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僕と彼女とクラゲ

『佐藤瞳って知ってる? 知っていたらイメージを聞かせて下さい』


 朝のニュースの特集を録画しながら、次々答えるイメージに僕は興奮が抑えられない。


「知ってるー。クラゲばっかり描く人でしょ?」


「あの人カッコいいよね、バンドでもしてるのかな」


「絵は興味ないから知らない」


「なんかキッカケがあってそれから売れた人でしょ?」


「美人で超かっこいい! 私あの人の絵を見て泣いて感動したもん!」


 あれから2年だもんな、あの一枚の絵は今も忘れられない。


 ✳︎



 冷たい波風が、躊躇う事もないかの様に僕の感情をさらっていく。

「やってられるか」


 砂浜にきては1人で愚痴をこぼすのは、それしか今の僕には発散する場所がないから。

 自分の心は海のようにゆたゆた不安定で青く深海の様だとお腹を摩りなぞってやる。


 この土地にはほぼ遊びがないせいでこんな所にたまにきてしまう。

 休日になると何をすればいいのか解らなくなるくらい何もない。

「ザザザ」


 引き潮が目に止まると、感情とリンクしてまた寂しくなるのはきっといつも何かが欠落していると自覚できているからなんだろう。

 きっと僕は疲れているんだろうな。明るい街に遊びに行っても地元に帰ってきても、居場所を探してここに戻ってきてしまう。

 軽く死にたくなるの繰り返しがいつもここに通わせるのはなんでなんだろうか。


 雲がかかったぼやけた月を「朧月」というのを今日初めてネットで知ったのだが、それが照らす夜の海は綺麗で、切なくて……なんとも言葉にできない。

 映し出された光が、SF映画の様に幻想的に揺れて形を変える水面、それを眺めては自分が生きる価値に何も希望を持てない事に直結させてしまう。


 それもそうだ、ここは自殺の名所らしい。


 *


 ガタガタとやたらうるさい工場の単純作業の仕事を終えたのはいいけど、する事がなかったので1人で地元唯一のデートスポットである水族館の駐車場に車を停めエンジンを切る。


 すぐ大きく溜息とタバコの煙をミックスさせてふぅ、と吐く。

 目的は友達の紹介で知り合った女の子をデートに誘う下見なんだけどハッキリ言ってそこまで好きでは無い。

 25になっても周りの同級生の様に恋愛に没頭する事が少し羨ましいだけで、いつか自分もそうなると期待をしてはすぐ冷めるの繰り返し。


 タバコを強く灰皿に押し込めると茶色のダウンを着て車外へ出て、攻撃的にやってくる冷たい風に身体を丸める様に早足で受付に向かう。

「大人一枚」


 自分の声なのかと疑問を持つ程の低い声が、まだ無感情のスイッチのままだと驚かされる。

 場内に足を踏み入れるとその薄暗さに子供の時に見た感動を思い出させられたので「とりあえず大きな魚コーナーへ向かってみますか……」と、小さく独り言を呟いて歩き出す。


 そこそこの大きさのサメを見て、まぁこんなものかと幼少の頃みたいに興奮できない事にまた気落ちして下を向いてしまう。


「だよねー」

 突然の大きな声に思わず振り返る。

 なんだ女子高生の声か、下見に来たのを忘れる所だったけどまず自分が楽しめないとな。

 とりあえずぐるぐる回って何か面白い所はないか回る事にするか。


 ペンギン、亀、ヒトデ等を見ても3秒程で飽きてしまうのはきっとどれも今見る気分にはなれないからだろう。

 孤独が憂鬱に拍車をかけてくる様で、人混みに吐き気がしてくる。

 耐え切れずに自販機で珈琲を買うと、更に暗い人の気配が少ない所へと逃げ込んだ。


 こんな場所あったっけ?

 青い間接照明が怪しく光り流れる音楽も音量はとても小さいし、なんだか小さなプラネタリウムみたいなとこだな。

 人気がないようで緑色の鑑賞用椅子が少し寂しいのが落ち着く。


 適当な椅子を見つけて腰掛けると、1口ブラックの珈琲を飲んだ時に目の前の妖艶に光る水槽が心を動かしたのを感じて鳥肌が立ち目が釘付けになる。


 幻想的に光るクラゲ……。

 クラゲを見ていると何も考えられないような不思議な感覚に思考が鈍くなる様で、別次元の余りにゆっくりな時間を生きるクラゲが憂鬱を忘れさせててくれるのが心地いい。


 仕事や人間関係に疲れていたのもあったけど全てに愛想が尽きかけていたのが原因だったのか。

 こんな事を自覚させられるなんて自分と同化させたい願望なのか? クラゲがとても哀しく見える。


 自分のように、ゆたゆたと動く。様々な光りを浴びて色を変えては、またゆたゆたと……。


 目を開けたまま寝ている様に見入っていると、珈琲が空になるのを合図に時間を見てみると気付けば1時間も経ってしまっていたのか、そろそろ帰らないと……。

 外に出て暗くなっていた空をよそに車に戻り、エンジンをかけてまず温める間にゆっくり自分の時間にもう一度帰ってみる。


 子供の頃に初めて見たSF映画のように、頭の中は綺麗で哀しいクラゲでいっぱいのままポケットが音を立てた。

「リン、リン」


 気に入って買ったクラゲのキーホルダーのに付いている鈴の音か、なんだか脳内であの1時間をリピートさせてくれるのが久々の小さな幸せかもしれないな。


 *


 翌日に作業に集中していると昨日の感動は遠のいていき、仕事を終える頃にはすっかり忘れていた。

 車に戻るとすぐ今日のデートの事を思い出して急いでケータイを見てメッセージをチェックする。

「ごめん今日いけない。てか彼氏できたからごめんねー」


 ……最悪。

 短髪をボリボリ掻いて舌打ちが出る。

 とりあえず会社から出て、車の中でこの後どうしようか考えるか。

 車内で友達と飲みにでもいこうかとケータイで探すが急すぎて誰も時間がとれない、くそ。

 車でタバコを1本吸い、ふぅと煙をはくとエンジンをかけて車が少し揺れた時だ。


「リン」

 音の鳴るポケットからそれを取り出して見るとクラゲのキーホルダーが誘っている様に見えて、昨日の水族館を思い出すして、また行ってみるかとキーホルダーを財布にしまいハンドルを切る。

 ……またクラゲがみたい。



 *



 缶珈琲を買うと、昨日座っていた場所にはもう先客がいた。

 なんだよ、オキクラゲが1番ゆっくり見える席はあそこら辺だけなのに。

 先客の1つ空けた席の隣に座り、缶珈琲を開けて一口飲み、ちらっと隣を見てみた。


 長いロングの黒髪に、びっしりとピアスが目立つ耳。

 彫りの少し深く、鼻筋の通った顔立ちは、外人を彷彿させる美しさだった。

 目が合いそうになり、ふいっと目線を前にやり、クラゲに目をやった。


 正直、凄くタイプ。

 いつもなら「どうなってもいいや」と、軽く声をかけれるけれど、落ち着いた雰囲気のせいか身体が全く動かない。

 もっと詳しく知りたいとチラチラ彼女の顔を見てはまたクラゲに目をやると、ソッチの世界はとても自由に見える。


 段々催眠術の様にうっとりとクラゲだけを見つめているとクラゲが何か喋りかけてくる錯覚に陥いるけど、当然何か理解出来るわけではない。

 すると横でガタと音がして彼女は立ち去る様子が僕を現実に引き戻した。


 また少し切なく憂鬱な気分になったが、

『ヤツ』をぼーっと見て目をつぶるとお腹にオキクラゲがいる。

 ゆた……ゆたと、呼吸を合わせるように……。


 ケータイの無意味な広告メッセージを知らせる振動リズムが、また大分ゆっくりとしてしまっていた事に気付く。

「俺も帰るか」


 *


 狭い賃貸マンションに帰り音楽をかけるが、どれも気に入らないしテレビをつけてもどれも気分じゃない。

 ケータイで暇を潰そうと布団に潜り開いてみると、今日デートをすっぽかした女からメッセージがきている。

「別れたし、やっぱりあいつ駄目だわ。明日飲み行こうよ」


 なんなんだよ、胃が捻れる様にムカつく。

 落ち着けようと目を閉じて、そっとお腹にオキクラゲがいるように妄想して撫でてみると、それは容易に仮想の世界に「ヤツ」を作り出せた。


 ……哀しい緑や青の哀しい色を発光している。ゆた……ゆたと。


 目を開けてしばらくケータイを見つめていると衝動的に何かを破壊したい気持ちが膨らんでいき、青い炎が脳内で燃え盛る様で抑えられなくなるとケータイのデータを初期化させて枕に投げつけた。

 もう何も関わりたくない、傷つくだけじゃないか。


『ゴン』

 軽く壁を頭突きして、これで終わりだと青い炎を無理矢理鎮火させる。

 すぐに目を閉じてお腹を摩り集中すると、どうやら悩みが減ってお腹のヤツは泳ぐ場所が広がったように悠々と、ふわふわと泳ぎだした。


「落ち着く……」

 現実でポツリと呟く。きっと僕の心は海だから居心地が良いんたまろう、僕の名前が無い感情はこいつが教えてくれる。

 するとヤツは何かを探す様に暗闇で光を放つ。

 早速その”何かの感情”は頭で考えるより速く理解させてくれた。

 悲しくなったりマイナスになると、いつもヤツを見つめよう、誰よりも僕を理解してくれるんだから。

 

 *



 翌日仕事を終えると、急いでヤツが昨日教えてくれた事を確かめに水族館のあそこに向かった。

 彼女は……いた! あの席に。


 すぐに昨日の席に座る。

 ”何か”に反応したヤツは、触手を伸ばして興味を現してるみたいだな。解ってるちゃんと確かめるよ。


 横目でみて見るとやはり綺麗な目、だが服はジーンズに黒のジャケット。こだわった耳のピアスに比べるとシンプルに感じる。

 観察してこの感情に名前をつけてやらないといけない。恋……としてはまだ材料は少ないはずだしそれにしてはいつもと違う気がしてならない。

 目線を前にした後にこっそりもう一度横を盗み見る。


 指輪、蛇の形を模した少し独特なやつだな。それを彩る細く白い指はとてもエロティックに視線から僕の思考を止めさせられる。


 はっと、バレない様にまた目線を前にやると現実のオキクラゲが大きく動いた瞬間に脳内のヤツと感情が同期する。


 ドキドキした気持ちに反応しているのか、現実のオキクラゲは照明により赤く光っているみたい。

 お腹にいるヤツも、ぼんやりしたものが本物を見るたびにハッキリしてくる。


 喉の渇きで我に帰ると、真後ろの自販機に珈琲を買いに千円札を入れ、いつものブラックを1つ買うと……、まだ購入ボタンが光っている。

 下心から「ただ買ってみるだけ」と言い訳をしながら、考えがまとまる前に指が紅茶のボタンを押す。

 彼女に渡そうか……?


 ポケットに紅茶をしまいとりあえず席に戻ると直ぐにブラックを一気に全部流し込む。

 そしてすぐに心臓の音がパニックになる様にと拍車をかけてくる。落ち着かなければとオキクラゲをゆっくり観察をするが、中々集中できない。


 ポケットに手を突っ込んだままの熱い紅茶を力いっぱい握る。

 熱を帯びても掌が汗ばんでるのが確認しなくてもわかる。今日でいなくなるかもしれない……。


 すると意識してないのに突然お腹にいるヤツが「ゆた……」と動く。

 それを感じたと思ったら行動せずにはいられなくなり、席を立つと隣にいる彼女に紅茶を差し出していた。


「すみません、これよかったらどうぞ」

 彼女はこちらを見ると、ニコリとして頭を下げると、無言で紅茶を受け取った。


 席に戻ると頭は真っ白で思考は停止。ただし異常な心拍音だけはやけに響いてくる。

 2.3分経った時に落ち着いてきだすと現状を理解して、直様彼女のほうに身体ごと向ける。

「あの!」


 彼女はこちらを向いて大きな目をして両手で耳を塞ぐジェスチャーをした。


「あ……」

 耳が聴こえないのか。

 彼女は僕のその反応を見て眉毛をしかめると、またオキクラゲのほうに向き直ってしまった。


 ヤバイ、怒らせたか?

 彼女が不機嫌になったのを感じ、焦って鞄から乱暴にノートをちぎるとケータイの連絡先を書いて立ち上がると彼女の前に立ち、手元に紙を渡す。

 もう行動した時から引き返す事なんて僕にはできやしないんだ。


 それを見てか、ヤツは白く光り動かずじっとしている。

 彼女は少し唇を尖らせて戸惑いを見せると紙を受け取ると、腕時計を見て鞄から財布を出し130円を差し出した。


 手でジェスチャーをしながら、いいですと伝えるが、彼女は130円を自分の席に置くとさっさと帰ってしまった。

 口を開けて自分が何をしてしまったのかを思い出すと、とても許せない。

 唇を少し噛み130円を取りその席に座りオキクラゲを見た。

「くそ」


 ゆた……ゆた……。


 *



 シャワーを浴び終えて布団に腰かけると ふぅとため息をついた。

 何も始まった訳でもないけどあれはまずかったよな……。

 タバコを探していると、ケータイがチカチカ光っているので急いで内容を確認した。

 彼女以外あり得ない!


「紅茶ご馳走様でした」

 やっぱり彼女だ! また何も考えるより先に指を走らせてしまうが、何よりもすぐに返事をしたい気持ちは抑えられない。


「オキクラゲ、綺麗ですよね」


「今日は遅いのでおやすみなさい」


 もう寝てしまうのか……。あっと言う間の少しのやり取りだけど最高に幸せな気分だ。

 こんないじらしい、もどかしい気持ちは感じた事がない! 早く会いに水族館に行きたい。


 ヤツは細く伸びて形を変えて、明るく点滅する。

 まるで馬鹿にされてるようだ、何だよ喜ぶくらいいいだろ?



 *


 朝6時に目が覚め、相手の時間も考えずにすぐメッセージを送る。

「おはよう、少し寒いね」


 当たり前だがこんなに朝早く返信なんか、なかなかこないだろう。

 待つ間にオキクラゲの生態を少し調べてみるかと珈琲をいれて一口飲む。

 ケータイで検索してみるとすぐ見つかった。

 脳みそがなく思考がないのか……。なんだか似てる気がする。


 お腹のヤツの機嫌を探ってみると黄色く激しく光っている。それは清々しくスッキリとした爽快感が気持ちをこれ以上になく軽くしてくれた。


 ゆた……、ゆた……。


 仕事が今日はない事に今更気づいて茶色のダウンを着て、単発の黒い髪の寝癖を直すと普段絶対しない散歩をしてみようと動き始める。どうかしてる、けどどうにかなってしまうほうが今はいい。


 あてもなくぶらぶら歩いていると、路上でこんな早くから何かを売る人が遠目に見えて吸い込まれて行く足取りで、興味本意を優先させる。

 絵か……。目の前に行き、絵をチラッと見ると、目を大きく開いて驚く彼女がいた。


「あ……」

 完全に少し固まってしまったが心臓の鼓動が激しくなりすぐ緊張がやってくる。


「おはよう」

 と言うと自分の失敗に気がつく、彼女は耳が聴こえないんだった。すぐ笑顔で頭を下げるが、それを無視してケータイを見る彼女。でもそれ以上に絵が気になる。



 並べられた絵の前に膝をおりたたみ、じっくり見てみる。

 油絵……なんだよなこれ、並べられたどれもこれもオキクラゲばかり。

 一枚一枚色がテーマのように雰囲気が全部違う。

 彼女のお腹にもオキクラゲがいるのか?

 絵に貼られた付箋に2000円と書かれている、これ値段だよな。


 今、お腹のヤツは…赤色。

 自分に合ってると思い赤がふんだんに使われた絵を手に取り笑顔で二千円を出して下を向いた彼女の顔をこっちに引きずり出す。


 彼女は唇を、むっとあげてケータイを取り出すと高速で指を動かして画面を見せてくる。

「同情で買わないで」

 と、入力した文字を突き付けてきた。


 僕は口をあけて喋ろうとすると、すぐに同じミスに気付いて閉じる。

 ケータイを取り出して返事をしようとする前に、続けて彼女が文章を打ち込み見せてくる。

「唇でわかるから普通に話しても大丈夫だよ」


 テレビで聞いた事はあったけど、読唇術って本当なんだな。

「絵は正直に言うとわからない。でも今の自分に合ってると思ったんだ」


 直様ケータイで打ち込み見せてくるが、文字を打つのが異常に早い。

「なんでその赤の絵なの?」


「えーと少し変だけど、心の中にオキクラゲがいるんだ、今赤に光ってる。

 だからその絵が欲しいと思ったんだ」


「色か、変わってるね。良かったら家にこない?」


 僕が喋り、彼女はケータイを見せての会話が僕の恋愛経験が役に立つことは無いんだろうな。

「なんで急に?」


「ずーっと何かが足りないって思ってて、そのお腹のクラゲに興味があるの。OKなの? NOなの?」


「OK」


 さらさらと流れていく葉っぱを見て、この空気と季節を覚えていようと嬉しく思う、そんな感傷的な感情に刺激的な感覚を覚えた。

 ヤツも水槽を激しく叩かれたかの様に「不安だ」と「楽しみ」の2色を、交互に光らせる。


「え? 待って。いきなり家?」



 *



 徒歩で案外早く着いた……のはいいけど大丈夫かこれ?

 彼女に不釣り合いに見えるボロボロの木造のアパートが予想と違った。

 二階にカンカンと音を立てて登っていく彼女を追って、部屋に彼女が入っていく。

 表札には「佐藤」と書かれてあるのを見て、本当にいいのだろうかと悩みながらもドアを開ける。

「し、失礼します」


 中に入ると呼吸するのを一瞬少し止めてしまう。

 部屋にはいくつも絵が何枚も散らばっていて、床はテイッシュやら空になった絵の具やらで足の踏み場もない。


 彼女は手招きで唯一キチンと整頓されているベットに座るように誘導している。出来るだけ何も踏まない様になんとか座るが、壁にも色んな物が所狭しと飾られており、キョロキョロとする。

 絵は勿論、曲の歌詞カード、ネコのシールやらなんでもある雑貨店のようだ、凄い! ただし床を見なければ……。


 彼女が足で床の絵の具を蹴って道を作りながら、ワンルームのキッチンからやってきて珈琲を渡してくれる。

「ありがとう」

 と少し大げさに口を動かして、珈琲を飲む。


 あ……ブラックだ。

 いつも最初は何処に行っても、砂糖を入れられるのに、水族館でブラックを飲んでたの覚えててくれたんだ、かなり冷めてるけど。


「汚くてごめんね。私は瞳と言います君は?」

 ケータイの文字を見せられて普通の会話と割り切り、違和感をもう持つ事もなくすぐに返事をする。


「僕は田崎優璃だよ」


「ごめんもう一度、田崎……なに?」


「ゆうりだよ」


「どんな漢字?」


 僕はケータイを出すと入力して見せる。


「ありがとう、いい名前ね。あそこの海辺で何度か見た事あったんだ」


「え? そうだったの?」


 笑顔になるとピアスをすりすり触るのを見てこっちも嬉しくなる、慣れたらきっとよく笑顔になる子なんだろうな。今だけでも充分こんなに表情で語る人は見た事がない。


「絵を売って生活してるの?」


「余計な事は聞かないで」


「どうして家に呼んでくれたの?」


 真ん中の風呂敷を退けて、絵に肘を置いて少し俯く瞳はコロコロと感情を変えて真面目な目をする。

「この絵を見て。完成間近でしょ?」


 僕はうんと頷く。


「ゆーりのお腹にオキクラゲがいる話しを聞いて、ゆーりをモデルにしてこの絵を完成させたくなったの。足りない物が見つかるかも知れない。いいかな?」


 相変わらず物凄く文字を打つのが早い。けど疑問は増えて行く。

「なんで僕なの? クラゲの絵なのにモデル?」


「自分の為にしか描けないから売れないのかなって考えてて、人を見ながらやってみたかったの。きっとそれが出来たら嬉しくて死んじゃうかも」


 何の話しか解らないけど、芸術をする人には必要な事なんだろうな。

「絵にはあんまり興味ないけどいい?」


「大丈夫、意味が解れば感動する絵もあるんだよ。お金は少しだけど払うから」


「お金なんていらない!」


「ほんと? 助かった。じゃあそこの椅子に座って」


 僕は椅子の上のゴミを除けて座ると、彼女は絵の前に座り横からじっとみてくる。

 かなり緊張するな、しかしやっぱり解らない。クラゲの絵なのになんで僕を見るんだろう。

 目を……、目をじっと見つめられてる。

 心の中までみられてるようだな。


 お腹のヤツはどうだろうとさすって感じると黄色に不安定に光っている……。会話がないぶんとても緊張する。


 すると瞳は黄色の絵の具を取るのを見て仰天する。ビックリした、ヤツの色が見えるんだろうか? 耳が聴こえないぶん何か感覚が発達しているのか?


 少し白色などを混ぜて、クラゲでもない右上の端っこに少しちょんちょんと色を塗ると、ふぅと息を吐いて道具を片付け始める。


 え? もう終わり? 完成?

 戸惑っていると、瞳はケータイを取り出した。


「今日はもう終わり、ありがとう。次はいつ暇?」


「明日の仕事後なら……。モデルって1日じゃないの?」


「さあ、これで終わりかも知れないしもっと時間かかるかも」


「わかった!」

 めいいっぱいの笑顔で答えるのが感情を伝える唯一の方法で、逆にこれが全てに思えてくる。


 こんな繋がりかたなんてあるのかと、初めて心が震えるというのを経験した。……ヤツはいろんな色を壊れたみたいに次々と発光し、元気よく泳いでいる。


「これから水族館いくけど、一緒にいく?」


 僕はうなずくとさっさと支度して外に出る瞳が車に向かうのを見て二階から身を乗り出して驚く。

 車あるんだ……。少し錆びかかった車に乗り込みながら免許があるのにも少し驚いているとシートベルトを締める前に発信して思わず全力で手すりを掴む。

 ……運転が荒い。


 今度は1つぶん空席を空けずに隣に座るが、瞳は食い入るようにクラゲを見てこっちを向こうともしない。

 結局そのまま1時間ほど映画を観るように会話もなく水族館を出た。


「じゃあ明日仕事おわったらメール頂戴」


 クラゲを見て落ち着いた心でゆっくり答える。

「わかった」


「ゆーりといると凄く楽しいよ!」


 ピアスを摩り、ケータイを見せつけながらの笑顔は僕が最高の笑顔を自然に作る事に邪魔する要素の全てを消してくれた。


「僕もだよ」


 *



 ヤツは波打つように身体を捻らせてまるでニヤニヤ笑ってる様に優雅に泳ぐ。

 それから翌日に仕事を終えると、「今から行く」「わかった」だけのやりとりをすると彼女の車に乗りたくて電車で会いに行く。


 今日はやけに長いな、手は加えているみたいだけど会話がない。

 その間に妄想やシュミレーションは進む。少しづつモデルをしながら質問をしてみる。

「何歳なの? 僕は25」


「23」


「彼氏は?」


「いない。集中できないから質問はたまにして」


 俯いてしまったが、無言で彼女が指差す先には灰皿が置かれていた。

 気分がぶわぁと、明るくなるタイミングで瞳はまた黄色の絵の具をつける。

 やっぱりというか、絶対心見てるな……。


 モデルの時間は五分に一回質問する様にすると絵で顔が隠れた向こうから質問の答えが返ってくるので、会話は簡略化されて直接的な言葉のやり取りになるのが今は嬉しくて仕方ない。


「自己紹介して」

 と押し付けても素直に返ってくる。


「強がりな性格で怒る時はよく怒るって言われる。赤い口紅が好きで趣味はピアス集め。珈琲は砂糖を五杯。思いついたらすぐ行動に移する」


 クラゲの時間がゆっくりに見えるように、彼女の時間も違うのかも知れない。周りとは明らかに違う彼女の性格やルールがどんどん解っていくのが堪らない……。

 あと彼女自身が知らない事も見つけた、嬉しい時はピアスを触る。


 たまにのタバコ休憩に絵を覗くと、絵がもう完成になるのが僕でも解る。


「今日はラスト30分、気合い入れて座っててよー」

 絵と僕の目を交互に見てくる彼女をよそに、ゆっくり目を閉じてお腹を触る。


 気持ちは灼ける程に熱く強い気持ちへとなって行き、絵がこのまま永遠にできなければいいとさえ思う。

 耳が聴こえない瞳との独特なコミュニケーションが、初めての恋愛だと自覚した瞬間に蒼い神秘的な色の海が僕の心を支配した。


 心に潜り深海に陽が差し込む中で、ヤツと一緒に手と触手を取り合って飛び跳ねて踊る。

 何が現実で、どれが妄想で、どれが自分なのかも今は解らない。



 ゆっくり目を開けて、じいっと見つめている瞳を見て、抑えられなくなった気持ちからこんな質問が口から出てしまう。

「好きなタイプは?」


「ない……けどゆーりみたいな人は結構好き」


 絵を見つめながら見せてくる内容の文字が僕の今の全て。

 そしてこの時に心に決めた。絵が完成したら伝えよう。一世一代のこの気持ちを伝える。


 ゆた……。ゆた……。

 なあ、オマエはどう思う?


 絵を見つめてしばらく考え込んで返事をしなくなってしまった瞳に何を言っても返事がないので、番号メールで「帰るね、頑張れ」と打つと、その知らせのケータイの振動にも気に留めずに集中しているのを見てそっと外に出てドアを閉めた。


 瞳の錆びついた車をそっと撫でて暗くなった月を見るとヤツは月に登っていこうと、いつも必死に見える。


『ガチャ!』

 振り向いて瞳が見えたかと思うと、こっちに向かってくると息を切らしてケータイを見せてくる。


「ご飯行こう」


 *


 ファミレスの駐車場に車を少し斜めに止めると瞳は怒ったように動こうとしない。


「瞳、お腹減ったの?」


 大きく深呼吸をして、一瞬微笑んだ様な顔をして軽く頷くと表情が見えない様に足早に店内へ急ぐのを追いかける。

 ヤツは棒でつつかれたように動き回り、ピカピカと赤を光らせる。


 時は速く単調に、それでいて常に何かが変わっていく。


 喫煙席に座るのを見て相席すると、指で「何を注文するか決めて」と指示をして急かしてくる。

 瞳はすぐにパタンとメニューを置くと、2つのメニューに悩む僕の仕草を見てすぐコールボタンを押す。


「ご注文はお決まりですか?」

 瞳は店員にドリアをトントンと二回指差すと、メニューを閉じて僕に渡してくると、店員の確認を聞かずに横を向いてしまう。

 不思議そうに彼女を見つめて、それが不機嫌そうな表情に変わる店員の目に焦る。

 慌ててミートパスタを注文すると作業を終えた彼女は横を向いたまま。

 その横顔は一枚の絵になりそうな哀しそうな顔で、数分それが続いた時にその表情の意味が解り哀しさが伝染して下を向いた。

 耳の聞こえない彼女から見た世界は、決して全てが美しく見える訳ではないのだ。


 思いが巡るうちに、ドリアが運ばれてきて少し遅れてミートパスタがくると瞳は、ドリアに手を合わせる。


 この細くて身体に一本芯が通った彼女には何が見えるんだろう?


 半分程食べ終わる時にまだ手をつけずにドリアを見つめる彼女が心配になる。

「食べないの?」


 僕が喋りかける様子に気づくと、ドリアをひとすくいして口も開けずに唇に当てたと思うと、すぐにスプーンを戻した。

 猫舌なのか。考えると少し笑えてきて表情に出さないように食べていると「カチャカチャ」と音が聞こえてくる。

 ここでもう1つ気になったのだが、瞳の食べ方は少し汚い……。

 こぼしては拭き取り、何度も口を拭く。


 ヤツはそれを見てほんのり赤く照れ臭そうな色をしている様で暖かいな。

 2人共食べ終わると瞳は下げられたお皿を見ると、ニヒルな顔を作ってケータイで文字を見せてくる。

「ババ抜きしない?」


「いいけどトランプあるの?」


 瞳はゴソゴソ鞄を探るとトランプケースを出し唇をとんがらせて、集中した様子でトランプを配り出した。

 恋人みたいだと意識すると、体温が熱くなっていくのを感じて僕はババ抜きに熱中する事にして1人で大きく頷く。


 すぐに枚数が少なく勝負所になってきて、1つわざとらしく出ているカードを引くフリをした時に彼女は無表情に自分の持ちカードを見ながらピアスを触った。

 甘いな、瞳がピアスを触る時は嬉しい時だ。


 僕は隣のトランプを引き、悔しがる顔を見ようとペアのカードを見せつける……が、目力を込めて僕を睨んでペアカードを取ったと思うとまたトランプを集めてシャッフルすると配り出した。

 目つきからして、勝つまでやるタイプだなこれは。


 また勝負所が来る、瞳の手札は二枚。どちらかがババだ。

 じっと目を見つめる彼女は真剣そのもの。右のトランプを掴むとすぐに持ちカードに目をやりピアスを触る。これがジョーカーか、仕方ない負けてやるか。

 そのままわざと右のトランプを引いた。


 その瞬間、瞳はテーブルに乱暴にトランプを投げ捨てると、すぐ集めて片付ける。

 ヤバイ! 明らかに怒っている。手伝おうとするが手で跳ね除けられてどうしていいか解らないパニックに陥る。

 顔も見てくれないから、ごめんも言えない。


 すると瞳は伝票を持ちすたすたとレジに向かうのを見て、慌てて追いかけてお金を出そうとするがピッタリの金額をサッと払い、店員が数えている間に車に向かうのをまた追いかける。

 こっちを向いてくれないと何もできない!

 2人で車の中で俯いてしまう重い空気に段々耐えられなくなった時に、ふと思い出したようクラゲのキーホルダーを財布から取り、窓を見る彼女の膝に置く。


 ジロリと睨んでくる彼女は、その次に膝に目をやりそれを手に取ると上にかざして、口を開けてくるくる興味深そうにキーホルダーを見て回しだした。

 その行動に歯を強く噛んで押し寄せる緊張と戦うが、彼女からの反応を待てずに

 すぐさま隣にいる瞳にケータイにメッセージを送信した。

「さっきはごめん、それはあげる。また明日も行ってもいいかな?」


 バイブレーションするケータイに気づいて、内容を確認した瞳はしばらくピアスを触りながら考え込んだ後に高速でケータイに文字を打ち込んだかと思うと僕のケータイが音を立てて返信を知らせてくれた。

「いいよ、モデルなんだからちゃんと来てよね」


 よかった……。と安堵して油断した所に「アミィー!」と声を発して脇腹を指で強く突つかれるので思わず声が出る。そのリアクションに笑う彼女に何より驚いたのは初めて声を出した事。

「今の何? アミィー! って」


 不思議そうに首をかしてげた彼女はケータイを見せてきて、眉を寄せる。


「映画であちょー! ってあるでしょ? あれ、できてない?」


 彼女は爆笑する僕にまた少し腹を立てた様子で、物凄い音でエンジンを吹かして車を急発進させるので慌てて手すりを掴んで、迫ってはあっという間に消えていく景色は若干走馬灯に見えた気がする。


 最寄り駅に着いた時に、シートベルトを外していると肩をトントンと叩かれて瞳を見ると、真顔で左手の甲を右手で優しくまわして撫でて見せてくれる。

 初めての手話? 1つだけの単語のようだったけど解り易くてすぐ動きを覚えた。


「どういう意味?」


「教えない。……やっぱり絵と一緒で駄目ね、伝わらないもの」



 *



 家に帰ってネットで調べて少し時間がかかったがその意味が解った瞬間鳥肌が立った。


「アイシテル」


 すぐメッセージを打つ、迷いなく感情を込めて……!


「手話の意味わかったよ! ありがとう! 僕も瞳が大好きだ!」


「やっぱり嫌」


「え? なんで?」


「もうこの話はやめよう、まだ車の中だから帰らなきゃ」


「待って! じゃあえと、絵のタイトルは何にするの?」


「海月。オヤスミ」



 ゆた……。ゆた……。

 ヤツは何か不安気に哀しそうにこちらを見ている気がする、……何なんだよ、どうなってるんだよ。



 *


 眠れるはずも無いし、このままでいい訳ないだろ!

「ごめん、今から会いにいく」


 夜中にメッセージを送ると自分の車に乗り込み空いた道路を飛ばす。


 瞳……、瞳……!

 家についたが、彼女の車がない。返信もきてない。

 部屋の前に来てドアを強くノックした時に気づく、そうか聞こえるはずがない。


 ゆっくりドアノブを回すと鍵がかかっていない……。嫌な予感がよぎり土足で部屋に入ると部屋には明かりが点いている。

 白い汚れた風呂敷にかかった絵の前に立ち、瞳がいない事を再確認すると風呂敷をつまんであれから進んでいるはずもない絵の下に黄色い便箋の封筒が小さな音を立てて床に落ちた。


 無心で素早く広い中の手紙を開けると、瞳にあげたキーホルダーが『リン』と立てて滑り落ちる。


「家に帰ってこのキーホルダーを見て解ったの。私に足りなかったもの全部。ゆーりありがとう」


 その文章が頭に入るのと同時に理性も吹っ飛んだ。

 不安が膨張して行く。ありがとうって何だよ!!


 走って車に乗り、お腹を摩りながら目的もなく車を猛発信させる。

「意味解らねぇよ!」


 お腹のヤツは今まで見せた事のない色を発光し、不規則な動きをする。

 なんとか落ち着かせようと、強くお腹を摩った。


 その時だ、ヤツは月に向かってぐんぐんお腹から離れて登っていって見えなくなってしまった。

 ヤツまで僕を見放すのか!?


 瞳が再び頭を過ぎった時に涙が初めて流れると、1度流れたら止まらず鼻をすすりながら水族館に向かう。


 何度も何度も意味がない電話を掛け続けて願い続ける!

 瞳が向こうから喋る事は無い電話を何度も……。


 水族館の駐車場に面影はなく、辺りを一周して力なく手を下ろした時に無心で拾っていた物が落ちた。


『リンリン……』


 最後に頭をよぎった場所は最悪の所だった、「海辺の自殺の名所」



 *


 信じない……。信じられない!

 なんであんな場所が頭を過ぎるんだよ!

 瞳が死ぬわけもないし、こうなる事だってあり得ないんだ!!


 だって、頭の中では瞳が「アイシテイマス」って今も手話をしているじゃないか!


 何故か予感だけ確信があり、あの海辺へ向かう。

 解るんだ、本当は僕が「死のうと思っていた」から君がそうだった事も。


 だから僕を少しでも受け入れてくれたんだろ? あれが最期のチャレンジだったんだろ!?


 駐車場に瞳の車を見つけて中を探すと、髪が逆立つ様に激しい何かしらの感情が紅い火をつけた。

 黒いジャケットと、ジーパンが脱ぎ捨てられている……。

 暑くなったジャケットがもどかしくて投げ捨て海に無心で走るしかなかった。



 走る足は速さを失い、とぼとぼと目に映る光景に近づく。

 暗い海辺で誰かが泳ぐシルエットが見えて、そのままゆっくりと冷たい暗い海辺に波に足を入れて近寄る。

「瞳……」


 僕に気付いた瞳は近寄ると、水面に漂う朧月から両手を救い出して僕に見せた。

 海水と一緒に両手から月の光を受けて輝く砂が両手からこぼれて行く。


 濡れた黒髪にくしゃくしゃにした笑顔はこの世で最も美しい「絵」として鮮明に記憶に刻み込まれ、僕の死のうとしていた理由を一瞬で消し去った。


 ……そうか瞳もやっと足りない事を見つけたのか。


 その次の光景に、脳に電流が走った。

 砂が無くなった左手の甲の上をゆっくり右手で円を描く手話。


 再び流れる涙顔でゆっくりと口を開いてそのままの気持ちを伝える。


「今度は伝わったよ……。僕も愛してる」


 冷え切った彼女を抱きしめ、寒さで少し震えた唇を重ねて瞳の温度を感じて、理解できた。


『君こそが僕の希望だ……、探していた僕の希望だ』


「ありがとうゆーり。私も愛してる」


 驚く僕の首をそっと瞳は指でなぞると、目を少し閉じて涙を拭って続けて彼女は口を開く。

「絵がうまくいかなくて、死のうと思ってた。それだけの理由だけどそれが私には全てだったから……」


「聞こえるの?」


「ごめん、その前にお願いを聞いて」


 白い指を伸ばした彼女は僕のお腹を摩りながら僕の右手を強く握る。


「これからずっと……。この先ずっとゆーりの海月を描かせて」


 ヤツがいなくなってしまったはずのお腹に小さな光を発光する感覚がした時、彼女の真っ直ぐな視線が僕を頷かせた。


「うん、きっと大丈夫」


 もう一度……ゆっくりと時を永遠にする様に唇を重ねた瞬間、小さな海月が僕の心に生まれた。


 *



「録画できてる?」


「うん、大丈夫。みんな瞳が『喋れる』ってまだ知らないみたいだよ」


「絵が完成したら死ぬつもりだったんだから、1年くらい言葉なんていらなかったんだもん」


 冷めたブラックの珈琲をテーブルに置いて瞳を両手で包み込む。


「全てが解決して、上手くいったからもういいよ」


「それよりこっちに来てゆーり、新しいクラゲが描けたの」






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