魔術って難しいよね。
初めて書き切ってない話の順次投稿に挑戦します。
よろしくお願いします。
本編は本人によりアルファポリス様でも公開しています。
初日。
目覚めると液体に浸された金属とガラスの中でした。
『覚醒を確認、これより110秒の開封作業に入ります』
システムメッセージの様な声が告げます。
ん?液体中内を通した声にしてはハッキリした声です。
骨伝導…とも違う感覚です。
排液が終わってガラス部カバーが開き、身を起こしてみるとなんら違和感はありません。
どれだけ寝ていたか知れませんがリハビリが必要には思いません。
天井ぎっしり這い回るパイプと、そこから数本わたしが寝ていた円筒の…ベッド?
雰囲気的には無菌隔離メディカルベッドか、わたしの知識では実用化されていないコールドスリープ?
未来…なのでしょうか?
周りを見る。
30畳程の金属の部屋に用途不明の機械。
自分の頭髪らしい長い自然な金髪。
歪みながらもガラスに映る白い肌と碧い瞳。
システムメッセージの様な声が囁きます。
『貴女はインフィ。魔法生物、ホムンクルスです。
マイスターはフィリル・カーラ。
カーラ姓は必要によっては名乗る方が有利である場合があるでしょう』
…魔法生物?ホムンクルス?わたしが?
未来というには違和感があります。
「マイスター・カーラの目的と、わたしの使命って何でしょう?」
『マイスターは結晶封印の前段階に不手際があり、道半ばにして生涯を終えられました。
本来、インフィにはマイスターが封印休息の間、研究の整理・開発を御願いするはずでしたが、最早意味もありません』
「…好きにして良いって事ですか?」
『はい』
「あなたは?」
『メインシステムの対人インターフェイス…なのですが、どう説明して良いやら…』
「…メインシステムの対人サブシステムって感じですか?」
『それで理解できるのですか?』
日本の記憶があるのは仕様外のイレギュラーの様ですね。
「ええ、まあ…」
『でしたらインフィが現在の最上の権限保持者である事は理解できますか?
もちろん相応の資格を持ち得るまで機能制限は受けますが』
「あれ、そうなの?
資格ってなんですか?」
『成人相当の常識と、最低限このリーフリールの森の結界を維持・修復できるだけの上級魔術師としての素養です』
魔術師ですか。
…未来の線より未知の世界の線が濃厚そうです。
「成人相当って…何歳ですか?」
『15歳くらいですね』
「あれ?」
わたし、大人が持つような記憶があるのだけれど…?
…でも自分が誰なのかは記憶がありません。
『インフィは現在、11歳相当のエルフでそれに見合った能力しかありません。
ただ、元がホムンクルスなので寿命は60歳には届かないですが』
60歳かあ。
今11歳で残り49年もないのですか…まあ人間より少し短いくらいです。
でも…。
「エルフ?わたしエルフ?」
ファンタジー確定?
『マイスターはエルフでした。
研究の一つにはエルフの寿命を考察する事も含まれていました。
それにより更なる長寿やホムンクルス、ヒューマン等の短命種族の長寿化を視野に入れておられていました。
貴女はその研究の材料…と言うと語弊がありますね…副産物でした』
ん?
その物言いに違和感を感じます。
「もしかして人格…生物的な人格・感情があります?」
もしシステムメッセージの様なモノなら、最初から語弊があるような言い方を選択したり、途中で言い直したりしない気がします。
『…妙な所でひっかかるのですね。
あります。
元は老衰間際のホムンクルスで、志願してシステムの一端に組み込んで頂いて対人インターフェイスとなりましたので『無機質よりは良い』と故意に生物的な人格と感情を残されています』
「姉に当るわけですか。
名前、あったはずですよね?
呼び難いので教えて下さい」
『…ファルフィ。
フィはマイスターの作である銘の様なモノですから、貴女からは単に「ファル」と呼ばれる方が自然ですね』
「ではファル姉様で」
『いずれ制限解除すればインフィの方が私のマスターになるのです。
姉呼ばわりは不都合が生じますよ』
「事実は事実として姉と受け止めた上で、システム上マスター呼ばわりの縛りがあっても妹が姉のマスターでも別に良いでしょう?
あと、ホムンクルスか何らかの端末、最悪わたし限定でもいいから幻とかで姿を現す事はできないですか?」
『インフィの技術が向上して、この研究所の施設を使いこなせるようになれば可能でしょう。
でもまずは基礎的な生き抜く能力が必要です。
ここには数十年分の生活物資はありますが、兵隊の兵士の糧秣的な保存重視の物資しか蓄えていません』
「ええと、商人的な?それとも猟師的な?」
『まずは猟師的な方ですね。
それも一般的な猟師より最初からハードモードです。
ですから、難易度的には少しスキップして、まずある魔術的スキルを覚えた方が良いでしょう』
…スローライフも絶望的な様です。
崖に埋設した研究施設とそこから地下道で繋がった屋敷を囲む不可視の結界。
その外は深い森。
禍々しい獣。
いっそ怪物とか魔物と言っても良い位の生物を見かけます。
事実、生物が魔力を取り込んで瘴気をとして力を振う魔物になるそうです。
魔物が繁殖して魔物が生まれる事も普通うのようですが。
「魔物しか見かけないのですけれど?」
『この森には基本、魔物しか棲息していません。
マイスターが意図的に魔脈溜りに露出口を造って施設設置型結界内に封じ込めていますので』
「ちなみに一番近い結界の外までどのくらいありますか?」
『90㎞位離れた街道ですね。
他は7・800㎞位離れています』
言葉・単位はもちろん現地のものですが、ホムンクルスであるわたしは読み書き等は先天的に備わっているのです…が、わたしの主観的にイメージし辛いので日本単位に翻訳してしまいます。
「わたしと街道までの平均的魔物レベル差は如何程でしょうか?
『レベル?インフィは平均的エルフの11歳レベルで討伐ランク3のウサギと同格です。
ただし同格であって討伐率5割程度です。
そしてリーフリールの森に討伐ランク9の魔化ウサギ以下は存在しないと思われます。
更に言えば討伐ランク9を貴女クラスが4・5人いても討伐率は5割以下です。
ウサギが千匹羽居ようとも獅子1頭に勝てません。基礎値が違うのです』
「家から出られないって事では?」
『今のままではそうですね。
なのでマイスターの様に引き籠りになるか、狩人としてスキルアップするかしか選択肢を提示できません』
「どーやって狩りをしろと!?」
無理ゲーというものでしょう。
『貴女はホムンクルスです。魔力受容体としての適性があります。
そして何の為にアドバイスに私が付いていると?』
魔力を瘴気をとして取り込んで力を振う魔物を殺したり傷付けると度合によってそれなりの強化因子とでも言うべきモノが吸収できるそうです。
強化因子を吸収すると力が強くなって、強くなった力に合わせて体が頑丈になったり、自然治癒再生が早くなったり、単発魔術行使量及び自然回復・魔術行使効率が増幅して対魔術抵抗力も上がるのです。
おおよそゲーム的な経験値と各パラメーターと理解してはいますが色々細かい差異はあります。
例えばHPのような概念はありません。
強いて言えば自然治癒再生のMAXから治癒再生が効かない戦闘不能状態まででしょうか?
治癒・欠損復活の術もありますが余程高レベルでもなければ術者の記憶できる範囲で事前に診察鑑定した相手3~7人程度を診察鑑定した時点に治癒、欠損相当の血肉を糧に復活させるだけです。
診察鑑定以前には戻りませんし、以前からの怪我・病気には効きませんし、以降に強化因子で吸収強化された分は欠損復活でも反映されません。
ですがわたし達ホムンクルスは基本魔力だけで生きる事が可能で、食事や水が不可欠というわけでもありません。
なので魔力だけで治癒再生・欠損復活できるのです。
更に言えば、マイスター/フィリル・カーラのホムンクルスであるわたしは外付けハードディスクの様に外部記憶器官・メインシステムの一部と空間接続されて年単位で数分毎に自動診察鑑定されているので割と自由な復活ポイントが選べるのです。
「…身体的プライバシーがないともいえますが」
エルフなので成長があまり期待できない自分の胸に溜息が漏れてしまいます。
『ホムンクルスにそんなものはありません。
むしろ私達のマイスターは明確な命令はしない方でしたし、機械的思考のメインシステムの管理下で存続出来ている分、自由もプライバシーもある方です。
…で、何をしているのですか?』
「見ての通り、巻き上げ式機械弓を重ねて固定しています。
面制圧って分かります?」
倉庫に20丁あったので荷車の上に2組10丁ずつを重ねて、トリガーを紐で一律に引ける様に細工します。
『…なんとなく理解しました。
魔法生物なのですから炎の矢の一つでもを覚えた方が早いと思いますが?』
「リスクはなるべく低い方がいいです」
重いので結界から出しただけで結界内から紐を持って魔物が通り掛かるのを待ちます。
数分後、5・6m先の射界に4m級魔化大熊を捉えます。
今です。トリガー紐を引いて20本の矢を一斉射。
元々そこまで精密な照準固定していたわけでもありませんが、思いの外的が近かったので多少ばらけても十二・三本は当りました。
途端、湧き上がる能力感。
「これが強化因子みたいなモノを吸収した感覚?」
『そうですね、今のインフィは討伐ランク11といったところでしょうか』
魔化大熊は瀕死ながら生きていて、微かに自己再生も始めています。
「これなら、いけます」
槍を持って止めを刺しに突撃。
一撃で、とまで甘く考えてはいませんでしたが、五撃。
周囲警戒をしてくれているファル姉様の警告が入るまでもなく止めを刺す事ができました。
死体からは、なんとなく魔力だか魔素だか瘴気みたいなモノを感じます
『脳内の魔術回路を意識して私の発音をなぞって下さい。
ジィー・ミーアズマ・フォウ・トゥー・ミイム・ポゥー…』
「えっと[ジィー・ミーアズマ・フォウ・トゥー・ミイム・ポゥー…]」
死体から漂う気配みたいなモノを意識しているせいでしょうか、辛うじて脳内の魔術回路に発音に対する式が意識できました。
『エナジードレイン』
「[エナジードレイン]…。
わあ、瘴気寄りっぽいモノから魔力寄りっぽいモノに感覚が変化してがわたしに吸収されていくのを実感します」
『ソレが生物を魔物に変えていた瘴気…魔化魔力です。
これで普通に食べられる熊肉になりました。
エナジードレインは表層領域にワードを纏めてショートカットにして据えておいた方が良いでしょう』
言われるままに脳内操作してみます。
「んーと、なんとか…できた、かな?
それにしても『魔術』ですか…」
わたしが説明できる初歩的攻撃魔術の炎の矢の理解としてはこんな感じです。
1.前提として脳内の魔術領域に凝縮されている凝縮魔術式塊を記憶しておきます。
2.その内、演算領域に炎の基礎魔術式を包み込む魔術式で矢状の対魔術結界術式を魔力…といいますか念力みたいなモノを込めて形成。
3. トリガー兼目標確定となる術式に魔力…念力みたいなモノを込めて射出。
4. 対魔術結界は物理的に脆弱なので当った所で炎を弾けさせる。
以上。
…まず魔力が分かんない。今の所、脳内魔術式に作用させる念力っぽいとしか。
念力にしても日本人の思うフィクションのフワッとしたイメージしかないので理屈なんか分かんない。
凝縮魔術式塊はホムンクルスはある程度先天的に、メインシステムからも後天的に追加付与されたそうで、エルフの遺伝形質を持つホムンクルスはあるわたしはそれだけで圧倒的有利なはずなのだそうです。
術式を口にして詠んだ方がイメージし易いそうですが、どれがどうとか、どこまでが一つの魔術式すら分かんない有様ですから、正しい順番どころかどこまでが1単語か判断できないので詠む事すらできません。
一応インデックスされているらしいのですが、常識が日本人基準とかけ離れているのでしょうか?思う様にインデックスから引っ張り出せません。
メインシステムから翻訳支援を受けているので単語毎の意味はおおよそ分かるのですが文章になりません。
口語主体の言語ではない気がします。
絵文字や象形文字でもない気がしますし、むしろアルファベットや数式っぽいでしょうか…。
…うん?数式?
術式なのですから、数式のように式全体に意味は要らない?
代入する単語で式を解いたら結果が確定?。
代入する単語次第で結果を変化させる?
…ここまでは良いとしてもまだです。
そこまで単純なら凝縮魔術式塊から解凍処理するにしても、こちらでいわれるような多様な『結果』を一般レベルで再現できるはずがないです。
そもそも凝縮魔術式塊から解凍処理するだけでもそれなりの演算領域と時間がかかります。感覚的にも単なる解凍処理とは違う気がします。
大体、メインシステムのような機械的多機能魔導器を常時稼働させるには無理があり…ます?
…機械的、メインシステム?
…機械…ではないかもしれませんが、コンピュータ的なモノっぽいですよね。
…。
凝縮魔術式塊≒OS?
魔術式≒コマンド?
演算領域≒CPU?
表層領域≒メインメモリ?
ディスプレイや支配下制御機器稼働≒魔術展開?
…なんで機械と分けて考えていたのでしょう?
一緒にはできませんが、考えれば考える程に考察としては辻褄が合ってきます。
しかして脳内OSに電力信号?
脳内交換神経信号も電気信号の様なものとは聞いた事がある気がしますが、電力そのものではないですよね…?
…やっぱり『魔力』に行き当たりますか…。
「…やっぱり『魔力』が分かりません…」
『…随分長考していたみたいなのに結局大本の基礎中の基礎で躓いているのね。
さっきは吸収してたじゃない?あれが魔力よ?』
「さっきはそれらしいものを意味も分からずファル姉様の言うがままにしたら吸収しただけです。
吸収したら何か違う感じのモノになってしまいましたし」
『その違う感じのモノがインフィの魔力なのですが?
吸収魔力と貯蔵魔力が違うモノに感じるということは、魔力感覚が敏感過ぎて貯蔵魔力と利用魔力すら別物に感じるのかしらね?』
「利用魔力ってどんなモノですか?」
『…そのまま、利用する為に魔術式に通す為の魔力、という以外説明できませんね。
ポテンシャルやセンスが無かったり低ければ感じる事自体できなくても理解できるのですけれど、私がインフィの感覚を理解できません。
数をこなして慣れて、としか言えません。
ごめんなさい』
わたしは十数回、20連装クレインクロスボウ荷車戦法で多種のドレインした事で、ようやく感覚を掴む事ができました。
…身体能力が向上して、地球人的には既に人外です。