風邪
「ミノルったら覚えられなかったの?私は覚えてたよー!」
ミノルが次の目的地を聞くので、ちょっと得意気に言ってみた。
「トリッサ星だ。砂と岩に覆われていて海はほとんど無い。」
「なーんにも無いよー!」
宇宙船で降りても、砂、砂、砂。正直楽しくない、でもこの経由地に向かうのはトリッサ人がかなり高い技術をもっているから。
「あぁ、常に砂嵐が吹き荒れていてとてもじゃないが、観光には向かない。」
「何でそこに行くの?」
「宇宙船の改良に必要だからだ。」
私はすかさず片目を瞑って指先で何かを作る真似をする。
「そう、精密機器が優秀だ。」
「技術が進んでるんだね。」
と、ミノルが少し感心した口ぶりになった。なんだか不満。
「ジヴェル星やツウラ星ほどじゃないよ!。逆にワーワラ星はほとんど機械類を作らないしね。でも、私はトリッサ星よりワーワラ星が好きだよ。」
と、口を挟んだ。ワーワラ人は技術は高くないけれど、ほんとに優しいんだ。
ジニアがちょっと複雑な表情になった。
「ツウラ星にはジニアがいるからねー!この中ではピカイチ。」
と付け足した。
純粋な技術の発達ってことで言えば、このあたりの銀河系にも負けてないと思う!
「今は、直径1800mの円を1分で進んでるんだっけ?」
ミノルは前に私がしたように指をクルクルさせながら、ジニアに確認する。
「今はそこまで厳密にやってない。翻訳機も今は本物だし、重力の再現もある程度適当で大丈夫だから、前よりは真っ直ぐに早く進んでる。」
「びゅーん!」
私は前にやったような螺旋状ではなく、時々胸の奥から顔を覗かせる何かを押し込めるように、
元気よく素早く真っ直ぐに手を動す。
「そうなんだ。早く行けるに越したことは無いよね。」
ミノルは本当は私がパパとママの事を心配しているって、お見通しなんだね。
「よし、昼も食べたし、俺はルグジャで買った部品で機械を作ろう。」
昨日はパソコン見てるだけで、特に何もしてなかったから、
ジニアなりの暇つぶしを考えたんだろうね。
私は何しようかなー。
周りを見渡したら、ベッドの近くに置きっぱなしだったミノルのスマホが目に入った。
「私はテレビ見たーい!あれー?映らなーい。」
ミノルのスマホでテレビを見ようとしたら、画面が砂嵐になっている。
「まってろ今宇宙船のアンテナの向きを変える。」
そうだった。うっかりしてた。ルグジャ星につく途中までしか見れ無いんだっけ。
「見れたー!」
でも、地球でやってた番組じゃなくってツウラ星の番組だ。
「何この番組?」
後片付けの終わったミノルが横から画面を覗いてきた。
「ツウラ星でやってる番組ー!」
ツウラ星にいた時に見てたドラマの一つだ。
大きな魚の口の中から2本の直線が生えてきて、そこをツウラ星の乗り物に乗ったツウラ人が渡る。
その乗り物は地球の電車に少し似ている。これはドラマのオープニングで、丁度始まった所だった。
地球時間で11日、ツウラではまだ5日半しか経って無いけど、なんだかとっても懐かしい。
ドラマの続き気になってたんだよねー。
「ツウラ星にも線路があるんだね?」
ミノルの考えたことが私と同じでびっくりしちゃった。
「旧文明の遺産だ。」
ジニアはこちらを見ていないけど、音で解ったみたい。
お祖父ちゃんのお祖父ちゃんのそのまたお祖父ちゃんの、とにかくずっと昔は使われてたみたい。
「そ、そう。」
ミノルは微妙な顔をした。
地球では現役の機械を旧文明の遺跡と言われて、複雑な気分になったんだろうね。
「これで次の星まで暇つぶし出来るだろ?」
こういう時ジニアは少しだけしたり顔をする。
「うん!」
でも、そんなジニアがやっぱり好き。
「そういえばジニア、何作るの?」
ジニアはさっきルグジャ星で買った部品を使って、何かを作っている。
横目で見ていると、凄い早さで地球で見たような調理器具を作っていく。
ネットの情報でここまで出来ちゃうなんてやっぱりジニアは凄いな、あっという間に完成した。
「ほら、使ってくれ。地球のっぽい調理器具だ。」
ジニアは金属を使って菜箸、ボウル、包丁、まな板、おろし金っぽいものを作り出していた。
「ありがとう。助かるよ。」
ミノルは更に細かい部品をいじって何かを作っているジニアも気になるみたい。
ルグジャで買った部品で機械を作るって言ってたもんね。
「地球に万能リモコン、ってのがあるだろう?発想が面白いと思ったんで、洒落で作ってるんだ。」
どんなテレビでも動かせるやつだよね。そんなの作ってどうするんだろう?
「へー。」
ミノルは興味津々にその様子を見だした。
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トリッサ星は砂嵐が吹き荒れてて、10m先も見えないから、
恒星は出てるんだか、出てないんだか解らない。
トリッサ人は、固い地面を自分達で作った機械で掘って住居としてる。
その洞窟の中は自然に白く光る石が天井に一直線に並べられていて、結構明るい。
以前、洞窟は空気が安全か確かめてから掘っていたから、時間が掛かったけど、
どこでも行けるジニアの翻訳機で、ぐっと時間が短縮された。
普通、トリッサ人はすぐ足下を見るけど、ジニアならまともな商品を売ってくれる。
抜け目の無い人達だけれど、その辺りは義理固いところもある。
商人のテリドーザは、険があって声もざらざらとしている。
地球のトカゲみたいで、体長は1mくらい。
身体はゴツゴツで岩みたいに固い。
テリドーザはジニアが会話している時にも、ときどき翻訳機を外して、現地語で何かを話して笑ってた。
人に聞かれちゃいけないことを話すなんて、多分悪口を言ってたと思う。
「地球の機械?興味はあるが、交流できない星の話なんだろ?聞く気は無いね。」
相変わらず木で鼻を括ったような態度だ。
トリッサ星の燃料は見た目は大きい固形コンソメみたいで、一辺30cmくらいでかなり重い、
ルグジャ星で貰った籠に入れて引きずりながら、宇宙船まで運んだ。
そして、そのままワーワラ星へと急いだ。
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あれ、身体が熱いや。
どうしたんだろう。
疲れたのかな。
汗も噴き出してきた。
頭もぼーっとする。
「キドラ、どうしたの?目がトロンとしてるよ?」
ミノルの顔もぼやけて見える。
「頭痛い…。」
「うわ、凄い熱」
ミノルは私の額と自分の額に手を当てた。
「ふむ、恐らく風邪だ。ミノル、ちょっと離れてたほうがいい。」
ジニアはミノルと私の間に割って入る。
「え?」
「人間への影響は不明だ。うつったら大変な事になるかもしれない。俺がなんとかする。」
ジニアはベッドの下を漁って、シーツを1枚取り出した。
「なんとかって?」
「汗を拭って、頭を冷やす。地球の風邪の治療とそう変わらない。あとは薬を調合して…」
取り出したシーツを床において、そのままベッドのシーツも剥がす。
「ほら、一人では難しそうじゃない!オレもキドラが心配だから、手伝わせてよ!」
「しかし人間に…」
「大丈夫だから!ね?」
「だったら薬の調合とシーツを天井から下げるのを手伝ってくれ。」
「うん、解った。」
ミノルはジニアを抱き上げて、ジニアはそのまま私を囲うようにシーツを下げ始めた。
「身体が熱い…。」
身体の全体が汗で濡れて、とてもぬるぬるする。
気持ち悪い。
「ミノル、まずボウルに水を張ってシーツの下から入れてくれ。」
シーツで囲い終わると、中に入りながらジニアはミノルに指示を出した。
片手にはタオルを持っている。
「解った。」
ジニアは全身をくまなくタオルで拭いて、汗を拭う。
「ジニアっ…」
ドキドキと鼓動も早い。
息遣いも、いつもよりテンポが早く息も浅い。
目は涙で潤んでいるから視界もぼやけるし、とても辛い。
ジニアは手を軽くタオルで拭いてから、再び私の汗を拭う。
「熱いっ…」
「お待たせ。ボウル置くよ?」
シーツの下の隙間にボウルが置かれるのが見えた。
汗を拭ったらよく絞ってボウルに入れる。
「まずルグジャ星の黄色い植物の種を炒ってくれ。」
「うん。」
「次に赤い植物を煎じる。」
「うん。」
ミノルはシーツ越しに薬を調合している。
その間にもジニアの看病は止まらない。
「よし、完成だ。またシーツの下から入れてくれ。」
頭がぼんやりしてたから途中の工程はよく聞こえなかったけど、
完成したみたい。
フライパンとコップに入れられた水がシーツの下から入る。
ミノルが作ったどす黒い色の植物だったものがフライパンに入っていた。
「ほら、薬だ。」
「うん…にがい…」
私は爪で掬って口に入れ、水で喉の奥に流し込む。
「そのまま横になってれば、大丈夫だ。このところ色々あったし、ちょっと疲れたんだろう。」
「うん…」
体力的にも心理的にも疲れちゃった。




