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ホームシック

あれ、服のまま寝ちゃったのか。

なんだかおかしな夢を見たな。

ドラゴンっぽい2匹が部屋に落ちてきてフィギアが壊れる、って夢。

オレもアニメやゲームのやり過ぎかな?。


まだ7時か、変な夢のせいで完全に目が覚めてしまった。

しょうがない、まだ早いが起きて朝飯でも作るか。


オレはのっそりと自分の部屋の扉を開ける。


目に入るのは、

いつも通りの壁、

いつも通りの天井、

いつも通りの廊下、

ペシャンコのダンボール。

…あれ。


オレは隣の兄貴の部屋の扉をゆっくりと開ける。


そこには兄貴のパソコンの前でうつ伏せに幸せそうな顔で寝ているキドラと、

仰向けにピッチリとした姿勢で布団を専有しているジニアが居た。


そっか、現実だったんだな。オレは昨夜の事を思い出す。


宇宙からの未知の生命体か。

昨夜は混乱していてそれどころじゃ無かったが、

冷静になって考えてみると、これって歴史的発見なんじゃ…

フィギア1体なんて…


「パパ…ママ…。」


キドラが寝言を言っている。

さっきまでの笑顔が嘘かのように、今はとっても寂しそうな顔をしている。


そうだよな。

こいつら、不慮の事故で右も左も解らない所に来たんだもんな。


オレはさっき一瞬さもしい考えが頭をよぎった事に嫌悪感を抱く。


地球上で知ってるのは、今の所オレだけなんだ。

オレがなんとか守らないと。


そうだ、こいつら何食うんだろう?

人間と同じもので大丈夫かな?


「また起こしにくるね。」


オレは2人を起こさないようにそっとその場を離れる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ジニアと2人で知らない星に落ちちゃった時はびっくりしたけど、

初めにあった住人は”アニメ”とかいうのを貸してくれたし、優しそうで安心した。


「あのアニメっての面白かったね!早く続き見ようよ!」


アニメの面白さを伝えたかったし、なによりこのピリピリした空気をなごませたかった。


「おいキドラ、まさかこのままアニメ見てるつもりじゃないだろうな?」


ジニアはやや叱るような顔つきで言った。


「…どういう意味?」


何と無くは解っているんだけれど、念のためジニアに聞く。


「はっきり言って俺たちはかなりピンチだ。

得体の知れない星に2人きり。

大きな爆発音から考えて何かがあったのだろう。

向こうに早く戻らなくちゃならないのにすぐに戻れるかも解らない。

この星の文明レベルは?異星人に好意的か?そもそもここの住人は信頼出来るのか?

文字通り何も解らない。」


ジニアは、今の考えてをまとめながらぶつけてくる。

こういう時は黙って聞いてるんだ。そうしたほうがいいと思うから。


「通信機は…やっぱりこんな未知の星じゃ通じないか。」


ジニアはいつも自分の作った通信機を携帯している。

お城の中でもよくそれを使っている。


「ちょっとそれ貸してくれ。」


ジニアはここの住人が”パソコン”と呼んでいた機械を指差す。


「うん。」


ジニアにパソコンを手渡した。


「さっきここの住人はこの楕円状のボタンが3つ付いたもので、これを操作していたようだが…

なるほど、こうするのか。」


こういう時のジニアはカッコいい。

一瞬で何でも解っちゃうんだもん。


「俺の予想ではおそらくこの機械にも、この星の情報が多少なりとも記録されているはずだ。

翻訳機と接続出来れはなんとかなりそうだが…万能ケーブルはないしな。」


万能ケーブルというのは、ジニアが前に作ったどんな機械とでも繋がる凄いケーブルだ。


「なにか無いかな…。」


ジニアは周りを見渡しだした。つられて周りを見る。


「お、あれがいい。」


ジニアは細長い金属のようなものを曲げ、二等辺三角形にして、先っぽを半円形にした青い物体を指差した。


「よし、見たところ長い間使われていないようだし、これを貰おう。ちょっと待っててくれ。」


ジニアはそれを持って部屋を出ていった。その間少しだけ心細くなる。


「おまたせ、さっきの奴に許可を貰ってきた。」


ジニアはすぐに戻ってきた。


「許可?」


まれにジニアは主語が抜ける。


「仮にも俺たちはここの住人の大切なものを壊している訳だ。

こんなものでも使っていいか聞かなくちゃな。」


ジニアはさっきの青い物体を真っすぐに伸ばしながら答える。


「そっか。」


真っすぐにすると、ジニアはそれに噛み付いた。


「えい。」


そうして真っすぐになった金属の棒を噛み切って、爪でガリガリ削り出した。

星にいた時に真似してみたけど、歯が痛くなっただけだったっけ。

やっぱりジニアはアゴの力が強いのかな。


「よし、電気が通じるみたいだ。無事に翻訳機と繋がりそうだ。

あとはパソコンが操作出来れば、なんとかなるだろう。」


厳しかったジニアの顔つきが少しだけ優しくなった。


「やっぱりジニアは凄いね!」


そんなジニアを見て少し安心する。


「パソコンの前面にはボタンが沢山…100個以上はあるな。」


ジニアは適当にボタンを押しだした。何をしてるんだろう?


翻訳機に”日本語”のデータが入ってればこの文字も読めるのに。

今はまだ耳から入ってきた情報と喋る情報しか変換出来ないんだよね。


何の事前情報もなく翻訳機で調整できるのは、体感時間と重力と空気だけだから。


文字情報も変換出来るようになれば、この部屋にある色んなもので暇を潰せそうなのにな。

早く出来ないかなー。


「2、3個で1文字か、おそらくこの星の言語とこのボタンは連動しているんだろうが、

流石の俺も何らかの規則が解らないと…。お、それ。この文字に似てないか?」


パソコンを操作する部品の下にひいてあった、四角いものを指差す。

それはお城にあるじゅうたんのようだ。


「左上から翻訳機に入力していこう。これさえ出来れば、パソコンが操作出来るはずだ。」


その間退屈だから少し辺りを見渡す。

どうやらこの部屋は長らく使われていないみたい。


部屋には見たことの無いものも沢山ある。

文字が解ればきっと楽しいんだろうけど。


「キドラ、翻訳機をパソコンに近づけて。」


「うん?」


ジニアはさっきの青い物体で翻訳機とパソコンを接続した。


「ほら、文字のデータを入れたぞ。これがあれば詰まらなくないだろ?」


ジニアはそんな気持ちを感じ取ったのか、日本語の文字データを翻訳機に入れた。


「いいの!?やった!」


その状態でもう1度部屋の中を見渡すと、四角いところにさっきのアニメと同じタイトルの紙の束がある。

この星ではまだ紙が重要な役割を持っているんだ、と思いながら、1つ手に取った。


そこにはさっき見た”アニメ”と同じ絵が描かれていた。


ジニアがこの星の事を調べている間、暇つぶしとしてそれを読むことにした。


部屋の隅のふかふかの所に移動して、アニメの絵が描かれた紙の束を読み始める。


今日はとっても疲れたな。

色んな事があったし、色々考えたから。


このふかふか、暖かくて気持ちいい。

なんだかこうしていると、眠くなって来ちゃう。


…。


「おい、起きろ」


いつの間にか眠っちゃったみたい。


「んーどうしたの?」


時計を見ると、もう夜の2時を指していた。


「あれ、解る?」


いつの間にか、物の名前と使い方が解るようになっている。

ジニアが何かしたんだろうな。


「あぁ、キドラが寝てる間に翻訳機にこの星のデータをあらかた入れといた。」


やっぱりジニアだった。


「もう?早いね。」


あれから5時間くらいしか経ってないのに。


「思ったより時間が掛かってしまった。あの針金製の衣紋掛けではこれくらいが限界かな。」


衣紋掛け?ハンガーじゃなくって?

今に始まったことじゃないけど、ジニアは前からやや古い言い回しを好んで使うんだ。

きっとそのほうが丁寧だと思ってるんだろう。


「ついていたことに、このパソコンというものはどうやらこの星の情報を蓄積したデータベースと通信できる機械だったらしい。」


ジニアがここに来てから1番嬉しそうな顔になる。


「そうなんだ!」


こういう時のジニアの顔が1番好きだ。つられて嬉しくなってくる。

一晩でここまで出来ちゃうなんてやっぱりジニアは凄いや。


「おかげで色んな事が解ったぜ。

1947年から始まり、この星、地球には幾度となく異星人が文化交流をしようとしているが、失敗に終わっている。

どうやら異星人との交流にはあまり積極的じゃないらしい。」


黙ってジニアの話を聞く。


「この星の文明レベルも想像以上に低い…これでは俺が宇宙船を作って戻るしかないだろうな。」


ジニアはまた難しそうな顔に戻った。


「出来そう?」


に無いからこんな顔をしているんだろう。


「この家で用意出来るものじゃ流石に部品が足りない。なんとかして外に出るしかないがそれには…。」


ジニアが言葉につまる。考えながら話しているみたい。

いつもなら饒舌に話すけど、こんな状況になって焦っているんだろう。


「それには?」


ジニアが考えやすいように合いの手を入れる。


「騒ぎにならないようにする為にも、ここの住人の協力が必要だ。

…復元装置も使いたいしな。」


その為にもツウラ星に戻らなくちゃね。


「フィギア壊しちゃったしね。」


大切なものだから何とかしないと。


「あぁ、しかしここの住人の素性はまだよく解らない。」


「良い人だと思うけど。」


面白いアニメも見せてくれたし。


「一晩たつが、何の音沙汰も無い事を考えると、その可能性は高いだろうが、念のためもう少し様子を見よう。」


「…わかった」


ジニアって慎重な性格だなぁ、と思った。


「だからお互いの素性はまだ秘密だ。俺は発明家だという事は秘密だし、キドラは…解ってるよな?」


そういえば、昨日ここの住人に機械について聞かれた時も”自分が作った”とは言わなかったっけ。


「うん。」


秘密にするの苦手だけど、大丈夫かなぁ。


「特にこの家の主が差し出した物は、安全が確認できるまでは、決して口にするんじゃないぞ。」


「美味しそうでも?」


「言うまでも無い。」


美味しそうだったら食べて良い、ってことだよね?。だってここの人は良い人そうだし。


「とりあえずパソコンはもう使わない。アニメ見てていいぞ。」


そう言いながらジニアは、パソコンをあけ渡した。


「やった!」


すぐにさっきのアニメのディスクを再生する。


「その間に俺はこの家を少し調べる。」


きっとジニアはこの家の住人の事を調べたいんだろう。


「解った。気をつけてね。」


ジニアがゆっくりと部屋を出て行ってから、アニメを再生した。

そういえば、このアニメの状況、今の状況にちょっと似ているなぁ。

フクロウみたいな”ソラ”は落ちこぼれで魔法界から人間界に1人っきりで来たみたい。

こちらはジニアと2人だからそんなに不安じゃないけど…


1人で寂しく無いのかな…。


ふとパパとママの事を思い出した。

パパとママ、元気かな。

きっととても心配してるんじゃないかな。


 第5話 ソラはホームシック!?


そんな事を頭に思い浮かべながらアニメを見ていると、もうアニメは2枚目の最後まで行っていた。

無意識にディスクを入れ替えてたみたい。


 「ねぇ、向こうの事とか心配にならないの?」


主人公のマコがパートナーの事を心配して聞く。


 「それなら心配ございません!父上と母上は大変優秀な魔法使いでございます!それに…」


 「それに?」


 「それに父上と母上は以前、”あなたの笑顔が好き”と仰って下さいました。」


 「そうなんだ。」


 「はい、父上と母上はわたくしの事を、いつも思って下さっています。

 そのお2人の為にも、人前では挫けず笑顔で居ようと決めたのです!」


…そうだよね。

パパもママも強いから大丈夫。

パパもママもソラの両親と同じように笑っているキドラが好き。

ジニアみたいに早く一人前にならなくちゃいけない。


心配したって状況が良くなるわけじゃない。

少しでも早く帰れるように、ジニアを手伝わなくちゃ。


挫けず笑顔に、か。

頑張らなくっちゃ。


3枚目のアニメのディスクを見終わるころにジニアは戻ってきた。


「キドラ、起きて…るな。」


「うん。」


もう、朝の5時前だ。凄く眠い。

一晩中起きていたであろう、ジニアは眠くないのかな?


「どうやらこの家の住人は、”オチアイ ミノル”というらしい。

母親と父親、兄がいるようだ。

3人とも留守にしている事が多いみたいで、今は1人だ。」


そういえば昨日、隣の兄貴の部屋、って言ってたっけ。


「これならしばらくここに滞在し、この家の主の様子を伺っても支障は無いだろう。」


「…ん。」


どうやらジニアが戻ってきてほっとしたのか、眠気が一気に来たみたい。


「…どうした、眠いのか?」


「…うん。」


正直、もう半分は眠ってる。


「まったく…寝ていていいぞ。だいたい話は終わった。」


「おやふみ。」


そのままパソコンの置いてある机にうつ伏せになった。

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