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リーフリールの森の中 ~エルフなホムンクルスの憂鬱~  作者: NEGA
2.リーフリールの森の外。
4/13

初めての人類と最初にして最大の目標。

 

 続三日目。 



 走り続け、ふと、魔力…魔素?…が消えてなくったと思えるくらい薄くなりました。

 そして100m、森を抜けると思っていたより洗練された石畳の道。

 街道?

「…やっと…やっと、リーフリールの森、突破です!」

『おめでとう。

 …やっと、と云う程に時間はかかっていなかったと思いますけれど』

「…ファル姉様、わたしにとって初めての壁を超えたのです。

 最初の一言だけで後はいらなくないですか?」

『エルフの、しかもフィのホムンクルスの初めての壁が森の突破…と言うのは…。

 何故こんなに攻撃的思考になってしまったのかしら?』

 …食事らしい食事に飢えているのですよ…。

 西に60㎞に村、その先50㎞に王都、東に90㎞に違う国の大きな街。

 向かうのは西。

 指名代理店の商会の本店が王都にあるというのも理由ですが、わたしが村くらいで人慣れしたいというのが正直な気持ちなのです。

 11歳相当の田舎者エルフの程度の知識は持たされているのですが、今の所人類に会った事がないのですから。


 ここまで来たら急ぐ理由もありません。

 この世界の「普通」をじっくり見て歩きます。

 知識はあっても体験した事はないのですから。

 石畳の街道はリーフリールの森を囲む外周道なので右に西向いて歩くと右側はずっと森なのだそうなので主に左を見て進みます。

 見渡す限りの草原。

 その向こうに偶に見える海。

 少々の森林、岩場。

「あっ、ウシです!野牛ですよね?」

『はい、野牛ですね』

「狩ります!」

『え?あの…』

 50m先、2秒後にはわたしのハルバートが野牛の首を跳ね飛ばしていました。

「牛肉ステーキです!ステーキを焼きます!」

 持たされた知識に何故か血抜きや肉の捌き方があるのです。

 食事を必要としないホムンクルスや標準的な11歳エルフは、でっかい牛を捌いたりするのでしょうか?

 その辺は結構適当かもしれませんね。

 その場で血抜き解体作業を始めるわたしにファル姉様の声。

『インフィ、狩りには地域によって狩猟権を持った団体や組織があります。

 5・6年前と同じならこの辺りは大丈夫だったとは思いますが、それとは別に狩猟ライセンスが必要です』

「あれ?」

『これは密猟です』

「え?」

『付け加えるなら家畜種=家畜ではありませんし、野生種=野良でもありません。

 後者の場合と今回の場合、襲われたから身を守ったと言い訳もできますが、貴女の今回の思考は完全にクロです』

「…御免なさい…」

『知らなかった事は仕方ありませんし、責めもしませんが一言私に確認するようにした方が良いでしょう。

 今回も売ったりしなければ、そう問題にはならないと思いますよ』

「ありがとうございます、ファル姉様」

『話は少し脱線しますが、ここで一つ魔術の特訓を提案をします』

 別にファル姉様そのものというわけでもないはずの|ファインセラミクスゴーレム《紅》の目の辺りのシェードグラスがキラリと光った気がしました。



 特訓の後、街道脇の岩場で牛肉を焚火で調理…鉄板がないので肉塊を木の枝で刺してグルグルとローストビーフにしましたが…していると馬車の音。

「こんな所で野宿の準備かい?

 もう少しで村があるからそこまで頑張りなよ。

 それとも文無しかい?」

 振り向くと、アッシュグレイ髪ポニテの軽皮鎧の女性。30歳は…いってないと思います。

 初めての人類に話しかけられました…。

「いえ、お金はあるのですが…」

 ファル姉様と会話するのと大差はないはずなのに動揺するモノですね。

「おおう、美少女!」

 おおうっ…そう、わたし、11歳エルフ美少女!

 相手も動揺してくれたおかげで少し余裕ができました。

「あの…ありがとうござます。

 お姉さんは狩人ですか?

 わたし、そこの牛を狩ってしまって、ライセンスとか持ってなくて…せめて食べてあげようかなと思いまして…」

「そこのは捌いた牛なの?持てる分だけ捌けばいいのに」

「いえ、それは魔術が使えるので運べるのですが、久し振りの料理らしい料理なもので、つい。

 お姉さんも食べますか?

 売ったりしたらダメなのですよね?」

「…料理、らしい?

 魔術が使えるの?お金にするつもりがなくて運べるのなら村で振舞えばいいのよ?

 多少は御礼という名目で報酬が出る場合もあるし。

 おおうっ、これは見事に捌いたねー。

 あたしが買い取ろうか?」

 …これは料理です。料理といったら料理なのです。

「でもダメなのでは?」

「これならもう狩りの獲物じゃなくて食肉だね。

 元々そこまで深刻になる事じゃないよ?

 良い匂いだし、商談がてら御相伴にあずかりますか。

 そっちの無口な鎧のおにーさんもそれでいい?」

「あの…(アカ)は特別なゴーレムです。

 あと、わたしの内では女性です」

 座っている紅…ファル姉様が微かに頷きます。

「おあっ!て、ほんとだ。

 なんかゴーレムって座っているイメージないから、気付かなかったわ」

 ちゃんと見れば一目瞭然、細身で特に手足は子供でも中に入っているようには見えません。

 ちなみにバーン君は近所のリーフリールの森の中で修業中です。

「実際、座るように出来てなくて、ちゃんとした椅子には座れないみたいですが、ゴーレムを立たせて目立つと物々しいかな…と思って今は座ってもらっています。

 …どうぞ」

 わたしは切り分けたローストビーフを大きい木の葉に載せて渡します。

 あ、フオークがない、と思ったらお姉さんは細身のナイフを取り出して器用に食べ始めます。

「物々しくして、あたしみたいな怪しいのが寄って来ないようにするのが正しいゴーレムの使い方じゃないかな?

 …ウンまい」

「…客観的に、言われてみればその通りかもしれません。

 でも、ぼったくられて痛い目をみるのも経験の内と教わりました」

「…お金に余裕があるなら手間賃はそれなりにのせるけど、ぼったくりまではしないよ?

 なんなら村まで乗って行きなよ。売却までの流れを見せてあげる。

 エルフといってもその歳で成長が止まったりしないでしょう?

 あたしの連れみたいに振舞っておけば、そう酷いのが手出ししてきたりしないから」

「お姉さんは良い人なのですか?

 わたしは世間知らずのお金持ちですよ?」

 ファインセラミクスだとは思われてないでしょうが、紅くらいのゴーレムを連れていては、金持ちでない理由の方が必要です。

「くうっ、あたしは善人ですって素面で言える程マヌケではないつもりだったけど、そう真正面から来られると善人でありたいような、裏切りたいような…」

「実際の所、本当に田舎者の世間知らずなのでお金を払ってでも常識が欲しいのです。

 インフィといいます。

 村までお願いできますか?」

「いいよ、分かった、ちょっと手玉に取られた気もするけど。

 この流れで断るとか、どんな人格分裂してるんだって話よね。

 あたしはディアーナ。よろしく」


『インフィ?貴女はどこでこんな話術を?』

『多分、「可愛いは正義」というだけです』

 可愛いくないとこうはならないと思います。


「…で、運べる魔術は見せてもらえるの?

 ちょっと詰めたらあたしの馬車に載らなくもないけど?」

「ああ、はいお見せしますよ」

 わたしは屋敷を出る前に活動資金にと硬貨と宝石等と持ち出すように言われた内の、水晶っぽいカードみたいなモノを取り出します。

 これ自体普通に街で売っているはずで、硬くて透過して鏡程磨かれていれば何でも良いのだそうですが、今回は用意してくれていた水晶カードを使用します。

 片目視界でカード越しに解体された牛肉ほぼ一頭分を収めます。

「[クリスタルシ-ル] 牛肉」

 すると牛肉が幻だったかのようにぼやけて縮小しながらカードに収まります。

 カードには牛肉の姿。

 これで時間の止まった結晶(クリスタル)封印(シ-ル)されます。

 解放する時は誰でも微量の魔力でできるし、パスワードをかける事もできます。

 先程特訓して習得した魔術です。

 …どうも結晶内に亜空間っぽいのを作り出して封印する魔術らしいのですが、これに関しては今の所半分以上理解ができず丸覚え(コピー)なので全く融通が効きません。


「…クリスタルシ-ルって。

 知ってる。

 牛肉1頭分封印するのに2頭分くらいはお金取られるよ?」

「水晶カードはリサイクルできますから、わたしは多少の魔力だけでほぼ無料ですよ?」

「あたしもいくらかの魔術の覚えはあるけど、その歳であんた、天才?」

「どうなのでしょう?特殊ではあると思うのですが、何分田舎者の世間知らずなもので…」

「…特殊ねぇ。

 世間知らずのインフィにお姉さんからの1つ目の忠告。

 魔術師ならある程度以上のモラルが求められる事は教わったでしょうが、周囲にそれを期待してはダメ。

 あたしがこれを衆目の前で解放したらどうなると思う?」

「どう…なりますか?」

「水晶カードはソコソコするからリサイクルするなら、あたしの周囲に牛肉1頭分で儲けの出るクリスタルシ-ル使いが居る事が想像されるわね」

「あ」『ああ』

「あたしは子飼いの常識知らずから暴利を貪る主か、脅して従わせる脅迫者か、その手下ってところ?

 そこはまあいいとしてもインフィ自身が目を付けられたら危険なのよ。

 クリスタルシ-ル使いはそれなりにいるけど、そんな価格帯で行使する人はいないの。

 ものの価値、術の価値は見極めてから衆目に晒す危険を考慮する事」

『私もそこまで考えていませんでした。不覚です』

「分かりました。ありがとうございます。

 気を付けます」

「とは言ってもその歳では難しいかしらね。

 ぼったくられて痛い目をみるのも経験の内とか教育するくらいだから、物理的危険からはアカさんに任せて本当に痛い目をみせるつもりのスパルタ?」

「いえいえ、むしろもっと修行してからというのを御遣い名目で突破してきました」

「…家出ではないのね?」

「本当に御遣いもありますよ?ねっ?」

 と紅に視線を向けます。

『仕方ありませんね』

 ファル姉様が頷かせてくれました。

「…使役ゴーレムの同意にどんな意味があるのかしら?」



「村ってもうちょっと、のんびりしたイメージでした」

「二百人くらいは暮してるでしょうし、夕暮れが近いからね」

 土木魔術でコンクリートっぽい建築物が存在するのは知識にありましたが、村レベルで整然と商店の類が立ち並ぶのは意外でした。

 まず馬車を空ける為に討伐者組合(ギルド)でディアーナさんの獲物を売却です。

 その際に狩猟ライセンスの事を聞いてみました。

 まず狩猟権を持った地元の狩人ギルドに申請すれば食材や皮などの通常物資の供給源として草花の採取から獣・魔物の狩猟まで色々配慮してその都度簡単な説明を受けて一時的ライセンスで解禁区域での狩りが許可されます。

 次に討伐者ギルドでは登録者に対して国際基準の試験を課した狩猟ライセンスを発行します。

 基本魔物なら何処でも狩猟可能となり、獣に関してや地元の狩人ギルドとの線引きを等は筆記か二度の口頭試験に含まれれて試されます。


「あたしは討伐者ギルドと傭兵ギルドでライセンスを持っているけど傭兵ギルドなんてインフィぐらいの娘が関わる所じゃないわ。

 一生関わらずに済むならそれに越した事はないよ。

 人を狩猟するライセンスを発行しているトコロの仲介所だからね。

 まあこの村にはないしね」

「討伐者ギルドのライセンス試験はここで受けられるのですか?」

「ギルドがあるから試験官資格者は居るはずだけど…どうでしょう?

 受ける気?

 ゴーレムマスターとして?魔術師として?」

「ギルドといえど手札を隠した方が良さそうならコレですね」

 わたしはハルバートを翳します。

「隠しようもなく持っていたから『まさか』とは思ってはいたけど…ソレ、使えるの?」

「ええ、多分、そこそこ強いですよ、わたし」

「いや、それが使えるならそこそこ強いでしょうけど、むしろそちらが隠し札でしょうが!」

「だってコレ、隠せませんよ?」

「アカに持たせれば?」

「あ」

「何かこだわりがあるの?明らかに体格的に向いてないでしょ」

 ディアーナさんがわたしのローブの首根っこを掴んで猫つまみしました。

 体重を確認したのでしょう。

 わたしも確認に掴んでいるハルバートを持ち上げます。

「おっと、ほら、ソレ自分より重いでしょうが」

 …やっぱりココの人は一見した体格では分からない強化されています。

 わたしがいきなり倍以上の重さになっても片手で『おっと』で済ませてしまうくらいは。

「重いのですが長いのです。

 わたしの切り札の魔術的スキルと相性が良いのです」

 やんわりと降ろしてくれます。

「だからそちらが隠し札でしょうが。

 まあ、隠さなければそれに見合った依頼を斡旋してくれる場合もあるけど、依頼で食べていこうってわけじゃないのでしょう?」

「そうでした」


 その場でライセンス試験を希望してみましたが…。

「しばらくは無理かねえ。

 試験官資格は俺が持っているが、俺一人じゃ最低限の安全確保もおぼつかない。

 見ての通り最低限の仕事を最低限の人員で回してるんでな」

 と御老人。

 個人経営の喫茶店程度の施設内には受付の青年とわたし達しかいません。

「明日明後日ならあたしが格安で補助に付くけど?」

「おまえさんは?」

「ディアーナ。

 あたしが先刻(さっき)この娘と知り合ってここに連れてきたの。

 あたし自身でこの娘の安全確保役ができるなら、あたしが安心できるわ」

 ディアーナさんは軍隊の認識プレートみたいなものを受け付けさんに渡します。

 アレは微精霊の力を借りて討伐記録と本人確認してくれる魔導具なのです。

 つまり微精霊の監視を受けているともいえますが。

 ちなみにエルフなわたしには精霊が見えます。

 といいますか初めて見ました。

 微精霊というだけあって見るだけならモヤっとしたものなのですね。

 デスク上の魔導器にかざして確認が終わったのでしょう、受付さんが頷きます。

「ま、それなら明日でいいだろう。

 魔術師なら字は読めるだろ。

 担保と貸し賃は取るが、この辺りの獣や魔物の分布図と討伐ランクなんかの詳細冊子と、実習をクリアしたら筆記もやるからギルドのルールブックはいらんか?」

「…お願いします」



「ディアーナさんは結構な実力者か有名人なのですか?」

「ここで『実はそうなので敬いたまえ』っていうヤツは長生きしなさそうじゃない?物語的に。

 何でそんな事を思ったの?」

 ギルドでディアーナさんが協力してくれるって言ったらわたしの試験に協力的になった気がしますし、肉屋さんでも急な持込みなのに嫌な顔一つされませんでした」

「肉屋は何度か仕事で会ってるし、今日はインフィみたいなのを連れてるから顔を立ててくれたんじゃない?あたしの方が得してるよ?

 ギルドはまあ、あのまま。

 ここ1・2年、帝国がえらい勢いでに魔術師を集めてるから、ギルドの魔術師は人材不足なの。せっかくの新規魔術師の試験を断るのは大損だもの。

 やれるものならやりたいし、あたしでなくてもある程度を満たしてればやるよ?」

 同じ宿を手配してもらいながら常識的な手順とかを教わって…。

 夕食、宿の温かい素朴な料理()に涙がでました。

 やっぱり焚火のローストビーフでは自分を誤魔化し切れていませんでした。

 やっと最初にして最大の目標を達成したのです。



 ディアーナさんはわたしに悲しい過去の幻を見たり、ファル姉様には勘違いをさせたようです。





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