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集合

あれから2週間が経った。


母さんはあの後すぐ、海外に戻った。

その後はテレビを見ることもせず、ずっと勉強をしている。

目指すは京北大学。

勉強をやる前に1日1回だけ、そらまほのアニメのディスクを再生する。

再生するのはいつも1話の冒頭の5分だけ。

こうすると、すごく落ち着く。


 「ところで、ちゃんと宿題持って来た?」


 「あー忘れちゃった、ごめん、先行ってて!走れば間に合うと思うから。」


 「まったく、急ぎなよ!」


 「もう、あたしってばドジ、急がなくっちゃ!」


 「…ん、なにあれ?」


 「とーめーてーくーれー。」


 ゴ…


 ドスンッ


「え?」


オレは後ろを振り返った。

オレの部屋の真ん中には、2匹の小さなドラゴンがいた。

目の前で起きている現実が受け入れられずにオレは頭の中が白くなった。

オレが今の状況を正しく把握出来ずにいると、向こうからアクションがあった。


「ミノルー!」


キドラが真っすぐに駆け寄って来たのだ。


「ミノル、久し振り。」


ジニアはクールな顔で手だけ上げて挨拶する。


「キドラ、ジニア!どうして!?」


「だってそらまほも、バトリも、いわくにもまだ最後まで見てないんだよー!って言うのは冗談で…。」


「なんだミノル。まだニュース見てないのか?」


「ニュース?」


なんせずっとテレビは見てない。


「ちょっとパソコン借りるぞ。ニュースサイトに動画くらいあるだろう。ほら、これだよ。」


ジニアは慣れた手つきでパソコンを操作した。


 ー本日、JASROの種子島宇宙センターのセンター長でもあるコウデラ氏はマスコミ向けに緊急記者会見を開きました。


 「私達は今まで宇宙を探索して来ました。」


 「その目的は技術の実証によって、人類が未経験の体験を提供するための先導者となる事でした。」


 「つまり、地球外の知的生命体との出会い、それがJASROの最終目標と言えるでしょう。」


 「公式な記録に残っている最も古いものでは1947年7月に、アメリカに知的生命体が降り立ちました。」


 「そこから我々は知的生命体を受け入れる土壌を作る為に様々な努力をして来ましたが、ようやくそれを公にする事が出来ます。」


 「先日の上空からの未確認飛行物体による破壊未遂騒動は記憶に新しいところです。」


 「今回、JASROの独自調査により、あれが地球外の知的生命体の仕業だと断定いたしました。」


 「そして、それを命をかけて止めてくれた方々がいます。」


 「彼らは地球を含め他の星たちを愛し、私達より高度な文明を持ち、すでに他の星々との交流を行っています。」


 「そして彼らは地球との交流を望んでいます。今回の感謝の意味も含め、我々はそれを受け入れるべきだと思います。機は充分に熟しました。」


速報の動画はそれだけだった。

オレは少しの間呆然とする。


「…と言う訳だ。会見を見て飛んできた。」


そんなオレの混乱を察してか、ジニアが説明した。


「え?もう転送装置は使えなかったはずじゃ…。」


お金が掛かるはずだ。


「いやあの後すぐに、キドラと俺が世話になったというミノルという人間を一目見たい、という国民の声がどんどん大きくなった。」


交流は出来ないけど、一目だけでも、という事か。


「声は大きくなるいっぽうで、1週間経っても収まらなかったから、王様も遂に首を縦に振った。そして、地球をあちこち覗いてみたら、こんなニュースが目に飛び込んできた。」


「私が最初に見つけたんだよー!」


キドラはジニアがよくするようなしたり顔をする。


「そうだ。」


と、ジニアは一拍置いてから。


「ミノル、庭借りてもいいか?」


と、言った。


「どうするの?」


「すぐに解る。」


ジニアとキドラに誘われるまま庭に出ていく。

ジニアは上空に向かって、大きな丸を描いた。

次の瞬間ばらばらにされた円環のようなものが庭に現れていく。


「この2週間でツウラ星の転送装置をスチャンでも扱えるように改造して、新しい転送装置を2個作った。大変だったぜ。」


「ふーん。」


バラバラだけど、間違いなく転送装置だ。

あっと言う間に、ジニアは転送装置を組み立て終わった。


「よし。」


ジニアはその転送装置を動かした。


「ミノル、久し振り!」


現れたのはルグジャ星で見たニコニコ顔だ。


「キャフツァ!」


「うーんこれが地球の植物か。」


キャフツァは庭の植物を嗅ぎだした。


「どうして君がここに…。」


「ツウラ星までは宇宙船で来てたんだ。UFO騒ぎの後、心配になったらしい。」


ジニアが補足をする。


「ツウラ星からは転送装置で来たんだよ。それに僕たちはジニアの友達だよ?異星間交流を開始したら、真っ先に来るに決まってるでしょ?。彼らもね。」


キャフツァが転送装置のほうを見たので、オレもつられて見た。


「テリドーザ!コロイ!クーナル!」


「ほぅ、地球人は地底じゃなく地上に住処を伸ばしてるんだな。危なくないか?」


相変わらず嫌味な言い草だ。


「ミノル、また、会えた。」


コロイは今はオレと同じくらいの大きさになっていた。


「入星の申請は不要なようだな?。」


やっぱりギザな言い回しだ。


「それに彼女もだ。」


「おい、いいぞ。」


ジニアは転送装置に顔だけを入れる。

すると、転送装置から徐々に車輪の付いた水槽が現れる。


「ミノルちゃん!おひさっ!」


「アティンダ!」


この乗り物はアティンダ用にジニアが作ったんだろうか。


「みんな…。」


懐かしい。こんなに早くまた会えるなんて。

オレが感慨に浸っていると、庭に面した窓ガラスが突然ガラッと開いた。


「ミノル、ここだったか!」


「兄貴!?」


息が切れてるし、汗びっしょりだ。大学から走ってきたんだろう。


「うおー!おれんちの庭がなんか凄い事になってる!」


「どうして兄貴まで…。」


「一生の不覚だぜ。コウデラ氏の会見をさっき知って走ってきた。お前に会えば何か解るかと思ったが、それ以上だったな!」


研究に没頭し過ぎて世間の動向から遅れるなんて日常茶飯事の兄貴だし、むしろ早いほうだ。研究室の誰かから聞いたんだろうか?。


「ストウさんも来てるぞ!」


兄貴は手をひらひらさせながらストウさんに向ける。

そうか、ストウさんも今回の一連の騒動の顛末は知っているし、

何より娘だ。会見の前に一報入れたのだろう。


「7人の宇宙人…紹介してミノルくん。」


ストウさんはこちらを見ないまま、そう聞いた。すっかりこちらには興味が無いように見える。


「えっと、ルグジャ星のキャフツァ、植物が好き。」


「よろ!」


気さくだ。ストウさんは黙って聞いている。


「トリッサ星のテリドーザ、精密機器が好き。」


「…。」


無言で目だけを合わせる。


「ワーワラ星のアティンダ、水が好き。」


「よろしくねー!」


水槽の上から顔と手を出す。


「コロイ星のコロイ、人間が好き。」


「白衣、人間、白衣、人間。」


コロイは…正面が解らないからどうしてるのか解らない。


「ジヴェル星のクーナル、技術に興味がある。」


「宜しく、マドモアゼル。」


片足を付いてお辞儀をする。


「マダムよ。」


ストウさんがちょっとだけ訂正した。


「失礼、マダム。」


「そして、ツウラ星のキドラとジニア。」


「その節はありがとうございました。」


「よろしくー!」


ジニアは両手を身体にピッタリと沿わせてお辞儀し、キドラは笑顔で手を振る。


「京北大学のストウ アミ。宜しくね。」


「おれは京北工業大学のオチアイ マコト。で、この機械は何だ?」


兄貴はさっきから機械の周りを行ったり来たりしゃがんだり飛んだりして見てる。


「転送装置です。これで惑星同士を行き来できます。彼らもさっきこれで来ました。今はツウラ星と繋がってます。」


ジニアがすかさず説明する。


「動力は何かしら?」


「ロバ電子です。」


ジヴェル星でも聞いた名前だけど、ロバ電子ってなんなんだろう?。後で調べておこう。


「ロバ電子って…そんな言い方今はしないわよ?」


ストウさんが割って入る。


「ロバ電子か…やっぱりそんな代物を楽々扱えるようじゃないと、宇宙にほいほい行けないのかなー。」


兄貴は少し遠い目になった。


「ミノル君、これに入ったことは?」


「ツウラ星から地球に帰るときに入りました。」


びっくりするくらい普通だった。


「向こうの大気や重力は?」


「今、俺達が付けてる翻訳機で調整してます。 付けるだけで自動で調整しますし、光や熱で発電してるから充電いらずですよ。」


研究者の好奇心からだろうか、ストウさんはジニアに質問攻めだ。


「壊れないの?」


「色んな星で使ってますが、今まで一度もありません。」


やっぱり翻訳機はだいぶ前から使っているみたいだ。


「見せて貰えない?興味があるの。」


「ちょっと待ってください。オレも持ってます。」


彼らはここでは外せないし、ましてやジニアだったらロックくらいかけているだろう。


「これです。」


部屋の引き出しに仕舞っていた翻訳機を持ってくる。


「もっとよく見せて。」


「どうぞ。」


ストウさんは、オレから翻訳機を受け取ると、スマホの動画モードを起動した。


「えい!」


そして、ストウさんは素早く翻訳機を付けると、転送装置にすぐに、飛び込んだ。


「あ、ずりーぞ!」


兄貴は手を伸ばしたが、ストウさんは、すぐに戻ってきた。


「よし、これで私は女性で始めて転送装置を使った人間ね。」


「あ、はい。」


大胆な人だ。


「よーしおれも!」


兄貴もストウさんから翻訳機を奪うと同じくスマホで撮りながら、躊躇なく転送装置に飛びこむ。


「おーおもしれー!」


「よし、ミノル。そろそろ、種子島宇宙センターに行こう。」


「コウデラ氏に会いに?」


おそらくまだ会見会場にいるはずだ。


「もちろん。まだ、マスコミの対応で追われているはずだ。」


「皆も行くんだよね?」


ジニアとキドラを除く、宇宙人5人を見渡した。


「もちろん」


キャフツァは愛想のいい顔で即答する。

ジニアの事だからある程度事情は話しているだろう。


「えー前にジニアちゃんが移動用に作ってくれたこれ、ちょっと狭いのよね。」


ちょっとアティンダは不服そうだ。


「アティンダ、種子島は綺麗な海に囲われている、終わったら連れてってやるから。」


「じゃぁ行く!」


キドラと同じく現金な性格だ。


「う、うん。でもオレでいいの?」


説明を求められても正確に答えられる自信は無いし、ここには説明が得意そうな人が2人も居るのに。


「ミノル、ここまで来て何を戸惑ってるんだ?行ってこい。」


「行ってらっしゃい。」


「うん、そうだね。」


ジニアは行き先を種子島宇宙センターのセンター長室に繋いでバラバラだったもう一つの転送装置を投げ入れてから、俺達と一緒にそこに入る。


「コウデラさん?ミノルです。今所長室にいます。」


そしてすぐコウデラ氏に電話をかけた。


「おぉミノル君か、今行く。」


コウデラ氏もこちらが来るのを期待していたのか、すぐに電話に出た。


「ミノル君…と後ろの方々は?」


オレはさっきストウさんにしたのと同じやりとりをした。


「ジニア君とお連れの方々、来てくれて、助かったよ。マスコミは質問攻めでね。

写真も動画も出したのに、たちの悪い捏造だと思ってる奴らばかりだ。一緒に来てくれ。」


「初めからそのつもりです。」


ジニアは今の事態を想定していたようだ。


「しかし、びっくりです。ずっと昔から異星人を受け入れる準備をしてたなんて…。」


「あぁ、あれ?ハッタリだよ?こんな千載一遇のチャンスは逃せないからね?

それにね、僕はジニア君が来ると言うのに賭けたんだ。転送装置の存在はもうミノル君から聞いていたし、

ジニア君は義理堅い性格だ。きっと来てくれると思ってたよ。」


コウデラ氏は当然でしよ?とでも言いたげにさらりと答える。


「え!?」


「この2週間大変だったよ。こんなに権力を持った人達と話したのは初めてだ。」


コウデラ氏はオレも知らない内に色々と動き回ってたんだ。


「データとか渡さなかったんですか?」


「今までの宇宙船の目撃情報をちょっと脚色した。データ取っといて良かったよ。」


言うまでもなく眉唾情報ばかりだろう。 


「う、嘘ついたんですか!?。」


「脚色、だよ。君も理系なら知ってるだろう?論文というのはデータは都合の良し悪しで取捨選択するもんだ。それと一緒だよ。」


それとこれとは話が違う気がするけど…いちいち指摘するのも面倒になるほど、コウデラさんはさも当たり前の事を言っているかのような口調で答える。


「バレたらどうするんですか?」


「大丈夫だって!。既成事実さえ作ってしまえば、人はその過程を詳しく調べようとはしないもんだよ。それに、連中はどうせデータの意味なんて解っちゃいないさ。」


連中、って…。薄々感じてはいたけどやっぱりコウデラさんは強い権力だけを持ってる連中が嫌いなんだろう。


「お、アミから着信だ。…ずるいぞ、アミ。父さんだって我慢してるんだ。」


廊下を歩きながらスマホを確認する。さっきの動画が添付されているのだろうという事は容易に想像が出来る。


「さ、着いたよ。」


コウデラさんは会見会場の扉を開けて、壇上に戻る。


「皆さん。お待たせしました。先ほどまで話題の渦中にあった宇宙人の皆さんがおいでになりましたので、ご紹介致します。」


会場が異様な空気に包まれる。

7人の異形の者が現れれば、誰だって混乱するだろう。


「トリックだ!」


誰かがそう叫んだ。

その叫んだ人に向かってジニアはつかつかと歩み寄って行って、自分の胸に相手の手を押し付けた。


「これでも、トリックか?」


「え…いや…すいません。」


「他に疑う奴は?」


誰も何も言わないのを確認してから、ジニアは前に戻ってきた。


「ただいまご紹介に上がりました、ツウラ星のジニアです。こちらの方たちは既に私の星と交流している代表として…。」


その後ジニアは時おり浴びせられる質問にたんたんと回答した。


「装置の安全性に付いては何ヶ月にも及ぶ実験で実証済みです。先ほど、私の娘が女性としては始めて転送装置を使用しました。」


このように時おりコウデラ氏もサポートをする。

オレや各惑星の皆さんにも時おり質問が来た。

会見が終わると、海に入ってから戻るわと言ったアティンダを除いた皆は、各惑星へ転送装置で帰っていった。

皆出来ることをやったまでだ、と言って礼など望まなかった。


「ミノル、お疲れ。」


会見会場から出ると、ポンと肩を叩かれた。


「父さん、母さん。いつ帰ったの?」


「マスコミ向けに緊急招集がかかったのよ?愛する息子が絡んでるみたいだと上司が気づいて、予算多めでここに来ちゃった。」


「父さん達、さっきの会場にもいたんだぞ?」


「そうなの?全然気が付かなかった。」


あそこには沢山の人もいたし、母さんは質問しなかったみたいだから気が付かない訳だ。父さんはカメラマンだから、近くにいたとしても多分気が付かない。


「ところで、ミノル今回の事詳しく、独占インタビューさせて!特別賞与がかかってるの!」


「いいけど…。」


さっきの会場でも、コウデラ氏とジニアが中心だったからオレに来た質問はせいぜい2、3個だ。


「よし、これで私達だけの単独スクープね!歴史に残るわよぉ!」


「う、うん。でも明日ね。」


今日はちょっと疲れた。


「ミノル。」


ジニアが会見会場から戻ってきた。


「何?」


「ただいま。」


「おかえり。」


また、会えた。


「そんな事よりテレビー!」


「うん、オレも最近見てないんだ。録画はされてるはずだから、家に戻ろっか。」


そらまほ、バトリ、いわくに。あれからどうなったんだろう。


「そういえばミノル。王様から手紙を預かってる。」


「手紙?」


オレは冒頭部分だけを黙読する。


「キドラも君を気に入っているようだ。君さえ良ければ、キドラとけっ…。いやいや!無理無理!」


何を言い出すんだ、あの人は。


「内容は想像付く。俺も前に言われた。」


「それで、その時どうしたの?」


「キドラをそういう対象として見れない、って断ったよ。」


ジニアはストイックな性格だし、どちらかと言うと研究に興味がありそう。

だから研究者に独身が多い、というのはオレの偏見だろうか。


「うん、オレも。 異星間交流がある星同士なら珍しくない、ってそういう問題じゃないんだけど…。 」


「まったくこういう時は公私混同する国王だ。」


そのまま父さんや母さんと一緒に家に帰った。

そのあと各惑星の皆がもう一度来て、一騒動あったりもしたけど、それはまた別のお話。


これがオレの高2の夏休み。


今までの人生の中で一番濃い夏休みだった。


そしてこれからも濃い人生を送れそうだ。


この夏はいつまでもいつまでも忘れない。

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