで軍事力で制圧して考え方を押し付けてまわる帝国が嫌い。
だからなんとか帝国軍人を辞めて、自由職でやりたい事だけやってるわけだけど…今のあたしが一番やりたい事は今朝のようなテロは割に合わないと学習させたい」
「反帝国主義とか政治的抵抗ではないのですね」
「主義とか政体なんて民草にとって『権力者の性格と考え方』以上の影響はないと思っているわ。
だから王国にあたしの心当たりの情報をチクって、主導した権力者に痛い思いをしてもらって割に合わないと学習してもらおうと思うの。
ただ、あたしが直接チクるのはリスクがあるし、思うだけの対抗戦力を出して貰えないと思うから、陰ながらでもなんとか手伝える立ち位置に付くつもり。
…インフィ、一緒に手伝ってとまでは言わないわ…支援してくれない?
「わたしはわたしの感知できる範囲内で、わたしの気分で後味の悪い結果を避ける以上の、国同士・人同士の争いに直接介入しないつもりです。
ですがリーフリールの森を一部でも利用しようとした今朝の惨劇は気分が悪いですね。
なので索敵や情報等の間接介入ならとも思いますが、ファル姉様の支援は無理でしょうからわたしにできる間接介入も限られます。
バーンやゴーレムは普通に騎飛竜と使役ゴーレムとしてはどうでしょう?ファル姉様」
「私はインフィの為の対人インターフェイスです。
たとえインフィが世界征服を目指したとしても、リーフリールの機構維持に関わる問題ではなければ、メインシステムとしての制限内で支援しますよ?
それにバーンやゴーレムはインフィが捕獲従属させた正規のマスターですから貴女が許可しなければ、私も制御も制限もできません」
「あれ?そうなの?
まあ、そういう事なら間接支援くらいはしてもいいですよ。
ゴーレムも1機くらい貸してもいいです」
「ありがとう、助かるわ。
…って1機くらい?
何機持ってるの?」
「秘密です」
…というか、ミスリル十機はあるはずですが詳しくは増産中なので知らないのです。
紅の権限を取得した方法というのは、監視隔離した部屋で初期化した個体とそのままの個体を一緒にしてみたのです。
魔化していないミスリルゴーレムは明らかにパーツ換装を意識した造りですし、補修生産施設の類はほとんど見つかった記録はないそうなのです。
ではどうやって機能維持してきたのでしょう?
人型サイズで人型なのですから互いを修理したりできるのでは?
思惑通り、初期化した個体を認証させようとしたので、何度か繰り返してパスワードや手順を入手・解析して掌握。
掌握した個体からのデータをリーフリールの森のメインシステムでOSやプログラム言語まで解析。
メインシステムの助言を元に、魔力変換器に瘴気フィルターの術式を、制御魔石にわたしの魔術式を書き加えたりして仕様・設計図面を改良、互いを補修させ合いました。
後は自力で本気エネボ3連射版等の火力で強化、同胞を見つけさせてパーツを回収・増産中なのです。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
地球の感覚では深夜とまで言わないでしょうが、日が暮れて2・3時間。
ユール商会から「リーフリールの森を利用しようとした可能性のあるテロ屋なので」とこじつけて王国にディアーナさんの心当たりの情報をリークして、国軍討伐隊の派遣を進言。
ディアーナさんとディアーナさんに第三権限を渡したディープブルーのコーティングの種類材質秘密ゴーレムの『蒼』を付けて討伐者組合を通した仕事という形で国軍討伐隊二十数名に支援追従して海辺の大岩に隠れ潜みます。
…わたし達は遥か上空で旋回する騎飛竜の上ですが。
やがて、ボートが4艘近付いて数十人の人影と接触。
飛び出して囲む王国兵。
…といっても数に倍くらいの差がありますが。
ディアーナさんの予想通り、十分な対抗戦力を出して貰えなかったようです。
情報の信頼性もあってか、海辺という事前情報があるのに「武装していなければ商船と言い切られたら追及できないばかりか、余所に委託していたらともかく帝国籍だと余計な火種になる」との事で船に対する事前臨検もしていないのです。
現在港湾外のこちら寄りに順番待ちや予定待ちで港湾使用料の節約の為に投錨しているのは大中の帆船7隻に対し、通常通り警備艇が一隻ルーティンの巡回をしているだけ。
ともあれ敵味方共にレベルの低い中、魔術と長剣を振うディアーナさんと槍を振う普通のゴーレム状態の蒼だけは頭一つ抜きんでていて、ザルな包囲を抜けようとする者を確実に仕留めます。
ディアーナさんの戦闘は初めて見ますが、出過ぎないように配慮している感じなのでまだまだ余裕はありそうです。
その間に誰も乗せずに1艘が離れ、更に3人乗せただけのもう1艘が離れようとします。
2艘目…いえ、誰も乗せていない1艘目は母船に戻る可能性がより低いので想定外です。
「…仕方がありません。
ファル姉様、1艘目はわたしが処理に向かいます。
紅のセンサーで2艘目の監視を御願いします」
『分かりました』
そして上空旋回するバーンから飛び降ります。
…ちょっと陸まで距離が足りないかな…。
あんまり強く蹴ってバーンにダメージが入るのも可哀想かと加減し過ぎました。
まあいいかと思いつつピンと閃きます。
「[シールド]」
基本は球形かその一部を切り取った円形盾ような形状に展開する不可視の盾の魔術ですが、真下に半径二十mくらいに円形盾状に展開させます。
「っと」
シールドの上に着地。
パラシュートとは上下が逆ですが確実な空気抵抗で落下速度が激減します。
『また奇妙な使い方をしますね。
初級のウインドコントロールを使う場面ですよ?』
「いいじゃないですか、ここから跳んだ方が距離を稼げますし。
形のない風みたいなものを丸覚えでテンプレート術式コントロールって今一つ不安なので…ん?
シールドって空間固定設定できましたよね?
…と言うか…」
思考速度を意識して集中強化してちょっと長考。
シールドの形状も術式本体の代入値に変数…コマンドを代入することで決定するわけですが…試にここを…。
…。
…こう、紙飛行機っぽく…。
…。
「できたっ[シールドグライダー] (仮)!」
集中強化を解除してシールドを紙飛行機状に行使、空間固定展開して飛び乗ります。
「ひとまず成功です」
トントンと足場として使えるか確認。
OK,問題なしです。
「次です。空間固定解除」
前方に落下し始めますが、後方に重心をかけると機首が上がり速度が下がります
わたしの感覚では見えますが不可視の紙飛行機状のデルタ翼グライダーです。
『また奇怪な魔術を編み出しましたね…』
律儀にわたしの脳内でツっこみを入れてくれているファル姉様ですが、紅での仕事も蒼での感覚器把握・記録も同時にできるマルチタスクなのです。
一人格ですが本体はリーフリールのメインシステムなので、ゴーレム十機で違う作業をしながら違う話ができて動作・感覚器把握と記録までしても特に負担もない事までは確認できているのです。
「これ、使えますよ?」
『魔術師なら肉体で重心操作ではなく、術式操作を発想するのが普通だとは思いますが、これはウインドコントロールしたら飛行魔術になりますね』
「うう、今はソコまで求めないで下さい…」
そんなこんながありながらも現場から死角の浜に上陸した乗員一名を、情報を持っているかも知れないし、死なない程度に殴ってドレイン。
ボート乗員が一名なのは、魔導器によるスクリューはあるのです。魔力効率が悪いので長距離には向かなくて、ちゃんとした船には補助動力にしか使い辛いだけなのです。
縛り上げた所で比較的大き目な魔術の発動を感じました。
『特定できる船から三体の大型海棲魔物の召喚魔術を確認。
討伐ランク三十相当です。
早期撃退と母船確保のどちらを優先…いえ、ディアーナ様より蒼のバーストインパクトの使用許可申請です』
「バーストインパクトの使用を承認。
ファル姉様は母船確保に。
…実行部隊を切り捨てましたか。
でも、切り捨てるなら何でこのタイミングなのでしょうか?
遅すぎます。
実際、既に実行部隊は鎮圧されて半数は捕縛していますし、このタイミングであの規模の魔術を行使しては母船を特定して下さいと言っているようなものです。
それに魔力規模の割に出て来た魔物は大型といってもランク三十…魔化大熊程度が三体。
罠…でしょうか?」
言う間に召喚海棲魔物は蒼のバーストインパクトで殲滅。
続いて…。
『全七名の母船員を無力化・拘束しました。
ボート4艘を出した痕跡を確認、母船確保成功です。
蒼・ディアーナ様を通じて国軍討伐隊に警備艇に連絡を御願いして、紅をバーンで離脱させます』
「了解です。
わたしの方の分も一緒に連絡を御願いします。
…ここからどんな罠が考えられますか?」
『了解です。
私も対人軍事経験やデータがあるわけでもないので「詰み」にしか思えませんが、全員に自爆の用意がある…とかでしょうか? 』
「自爆のタイミングも過ぎている気がしますし、どういう事でしょう?」
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「どうもこうもないよ?
まんま、インフィの魔力感知が優れていたから、結局直接支援もしてくれたから、飛竜騎の存在を察知されていなかったから、バーストインパクトが反則だから…あったかもしれない策とか罠ごと圧し潰したんだと思うよ?」
最低限の手続きを終えてディアーナさんが合流したのは日が変わる少し前の公園。
「あんなもんでですか?」
「そんなもんよ。
どんだけ自分達を過少評価してるのよ、世間知らずにも程があるわよ?
あたしは報告書やらやら手続きをほとんど明日に回して宿も手配してもらったからそっちに行くけど、インフィはどうするの」
「どうって、良い子は寝ている時間ですから、帰って寝ます」
「帰るって?まさかリーフリールの森に?今から?」
「そうですよ?」
「…そっか」
寂しそうに微笑うディアーナさん。
わたしはエルフアイで見える精神の精霊の影響か別のスキルなのか、害意のある嘘・他愛のない嘘・思い遣りの嘘等が解ります。
「考えていたのですが、良ければディアーナさんにこのまま蒼を貸しておこうと思います」
「いいの?なんでまた?」
「ただ、蒼が見聞きする事は全部記録に残る監視状態ともいえます。
別にリーフリールの森が関係なければ何をしようと何処かに通報したりしませんが。
なので、いつでもというわけには行きませんが、本当に困ったら蒼に言えば記録を確認してからになりますが相談にのれるかもしれませんし、早い内に使用が想定できるならバーストインパクトの承認もできます。
もしかしたら、わたしから依頼する事もあるかもしれません。
わたしでも気軽な行き来はできませんし、普通の通信魔術や通信魔導器が通りませんので。
それで良ければ、わたしも個人的に一人くらい、外に『貸して返してもらい、借りて返す』関係を持っていたいと思います」
「あたしで良ければよろこんで」
破顔して握手を求めるディアーナさんに、わたしは自分でも小さいなと思う手を差出ました。