通信
宇宙に出発してから初めての夜。
俺は寝ずに宇宙船の操縦画面を見ていた。
なんだかんだでミノルやキドラは寝るまではテレビを見ていた。
それが台所からミノルの部屋に変わっただけでやってる事はいつもと変わらない。
2人は今、幸せそうな顔で一緒のベッドで寝ている。
今の所、航行は順調だ。
明日の早朝には、ルグジャ星に付いているだろう。
しかし、俺達が地球に落ちて来た時にした爆発音、あれは何だったんだろう。
少し嫌な予感がする。
皆、無事だと良いんだが。
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「おはよー!」
オレはキドラの元気な声で、目を覚ました。キドラはオレに馬乗りになっている。
「ん、あれ?今日は、こっちで寝たの?」
いつもなら寝てるのは隣の兄貴の部屋だ。
「ミノル?」
ジニアが少し心配そうな顔でこっちの様子を伺っている。どうしたんだろう?
「待って、今、朝ご飯作る…あれ開かない?」
部屋の扉がまるでロックが掛けられているかのようにピクリとも動かない。
「寝ぼけてるのか?」
ジニアは心配そうな顔から少し呆れた顔になった。
ジニアの方を振り返ると窓の外の見覚えの無い景色をモニターが写していた。
「あ…そっか宇宙に来てたんだ。」
上空から見えるルグジャ星の景色は、今のところは地球の景色とさほど変わらない。
「ミノルねぼすけー!」
キドラは顔の横で手を合わせて眠る真似をした。
「だ、だってあんまりそっくりだから。」
こうして見ても、窓以外は完全にオレの部屋だ。
「すまん。かえって混乱させたか?」
ジニアは少し申し訳無さそうだ。
「いやいや、ありがとう。落ち着くよ。」
ここまでそっくりに作るのには苦労したに違いない。オレの為にここまでしてくれるなんて、とても嬉しい。
「そうか、良かった。それより、そろそろルグジャ星に着くぞ。また、少し揺れる。」
ジニアはパソコンの前に座りながら、そう言った。
「うん。」
窓の外を見ると、植物と聞いてイメージしていた緑の濃淡とは違い、
とても色とりどりだった。
色水で染めたバラ、というのを見たことがあるけれど、
この星の植物は背の高い木のような植物もカラフルだ。
種類も多く、規則性も無い。多分自生しているのだろう。
この星の恒星を見てみると、太陽と同じような大きさで、明るさも似ている。
少し、窓の外の景色を見ていると、
出発時と同じような着陸の衝撃を感じた。
「今、扉のロックを解除する。」
ジニアがパソコンを操作すると、扉のロックが解除される音がしたので、
キドラと一緒に中に入った。
続けて、ジニアも入り、扉を閉める。
「ちょっと待っててくれ、小部屋の空気圧を調整中だ。」
入口のハッチ近くのランプが緑色になった、空気圧の調整が完了したのだろう。
「よし、行こう。」
ジニアが先導し、降り立った。
確かに身体が重い。体調が優れない時くらいの感覚だが、ズシっとくるのが解る。
そこの景色は先程、見た通りにカラフルな植物でいっぱいで、地球と同じような森の香りがする。
この星の植物は同じ茎から生えたものでも、葉状のものは1枚1枚がそれぞれ異なり赤や黄色、紫といった色をしている。
上から見た時はよく解らなかったが、どうやら色が様々なのは、葉状のものだけのようで、他は緑色だ。
オレの手より少し低い位置にある、葉状のものが茎に沢山付いた植物らしきものを触ってみる。
手触りは、地球の広葉植物と変わらない。
ジニアは木…のようなもの、以降は木、と省略させてもらう。
木と木の間の獣道をずんずんと進んで行ったので、
オレ達も後に続く。
獣道で上を見上げると、木と木の間から少しだけ光が漏れている。
木は見上げるほど高く、また、上では、大きく平らに広がっているらしい。
だから、ここは朝だというのに薄暗い。
「この星では植物の栽培が盛んで、色んな植物を研究して主に観賞用や薬用として出荷している。
カラフルな植物も観賞用にここの住人が生み出した。
住人自身も光合成ができて、食事を取る必要が無いし、気のいい奴らで接しやすい。
ただ、観光地として考えると、1つ欠点が…」
ジニアが少し渋い顔になった。
「欠点?」
景色も綺麗だし、住人も気のいい奴らだと言うと、考えられる欠点は少ない。
「ご飯まずいのー!」
キドラは喉を軽く押さえた。
「他の星と交流を開始したのはわりと最近で、
この星の住人は食事を取る必要が無いから、食そのものに関心が無かった。
まだ対異星人用の食事を作る技術や経験が浅いんだ。」
「なるほど。」
地球で有名な観光地でもご飯がまずいとそれだけで評価が悪いし、ましてや長く付き合うのだったら、重要な要素だろう。
「地球のご飯は美味しかったねー!」
キドラは左手に器を持って一口食べる真似をした後、ほっぺたを押さえて幸せそうな顔をした。
「あぁ。」
今まで前を向いていたジニアも、その時だけはこっちを向いた。
「もうすぐ村に着く。村に着いたら真っ先にツウラ星に連絡を取りたい。」
「もちろん。」
ジニアはいつもよりやけに早歩きだ。やっぱりツウラ星の事が気になるのだろう。
「すまない。」
オレはあくまでキドラやジニアと居たいから付き添ってるだけなんだから、気にしなくてもいいのに。ジニアは相変わらず律儀だ。
「お、ここだ。」
「ここ?」
さっきと変わらず、カラフルな植物が生い茂っているだけだ。
「すまん、説明は後だ。この辺なら通信機も使えるはずだ。
まずツウラ星に連絡をする。」
「うん、解った。」
オレがそう言うと、ジニアは自身とキドラの間に通信機を構えて、通信をしだした。
兄貴だったら、遠くの星と通信してラグは起きないのかい!?とか言いそうだけど、オレは出来るんだから出来るんだろ、としか思わない。
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あれから10日以上経っている。
俺は逸る気持ちを抑えながら、通信機でスチャンに連絡をする。
出てくれ、出てくれ。
…出た!。
「あ、スチャンか?俺だ、ジニアだ。」
「ジニア様ですか!?ご無事で何よりです。」
懐かしいあの声。何事も無くて良かった。
「キドラもいるよ!パパとママは!?」
キドラも横から早口で入って来た。
「おぉキドラ様、ご無事で何よりです。ですが、お二方に取って悪いニュースが有ります。」
スチャンは暗い口調に変わった。
「どうした?」
「誠に申し訳ないのですが、ツウラ星で大事件が起き、キドラ様のお父様とお母様が人質に取られてしまいました。」
俺は思わずキドラの方を見る。
「え!?」
キドラは口を押さえ、驚愕の表情に変化した。
「しかし、お2人はご無事でいらっしゃいます。犯人はジニア様を待っているようです。」
つまり犯人の狙いは俺って事か。
「何があった?」
「ジニア様の発明を狙って悪党が攻めてきたのです。」
俺の発明は翻訳機のように大衆向けに作ったもの以外は俺で無いと動かせない。しかし、悪用出来そうなものは沢山ある。
「俺の発明?スチャンは大丈夫か?」
「はい、攻撃を受けた後私はすぐ食料庫に避難したのですが、
今のところは私を探している気配はございません。」
10日以上もそこに隠れていたのか。
「そうか、解った。俺たちは今、ルグジャ星だ。急いでそっちに向う。」
「十分にお気を付けください。」
俺は通信機を切った。
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通信機で話していたジニアは今まで見たことのないくらい動揺していた。
「くそっ。状況は良くない。」
ジニアはかなり怒っていた。くそっ、なんてジニアらしくも無い言葉だ。
「一体何があったんだい?相手側の声が聞き取れなくて。」
通信した相手の声はオレにはテレビで聞いたような恐竜の鳴き声のようにしか聞こえなかった。
キドラ達も本当はあんな声をしているんだろう。
「俺の発明を狙った奴らが城を襲ったらしい。早く戻ってやらないといけない。
一刻を争う状況だ。」
「う、うん。」
キドラは少しうわの空だった。
「キドラ、ご両親は無事だ。心配するな。」
そんなキドラの両肩を掴み、ジニアはハッキリとした口調で目をしかと見ながらそう言った。
どうやらキドラのご両親に何かがあったらしい。
「うん、大丈夫。」
ジニアの言葉で、さっきまでうわの空だったキドラの顔がはっきりする。
「上に行く。今、助けを呼ぶ。」
「呼ぶ?」
ジニアは再び通信機で何処かに連絡を取り出した。
「キャフツァ、突然すまん。ジニアだ。下に来てくれないか。」
ジニアはそれだけ言うと、通信機をまたしまった。
「キャフツァ?」
「ルグジャ人のキャフツァ、俺と一番仲が良い。」
「ほら、来た来た」
ジニアの指差した方向から、大きな鳥のような動物が飛んでくるようだ。
「やぁ、ジニア。何が必要なんだい?」
体高はオレと同じくらいだろうか。
その動物は馬のような体型だったが、胴は馬よりも長い。
全身が植物と同じ様にカラフルな羽毛で覆われていて、顔は鳥に似ている。
この羽毛のような器官で光合成をするんだろうか。
前脚はそのまま翼と一体化しているようだ。
この人がキャフツァだろう。
恐らく、ジニアと話したんだろうが、さっきと同じ様に馬と鳥の中間の様な声にしか聞こえない。
しかし、キドラ達と初めてあった時がそうであったように表情は読み取れた。
ジニアに会えた事がとても嬉しそうで、親しみを感じる。
「すまん。とりあえず、俺達をお前の店まで運んでくれ。」
「もちろん。」
表情から察するに了承した、のだろう。
「ミノル、乗るぞ。捕まれ。」
どうやらこの住人の背中に乗って移動するらしい。見た目より力持ちだ。
「え、うん。」
オレはキャフツァの首にしがみつく。
もふもふで暖かく、匂いは草のようにさわやかな香りだ。
「じゃぁ、行くよ?。しっかり捕まっててね。」
キャフツァはオレとキドラとジニアを背中に乗せ、少し屈むと、前脚の翼を広げて、
そのまま空に飛び立った。後ろ脚で器用にバランスを取っている。
「初めての子がいるね。」
「地球と呼ばれる星のミノルだ。」
ジニアはキャフツァにオレの紹介をしているらしい。
「地球?聞いた事無い星だね。」
「ちょっと、事故って落ちた。それより、ツウラ星がやばいんだ。翻訳機と食事を買いたい。」
ツウラ星は今、穏やかで無い状況のようだ。
「急いでるんだね?。解った。」
「すまん、事情は後で送る。」
「うん。」
キャフツァはオレ達を乗せたまま、上で広がっていた木の葉っぱの部分を突き抜けた。




