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再会

「装甲の上からじゃスッキリしなーい。」

と昨日は風呂上がりに文句を言っていたキドラだったが、今朝は嘘のように元気だ。

今はミノルと一緒にスマホで”バトリ”を見ている。


「裏の裏は…オモテ!」


キドラは主人公の決め台詞を真似しながら、しっかりカードを引っ切り返すポーズも取っている。


地球にはあと1度しか来れないだろうし、アニメが見れるのは恐らくこれで最後だろう。


昨日は静かにそらまほを見ていたキドラだったが、今はとても喧しい。

キドラの決めポーズやジェスチャーもいつもより多いように感じる。

いや、多過ぎる。

なんだか、無理をしているようだ。

キドラはもうすっかりミノルと打ち解けている。

きっとキドラもこの星を離れるのが寂しいのだろう。


もちろん、俺も寂しくないと言ったら嘘になる。

ミノルは寝泊まりする所を貸してくれた。

食事を作ってくれた。

母親から隠すために苦労してくれた。

朝から自転車でゴミを拾いに行ってくれた。

種子島まで一緒に来てくれた。


ミノルがいたから上手くやってこれたんだ。


ミノルはどう思っているか知らないが、俺はミノルの事を…かけがいの無い存在だと思っている。

キドラもそうだろう。


が、異星人との交流に消極的である以上、この星との交流はありえないだろう。

王様の判断で消極的な星との交流は持たない事になっている。


深入りはしないほうがいい。

出来る限りこれっきりの付き合いにしたほうが双方の為になるだろう。

という思いが俺をミノル達との距離を縮めさせない。


こういう時、感情をすぐに表に出せて行動出来るキドラが少し羨ましくなる。

俺はこの通り感情を抑制して、理詰めで行動する男だ。


そんな思いを払拭するかのように俺は宇宙船作りに没頭する。


2人が2回目の社員食堂から帰ってきたころ、つまり、お昼ご飯過ぎにミノルの母上はこちらに来た。


「宇宙人のお友達は?」


母上はミノルに向かって聞いたので、俺達は装甲をゆっくりと脱いだ。


「本当だったのね…。」


しばらく俺達二人を眺めた後に、


「ミノル、ちょっとこっち来なさい。」


と、母上はミノルを連れ出して格納庫の外に出た。

ミノルの顔はどこか冴えない。


俺達は装甲を着直してから、扉を少しだけ開ける。


パシーン


ミノルの母上はミノルを平手打ちした。


「なんでこんな大事な事黙ってたの!?」


母上は顔を真っ赤にして怒っている。


「ごめん…。」


ミノルはか細い声で謝罪をする。


「こんな、ギリギリになってから言うなんて。」


今度は少し泣きそうな顔で言っている。

母上は混乱しているようだ。


「オレが何とかしなくちゃって思って…。」


「1人で?もっと、親を信頼して欲しかったわ。」


「…。」


ミノルは上手く答えることが出来ずに、

黙っている。


「本当は宇宙に行くのやめて欲しいけど…、もうここまで来たら止めないわ。」


「え?」


反対されると思っていたであろう、

ミノルは少し意外な顔をしている。


「母さん、中途半端が一番嫌いなの。行くなら、行きなさい。でも、必ず帰ってきなさい。」


母上がミノルの目をしっかり見て、

言い聞かせるように言った。


「…解った。」


ミノルは小さいけれど、確かな声で答える。


「それに、母さんも今まで勝手にしてたもんね。人の事言えないかなって。」


母上は明るい表情に変わった。


「…。」


ミノルはまたしても上手く答えられないようだ。


「そうだ、あの2人をちゃんと紹介して、私も友達になりたい。」


母上が戻ってきそうだ、俺達は急いで、元の位置に戻る。


「うん。」


ミノルと母上は再び格納庫の扉を開けて戻って来た。


「ミノルママー!」


そんな母上にキドラは我先に駆け寄って行く。


「こーんな可愛い子を独り占めしてたの?ずるいわよ。ミノル。」


母上は屈んで、キドラを抱きしめている。


「そ、そうかな。」


ミノルは何故か照れくさそうな顔になった。


「ミノルの母上。

この度、ミノルの息子を預かる事になった責任者のジニアと言います。よろしくお願い致します。

この度は心配をお掛けして申し訳ありません。ミノル君は私が責任を持って地球に送り届けます。」


俺はコウデラ氏にそうしたように、

三指をついて、深々とお辞儀する。


「あなたがジニアさんね、ミノルを宜しくお願いします。」


と、母上は真面目な顔で答えた後、ややふざけた顔になり


「本当はこんなスクープ見逃したくないんだけど、可愛い息子の友達だもんね。」


と言った。


「ありがとうございます。」


報道人である母上だが、空前絶後の特種をお蔵入りにしてくれるようだ。


「宇宙人なんて、聞いただけじゃとても信じられなかったから、仕事中だったけど、急いで来ちゃった。」


「ところで母さん、何処にいたの?」


「台湾、近くで助かったわ。息子が大変なの!って言って来ちゃった。マイレージが溜まっててよかったわ。

そういえば、ミノルはどうやってここまで来たの?」


「兄貴に金貰って…。」


ミノルは母上の質問にちょっとためらいつつも、そう答える。


「って事はマコト、知ってたのね。後でこってり叱ってやらなきゃ。」


ミノルの回答を最後まで聞かぬうちにすかさず母上はそう言った。


「父さんは?」


「やっぱり来れないみたい。でも、電話するって言ってたんだけど。待って、掛けてみる。」


母上はテキパキとスマホで電話を掛けだした。


「あ、もしもしお父さん?今大丈夫?そう、じゃぁミノルに変わるわね。」


そしてそのままスマホをミノルに手渡した。


「もしもし、ミノルだけど。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


オレは母さんからスマホを受け取った。


「ミノル、お父さんだ。母さんから事情は聞いた。」


「うん。」


「母さん、何だって?」


「行っていいって。」


「そうか。でもミノル、母さんはな、とっても心配していると思うぞ。」


「解ってる。」


「でもここまで来て無理に止めても、お前を悲しませるだけだ。だから、止めない。」


「うん。」


「父さんも本当は引きずってでも止めてやりたいが、母さんが止めないなら父さんも止めない。」


「うん。」


「まぁ、母さんと違って仕事を抜けられなかった父さんにはあれこれ言う資格は無いけどな。」


「そんな事無いって。」


「宇宙か、父さんはまだ行ったこと無いぞ。…怪我しないようにな?」


「大丈夫、ジニアが居てくれる。」


「ジニア?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ミノルが俺の方を向いたので、俺はミノルに変わってくれと目配せした。


「ミノルの父上。私は、宇宙へ行く責任者の、ジニアというものです。ミノル君に大変お世話になりました。必ずミノル君を無事に日本に返します。」


「ジニア君か、真面目そうな声だね。信頼するよ?。」


父上は少し不安そうな声でそう言った。


「絶対信頼を損ないません。約束します。」


俺の名誉にかけてミノルは絶対に無事だ。


「母さんに変わってくれ。」


俺はそのままスマホを母上に差し戻す。


「あ、父さん?ミノルが帰って来る日は空けるようにしてね。じゃぁ切るわね。」


母上は機敏な動作でスマホをしまった。


「お母さんも、もう行かなくちゃ。仕事を無理やり抜けてきたからほんとはちょっとやばいんだ。」


「なんか、ごめん。」


「あなたは話した、私は怒った。もうそれでこの一件はおしまい。もう謝らないで、解った?」


母上は息子を説き伏せるようにそう言った。


「うん。」


「じゃぁ行くわね。帰ってきたら、すぐ連絡してよ?」


ミノルの母上は、嵐のように来て嵐のように去って行った。

俺は何事も無かったかのように、宇宙船の制作に戻った。

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