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月物語  作者: 石原レノ
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華ノ章~月を見に〜

あれから数週間が経ち、夏休み真っ盛りである。高校3年生の夏は忙しくうちの学校はほぼ毎日学校で夏期講習である。

サボるわけにもいかず午前中だけの学校にしぶしぶ投稿すると珍しく早くつきすぎてしまい、教室には誰もいないと思われたが、、、

「……おはよう」

転校生の姿がそこにはあった。

「おう……おはよう」

気まずいのは今まで一言も話したことがないからである。初めて話したと言っても過言ではない。

無言で席に座り窓を眺めていると転校生が席を立ったようで、ガタッと椅子を引きずる音がした。

知らんぷりをして窓を眺めていると足音がどんどん近づいてきている気がした

半ば恐怖心を抱きながら窓の反射を利用して教室の様子を見ると、なんと転校生が俺の側に来ているではないか。

「っ!?な、なに!」

俺の反応が面白かったのか転校生はクスりと笑っていた。そういえば彼女の笑った顔を見たのはこれが初めてな気がする。思わずドキッとしてしまう彼女の笑顔はいつもの暗い表情ではなく、普通の女子高生だった。

「帝君、、だよね?、、、その、、あの、、」

なんと、彼女は陰キャラである俺の名前を覚えていたのである。そこに何故か感動を覚えてしまう。

「うん、、、そうだけど、、、ど」

「月、、、好きなの?」

どうして?と聞こうとしたが唐突にされた質問ですぐにかき消されてしまう。

「え、、、いや、、、普通に綺麗だから、、、かな?」

するとまたもや彼女はクスりと笑う。

「私も月好きなんだ。気が合う人がいて嬉しいよ」

「その、、、俺もそう思うよ、、、」

気づくと俺と転校生は2人して笑いあっていた。この時の転校生は華やかさを兼ね備えておりこの顔を知っているのが俺だけだと考えると、何故だか誇らしく思えた。

「今度よかったらさ、、、その、、、一緒に月を見に行かない?」

「え?」

唐突に言われた提案に自分の耳を疑った。

何故こんな陰キャラと一緒に月を見に行こうと思うのか自分でもそう思った。でも彼女は顔を赤らめながらも真面目な顔で言っている。なら俺がする回答は、、、

「お、俺でよければ」


「転校生と月を見に行くことになった」

俺が唐突にそう告げると有希太は表情を歪ませてこちらを睨んできた。

「、、、今なんと?」

「いやだから、転校生と月をー」

「なんでお前が!?ねぇねぇなんで!?え?何?お前たちもうそこまで行ったわけ!?」

大声で叫ぶ有希太の声は学校中に響き渡った。教室中の生徒達がびっくりした様子でこちらを見ている。

「あんまり大声出すなよ。たかが月を見に行くだけだ」

「たかがってお前、、、今や学校中で人気殺到中の竹中さんだぞ?」

「そうなの?知らなかったな」

俺の坦々とした回答に有希太は顔を青くして耳元でヒソヒソと話す。

「もしかしてお前、、、竹中さんのこと好きなの?」

「いや何で?たかが月を見に行くだけだぞ?それだけで好きとか判断されたら困る」

俺の一言に有希太は目を見開いて俺を見つめる。

「お前って、、、B専なの?目が節穴なの?」

「知るか。俺に聞くなよ」


まただ、

感覚的にわかるこの感じ、いつもの夢なのだろうと確信した。真っ暗で何も映らないその夢はただ声だけが響き渡る。

ーいつか、月に行くんだよ。私と帝君で、2人で一緒に行くんだ。そうしたら、2人でー

違う。いつもと違う。

いつもと違う言葉に少し興味がわいてきた。

次は何を言うのか、俺は案外この夢を楽しめるかもしれないと。新しきこの夢に少しだけだが愛着が湧いてきた。

ー、、、、、、、ー

少し待ってみても次の言葉が出てこない。半ば早くしろとせかせかしていると、、、、

「、、、、、」

目が覚めた。それもまだ時間は午前4時、目覚めるには速すぎる時間だった、何故こんな時間に起きたのかも自分では分からない。

猛暑のせいだと思い再び横になると、思いのほかすぐに寝付いた。

今日は、、、転校生と月を見に行く日だ、、


「あ、きたきた!大海君!」

不可思議な夢を見た日の夜、俺の家から徒歩15分の所にある高台で俺は転校生と会った。

無論、月を見に来たのである。

明日は十六夜。せっかく見るのだからやはり満月の方が良いと二人で話しあった結果が今日である。

「ごめん、、、ちょっと準備に時間かかってさ」

「大丈夫。私もそんなに待ってないから」

辺りは夏場だというのに暗くなっており、高台には俺達2人しかいないため静かである。また、田舎だということもあって夜空が輝いて見えた。月を見るには絶好の場所である。

「これでよし、、と」

転校生が簡単組立式の望遠鏡を設置していた。俺はというとバックからノートとペンを取り出し準備をしていた。

「大海君って宇宙飛行士志願なの?」

「うん、まぁ、そうかな」

少し照れくさくて曖昧な返事をしてしまう。転校生はそんな俺を見て微笑んでいた。

「やっぱり宇宙飛行士って大変だよね?訓練とかあるし」

「そうだね。そこは少し滅入るかもね」

転校生はそうだよねと言いながら望遠鏡から夜空を覗いていた。月を探しているのだろう、望遠鏡を左右に動かしている。

「、、、、ほら」

焦れったくなって照準を月に示してやると転校生はきょとんとしていた。

「あ、ありがとう」

何故か顔を赤くしている転校生の表情が夜景にすごくマッチしていて思わず俺も赤面する。

「、、、せっかく来たんだし、早く見ようぜ」

「うん、、、そだね」

なんとなく感じた気まずいような空気。今まで一度も感じたことのなかった感覚に俺は戸惑ってしまったが今はそれを押し殺した。

今は楽しもう、、、こうやって趣味が合う人と楽しく過ごせるのだから、、、。

「大海君はいつから月が好きになったの?」

転校生の唐突な質問に俺は指を顎に当てて考える。

「中学に入った頃からかな。父親が生きてる頃に宇宙飛行士でさ、それを知ってからだから」

「大海君のお父さん亡くなったの?」

「うん、、、俺は覚えてないけどね」

俺がそういうと転校生がそっか、、、と暗い表情をした。そこで俺は転校生の状況を思い出し慌ててしまう。

「で、でもさ!母親が言ってたんだ!俺は反抗期とかそんなのが無かったから育てるのが楽だったって!」

俺の大袈裟なフォローに転校生が暗くしていた表情を一変して明るくし笑みをこぼす。

「そうなんだ。大海君は優しそうだもんね。私もそんなふうになりたいよ、、、」

そして転校生が話を続けた

「お父さんとお母さんが亡くなった時、私の世界が終わった気がしたんだ。周りに頼れる人が居なくて、不安で、転校先のこの学校でも皆に暗く接しちゃって、、、でも大海君の好きなものを聞いてから、大海君なら話せるかなって思ったんだよ。そしたら、大海君はやっぱり優しくてさ、、、」

「学校で皆が竹中に嫌な表情をした事がある?」

「え?」

転校生の話を遮って質問したせいできょとんとしている。

「竹中の性格が暗いからって、悪口を言ったり、はやし立てたり、バカにしたやつはいるか?」

「、、、、ないと、、、思う」

「なら、良いんじゃないのか?そのままで」

「え?」

俺の唐突な一言にさらにきょとんとしていた。

「俺が知っている竹中は優しくて、頭が良くて、人気者で、誰とだって話せる人だと思う。それを竹中自身が暗いだなんて思っているんなら止めはしない、、、でも、、、」

強い風が吹き辺りの茂みを強く揺らす。竹中の、、、輝夜の長い髪がなびき俺を見つめ返す。

「俺はそんな竹中が暗いなんて思ってない」


「竹中さんおはよう!」

「おはよう南さん。今日もいい天気だね!」

「あ、そうそう!この前さー」

月を見に行った次の日から輝夜の性格は日に日に爛漫的になっていった。もともとそうかもしれないが、素の自分を出していくことでさらに増していった。

「なぁ、、、」

そこでいつもの有希太が俺の方へと歩み寄ってきた。目線の先にいる人物は輝夜である。

「最近竹中さんかなりの頻度で告白されてるらしいぞ」

ほう、、、。やはりそうなったか。

「それも全部断ってるんだってさ」

ほう、、、。

「俺の推測だと帝が竹中さんと月を見に行った次の日から明るくなっていったような気がするんだよな、、、何かあったの?」

さすが付き合いが長いことだけはある。勘が鋭い。

「別に、、、あの日は月見てすぐ帰ったよ」

「本当にか?実は何かあったんじゃ、、、」

半ば鬱陶しいと思いながらも「ないない」とだけ伝えて購買へと足を運ぶ。そんな俺をじろりと睨む有希太と普通に目で追う輝夜だった。

「輝夜ちゃんって好きな人いるの〜?」

この時の会話が耳に入ったが構わず俺は教室を出ていった。あの時輝夜はなんと答えたのか、、、分からない。


ーいつか、月に行くんだよ。私と帝君で、2人で一緒に行くんだ。そうしたら、2人でー

「2人で、、、何?」

そう問いかけても夢の中では声を発せない。ただ自分が声を発したと勘違いをするだけで終わってしまう。この声の主が誰なのか、なぜこうも同じ夢ばかりを断続的に見てしまうのか、俺には分からない。ただ分かるのは、ここが暗闇なのだと、、、

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